とても短いです。
prologue
街の清掃の手伝いからの帰り道、すっかり暗くなった空を見上げて私は駆けていた。
ふと視線を前に向けると奇妙な格好をした夫婦が立っていた。少し気になったので、二人を横目で見ながら観察してみる。このあたりでは一度もこんな服を着ている人を見たことがない。かなり古い時代の服なのだろうということは観察していてなんとなく分かった。それと男のほうが白い箱を持っているのが見えた。
そんな格好の割にはどうにも顔に特徴がなく、二人とも少し経てば顔を忘れてしまいそうだった。
そんな失礼なことを考えていると、男の方から声をかけれれた。
「すまないがそこのお嬢さん、少しいいかね。」
「はい、構いませんよ。」
見ていませんよと言うアピールのために目をそらすタイミングを逃したことを後悔する。ジロジロ見たいた事を叱られるかと思い、何もやましいことはありませんよという表情をすぐさま作って答える。
「いくつか、あなたに聞きたいことがあるの。お嬢さん、答えて頂戴。」
「何でしょうか?」
どうやら叱られることはなさそうだ。息を整えつつ、心のなかではそっと胸を撫で下ろして二人に向けて笑顔を作る。
少しの間沈黙が続き、じれったくなった私は自分から話しかけることにした。
「それで、聞きたいことってなんですか?」
「聞きたいことというのはね、君はレジスタンスという組織は知っているかね?」
「知っていますが。」
「入る気はあるかい?」
「いいえ、ないです。」
レジスタンス関係の人だったら悪いことをしたなと思う。嘘でも入るといえばよかったか。
「ああ、そうだった。ここの街はなんというんだい?」
「第七都市、第四区です。」
彼からの質問に疑問を持つ。関係者ではないのか?
なぜこんなことが聞かれるのか私には分からなかった。外から目的もなくこの街に来たわけではないだろうし、そもそもどうやってこの街に入ったのか。外から入るなら外周にある門を通らなければならないし、そこで簡単にここが何処だか説明されるはずだ。それに都市間の移動は安全が確保できないのでかなり制限されている。まれにしか外から来た人を見たことがない。
「……さん、お嬢さん。大丈夫なの?すこしぼーっとしていたみたいだけど。」
「あ……、えっと、はい、大丈夫です。すみません。」
「いやいや、気にしなくて大丈夫だ。」
どうやら少し考え込みすぎていたようだ。気を取り直して、再び笑顔を作る。
「どうやらすこし疲れているみたいだね。……そうだ。いいものをあげよう。どれか好きなものを選ぶといい。君はどれを選ぶんだい?」
そうして彼は箱に入っているものをを見せてきた。ところが私にはそれらが何なのか分からなかった。
それらを眺めて困惑していると、女性の方が助け舟を出してくれた。
「これはショートケーキでこっちはパイ。それからこれがロールケーキ、そして最後はモンブランよ。全部食べ物なの。」
「あ、じゃあ、しょうとけえき?でもいいですか。白くてきれいなので。」
「そうか、またショートケーキを選ぶのか。」
「あら、お目が高いじゃない。いいわよ。ほら、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
正直に行って私にとってはどれも同じようなものだった。それに知らない人からもらったものを食べるほど飢えてはいない。二人には申し訳ないが孤児院に帰ったら捨ててしまおう。
それと二人の答え方に少し引っかかりを覚えた。
「あの、もう遅いので帰りますね。これ、ありがとうございます。」
「ああ、待ちなさい。お嬢さん、ここで食べていったらどうだ。」
「そうね、お嬢さん。みんなには秘密にしときなさい。話したらみんな欲しがるわ。」
「はあ、わかりました。」
彼らの言うことに逆らっても良くないかなと思い、覚悟を決めて一口かじる。その瞬間、味わったことのない味が口の中に広がった。今まで食べてきた甘いものは一体何だったのか。そう思えるくらい、衝撃的な味だった。少なこともいつも食べているペースト状の食事とは全く違う。これならここで食べていけというのも黙っていろというのも納得ができた。
そうこうしているうちに夢中になり過ぎて、いつの間にか無くなってしまった。
「ほら、これで手を拭きなさい。」
指についたクリームを舐めるか舐めないか、最後の理性を振り絞って葛藤していたところにタオルを手渡される。諦めておとなしく手を拭いていると、彼女から口元を少々荒っぽく拭かれた。
「よほど、美味しかったみたいね。ほら、きれいになったわ。」
「ありがとうございます。こんなもの、もらっても良かったんですか?」
「ああ、大丈夫さ、気にしないでいい。これはお礼だからね。」
そう言われてしまえば、何も言えなくなる。しっかりと感謝しておこう。すると、男が何かを思い出したような声を出した。
「ああ、そうだ、お嬢さん。レジスタンスに入りなさい。君には才能がある。」
「そうですね。考えておきます。」
ここは無難に流しておこう。でも、こんなものをもらったし、考えることだけはしよう。
「そうね。あら、もうこんな時間。そろそろ帰りなさい。」
「そうですね、失礼します。しょうとけえき、ありがとうございました。」
「また、いつか会おう。」
「ええ、また会えるといいわね。」
「そうですね。」
そう言って私は帰路へとつく。少し歩いてからふと気になって振り返ると、すでにもう、二人はいなかった。
「……きて、起きて、アーシャ。」
夢から現実へと引き戻される。いつの間にか寝ていたらしい。それにしても最近はこの夢をよく見るようになった。
「ほら、しっかりして、アーシャ。」
「ああ……、うん。起きた。」
「とっても幸せそうだったけど、どんな夢見てたの?」
「ちょっと、三年前ぐらいのこと。」
「三年前?何かあったっけ?」
「秘密。」
「ええ、教えてよ―。」
結局、ずっと誰にもあの事を話していない。そして、しょうとけえきなるものを探したり、それとなく大人たちに聞いたが何も出てこなかった。
「ちょっと、話聞いてる?」
「えっと、何だっけ。」
「もう、ちゃんと聞きなさい。先生が探していたわよ。なにかしたんじゃないの?」
「えっ……と、心当たりないけど。」
「どうせ、また弟たちの面倒を見る当番をすっぽかしたんでしょ。」
それはまずい。非常にまずい。うかつに寝てしまった数時間前の私を殴りたい。どうにかならないものか。
「オリビア、どうしよう。」
「さっさと謝りに行きなさい。そしたらなが~いキャサリン先生のお説教も、少しは短くなるかもよ?」
「まあ、そうなるか。起こしてくれてありがと。行ってくる。」
「いってらっしゃ~い。」
天国から一転、地獄へと落ちることが確定してしまった。はあ、憂鬱だ。
そうして自業自得だが、私は先生を探して廊下を走り回る羽目になった。
その日の夜、騙されたことに気づき、オリビアを探して走り回るアーシャの姿があったそうだ。