緑に抱かれて   作:ロクロ

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一話

「先生。私、レジスタンスに入ります。」

 

 私がそう言ったのにはわけがある。

 この街では十歳になる子供は魔導適性検査を受けることになる。そこで十分な魔力を保持していると認められれば、十六歳で徴兵される。そして、それまでにもレジスタンスに入ることができる。私はそこで適正を認められた。つまり、私は十歳だがレジスタンスに入ることができるということだ。

 

「一応聞いとくけど、どうしてそう思ったの?」

 

「私から見ても、孤児院の経営がきつそうだし、この前結構増えたよね。私が出れば少しは楽になるでしょ?」

 

 実際はこの前の夢を見て、考えた結果そうなったのだが。それに、今から働ければ、好きなものが好きなだけ食べられる。

 

「子供がそんなこと、考えなくてもいいのよ。」

 

「でも、どうせ孤児院を出た子供なんてレジスタンスに入るぐらいしかないじゃん。それならさっさと入ってもいいよね。」

 

「そんなことはないわよ。」

 

「アーシャ、何したの?」

 

 そこに、オリビアが部屋に帰ってきた。どうやら私が何かしたと思われているらしい。そこまで私には信用ないのか。少し、心外だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が部屋についたとき、アーシャがレジスタンスに入ると言っているのが聞こえたので、扉に耳を当てて盗み聞きをする。

 どうやら、バカのくせに気を使って孤児院を出ていこうとしたらしい。髪すらまともに手入れできないのにどうやってここを出て暮らすのか。

 どうやら言いくるめられかけているらしい。私の二個下で妹みたいにかわいがっているので、助け舟を出すことにした。それはそれとして、からかうことは忘れない。

 部屋に入り、開口一番からかうと、案の定少し不満げな顔をしていた。私からすぐ視線を切って、先生を見ていた。

 

「私ってもう働けるわけじゃん。それだったら、少しでも稼いで恩返ししたい。」

 

「そんなこと考えなくていいから。」

 

 先生はチラチラ時計を見始めた。どうやら時間が気になるらしい。この後、会議があったはずだ。それに遅れるわけには行かないのだろう。

 

「なになに?レジスタンスに入るの?おもしろそ~。私も入りたい!」

 

「はあ、もういいわ。勝手にしなさい。」

 

 先生は呆れた顔をして部屋から出ていった。普段から馬鹿げたことを言っているのが生きた。

 アーシャはいつでも言いくるめられるし、わたしの言葉は冗談だと思ったのだろう。

 私はアーシャが入れるように手助けすることに決めた。子供の行動力を舐めないでほしい。

 

「良かったね、アーシャ。いいって。」

 

「え、でも先生、怒ってたんじゃない。そうじゃないんじゃないの?」

 

 変なところで真面目な子だ。大人の言うことに付き合ってたら何もできないのに。こういうのは先に事実を作ってしまえばいい。

 

「勝手にしろって言うのは自由にしていいってことだよ。つまり、入っていいってこと。」

 

「え、そうなの?」

 

「そうなんだよ。私が言うんだから間違いないでしょ。」

 

「じゃあ私、先生から許可もらったってことでいいの?」

 

「そう。じゃあ、入隊する準備をしよ。でも、ちゃんと準備をして先生たちを驚かせたいから、みんなには内緒にね。」

 

「わかった!」

 

 彼女を言いくるめるのは簡単だ。何度も私に騙されているのに、疑うことを知らない。純粋なとこが彼女のいいとこだが。

 しかし、彼女一人で入隊させるのはかなり不安だ。そこで、私も着いていくことにした。

 個人に配られていた端末に二人分の書類を取り寄せ、書き込んでいく。幸い、学がない人でも入れるようにかなり簡単な言葉で書いてあったので、私達でも簡単に空欄を埋めていくことができた。また、先生の部屋に忍び込み、保護者の了解も勝手に書いた。

 最終的にレジスタンスから通知が来てバレたが私達が意思を変えなかったので、最終的に先生たちが根負けした。

 晴れて私達は入隊することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入隊後、何故か着いてきたオリビアと同室になった。てっきりからかっているものだと思っていた。

まあ、着いてきてくれたのは心強い。身だしなみは彼女に投げればいい。

 同室になったのはティーンエイジャーにも成ってないガキ二人組に配慮してくれたのだろう。

入隊式から一日がたち、とうとう授業が始まった。最初のうちは座学と体力づくりばかりで退屈だった。

 座学に至っては最初の授業で渡され、読むよう言われた書類があった。それは隕石が落ちてきて、人を捕える植物が生えてきたとき、この街を守ったのは軍だと言う数十文字以内でまとめられることと軍にかんする美辞麗句が膨大な文字数を費やして書かれていた。確かにレジスタンスの中核は軍出身だが、これはどうかと思う。

 一時間の授業の間、これを読み続けるのは非常に辛かった。先行きが不安だ。

 

一ヶ月が立ちこの生活にも慣れた頃、とうとう私達にデバイスを使うことが許された。デバイスを使うことで補助的な魔法を使えるようになった。この授業は楽しい。

 まず、教わったのは自身にかかる重力を軽減する魔術だ。ふわふわしていて、自身に風船を沢山くくりつけているようだ。

 敷地内限定だが、普段から使って使い慣れるように言われたので普段から使っている。

 

「オリビア~、見て見て~。ほら、宙に浮いてる……ってあれ、ちょっと待って。」

 

 空に浮きながらオリビアに手を振っていると、どんどん地面が近づいて来ている気がする。

 

「ぶへぇ~。」

 

「何やってんのさ。」

 

 ちょうど魔力がなくなって顔面から落っこちた。手を振っていたのでバランスが崩れてしまった。

 

「やばい、体が重い。オリビア、起こして~。」

 

「はいはい。ほら。」

 

「ありがと。」

 

 そう言って座り込む。顔は痛いし、体はだるい。調子に乗って魔力を使いすぎるとこうなるって分かっているんだが……。

 

「それにしてもあんた、毎度毎度懲りないわね。いっつも落ちてんじゃん。」

 

「いや~、楽しいのが悪いんだよ。」

 

「でも結局最後はしんどくなるのにね。あ、そうだ。コーヒー飲んだら魔力回復するって誰か言ってたよ。」

 

 いいことを聞いた。しかし、コーヒーは一度だけ口をつけたことがあるが、とても飲めたもんじゃなかった。あんなもの泥水とそうかわらない。

 でも確か、値は張るがミルクと砂糖を入れれば飲みやすくなるって、コーヒーを飲ませてくれた人が言っていたような……。

 ついこの前に給料が入ったばかりなのでお金には余裕がある。

 

「ねえ、私のお金でコーヒー買うついでにミルク買ってきてくれない?」

 

「ブラックじゃないと意味ないよ。」

「うげぇ……、じゃあ、コーヒーだけで。」

 

「じゃ、行ってくるね。」

 

 そう言ってオリビアは行ってしまった。しまった、先に部屋に連れっていて貰えばよかった。重い体を引きずって部屋に戻り、ベットに倒れ込む。

 最近は限界が何処らへんかだいぶ理解でき始めた。今日はオリビアが来たから気がそれて使い切ってしまったが 、最近はだいぶギリギリまで使えるようになった。

 

「あ、部屋戻ってたんだ。居ないからびっくりしたよ。」

 

 そう言ってオリビアが部屋に入ってきたて袋をこちらに投げたかと思えば、台所の方へ向かっていってお湯を沸かし始めた。どうやら、コーヒーを作ってくれるらしい。ちゃっかり自分の分のマグカップまで用意してるけど。

 マグカップにお湯を入れてこっちに来た。袋からコーヒーの素を取り出し、かき混ぜ始める。

 

「ちょっといいやつ買ってきたんだ。高かったけど、アーシャのために奮発したんだ。」

 

「それ私。私のお金だから!!」

 

「そんなことよりほら、コーヒー飲んで。」

 

 そう言って、ソフィアが私の口元までマグカップを持ち上げた。

 なんかごまかされた気がするが、この辛さから逃れたいのでさっさと口をつける。

 

「うへぇ、にっがっ。」

 

 そう言って舌を出す。それを見ていたオリビアは笑いをこらえていた。何が面白かったんだろうか。

 途中、オリビアが普通に飲んでたので、一口もらうと結構甘かった。どうやら砂糖をドバドバ入れてたらしい。私は顔をしかめて、時間を掛けながらちびちび飲んで、ようやく飲み干した。

 

「で、どうなの?」

 

「うーん、楽になった気はするけど……。」

 

「きっと、プラシーボ効果だね。」

 

「へー、そういうんだね。」

 

 オリビアはとうとうこらえきれなくなったのか大声を上げて笑い出した。そんな面白いこと言ってないのに、オリビアの笑いのツボは謎だ。

 

「オリビア、笑ってないで、ちょっと話聞いて。」

 

 ようやく笑い声がやんだ。彼女は思い出してか、時々笑いが零れそうになっているが、無視して話を進める。

 

「このコーヒーどうする?だいぶ残ってるけど。教官とかにわたしたらいいのかな。」

 

「開封済みのを渡すのは非常識でしょ。次から魔力を使い切ったときに飲めばいいじゃん。私の口には合わなかったし。」

 

「えーっ、嫌なんだけど。」

 

 結局、私が最後まで責任をとって飲むことになった。わざわざ大容量のやつを買ってきたので、当分飲み物はコーヒーになりそうだ。贅沢なのだろうが、肝心の味が私の舌には受け付けない。まあ、ちょっと楽になるからいいとするか。

 その日はなぜかなかなか寝付けなく、次の授業に遅刻ギリギリでついたため、当然小言を言われた。

 

 入隊から三ヶ月が立ち、魔術の扱いにも慣れた頃、座学が減って戦闘訓練が始まった。それと同時に身体強化の魔術も使用できるようになった。これは、体にかなり負担がかかり、戦闘訓練時しか使用を許されていない。また、リミッターも設定されており、それを超えると強制的に解除されるようになっている。これが普段から使えれば、

 戦闘訓練では武器の扱い方から、何処が弱点か、戦闘時の役割や被弾時の対処法をやった。最も、実際の敵と戦うわけではなく、仮想の訓練施設があり、そこで再現されたやつと戦い、それを評価されるという仕組みだった。

 私にとってはゲームみたいで本当に楽しい授業だった。体を軽くし、身体強化で部屋の中を縦横無尽に飛び回り、蔓をかいくぐって直接本体を狙えば速攻で倒せる。弱点を狙ってちまちまやるよりもよっぽど効率的だ。

 

「ほら、すごいでしょ、オリビア。私の班が最速だよ。」

 

「そりゃ、安全性を無視して行けばそうなるよ。それに何度か危なくて助けられたところもあったじゃん。」

 

「そうだけど、結果的に被弾ゼロだよ。」

 

「教官は安全を重視しろって言ってたの忘れたの?」

 

「そんなこと言ってたっけ。倒せれば何でもいいんじゃない?」

 

「とにかく、安全には注意しなさい。」

 

「はーい。」

 

 オリビアに言われたようなことを、この日以外の授業でなんどか教官に言われたが、全体的な評価は高かったので大丈夫だろう。

 

 半年が経ち、とうとう自身に適合する魔術を使えるようにする訓練が始まった。

 とはいえ、いきなり使えるようになるわけではなく、適合する魔術が体内に存在せねばならない。適合する=いきなり使えるというわけではないのだ。

 そこで、使える人間から作ったものを体内に注射することで後天的に手に入れ、使えるようにする。

 

「アーシャってまだ注射届かないの?」

 

「うん。私ってなんか全部に適合して、それなら一番珍しい動物使役になるって言われた。隣町にあるから届くのは一週間後だって。」

 

 私は皆が魔術を使っているなか、それを横目に一人だけずっと座学の授業を受けていた。座学の成績が悪かったので補修があったのもあるが、この街にはずっとその魔術の使い手がおらず、近くの街から集めてきた資料を読まされていた。

 その資料には私の理解できる限りだと、魔力で動物を生み出して、それを使って敵に攻撃するとしか分からなかった。

 

「普通、一つか二つなんじゃないの?」

 

「全部は見たことないって言ってたけど、沢山適合する人はそこそこいるみたいだよ。」

 

「へー、そうなんだ。あ、私次の授業が実技の授業だからもう行くね。」

 

「あー、うん。いってらっしゃい。」

 

 オリビアが適合したのは炎を操る魔術だったか。ほんとに羨ましい。私もさっさと使えるようになりたい。座学はもう一生分やった。

 そして一週間、耐えに耐えてようやく私も医務室に呼ばれた。これで待ちに待った自分の魔術を使えるようになる。そのためだったら、怖い注射も我慢できる。

 右腕を台に乗せたとき、黒い液体が入った注射器が目に入ったので顔をそらし、まぶたを固く閉じた。

 

【挿絵表示】

 

腕にチクっとした痛みが走り、体内に何かが流れ込む感覚があった。

 注射針が抜かれ、絆創膏を貼られる。腕を持ち上げてそれを見ていると何処からか飛んできたカラスが右腕に止まった。

 

「なんか、よく見ると可愛い気がする。」

 

 首をかしげたり、ひょこひょこ腕をジャンプして移動してこちらに近づいて来るので、もっと近くで見るために腕を顔に近づけた。

 これがわたしの使える魔術か~、と感慨にふけってると視界の右半分が暗くなり、それから熱を持ち始めた。

 生暖かいしずくが頬を伝って太ももに落ちた。

 困惑していると目の前のカラスが視界に入った。何か白い物を咥えて、飲み込もうといている。それが床に落ち、それと目があった。あれはわたしの眼だ、そう認識した瞬間ようやく脳が熱の中に痛みを認識し始めた。

 いつの間にか、わたしは叫んでいた。それでも痛みは紛れない。

 痛い痛いと訴える脳の傍らで、何処か思考はクリアだった。

 

【挿絵表示】

 

 襲いかかってくるカラスを振りほどこうと腕と足を振り回す。椅子が倒れて頭を床に打ち付けるが、その痛みはすぐ何処かへ行ってしまった。目にカラスが視界を埋め尽くすほど写っていたからだ。 

 さらに恐怖の感情が湧き上がってきた。

 とにかくこの部屋から逃げようとしたが、金縛りにあったかのように力を込めても体が動かない。

 私は為す術もなく、ただただカラスに蹂躙される。

 もう私の絶叫は聞こえない。口の中は鉄の味しかしなくなった。鼻は血の匂いしか嗅ぎ取れない。痛みはとっくのとうに感じなくなっている。

 唯一残った視界には、腹からはみ出した腸を何匹かのカラスが取り合っているのが写った。自らの血に溺れて呼吸もままらなくなり、暗くなっていく視界で最後に見たものは、カラスの口の中だった。

 

 気がつくと私はベットに寝かされていた。ここは医務室か。

 ひとまず、自分の周りにカラスらしき影はない。そのことに安堵する。

 自身の体に意識を向けると、体の節々は痛いが、脳に突き抜けるような痛みはない。どこも怪我していないのだろう。 

 ただ、全身が汗で濡れて気持ち悪いのと、魔力を使い切ったとき以上の倦怠感がある。身体を起こすのも辛い。

 

「夢だったのかな。」

 

 しかし、夢だとしたらかなりリアルだった。カラスの息遣いまで聞こえていたような気がする。

 少し思い出すと、全身が再び恐怖と熱で包まれた。冷や汗が流れるのがいやにはっきりと分かった。

 

「大丈夫、今はなにも居ない。」

 

 そう自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。ふとしたことで恐怖が顔を出そうとするので、なにも考えないようにぼーっとしていた。

 それから少しして、ベットの周りを囲んでいたカーテンが開いた。物音に思わず体を小さくする。

 

「起きたかね。」

 

「あ、はい。」

 

 入ってきたのは人だった。カラスでないことに安堵する。少し考えれば、カラスがカーテンを開けるはずがないのに、それに気が付かないとは相当余裕がないようだ。

 どうやら様子を見に来たらしい。何度かお世話になっている医師の人だったが、白衣を脱いでいる姿は見たことがなかったので一瞬誰だか分からなかった。

 

「それは良かった。」

 

「あの、あれはなんだったんですか?」

 

「安心して、それは幻だから。」

 

 どうしても言葉で表せる気がしなくかなり抽象的な質問になった。それでも医者は汲み取ってくれたらしく、すぐさま答えてくれた。

 

「たまに、君のような人がいるんだ。大体は適合率が低い人がなってる。体が受け付けないから魔術が暴走して、でもまだ体に馴染んでないから魔力だけを一気に放出した弊害で幻覚を見るんだ。それにしても、死ななくてよかった。」

 

 どうやらショック死する人も中にはいるらしい。詳しい原理も説明してくれたが、私には理解できなかった。

 

「君が見たものを、私に話してくれる気はあるかい?」

 

「あんまり、思い出したくないです。」

 

「そっか、気が向いたら話してね。」

 

 そのままベットで休んでるよう言われて、医者は出ていった。

 目をつぶると、すぐにあの光景が浮かんでくる。幻だとしても、心についた傷は本物だ。あれを私が使うとなったら、果たして私は冷静でいられるのか。そんな不安を抱えながら、わたしの意識は睡魔に飲み込まれた。




2月の間は更新されません。
また、3月になってもすぐ更新できるというわけではありません。気長にお待ち下さい。
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