GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
今回は三十二話に関連のあるお話。
では、スタートです。
なんとなく背凭れに寄りかかり頭を上に向ける。
丁度俺の真上に照明があったようで眩しさを避けるために目を閉じた。当たり前だけどこういう時の瞼の裏は赤い。
すぐに目を開けて照明から目線を逸らした。しばらく避けたい。
「あら、引き籠り君。元気かしら?」
エントランスでいつものソファに座っていた俺。
昨日はエントランスに出ていなかったことが分かっているようで、目線を戻した俺にジーナさんが声をかけてきた。
「ジーナさん、俺の名前は夏ですよ」
「ふふっ、でも変わりはないでしょう?」
「まあ、否定はしませんけど」
まさか引き籠りと呼ばれるとは思っていなかった。いや、事実なんだけども。
ジーナさんが何かに違和感があるようで口元に手を当てて首を傾げた。うん? どうしました? なんか俺しました?
しかしその違和感に気付いたようで、俺を指差してきた。
「今日はいつもの服じゃないの?」
「え? ……ああ、はい。ちょっと変えてみました」
今日の俺の服装はいつものF制式レッドではない。
水色と灰色の使った服装、ハルシオン高校制服だ。水色は好きだし、落ち着く色だからこれを選んでみた。制服なんて着たことがないから、ちょっとむず痒いけど。
単純に今は赤いものを避けていたいという気持ちから服を変えてみたんだけどね。
まあたまには違う服でもいいと思うんだ。
「ジーナさん、俺に構ってていいんですか?」
「まだ大丈夫よ。それにいつも騒がしい人たちがいなくてつまんないの」
「……あ」
ジーナさんに言われて初めて気がついた。エントランスに第一部隊がいない。今日は会ってすらいない。いつもならゼルダはよく会ったりするんだけどな。……もしかしてもう依頼に出ちゃった?
「第一部隊はあなたが会ったアラガミ、プリティヴィ・マータの討伐に行ったわ」
「あのアラガミ、そんな名前なんですね」
青白くて顔が女性のような形をしている不気味なアラガミ。
今でも思い出しただけでトラウマに引きずり込まれてしまいそうだ。
頭の裏に浮かんだ情景を消し去るように俺は頭を振った。あれは思い出したくない。思い出しちゃいけない。
「そういえば、あなたの相棒から伝言よ。早くヘリに来なさい、って」
「……珍しく見ないと思ったらそういうことか」
メリーを待っているつもりでぼんやりとエントランスにいた俺だが、どうやら逆に待たせてしまっていたようだ。なんてこったい。
深めのため息を吐いてから俺はソファから立ち上がった。
「分かりました、ありがとうございます」
「いえいえ。じゃ、頑張ってきなさい」
「ええ、頑張ってきます」
態々伝言を頼んでということは相当待っているということなんだと思う。これ以上待たせたら確実に怒られるな。
それほど遠くない未来を思い浮かべて、俺は阻止するために走った。訓練量が増すのはごめんだ。
――――――――――
ただいま出先。場所は嘆きの平原だ。中央で渦巻く竜巻が何とも禍々しい。
でも俺自身あまり嘆きの平原へ赴くことが珍しい。大体ここは強力なアラガミが出る事が多いから、ゼルダとかメリーとかは来ることが多そうだけど。
「なんで俺が来なきゃいけないんだよっ!」
「夏の復活記念」
「知るか! てか完全に俺をいじめる気だろ、お前!」
涙目になりながらメリーを睨むが、向こうは全く気にしていないというような感じだ。ちくしょう、舐められてやがる。
俺とメリーが喧嘩になっている理由は他でもない、討伐対象だ。
「なんでよりにもよって俺のトラウマのウロヴォロスなんだよ!」
「あれがトラウマ? あんなに可愛いのに? 信じられない!」
「そんな思考を持つのは世界でお前一人だけだろうな!」
そう、今回の討伐対象は他でもないウロヴォロスなのだ。マジで殺しに来てるとしか思えない。なんなんだよ、こいつ。メリーはただ単に見に来たかっただけなのかもしれないんだけどね。こいつ、ウロヴォロスラブだし。
今もワクワクを押さえきれないと言った感じで辺りを散策している。本当に暢気すぎるにも程があるよ。何であれが好きになれるのかが分からない。
「っ、いたわ!」
嬉しそうにメリーが声を上げた後、神機を変形させて銃形態にする。
そしてレーザーをウロヴォロスに向かって放った。当然の如くそれが当たったウロヴォロスは俺たちの存在に気付いて振り向くわけで。
……もしかして、こいつ奇襲する気ない? 存在を気付かせるために撃った?
「ぎゃあああああ!! なんで気付かせてるんだよ!」
「見てっ! ウロヴォロスがあたしを見たわよ!」
「聞いてねえぞ、こいつ!」
くそ、相変わらずメリーはブレないな。
ともかくこのままじゃ吹き飛ばされる。データ上、ウロヴォロスに跳ね飛ばされた時ほど体力が削られることは無いそうだ。
このままだともろに直撃する。それは避けないといけない。
とりあえず一直線に走ってくるウロヴォロスを回避するために走る。緊急性がそれほどないからステップは使わない。
「ともかく迎撃するぞ! 今回はモルター使うなよ!」
「オーケー。ウロヴォロスはちゃんとした礼儀で相手しないといけないからね」
「そ、そうか」
どうやら彼女の中にはウロヴォロスと対戦する時に限りルールが存在するようだ。俺には分からないが……。というかいつも思うけどメリーは近接式の旧型でもいい気がするんだよね。そうすれば俺に対する誤射もなくなるし、なにより剣戟が強いし。
ウロヴォロスの突進を避けた後、上手く潜り込んでウロヴォロスの大きな足のところまで辿り着く。バランスを崩すにはやっぱりここだろ。
「いっただきぃ!」
「とろいのよっ!」
ウロヴォロスを捕喰したら、メリーも同じ考えだったようで捕喰していた。最近メリーの捕喰の機会が増えてきている気がするけど、大丈夫かな? ちょっと不安だ。
捕喰が無事終わり、ウロヴォロスから距離を取ったところで更に力が増すのを感じて、メリーの方へと視線を向けるとやはり銃形態になっていた。
「任務中、ちゃんと特訓したものね? さすがにもういけるでしょ」
「もちろんだ……!」
メリーからアラガミバレットが俺に受け渡される。途端に俺の身体の底から湧きあがるように出てくる力。リンクバーストだ。何度か手を開いたり閉じたりを繰り返して力の加減を体に馴染ませる。うん、これなら……。
足に力を入れて殺風景な平原を駆ける。この前と違ってちゃんと要領が分かっているから上手く走れている。攻撃を仕掛けてきた触手を隙のないように最小限の動きで避け、反撃として三回ほど剣で攻撃を加えながら本体に向かって走っていく。
余裕を持った動きでウロヴォロスの正面へと走り込み、ジャンプをして剣で何回も容赦なくウロヴォロスの顔面を傷つける。体勢が不安定になりはじめれば空中ジャンプで立て直し斬り刻み、着地してジャンプし斬る空中ジャンプをして斬るを絶え間なく繰り返した。そのまま数十秒ほどウロヴォロスの攻撃を避けたり、時々距離を取ったりしつつ攻撃を加える。
やがて頃合いを計って俺はウロヴォロスから距離を取った。リンクバーストがそろそろ切れそうだからだ。
「……ふう」
俺の予想通り、離れてから数秒ほどでリンクバーストは切れた。
急な脱力のせいで地面に座り込みそうになるのを押さえて、俺は始めと同じように手の開閉を繰り返したりして力の調整をした。
ウロヴォロスを見据え、ステップを踏んで身体全体に元の力を馴染ませているとき、ウロヴォロスの目が一瞬キラリと光った気がした。
……はて。俺はあれを前に見たような気が。
「うおっ!?」
次の瞬間、俺の目を焼き尽くすんじゃないかと言うくらい強い光が俺を襲った。慌てて目を庇うために腕を顔の前に持ってくるが対処が遅すぎた。
光が引いた後も俺は上手く周りが見えず、ふらふらとした足取りで立っていた。な、なんか地面が頭の上にもあるような変な気分が……。というか前にもこれ食らってたよね。なんで俺学習しないわけさ。
「馬鹿夏が! 危ない!」
「え? のわあ!?」
いきなり何かに力強く身体を押されて、俺は何メートルほどか吹っ飛んだ。多分、押したのはメリーだと思う。
メリーはさっきのウロヴォロスの目つぶし攻撃を食らっていなかったみたいだ。うーん、さすがだね。
やがて痛みが引いてきた眼球で辺りを確認しようと俺は目を開いた。
そんな俺の視界に一番に入ってきたのは、
「うっ、く……!」
ウロヴォロスの突進を避けきれずに盾を展開して必死に抑えようとしているメリーだった。
……いや、避けきれなかったんじゃない。俺のせいで避けられなかったんだ。
俺がウロヴォロスの突進の軌道上にいて、それに気付いたメリーが俺を押し飛ばした。それがきっと事実なんだと思う。俺は目が仮死状態だったから明確には分からないけど。
「いやあ!!」
さすがに人間の身体能力を超えている神機使いと言えど山のような巨体を誇るウロヴォロスには勝てなかったようで、ついにメリーはウロヴォロスに吹き飛ばされた。
地面に落ちたメリーは起き上がる気配を見せない。まあ、あれで普通に起き上がられても俺が反応に困るんだけど。
ウロヴォロスの標的が倒れたメリーにいく前に俺はスタングレネードを使用してメリーに駆け寄る。
「大丈夫……じゃないよな、ごめん」
「……一生の不覚。夏なんかに助けられる日が来るなんて……」
「……ありがとな」
そんでもってこれで貸しはなしだ。リンクエイドをするために俺は自身の腕輪をメリーの腕輪に近付ける。
説明しよう、リンクエイドとは。倒れた仲間に自らの体力を分けて立ち上がらせる行為、言わば究極の仲間との助け合いの姿である。俺は一人だったし、メリーが倒れたことなかったから一回しかやったことなかったんだよね、これ。
あいつが死んだとき、一応やってみたんだよね。……効果はなかったんだけどさ。
「……よっと」
「ん……、ふう。悪かったわねえ」
メリーは体力を受け渡した後、そのまま何事もなかったように立ち上がった。お礼らしいお礼されてないのは俺の気のせい?
俺も一息ついて中腰だった姿勢を直すために立ち上がろうとしてあまり身体に力が入らず、少しふらつきながら立ち上がった。
……体力を受け渡すのって、こんなにも疲れるものなんだろうか。それとも体力が一気に移ったから、それへの反動に俺が慣れていないだけ?
「夏! 避けなさい!」
「え? っ!?」
身体の違和感に首を傾げていると既に俺から離れてウロヴォロスに攻撃を仕掛けていたメリーから一喝された。何のことかと思った瞬間地面から俺を狙った棘が飛び出してきた。これも前に見せてもらったやつだね! 前のものに全部当たってるよ俺。
咄嗟のことで避けられずにもろに頂戴しました。うーん、俺のヘタレ疑惑が浮上したね。
地面に手をついてしまい、不利な体勢を直そうと偶然ついた手でもう一度立ち上がろうとして、
「……あ、れ」
立ち上がれなかった。それどころか、そのまま倒れてしまった。大きなダメージではなかったはずだ。それなのにどうしてこうも手に力が入らないのかが分からない。呼吸するのにも疲れる。
「この馬鹿夏が!」と遠くでメリーが怒鳴っているのが聞こえる。本当にごめんなさい。でも考えても俺が倒れる理由が見つからない。
「あんた、自己犠牲でもつけてた? あれだけで倒れるなんて、普通はないわよ」
自己犠牲。確かスキルにそんな名前のものがあった気がする。ええと、リンクエイドの際に通常よりも多く相手に体力を受け渡す、だったかな。だけどそんなスキルを身に着けた覚えはない。もしかしたら元から持っていたのかもしれないけど。
「ちっくしょう……。絶対倒す! 絶対倒してやる!!」
「随分と殺る気ね」
「リベンジだよっ、リベンジしてやるんだあああああ!」
俺とウロヴォロスの戦いはまだ、終わらない。
夏が得たのは、自己犠牲でした。