GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
「ズルいわ、第一部隊」
俺の目の前の席に座っているメリーは頬杖をついて不満そうに呟きを溢した。
何が、と聞いてもいいのだがどうせロクでもないことだろうと無視することに決めた。変に首を突っ込んだら巻き込まれかねない。
何も尋ねてこない俺の態度が更に不満を呼んだのか、こちらをキッと睨みつけたきた。いや、睨まれてもね……。
「……どうしたんだよ」
結局俺の方が折れてメリーに聞く羽目になってしまった。はあ、どう考えても嫌な予感しかしないんだが。
聞いてやればメリーは少しだけ不満を消したようで、しかしまだまだ不満だ! というような顔で俺の方を見てきた。
「ディアウス・ピターよ」
「ディアウス・ピター?」
「そう。あたしが討伐に行きたかったのに……」
聞き覚えがある名前だな、と思い記憶の中を探し回ってようやくその名前の持ち主を見つけ出した。俺の記憶力がマズイ。
ディアウス・ピターとはヴァジュラの進化系みたいなアラガミだったはずだ。俺は戦ったことがないからデータベースの受け売りなんだが。
今日、そのアラガミの討伐に向かったのは第一部隊。強いアラガミと戦いたいと言っているメリーから見ればかなり羨ましいものに映るのだろう。
だが当の第一部隊は苦しいはずだ。これは
「お前じゃ行けないよ」
「なんでよ。実力は足りてると思うわよ?」
「あれはリンドウさんの
「……なるほど、深い事情があるなら話は別になるわね」
どこか納得したような笑みを見せて、メリーは深い溜息を吐いた。
「支部長も回してくれなかった訳が分かったわ」え、支部長に掛け合ってきたのかお前は。すげえな、俺は行く気になれないよ。
というか、今のメリーの言葉に気になるところがあったんだけど。……もしかして、支部長帰ってきてるの?
「言ってなかったっけ? 支部長なら少し前に戻ってきたわよ」
「へえ、知らなかったな」
「……あんたって、情報に疎いわよね」
「耳に入る情報は噂話程度だしなあ」
メリーの言う通り確かに俺は情報に疎い所がある。別になくたって困ることでもないしな。まああったほうがいいんだろうけど。
「とりあえず、」と話題を変えようと俺は口を開いた。そういえば最近休暇取ってないな。いつ取ろうかな。
「今日の依頼はどうするんだ?」
「ああ、そうね。そろそろ行かないとマズイわよね」
「一日中こうしているわけにもいかないしな」
俺の言葉にメリーは頷くと先に席を立ってヒバリちゃんのところへ向かっていった。
指が階段の方向を指差しているから「先に行け」って事なんだと思う。
メリーは足速いから先に行っても大丈夫かな。……まあエレベーター使うからそんなに関係ないんだけどね。
「さて、今日はどうなるのやら」
俺はふっと息を吐き出してから立ち上がった。
――――――――――
俺を殺すために飛び掛かってくるヴァジュラテイルを避けつつ、斬り裂く。とにかく数を減らしたい。
メリーはヴァジュラテイルを斬らずにひたすら捕喰を続けている。そんなに喰らってばかりで大丈夫なのかと訊ねたいが生憎余裕がない。
俺の周りに蔓延っていたヴァジュラテイルを粗方片付け終わってから俺は遠くに見える水色の物体を目に入れてため息を吐いた。
……またお前か、と。
「なんで二日連続でクアドリガ堕天に行かなきゃいけないんだ」
「文句言わないでよね。これくらいしかなかったのよ」
いつの間にか神機を担いで隣に立っていたメリーを横目で見てからまたクアドリガ堕天に目を向ける。本当、連日とか勘弁……。
メリーが神機の形態を変形させてレーザーを撃ちこんで気付かせる。ああ、こうやって奇襲が出来ないのもいつも通りだ。
ため息をまた吐いてこちらへと向かってくるクアドリガ堕天を見据える。
メリーは剣形態に戻す気がないようだ。さっきの捕喰はアラガミバレットの回収が目的だったのかもしれない。ちょうど弱点属性だし。
「さあ、今日も張り切ってお仕事タイムよ!」
「驚いたな。そんなやる気、ウロヴォロスのときくらいだと思ってた」
「……夏はあたしのことを誤解し過ぎよ」
「普段誤解させるような言動をしているお前が悪いんだよ」
メリーからアラガミバレットを三発受け渡され、リンクバーストする。
すっかり慣れてしまった感覚を馴染ませてから走り出す。
湧き出る力と同じくして気分も高揚してくる。
「戦闘狂になったつもりはないんだけどなあ」
愚痴を溢しながらまた昨日と同じように横へ回り込んでミサイルポッドを集中的に叩き続ける。
本当は前面装甲を狙いたいところなんだが、メリーがアラガミバレットを撃ち込んでいるから近寄れない。近寄りたくない。
今日はリンクバーストのおかげかメリーの前面装甲の結合崩壊と同時にミサイルポッドも結合崩壊させることが出来た。
そろそろくるリンクバーストの限界を感じながらギリギリまで横からクアドリガ堕天を斬り続ける。
「あはははは!!」
「最早誰だよ……」
クアドリガ堕天の正面で狂ったような笑い声を上げるメリー。なんで昨日と似たような感じのを聞かなきゃいけないんだよ!?
俺はホラーとか苦手だっていうのに……。お化けは嫌いだから信じないタイプだ。
メリーの戦闘狂ぶりを見て頭痛がするのを感じた。ああ、悩みの種がどんどん増えていく……。
「あー、怠い」
リンクバーストが切れて一気に押し寄せた気怠さ。これだけは何度やっても慣れることがない。
まだまだメリーから受ける特訓が終わることはなさそうだと思ったら頭痛が増した。俺の悩みの種を作るのはいつもこいつだ。
気怠さと頭痛が上手い具合に重なって思わず立ち眩みしそうになる。でも立ち眩みしたら殺されそうだから気合で踏ん張ることにする。
一度戦線を離脱して回復錠を摂取。体力なんて減っちゃいないが気分が回復することを祈っての摂取だ。
「よっし、頑張るか」
「終わりよ!」
「また持ってかれた!」
いつも美味しい所だけ持っていく奴め。そんなに出番が欲しいのか、はたまたその手で止めを刺したいのか。まあどっちでもいいんだけど。
倒れてこんで動かなくなったクアドリガ堕天の身体をちょんちょんと神機で突いて確かめてから捕喰した。いい素材喰えるといいな。
「お疲れ、上出来じゃない?」
「帰ってのんびりしたいねえ」
「あんたは爺さんじゃないでしょ。変なこと言わないで」
「いや、本当最近は特にのんびりした時間が欲しい」
「任務後にいくらでも寝ればいいじゃないの」
「のんびり=寝るに繋げるな。そしてその言葉をそっくりお前に返す」
地面にそのまま寝転がって寝ようとしているメリーを制する。お前は自分の言った言葉をきちんと理解したほうが良いと思うぞ。
俺はメリーの襟首をつかんでそのまま引きずってヘリの到着点まで歩きだす。
「ちょっ、離しなさいよー!」と叫ぶメリーの声が聞こえるがそれを完全に無視して進む。
後で特訓の量がまた増えそうだが……。この際無視だ。ここで寝られちゃ俺が困るしな。
ため息の量も最近増えたよなあ、と思いながら俺はまた深いため息を吐いた。
――――――――――
帰ってきた時エントランスは静かだった。
まるであのときみたいだと思い出して、ふとある予感が浮かび上がってきて俺は開きかけた口を閉じた。
そんな俺を不思議そうにメリーは見ていたが、辺りを見回してすぐに状況を確認し始めた。
なんとなく皆の顔が暗い気がする。多分その暗い表情は悲しみからくるものだと思う。
「……腕輪、見つかったのかな」
「ん? 見つかってなかったわけ?」
「ああ、神機と腕輪が行方不明だったらしいぞ」
これはゼルダから聞いたことだ。今日の依頼で見つかった可能性が高そうだから、アラガミの体内にでもあったのかもしれない。……本格的に死亡説が濃厚だ。
諦めきれないけど否定できない何かがある気がして俺は考えを口に出さずにただ黙っていた。
「ほらほら、もっと明るい表情しなさいよ。似合わないから」
「煩い。俺だってそういう表情したくなる時もある」
「折角気分を盛り上げようとしてあげたのに、酷いわね」
「無理やり盛り上げようとしても意味ないよ」
「じゃあ殴って……」
「遠慮しておきます」
メリーが割と本気な目で見ていたから慌てて離れた。やるって言ったら本当にやるから怖い。
冷やしカレードリンクを買ってからいつものソファに向かい、座る。仕事後の一杯は美味しい。これって職を持ってる人ならわかってくれると思うよ。
一気に缶の半分くらいまで飲み干してから辺りを見回してみる。
「……あれ、第一部隊いないな」
いつもならゼルダが大体エントランスにいるんだよな。ゼルダがいないときはコウタとかアリサはいたりするんだけど。
今日に限って第一部隊は全員いない。メリーが正直者になるくらい珍しいことが起こっている気がする。
やっぱり凹んでいるんだろうか。だとしたら明日ゼルダに会った時に俺はなんて喋ればいいんだろうな……。
「はあ、憂鬱だな」
立て続けに嫌なことばかり起こってる。
こんな厄年には滅多に巡り会えないだろうと思って、俺は声を出さずに笑った。