GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
「おはようございます、夏さん」
「お、おう。おはよう、ゼルダ」
昨日、寝る前に「明日ゼルダにどう会えばいいんだー!」と延々と考えていた俺なわけですが。
エントランスに来たら即効でゼルダと鉢合わせしてしまいました。なんてこったー!
しかも結局昨日はその答えが出ることは無く、寝落ちと言う結果で終わってしまっている。
どうしよう、俺はなんて言えばいいんだ……。というわけでとりあえずいつもの挨拶してみた。
……俺の声、裏返ってないよな? 大丈夫だよな?
「今日は何の依頼に行くんだ?」
とりあえず話題大事!
ゼルダの後ろにアリサとサクヤさんが立っていたから多分これから依頼に行くんだろうな、と思って依頼を話題にしてみた。
それにしても、何故女だけで……。
「今日はハガンコンゴウ、ですね」
「ハガンコンゴウ? なんだそれ」
「あなたはもうちょっと調べるということをしたほうが良いと思いますよ」
「なぬ!? 人に聞いたっていいじゃないか!」
「自分で調べるからこそ意味があるんですよ。だから夏さんは馬鹿なままなんです」
「アリサが俺に酷い!」
ちくしょう、会話が久しぶりだっていうのになんで侮辱されてんだ!?
俺はちょっとハガンコンゴウがどんなアラガミなのかをゼルダに聞いただけなのに……。そんなに聞いちゃ駄目か。
アリサの言われ様に凹む俺。俺の心は繊細なんだぞ。最近は強制で鍛えられてるけどさ……。
「こら、アリサ。少し言い過ぎよ」
「コウタといい夏さんといい……。少し頭が回らない男子が多すぎなんですよ」
「アリサさん、言い過ぎですよ。それに夏さんとコウタさんは手遅れです」
「戻ってきてゼルダ! そっちの領域に行かないで!」
今ゼルダが笑顔でさらっと酷いこと言った! 普段メリーのあれを見てるせいなの!? そうなの!?
まさかゼルダがあんなに良い表情で毒舌を吐くとは思ってなかったから精神ダメージがでかいよ。ふふ、立ち直れない予感がするぜ……。
ゼルダの言葉にぽかんと俺が棒立ちしていると「ごめんなさいね」とサクヤさんが謝ってきてくれた。いや、大丈夫です。サクヤさんが謝ることじゃないです。
「おっはよー」
「ふぐわっ!」
「おはようございます、メリーさん」
「スルーしないでゼルダ!」
よく知った声が聞こえたな、と思ったら俺の身体は横に飛んでいた。いや、敢えて言おう。タックルされたのだと。
朝の挨拶っていつからタックルに変わったんだっけ。俺は少なくとも初耳なんだけど。誰か知ってたら教えてください。
そしてまたゼルダが当たり前の様にスルーしたよ……。いや、確かにこういうのはいつもの光景なんだけどね! 見慣れたら終わりだと思うよ!
「今日は何の任務なのかしら?」
「ハガンコンゴウをサカキ博士に頼まれまして」
「ふーん。……あ、三人で行くならあたしも連れてってよ」
「俺はどうなんの!?」
「あんた……。あんたは部屋で寝てればいいんじゃない?」
「いいわけあるか!!」
今日は俺の精神力が特に削られる日のようだ。まあゼルダまで敵にまわっちゃったらもう救いはないよね。
苦笑いをしつつも少し困ったような顔のゼルダ。どこの悪役だと言いたくなるくらいの笑顔のメリー。うー、反応しづらい。
それにしてもなんでゼルダは困り顔なんだろうな? そのことが気になって小首をかしげていると「キモイ」とメリーから一言。うるせえやい。
「もう一人は既に決まってるんですよ」
「え? でもここにいないじゃないか」
「私達より早く準備を終わらせて待ってるってことですよ。それくらい気付いて下さい」
「ふーん、なんだかつまんない話ねえ」
「メリーの気持ちは嬉しいんだけど……。また今度お願いしてもいいかしら?」
「……サクヤさんがそう言うなら」
サクヤさんに対してやけに素直だな、メリー。
メリーはこの支部に来てから結構な人といざこざを持っているが、勿論すべての人に喧嘩を売っているとかそういう野蛮な娘ではない。
きちんと認めている人はいるし、そういう人には誠意を示したりしているのだ。俺は貶されてるが。
誰がメリーに認められているか、それに気付く方法は至って簡単。相手のことを「さん」付けするという点だ。
例えばオペレータをやっているヒバリちゃんとか、目の前にいるサクヤさんとかがまさにそうだ。
そしてそういう人に対してのみメリーはきちんとした会話を成立させることが出来る。ゼルダは少し例外みたいだが。
「じゃあ、行ってきますね」
「気をつけなさいよー」
「行ってらっしゃーい」
そろそろ出撃時間だったようでゼルダたちとはここで別れることになった。
サクヤさんがいる前ではきちんとした態度を取っていたメリーだったが、扉が閉まった瞬間メリーはニヤリと笑ってこっちを見た。え、何? 怖い。
「さて、あたしたちもお仕事に行きましょうか……?」
「とりあえず先に説明してほしいかな。すごく嫌な予感がする」
「分かった。現地でね」
「今ここでしろと俺は言ったんだがな?」
「あーあー、なーんも聞こえなーい」
「ふざけんな」
メリーはあーあーと言いながら耳に手を当てている。あくまでも人の話を聞かないつもりか。
はあ、と呆れのため息をついたところでガシッと誰かに右腕を掴まれた。今度は何だっていうんだ。
俺の腕を掴んだのは言うまでもなくメリーだ。そのままにこやかな笑顔を見せたかと思うととてつもないスピードで引き摺られた。
「え、ちょっ、ぐえっ」
「一気にヘリポートまで行くわよー」
「自分で歩けるから! 離して!」
ヘリポートに着くまでメリーが俺の腕を離すことは無かった。
――――――――――
不思議と震えが止まらない。まあこの場所の気温のせいなんだろうな、と俺は頭の隅に考えを寄せた。
俺たちが来たのは鎮魂の廃寺だった。道理で寒いわけだよ。でもいつもは少しくらいなら平気なんだよね。風邪ひいたのかな?
「寒い……」
「そんな薄着するからよ」
「それほど薄着じゃないけどな。……メリーは?」
「あたしは全然寒くないわよ」
「コートを着ているお前に聞いた俺が馬鹿だったな」
いつもいつもコートばかり着ているメリーに聞いたって意味はない。だって厚着だもの。
俺だって一応半袖で来ているわけじゃないんだけどな。コウタとか来たら「さみぃー!!」って言ってそこらへん走り回りそう。犬みたいに。
「……そういえばさ、メリーはその服以外になんかないのか?」
「え? あるっちゃあるけど」
「じゃあそっちも着ろよ」
態々コートばかりを着る必要もないと思うんだ。この前すごいナイスバディだってことは分かったから他のも似合うと思う。
そういう意味合いを含めて言ったんだが「大きなお世話よ」とあっさり突き放されてしまった。なんでだ。
するとメリーはどこか悲しそうな表情を見せて俺の顔を見た。
「……あたし、父親から虐待受けてたのよ」
「それで?」
「その時の痣が、まだ取れてなくてね……。長袖じゃないと、見えちゃうでしょ?」
どこか儚い笑みを見せるメリー。こんな表情を見たのは初めてかもしれない。
そっと右腕の肘に左手を当て俺から視線を外したメリーの心情を、俺は知っていた。
だから、言ってやった。
「嘘だな」
「あ、バレてた?」
「大嘘だ。嘘にも程があるぞ」
てへっ、と悪戯がバレてしまった子供のような表情をしたメリー。そんな嘘はバレバレに決まっているんだ。少し考えれば分かる。
何故なら俺はこの前、メリー自身が嫌がっていた露出度高めの小悪魔コスを見ているのだ。
俺が見た限りでは痣なんてどこにもなかったし、どこかに打ったというような跡もないように思えた。
ならば布があるところに隠れているのか? と問われればそれは否だ。
あれは露出度が高過ぎた。隠れていたところと言えば胸とか……。まあ最低限のところしか隠してないんだよ。
虐待の意味が性的なものならまだ疑うべきものはあったが、メリーは自分で「痣」と言ったことから暴力的なものを指している。
つまり虐待の事実は存在していない。そう繋がるのだ。
「夏にしてはなかなかいい推理ね」
「見破れなかったらかなり重いものを背負うところだったよ……」
「ちっ、へこんだ夏を畳み掛けて虐めようとしたのに」
「良い性格してるよ、本当」
「でしょ?」
なんで嬉しそうな顔をしているのかね、こいつは。ちょっと俺には理解できませんよ。
……そういえば、こいつは結局何着ぐらい服を持っているんだろうか。
聞いてみたら「コートは十五着以上あるわね」と返ってきた。おま、そんなにいらねえだろ。なんでそんなに持ってるんだよ。
というかどこにそんな素材と金があるっていうんだよ。俺には無理だ。
「金欠の俺への嫌がらせか」
「正解。今日は冴えてるわね」
「ちくしょう! 聞かなきゃよかった!!」
なんでたってこんなに言われなくちゃいけないんだ。
悪かったな、金と素材がなくて。主に金がなくて! どうして俺はいつも金に困ってばかりなんだろうね。そろそろお金が貯まってほしいよ。
やれやれと首を振ったところで「オオオォォ……」と何かの咆哮が聞こえて、俺は思わず身を竦ませた。
あの咆哮は、忘れちゃいない。いや、恐らく生涯忘れることのない咆哮。
「……おい、何の依頼を受けたんだ」
「プリティヴィ・マータ」
「っ、やっぱりか……!」
「を、二体」
「殺す気か!?」
こいつは俺のトラウマを確かに知っているはずだ。まあ、知っていてこの前ウロヴォロスに連れかれたんだけど。
再起不能になりかけたあの時、俺を外に出そうと声をかけてくれたのはメリーに他ならない。
だからこそ今のメリーの行動が理解できなかった。こいつは、俺に何をさせたいのか。
「いや、夏のランクアップを目指して」
「だからって! 他のはなかったのかよ!?」
「いつまでもウジウジしてんじゃないわよ。そろそろ克服なさい」
「んな無茶な……」
要するにあえてトラウマであるプリティヴィ・マータに連れてきたって事か。余計なお世話だよ。
正直に言えば行ける自信がない。未だに服はF制式レッドに戻していないし、あいつの姿を見たら間違いなく身体は硬直するに違いない。
――次は、お前の番だ。
そう言われているような気がしてならないのだ。
俺の今の顔は青褪めているのだろうな、とどこか冷静な頭で考えつつ目の前に立つメリーに顔を向ける。
「大丈夫よ。あんたならできる」
「でも……」
「あんたは一体殺りなさい。あたしも特別に無料でサポートしてあげるわ」
「……」
「残りの一体はあたしが片付けるから。あんたは一体だけ」
メリーの優しさに泣きそうになってしまった。うう、こいつには泣き顔見せてばかりだ。
結局俺は討伐にきちんと参加することになった。なんだか流されたような雰囲気がなくもないが。
待機地点から離れて五分ほどたった頃、俺のトラウマは唐突に現れた。
「ガアアアアアアッ!!」
「ぅ、あ……」
さっきまでは遠くから聞いていたからよかったものの、いざ目の前となるとやはりその迫力は段違いだ。思わず後退りする。
しかもその迫力ある咆哮に加えて容姿までもバッチリ見えてしまっているのだ。二十二重なって俺の身体は震えを止めない。
あの時の光景が脳内でフラッシュバックし、完全に思考が飛ぶ。真っ白になって、呼吸以外の行動が停止する。
気のせいかもしれないがプリティヴィ・マータの顔面についている女の顔がニヤリと嗤った。
そしてプリティヴィ・マータは俺に向かって一歩その足を踏み出し――
「あたしを無視するなんていい度胸してるわね」
メリーが踏み出した足を集中的に斬り裂いた。苦悶の声を上げてプリティヴィ・マータは後退した。
俺の方を見たメリーの目は「早く攻撃しろ」と言わんばかりだ。お前は随分と俺のことを過大評価して見ているんだな。
でも、少しだけやれる気がしてきた。硬直した身体も少し動かせるようになった。
深く息を吐きながらアラガミを見据える。大丈夫だ、俺はまだ死なない。
「うあああああああああ!!」
自分を奮い立たせるために態と喉がつぶれるくらい大声を出してプリティヴィ・マータに向かっていく。
そのまま足を止めずに一閃。また走り込んで一閃とすれ違いざまのみに攻撃を集中して叩き込む。
いつの間に捕喰したのか、メリーから受け渡しが来た。その高揚感もやる気のために注ぎ込んでまた攻撃へとまわる。
メリーも同じように走り込み、顔のみに狙いをつけて斬り裂いていっている。
「死ねっ!」
「らあっ!」
二人同時でプリティヴィ・マータへと斬りこむ。威嚇の咆哮を聞かなかったことにして眼前の敵に集中を決め込む。
プリティヴィ・マータが焦って繰り出した狙いがむちゃくちゃな小さい氷柱を避けながらも攻撃は進む。……メリーは敵ごと斬っているが。
リンクバーストの勢いを殺さぬように素早く移動してとにかく剣を振るう。
「はあっ、はあっ」
「何息切れしてんの! ダサいわよ!」
「うるっ、せ!」
小さめだが力が少し落ち、それを予兆と受け取った俺は即座にプリティヴィ・マータから離脱した。メリーが追いかけないように猛攻を繰り出し足止めをする。
そしてリンクバーストが切れる。いつもなら怠い怠い言っているところだが今回はそこまで余裕がない。
休ませろと悲鳴を上げる身体に鞭を打ち前線へともう一度向かう。離脱した意味がなかったな、と心の中で思い口角を上げる。
不意にこちらを見たメリーが俺を見て少し驚いたように目を開いたが、すぐに面白いと言う様に笑みを見せる。何があった。
「行きなさい、夏!」
「てやああああああ!!」
そして俺の神機はぶっさりとプリティヴィ・マータの顔面に突き刺さったのだった。
――――――――――
ぼんやりと、俺は月を見ていた。とても心が落ち着く。
今日の依頼は俺にとっては大きな仕事だった。まだ抵抗はあるが……、少なくともトラウマは依頼前よりも軽くなっていた。
あの後、捕喰を済ませた俺は待機地点へと戻りメリーは残りの一体を討伐しにどこかへ繰り出していった。
それからかれこれ何十分経ったかは知らないが、とにかく俺はそれからずっとここで月を眺めているのだ。
「……綺麗だな」
「たまには月見もいいわね」
「おう。……って、メリー!? いつの間に……」
「今よ。あたしってそんなに影薄いかしら?」
むしろ濃いと思います。その言葉を飲み込んで俺は苦笑で返した。
どうやら言葉通り今戻ってきたところの様でメリーは「疲れたー」とおっさんのような声を出しながらその場に座り込んだ。お疲れ。
メリーに視線をしばらく向けてからまた月を見た。心が洗われるって意味を理解できた気がする。メリーにも理解して欲しいんだがな。
「お疲れ様。今日のあんた、中々いい働きだったわよ」
「そりゃあどうも。でもメリーのほうがすごかったぞ」
「あたしとあんたを比べちゃいけないわよ。元から全部違うんだし」
「神機使いって点を抜かせばな」
「……そうね、そこは同じね」
「旧型と新型っていう変えられない事実があるけどな」
なんだか自分で言ってて悲しくなってきた。せっかく静まった気持ちだったのに。ああ、自分で墓穴を掘るなんて。
ため息を一つ吐いた俺を不思議そうな顔でメリーは見てから、月に視線を戻した。
いつも、こんな月を見れたら俺の感情はここまで揺れないんだろうな。ぼんやり考えてそれは不可能だと考え直した。
感情が揺れるからこそ人だ。それは人によっても異なるから、それが自分がここに在るということなんだ。
それでも、と思ってしまう俺は欲張りなのか馬鹿なのか。
「綺麗ね」
「いつまでも、見ていたいよ」
そうすればもっと前へ進める気がする……。
今日、俺の中で一つトラウマが消えた。