GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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自分で書いておきながら、今回は強引感溢れる回です。
というか、シリアスって調子狂うわー。
いや、書こうと思ったのがGOD EATERだったから仕方ないんですが。

では、スタートです。


39、未来へのチケット

 いつも通りの朝だった。

 昨日なんで早く戻らなかったんだー、お前の顔が見たくなかったからだー。とかなり凹む会話もした。

 朝はいつも通り鳩尾にグーパンチを言う鬼畜な方法で起こされもした。

 

「……んで? 昨日はどこ行ってたわけさ」

 

「ウロヴォロス様とデートよ」

 

「おい、特務だろ。言っていいのか? いや、聞いたの俺だけど」

 

「ウロヴォロス様とのデートは特務であってプライベートなのよ」

 

「駄目だ、こいつの思考が分からない」

 

 昨日のことは案外すんなりと聞きだす事が出来た。なかなかにこいつらしい理由だった。

 そのことに呆れながら――内心で安堵しながら――俺たちはヒバリちゃんからいつも通り依頼を受けた。

 今日は珍しく小型のアラガミ討伐の依頼だった。「雑魚か」とメリーが落ち込んでいたのは無視する。

 相変わらずすぎて慣れ過ぎてしまった自分に嘆きながら階段を上がると、そこには第一部隊がいた。

 ただし、二名。ソーマとゼルダ、ただ二人である。

 俺はその理由を噂で知っていた。サクヤ、アリサ二名はエイジス侵入によりお尋ね者扱い、コウタは自主的な休みを取ったからだ。

 それは知っていた。そしてそれを俺よりもすごい情報を握っていることがあるメリーも知っていると思っていた。

 

「あー、二人だけだったか。俺たちもなんか手伝おうか?」

 

 それは単純に目の前にいた二人への好意から発した言葉だった。

 どこにもおかしなところはない、ただ普通の仕事仲間に対する言葉。

 ゼルダが「ありがとうございます」と発するよりも早く、メリーの口から「二人だけ……?」と疑問の声が漏れた。

 珍しいこともあるもんだ。そんな暢気なことを思っていたとき、俺は見てしまった。

 いつもの瞳に映ること自体珍しい、“困惑”“恐怖”“驚愕”の色を、俺は見てしまった。

 同時に理解が出来なかった。驚愕はまだ分かる。だが、他の二つが分からない。

 

「……メリー?」

 

「ぇ、あ、や……!」

 

 メリーの行動は早かった。すぐに走り出してその場を離脱、エレベーターの扉を開いて跳び込んだ。

 今のメリーの行先はある程度予想できた。一条さんのいる病室、あるいは自室。そのどちらかであるはず。

 

「メリーさん!?」

 

「おい、どこ行く気だよ! ……あー、もう、これから依頼なのに」

 

 止めることすら出来なかった。それだけあいつの行動は早かったのだ。

 なんてこった。こんなところであの逃げ足にやられるとは。

 どうすればいいんだと頭を抱え込むのを抑え込み重たいため息だけにとどめる。

 ゼルダたちのほうへ目を向けるとなにやら意味深な顔をしている。もしや部外者は俺だけなのか。

 

「……なんか、知ってるのか」

 

「その答えは“はい”であり“いいえ”ですね」

 

「うわ、半々ってことか。面倒だなあ」

 

「本当の答えを知っているのは俺たちじゃない」

 

「私たちは聞いただけですからね」

 

「いや、説明はいいから聞かせてくれよ!」

 

 なんでそんな遠まわしな説明で焦らされなきゃいけないんだ。

 俺の反応を見てゼルダは苦笑した後、言葉を発するため口を開き、

 

「任務の後でいいですか?」

 

「マジかよ」

 

 更に焦らしの言葉を俺に告げた。新手のいじめだわ、これ。

 両方の出撃時間も迫っていたので仕方なく俺たちはその場で別れることとなった。

 まあ俺は小型討伐だから向こうを待つことになるのだろう、そう思って俺は出撃した。

 

 

――――――――――

 

 

 エントランスに帰ってきたとき、何故か先にゼルダが待ってくれていた。

 あれ、確か二人は大型の討伐って聞いた気がしたんだけどな。……俺が弱いとか、そういうことじゃないはず。

 ゼルダ曰く「人に聞かれたらマズイ話」のようで、ゼルダの部屋にお邪魔することとなった。

 俺の部屋でも良かったのだが、なんかついでにお茶も誘われたからゼルダの部屋になった。

 こういう時にお茶って言えるゼルダの精神が凄いと思う。

 

「仕事後の一杯は美味しいですね」

 

「ゼルダが言うと何故だか優雅に感じる……。って、いやいや主旨がズレてる」

 

 完全に空気がお茶モードだった。危ない、目的を忘れかけた。

 こほん、とらしくない咳払いをして話を戻すことにした。ぶっちゃけ軽い咳払いだったのに痰が交じってごほん! になった。恥ずかしかった。

 

「そうですね。ええと、どこから話しましょうか」

 

「メリーが関わってるならどこからでもいいぞ」

 

「……サクヤさんとアリサさんのエイジス島侵入は聞いていますか?」

 

「ああ。……え、ナニ、そこと関わってんの?」

 

 衝撃だった。衝撃すぎて口からありとあらゆる臓器を出しそうだった。というか出せる気がした。

 喉まで胃の物が出かかった気がして口に手を当てて抑え込んだ。

 ヤバイ、この場に当人がいないのに頭痛がしてきた。しかも今日は超ウルトラハイパーフルコース。何言ってんのか分からないと思うけど俺も分からん。

 

「まあそれが普通の反応ですよね。実は……」

 

 ゼルダの説明が始まった。

 

 

 俺がゼルダの話を聞いた感想。マジかー……。

 俺はどうやらとんでもないものに知らぬ間に巻き込まれてしまっていたようだ。

 というかメリーがここに来てから既に巻き込まれてた。ツバキさんを恨むと怖いから飛ばして支部長を恨む。元凶だから問題ない、と信じる。

 だがゼルダは一つだけ、俺に隠し事をしているように見えた。

 普通に考えてサクヤさんたちがエイジス島に侵入する理由がない。その理由の部分がゼルダの説明から抜けていた。

 そこが一番大切な気がするのは俺だけだろうか。

 

「しっかし、どうしてそうなったんだ?」

 

「アリサさんが自分にかかっていた洗脳と似たようなものかも、と言っていました」

 

「うーん……。まあ、心当たりはそれくら、え、洗脳?」

 

「あ」

 

 ゼルダが明らかにやっちまったって顔をしていた。そんなことは聞いてないぞ。

 かなりごり押しをした結果、見事ゼルダからその洗脳と言うものを聞き出すことに成功した。

 まあチョコレートで釣ったんだけどね。ついでにプリンレーションも。よく食えるなあ……。

 簡単に言ってしまうと、アリサがリンドウさんを狙ったあれは洗脳によってのものだということが分かった。

 洗脳のスイッチとなる言葉は「один(アジン) два(ドゥヴァ) три(トゥリー)」というもの。ロシア語で順に「3、2、1」という意味だそうだ。

 なんとも危険なことをやらかしてるものだ。願わくば関わりたくないものだが実体験した人間が俺のパートナーだから多分それは無理なんだろう。

 

「……そういえばゼルダってハーフなの?」

 

 これ以上暗めな話をしてても意味はない、というかお茶できない。そう思った俺は話題を変えることにした。

 以前から気になっていた話題だ。タイミングが掴めなくて今まで聞けず仕舞いだった。

 ゼルダは少しきょとんとした表情を見せた後、すぐに笑顔に戻った。

 

「そうです。母がアメリカ人で父が日本人と聞いています」

 

「じゃあその髪色はお母さんのほうからか」

 

「ええ。ですが両親とも生粋の、というわけではないそうです」

 

 黄色い目は父親に似ていると言われます、とゼルダ。俺も目は父親譲りと聞いていたから勝手に親近感を覚えた。

 そういえばゼルダの家族の話は聞いたことないな。ここで聞いてみようか。

 いやいや待て待て。もしそれが地雷だったらどうするんだよ俺。

 確かこの前父親がいないとか話してたような気がするし。

 ……よし、この話題はもうやめよう! うん、決定。

 

「メリーさん、もしかして記憶があるんでしょうか?」

 

「え? ああ、その、サクヤさんたちを襲撃した時のか」

 

「はい。逃げたとき丁度話していた話題はそれですし」

 

「だとしたらかなり酷な話だな」

 

 メリーはサクヤさんを慕っていたんだから、当然だろう。

 サクヤさんはメリーにさん付けをされている人物の一人でもある。そんな人を自分で殺しかけたのだ。この事実は確実にメリーを傷つけている。

 それがたとえ操られていたとしても、だ。メリーはきっとそれだけでは納得しない。それは以前経験があったアリサも同じ気持ちだったんだろう。

 勝手に想像してみるけど、やっぱり体験がない俺にはあいつの気持ちをそっくりそのまま分かってやることはできない。

 今の言葉をメリーにただ伝えてもそれは“分かったふり”に過ぎないからだ。

 

「ん……?」

 

 完全に思考のために自分の世界に浸っていた俺は電子音によって現実へと引き戻された。

 どうやら携帯の着信音みたいだが確認してみたところ俺のものではないようだ。

 ゼルダが自分の携帯を手に取ると「あ」と声を漏らし、途端に嫌そうな顔になった。呼び出しか何かなのだろうか。

 

「すみません、用が出来てしまいました」

 

「そっか、分かった。ありがとうな」

 

 ゼルダとの話も済ましたし、俺がこの部屋に留まる意味はないだろう。

 俺もゼルダと一緒に部屋を出、そのまま別れることにした。

 ……これからどうしよう。もう一度メリーの部屋へ行ってみて外に出るよう説得しに行こうか。

 エレベーターで階を移動してメリーの部屋の前まで行ってみる。

 相変わらず部屋は閉ざされたままだった。うーん、俺はメリーと違って忍び込むという技術は持ち合わせていないからなあ。

 

「さて、どうするべきか」

 

「放っておいてくれないかしら?」

 

「そういうわけには……。って、うお!?」

 

 声はすぐ左隣から聞こえてきた。

 慌てて、というかそのまま逃げるように右に移動する。メリーは何もせずに気だるそうに半目だけ開けて立っていた。

 いつもより服装が雑に見える。コートは皺だらけだし、髪はボサボサ。朝はちゃんとしていたはずなのにな。

 

「今は、一人にさせて」

 

「……明日、出てくるならいいぞ」

 

「出てこないなら?」

 

「そうだな、休暇使ってでも一日中お前の部屋の扉蹴ってやるよ」

 

「乱暴ね」

 

「誰の影響なんだろうな?」

 

 誰かさんの真似をしてかなり酷い内容を口にしてやり、意地悪な笑みを向けてやる。いつも俺が受けているものを相手に返してやった。

 メリーは力なく笑った後一言「ありがとう」と口にして部屋に入って行った。

 あいつも色々と大変だよな。支部長に目をつけられた時点で終わってたって感じだけど。

 他に行く当てがなくなった俺は一度エントランスへ出る事にした。勿論冷やしカレードリンクは既に購入済みである。

 

「ふええええ……、どうしましょう、夏さん……」

 

「……カノン?」

 

 いつものソファに座ろうと思ったら先客がいた。カノンだ。

 今にも泣きそうな(というか泣いてる)顔をしてとてもとても困ったという顔をして座っていた。

 厄介ごとのにおいがする。まあ、困り果てた女の子を放っておくほど俺は鬼畜な性格をしているわけじゃない。

 ……あ、メリーなら話は色々と変わってきたりするんだけどね。

 

「どうしたんだよ。ほら、ティッシュ」

 

「あ、ありがとうございますぅ……」

 

 チーン、と鼻をかんでまたウルウルと目を潤ませるカノン。とりあえず話が全く進んでないということだけ分かった。

 一体何があったんだろうか。……好きになった男性が既に既婚者だったとか。いや、さすがにそれはないか。

 

「ま、周りの皆さんがどんどん支部長から呼び出しを受けてるそうなんです……」

 

「……ん? 話が見えないんだけど」

 

「戻ってきた皆さん、みんな複雑な表情してて……。クビ、じゃないですよね?」

 

 えーっと、つまり、カノンはクビにされるのを恐れているということだろうか。

 周りのみんなが呼ばれてる……。まさか一斉解雇!? うわああああ、それは俺にとってもかなり困るんだけど!

 パニックになりかけて、俺はさっきまでの事を思い出した。

 話の終わりのほうで「用が出来た」と言ったゼルダ、何回呼びかけても出てこなかったメリーの外出。

 確証はないがあの二人の共通点は“支部長に呼び出された”ことではないだろうか。

 だとしたらこれはクビのために呼んでいるんじゃない。なにか、もっと別のものが絡んでいるはず……。

 

「夏さん、支部長がお呼びですよ!」

 

 終わったああああ!! 俺の人生終わったああああ!

 うん、落ち着け俺。クビじゃない。クビじゃないってたった今辿り着いただろ!

 落ち着こうにも俺のマイナス思考がフルで活動中です。自分の身体が制御不能! 至急自室へと避難せよおおおお!

 だがこのまま自室に帰れば間違いなく嫌な目に遭う。そんな気がする。

 それに俺自身、なんで支部長が片っ端から人を呼んでいるのか知りたい。ちょっとは満足できるような回答が欲しい。

 

「わ、分かった。ありがとう、ヒバリちゃん」

 

 なるべく声がおかしくならないように注意しながら返事をした。パニック状態は何が起こるか分からない。

 冷静になるように自分に言い聞かせて俺は席を立った。不安そうにこちらを見つめているカノンに出来るだけ良い笑顔を向けてみる。引き攣ってないといいな。

 足がいつもの何倍も重いと感じながら、俺は支部長室へ向かうためにエレベーターへと向かった。

 

 

――――――――――

 

 

 役員区画に辿り着きエレベーターから降りたとき、ちょうどゼルダが支部長室から出てきた。

 その表情は床へと視線を向けているため分からないが、何か呟いているように見える。

 

「……すまない」

 

「いえ、ありがとうございました」

 

 かろうじて呟いている声を聞きとることが出来たのだが……。え、一人二役?

 何してんだろうと本気で思いながらゼルダの方へ歩き出す。

 ある程度距離を近づけたことで気配が分かったのかゼルダが顔を上げて俺を見た。

 

「あ……、夏さん」

 

「酷い顔してるぞ、大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ。……夏さんは、大丈夫でいてくださいね?」

 

 どういう意味だ、と聞く前にゼルダは俺の横を通り抜けてエレベーターへと乗って行ってしまった。

 なんかフラグを立てられた気がする! 俺の知らないところで俺が終わるフラグが立っている気がする! なにこれ酷い。

 またパニックになりかけた頭を落ち着かせ、大きく深呼吸を繰り返した後俺は支部長室の前に立った。

 ドアを三回ノックしてから扉を開ける。「失礼します」の言葉も忘れない。

 

「よく来てくれたね」

 

 威圧感半端ねえ。なんか分かんないけど威圧感半端ねええええ!

 よくよく考えたら俺ってあんまり支部長と対峙したことないんだよね。もう俺の精神の限界が来そうだ。

 内心で冷や汗をだらだらと流しながら支部長の言葉に軽く頭を下げる形で返す。顔では冷静さを装う。

 

「さて突然だが……。君はエイジス計画についてどこまで知っているかね」

 

「……へ? あ、いや、エイジス計画ですか」

 

 何故エイジス計画? と聞き返したくなったがそれを我慢し、自分の知っている限りの情報を羅列していく。

 大雑把に言ってしまうとエイジス計画とは巨大なアラガミ装甲を持つエイジス島に人類が避難する事である。

 アラガミの食べ残しとも言うべき人類を全て避難させ、終末捕喰から逃れるための計画。

 確かこんな感じでよかったはずだ。全員避難できるほどの大きさってどれくらいだ、と思っているのは秘密だが。

 とにかく今思い浮かべたことをそのまま支部長に伝える。支部長は全てを聞いて一つ頷いた後、また別の質問を口にした。

 

「では、君はアーク計画を知っているだろうか」

 

「は?」

 

 思わず間抜けな声が出てしまったが、俺の反応は当然と言えば当然だと思うのだ。

 あ、あーく計画? 聞いたことも無い計画だ。エイジス計画同様にカタカナで書いてアーク計画だろうか。うん、それであってるんだろうな。

 表に出たことがない計画には違いないだろう。だとしたら、その計画の内容は?

 考えても全く想像がつかない。想像できるのは全てエイジス計画の内容だ。

 

「一部の人間を地球外に避難させ人為的に終末捕喰を起こした後再び地球に戻す。それがアーク計画だ」

 

「ま、待ってください! それじゃあエイジス計画とまるで違う!」

 

「そう、違う。延命措置にしか過ぎないエイジス計画とアーク計画は違うのだよ」

 

 延命、措置? 訳が分からない。何が延命措置だというのか。

 第一このエイジス計画の要であるエイジス島は「終末捕喰にも耐えられる」と聞いている。それなら延命措置という言葉を使う必要はない。

 それに、この人は、今、なんて……。

 

「終末捕喰を、人為的にって、どういう、ことですか」

 

 言葉が詰まる。上手く口から出てこなくなりいちいち区切ってしまう。

 さっきまでの俺の調子はどうしたというのか。エントランスとは違うパニック状態に陥ってしまっている。

 落ち着かせようにも落ち着くことが出来ない。これ以上は聞くなと、離脱しろと警戒音が頭の中に鳴り響く。

 

「言葉通りの意味だ。君も探していただろう、特異点を」

 

「あれは、そういう目的で……?」

 

 支部長は答えを返してくれなかった。だがその無言が逆に肯定なのだと俺の頭は認識していた。

 夢のような楽園の裏に隠れた悪魔のような計画。全員が助かるものから一部の人が助かるものへと。

 これは一体なんの冗談だ。俺はこんなもの知らない。俺が今まで見てきたものはなんだったんだ……。

 

「君もその一部の生き残り組の一人として選ばれた」

 

「俺が、選ばれた?」

 

「そうだ。このチケットを持った者のみ、次世代へと送り出す箱舟に乗ることが出来る」

 

 支部長が持っていたチケットは一枚の銀色のカードだった。光の反射によって所々桃色にも緑色にも見える。CDの裏面みたいだ。

 頭の中にまず考えたことは、断るべき、というものだった。

 「二等親以内の収容も認められている」と支部長が目の前で説明を加えているが、おばさんに伝えたら頬が腫れるまで叩かれそうだ。

 俺も特に舟に乗る気なんてなかった。どうせ残ったって死ぬのは一緒だ。それが早いか、遅いか。ただそれだけの問題。

 それに神機使いとはオラクル細胞を取り込むことで出来た人型のアラガミだ。

 アラガミを抹殺するために終末捕喰を起こすのだとしたら、神機使いを次世代に残すのは俺には本末転倒に思えた。

 

 だから、断ろう。

 そう思い口を開いたところで、

 

「……?」

 

 支部長の机の上に置かれている真っ二つのカードが目に入った。

 誰がやったんだろうと心の中で思いながらも可能性があったのは俺の一番よく知る黒い少女だった。

 

「ああ、これは君のパートナーに渡したものだ。すぐに折られて返されたが」

 

 やっぱりメリーなのかよ……。ただ返すのではなく折ってから返すというところがあいつらしい。でもそんなことが出来るのなら明日復帰できそうだ。

 しかし、何故支部長はゴミへと変わってしまったカードをわざわざ机の上に置いておいたのだろうか。

 ゴミはすぐに捨てたほうが邪魔にならないし、メリーは少なくともゼルダの前にここを訪れているはず。すぐに捨てないということは理由があるのか?

 これではまるでわざと俺に見つけさせたようではないか……。

 

「っ、」

 

 支部長が先ほど言った言葉を思い出して、俺は息を呑んだ。

 まさか、まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。

 この人は、俺を、強引に、味方にしようと、している?

 それなら理由が分かる。納得がいく。あの場所にカードの残骸を置く理由も。

 

「……君は、大切な人を失いたくないのだろう?」

 

 まるで夢の中にいるように視界に靄が入りはじめた。思考もだんだんとぼやけてくる。

 それでいいのだ、そのまま流されてしまえよとどこからか悪魔のような声がどこか楽しそうな声で囁いてくる。

 流されてしまえば、俺に罪はない。流されたのだから。どこか馬鹿みたいな理由だ。

 

 気付いてた。ちょっとずつメリーに惹かれている自分がいることに俺は気付いていた。

 でもそれは単純にあいつが強いからだ。そう決めつけていた。決めつけることで一定の距離を保っていた。

 俺が浮かれたって、意味はないのだ。だから、決めつけた。

 だというのに今ここでそれが足枷となってきてしまっている。こんなことなら、もっと早く決別をつけるべきだった。

 

「君は何を選ぶ」

 

「……俺、は……」

 

 流されろ。

 悪魔の声が大きくなった。

 

 

――――――――――

 

 

 夏が支部長室を訪れる少し前のこと。

 銀色の髪色を持つ少女が支部長室を訪れていた。

 彼女の名前は白神 ゼルダ。第一部隊の隊長を務めている勇敢な少女である。

 

「失礼します」

 

 いつもの優しげな雰囲気をもつ彼女からは想像できない冷たい声だった。

 支部長室に入り、支部長に向けるその視線もまた声と同じく冷たい。

 

「……随分と嫌われてしまったようだ」

 

「前置きなんてどうでもいいです。早く本題に入ってくれないでしょうか」

 

 ゼルダは今にも殴りかかりたいという衝動を必死に抑え込んでいた。

 当たり前だ。危うく仲間が殺されるところだったのだ。むしろ殴るだけで落ち着けるものではない。

 それに暴力だけでは解決しない。暴力で解決すると考えて大事になったのが戦争というものだ。

 だからゼルダは抑え込んでいた。

 

「では単刀直入に言おう。アーク計画に加わりたまえ」

 

「お断りします」

 

 即答だった。しかし支部長は「やはりそうか」と言ったような感じで深く説得しようとは思っていなかった。

 今日アーク計画をしたばかりの者たちは悩んだりする者も多いが、事前に事情をある程度知っている第一部隊はそれほど揺るがなかった。

 事前に知っていたことで自分たちなりに時間をかけて悩んだからだ。

 

「私は全体を救うのがポリシーです。救う側が他を見捨てて助かってどうするのです」

 

「全員を助けるなど、ただの屁理屈だ」

 

「ええ。生憎ですが私はその屁理屈で生きているんですよ」

 

 ゼルダは笑っていた。しかし目は笑っていなかった。冷酷な瞳で支部長を射るように見つめている。

 ゼルダは支部長の机の上に真っ二つになったカードを見たが、それを早々にメリーの仕業と断定し気にしないことにした。

 支部長はただこの優秀な人物を“惜しい”と思う。強く、優しさを持ち、思考もよく回る。よくできたこの人物を純粋に惜しいと思ったのだ。

 そして支部長は目の前にいるゼルダを別の人物と重ねていた。今は亡き優秀な神機使い。

 

「君を見ていると彼を思い出すよ」

 

「……」

 

「懐かしい。君はそっくりだ。周囲から信頼を得ていた白神(しらかみ) 明人(あきと)に」

 

「黙れっ!!」

 

 突然だった。突然ゼルダは大声を上げて支部長の言葉を制した。

 普段のゼルダが絶対に使わないような言葉使い。だから支部長もその反応を予想せず、驚いたように目を大きくしていた。

 だがその理由はすぐに分かった。“いつものゼルダではない”のだから。

 冷たい雰囲気を常にその身にまとい、どんな猛者にも臆しない。

 夏が言う「裏ゼルダ」がそこにいた。

 

「てめえみたいなやつがその名を口にすんじゃねえよ。穢れるだろうが!!」

 

 強い口調でただそれだけを言い放つと「失礼しました」の言葉もなしにゼルダは支部長室を出て行った。

 支部長は何が起こったのか分からなかった。以前に似たようなことを報告されたがその共通点は服が違うことだった。

 しかしゼルダはいつも通りの服装をしており、別の人格が出てくる可能性などどこにもないのだ。

 支部長は困惑するしかできなかった。

 

「……すまない」

 

 裏のゼルダは素直にそう謝罪した。

 勝手に出てきてしまい、あの言いぐさ。ゼルダの株は急激に下がるだろう。そう思ったからこその謝罪だった。

 本当はこうして口にする必要もないのだが……。そう思いながら裏は裏らしく内へと戻って行った。

 

「いえ、ありがとうございました」

 

 きつく吊り上った吊り目が少し緩められ、いつものゼルダが表に出てくる。

 ゼルダは急な人格の変更のためそれほど奥に行くことがなかった。よって夢と言う形ではなく実際にその場に居るような形で会話を聞いていたのだ。

 自分の代わりに怒ってくれた。それがゼルダには嬉しかった。だから、ありがとう。

 

「私、頑張りますからね」

 

 聞こえているかは分からないが、ゼルダは自分の内にそう言った。




次回はゼルダの過去編です。
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