GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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41、不穏

 ――吐き気が、する。

 

「う、ぇ……」

 

 胃から喉に向かって不快感が襲いかかる。だが幸いなことに俺の胃は現在空なので吐き出すようなことは無かった。

 どうにも昨日の夜から体調が悪い。だから昨日の夜から今までずっと俺は自室のベットで寝転んでいたわけだ。

 しかしここで一つの問題が発生する。

 

「……結局寝れなかったな」

 

 眠気が来ないのだ。

 いつもならベッドインして三十秒後には夢の世界に招待されているのだが、こういう時に限って招待されなかった。誰を恨めばいいと思う?

 そんなこんなでずっとベッドでゴロゴロしたまま朝を迎えてしまった。もちろん一睡もしていない。

 依頼に支障がないといいな、とどこか他人事のように思いながら俺は身体を起こした。

 

「あー、怠っ……」

 

 疲労感も寝ていないせいか身体から抜けていない。今日はメリーにあまりシバかれないことを祈るしかない。無理だろうけど。

 軽く伸びをして立ち上がり……、俺はテーブルの上に置かれた一枚のカードを視界に入れてしまった。

 銀色の光沢をもつそのカードは光の反射により時々その色を変えている。

 俺の悩みの種、支部長曰く「未来へのチケット」と呼ばれるカードがそこには置かれていた。

 

「……はあ……」

 

 そう、昨日俺は結局これを受け取ってしまっていたのだ。体調不良はこれなんだろうな、と思っていたりする。

 持ち帰った後「何をしているんだ俺は!」とメリーのように真っ二つにしようとしたのだが……、残念なことに折れなかった。

 別にカードの強度が高かったわけじゃないし、俺の筋力も今回ばかりは関係ない。

 単純に俺がカードを折る際に大した力を籠めなかったからだ。もう勇気がないというかなんというか……。

 

「さて、どうしたものか」

 

「夏ー、入るわよー」

 

「っ、」

 

 咄嗟にテーブルに近寄ってカードを回収、そのままズボンのポケットに隠すようにしまい込んだ。

 その一連の動作が終わった後開かれた扉。入ってきたのは予想通りメリーだった。

 とりあえずカードは見られていないみたいだから安心する。……よくよく考えたらメリーに折ってもらうって手段も……。いや、でも、それは。

 

「……隈酷いし、顔色悪いし。何? ついに変な薬でも使い始めた?」

 

「ついにってなんだよ。俺がそのうち使うと思ってたのかよ」

 

「うん。なんかそういう顔してるし」

 

「それって顔で分かるのか……」

 

 今日もメリーのよく分からない理論は爆発している。そうか、顔に書いてあるのか。

 そういえば、あの後支部長に何か言われたような気がするんだけど覚えてないんだよなー。うーん、なんだったかな。

 「病室行けば?」とメリーに勧められたがそんなことをしては依頼に行けなくなる。俺の金が消えていくだけだからそれは避けたい。

 

「お前こそ、大丈夫なのか? 昨日引き籠ってたろ」

 

「ノート一杯に支部長の悪口書いてたらスッキリしたわ」

 

「勿体ねえな……」

 

 今時ノートをそんなことで使用する輩は多分こいつしかいないと思う。というかそんなことに使うんじゃないよ。

 吐き気は一応収まったが頭痛がしてきた。……やっぱり後で病室行こう。頭痛に効く薬を貰ってこよう。

 

「じゃあ今日は小型の任務をやるわよー」

 

「へ? 大型じゃなくていいのかよ」

 

「あんたを死なせても困るし、あたしも一日とはいえブランクがあるわ」

 

「それってブランクって言うのか?」

 

「言うんじゃないかしら。まあ今日は軽めって事で」

 

 こいつのことだからスサノオに連れて行かれるとか思ってたんだけどそんなことはなさそうだ。良かった。

 ……まあよくよく考えたらそんなにほいほいスサノオが出るわけないな。

 ふう、と一つため息を吐いてから俺は自室を後にした。

 

 

――――――――――

 

 

 で、今病室だ。

 ……対象が小型アラガミだったために特にこれといって特別なことは無かった。

 特別なことは無かったが、しいて言えばメリーがアラガミをかなりぐちゃぐちゃになるまで攻撃し続けていた、というところだろうか。

 本人曰く「ブランクを取り戻すため」だそうだが、あの目は完全に楽しんでいた。いや訂正、愉しんでいた。

 

「……なるほど、頭痛薬が欲しいんですね?」

 

「ええ、最近特に酷くて」

 

「神機使いは大変な仕事ですからね。とりあえず軽めのを処方しますね」

 

「お願いします」

 

 久しぶりに一条さんと会った俺である。本当久々だ。いつぶりだろ。

 今日はぐっすり寝れるといいなー、とか思っていると俺の背後で扉の開閉音が聞こえた。

 誰だろうと振り向くとそこにいたのはゼルダだった。

 

「お、ゼルダ。どうした?」

 

「少し疲れが溜まったようで、んんっ、喉が……」

 

「ならこの飴の薬がお勧めですね」

 

「うわっ、一条さんいつの間に!?」

 

「今です」

 

 いつの間にか一条さんが背後に立っていた。怖いよ! 気配とか感じられなかったんですけどー!?

 って、背後ってことはゼルダは気付いてたのか? 言ってくれよ、俺の寿命が縮みそうで怖いよ……。

 一条さんが持っていたのは親指程の大きさの深緑色をした飴だった。なんか、色が受け入れがたい色をしているんだけど……。

 

「ただの飴に見えますが、なんと一粒舐めるだけで効果抜群なんですよ」

 

「へえ、ただの深緑色の飴にしか見えないんだけど……」

 

「じゃあいただきますね。……あむっ」

 

「その代わり味が凄いらしいんです。良薬口に苦し、が通用しない程」

 

「……これ、は……!」

 

「ちょっ、ゼルダーーー!?」

 

 飴を舐めはじめてから直ぐにゼルダの顔色が青いものへと変わり、華奢な体がふらりと揺れる。

 慌てて倒れる前に受け止めたがゼルダが洒落にならない顔色をしている。そして気絶している。……飴、だよね? 毒薬じゃないよね?

 一条さんその味の情報はもっと早く言ってくださいよ! 被害者出さないで!

 

「……やっぱり駄目でしたか。絶対に出さないよう止められていたんですが……」

 

「なんで止められてるのに出しちゃったんですか!?」

 

「いえ、効能を聞いていたのでそれを試したくて、つい」

 

「いやいやいや! ゼルダは実験台じゃないんですからね!?」

 

「すみません、好奇心を抑えられなくて……。では次からは夏くんにお願いしますね」

 

「実験台、駄目絶対!!」

 

 この人には実験台を止めようという考えはないのか。俺にはもう止めようがないんだが……。

 また頭痛がしてきたのは気のせいだろうか。いや、気のせいじゃないな。

 

「そういえば、夏くんはアーク計画に乗りますか?」

 

「……ええ。一応、ですが」

 

「そうですか! いやー、知り合いがいないものかと探していたんですよ!」

 

「一条さんは自分から言ったんですか?」

 

「いえ、支部長に誘われましてね。二つ返事で了承しましたよ」

 

 一条さんはアーク計画賛成派なのか……。まあ賛成派がいけない、とかそういうわけじゃないしな。これは個人が決めることで俺が口出しする事じゃない。

 というか、二つ返事で了承したのか、一条さん。正面から「断固反対です!」って言う一条さんしか俺には想像できないんだが。

 ちらりと一条さんに視線を向けると、じいっとゼルダを観察している一条さんがいた。え、どうしたんですか?

 

 

「それにしてもゼルダさんは本当に素晴らしいですね。神機の適合率も高いようですし」

 

「え、あ、はあ?」

 

「うーん、調べたいものですね」

 

「ちょ、何する気ですかあなた」

 

 なんだかここにゼルダを置いておいちゃいけない気がしてきたぞ!? 病室なのに病人を置いておいたら危険ってどういうこと。

 とりあえず俺はゼルダを背負い「失礼しましたー!」とそそくさと病室を後にした。

 なんだか一条さんが悪魔に見えた瞬間でした。

 

 

 

「おやおや、逃げられてしまいましたか」

 

 いつもぼけーっとしている、そんなイメージを一条に抱かせていた夏には想像もつかない速さだった。

 驚きにより少し呆けていた一条だったが、すぐにそれを笑みへと変えた。

 この支部は本当に面白いと一条は常々思っている。

 

「災厄の神機使い、希望の神機使い。それとおかしな神機使い、ですか」

 

 この三名の神機使いは一条がこの支部で最も興味を持っている神機使いである。

 もっとも、最後の神機使いはつい最近気になりはじめた程度であり、それほど情報収集をしていない。

 つまりこれからもっと掘り下げて調べていく必要がある……。そこまで考えて一条は笑みを深くした。

 この支部は本当に飽きさせてくれない。いつまでもいたいくらい興味が尽きないのだ。

 別にその三人の神機使いだけを一条は見ているわけではなかった。例えば誤射姫やバケモノも見ているし、金の亡者なども見ていた。

 しかしそれらを見た中で最も興味があるのが三名。それが前述した災厄の神機使い、希望の神機使い、おかしな神機使いと一条が命名した三名だ。

 

「ふふふ……。さて、仕事を頑張りましょうかね」

 

 一条は上機嫌なまま病室の奥へと消えて行った。

 

 

――――――――――

 

 

「話って何よ。あたしは乗らないって昨日行動で示したはずよ」

 

 メリーは現在支部長室に来ていた。

 任務が終わってすぐにタイミングを計ったかのように携帯に電話がかかり、呼び出されたのだ。

 よく電話越しに向かって「誰が行くか」と怒鳴らなかったなとメリーは心の中で思う。

 

「君はまだ計画には必要なんだよ。是非とも君の力を借りたくてね」

 

「断るわ。それにあたしは神機使いの中でも断トツで生き残っちゃいけない神機使いよ」

 

「それは違うな。君のその力は素晴らしいものだ。だから私もこうして頼んでいるのだよ」

 

「馬鹿にしてんの? くだらない、あたしは帰るわよ」

 

 今すぐここから立ち去るべきだ。居心地が悪すぎて気分が悪くなったメリーは支部長に背を向けて歩き出そうと足を一歩前に出した。

 

「……ああ、そうだ。君のパートナーは賛同してくれたよ」

 

「なんですって?」

 

 しかしその一歩より先にメリーが進むことは無かった。

 支部長の言った言葉が理解できずに振り返り、鬼のような形相で支部長を睨む。

 メリーが疑問に思うのも無理はない。夏はもともとゼルダと同じく誰かを犠牲にするということが出来ない人間だ。

 それを十二分に理解していたメリーは、だからこそその事実を信じることが出来なかった。

 

「彼には他を犠牲にしてでも守りたい大切な人がいるそうだ」

 

「へえ、あいつが、ねえ?」

 

「もう自分の目の前から人がいなくなるのは嫌だそうだよ」

 

「っ、まさかこの前のあの死亡事故、仕組んでないでしょうね!?」

 

「さあ、どうだろうね?」

 

 メリーは苦虫を潰したような顔をした。してやられた、そんな感じだろう。

 思えば今日の朝から夏の様子は明らかにおかしかったのだ。部屋に入った時の何かを隠すような動作、あれはカードを見られたくなかったのだろう。

 夏のことだから何か言われるかもとビクビクしていたのかもしれない。

 支部長の目的は夏じゃない。それを理解したからメリーは心底居心地が悪くなった。

 誰かに迷惑をかけるなら前の支部で死んでおけばよかった。そこまでメリーは思っている。

 

「人を巻き込むのが上手いのね」

 

「フ……。さて、それで君の返事は?」

 

「……悔しいけど、Yesね」

 

 見事に一本取られた。

 メリーは今のこの状況に軽い眩暈を覚えていた。




災厄の神機使い、希望の神機使い、おかしな神機使い。
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