GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
えーっと、状況説明。
通路に立って時間稼ぎをしろと言う指令を受けて立ってたら第一部隊が来て、ゼルダに蹴られて意識が途絶えました。乱暴だ。
それで、目を覚ましたら見たことのないアラガミと第一部隊が戦ってました。
……うん、なにこれ?
「おはよう、夏くん」
「あ、どうもサカキ博士……、ってなんで俺担がれてんの!?」
何故かサカキ博士に荷物担ぎされてた。ええっ、なんで!?
あ、もしかしたらここに連れてきてくれたのかも。俺が最後にいた場所って通路だったし。
でもどうせだったらエントランスに連れて行ってほしかったなあ……。
結局ここってどこなんだろう。あの通路の先、って考えたらエイジス島が正解なんだろうけど。
「あのー、サカキ博士。あそこにいるアラガミは?」
「ヨハンが造ったアラガミだよ」
「ヨハン? ……え、支部長!?」
何やってんすか支部長。本当に何やってんすか。
というかアラガミって人工的に造れるものなんだ……。いや、そもそも造ろうと思った人がおかしいよね! あ、イコール支部長がおかしいってことか。
とりあえずサカキ博士に降ろしてもらってまた状況確認。
第一部隊が戦っているアラガミの後ろの方に女の人の顔が逆さまになった何かを発見。何あれ怖い。
「あれはノヴァ。終末捕喰を起こすアラガミだ」
俺の視線を確認して察してくれたのかサカキ博士が説明してくれた。
うええええ!? なんでノヴァがいんの!? つまりこの世の終わりですか!?
……あ、そういえば支部長もそんな感じのことを言ってたような気がする。
やっぱりメリーを箱舟に押し込んできたのは正解だったかなと思って、ふとその下に白い少女が横たわっていることに気が付いた。
「あれ? サカキ博士、あの子、なんであんなところにいるんですか?」
「……彼女の名前はシオ。特異点を持っていた人間の心を持つアラガミの少女だ」
塩? 潮? ……うん、ごめん。そんなボケはいらないね。
なんだろう。今、すごいたくさんの人から怒られた気がする。
あと何故だかソーマからの視線が痛い。視線だけで殺されそう。
特異点を持ってるからには特別なアラガミだとは思ってたけど、まさか人型とはね……。
さっきから質問ばっかりしてる気がするな、と思いながらもとりあえず身構える。
俺もあっちに参戦してもいいんだけど、サカキ博士の警護が必要だからね。
サカキ博士が遠距離攻撃でうっかり死んじゃいました、とか洒落にならないし。
俺の後ろにいてもらえれば盾で大体の攻撃は防げるだろ。
というか戦闘始まってどれくらいか知らないけど今までよく無事だったな、サカキ博士。
「夏くん、今度は私から質問してもいいかな?」
「あ、はい。俺が答えられることなら」
「メリーくんはどうしたんだい?」
「……メリーなら箱舟にいますよ」
「おや、私は断ったと聞いたが」
「俺が人に頼んで連れて行ってもらったんですよ」
そういえば今頃目が覚めているくらいかな。
パニックになってるかな。案外冷静だったりして。
あいつの反応を予想するのは難しいからなー。どうしてるかな。
まあそろそろ箱舟も出発してるかもしれないけど。
「では、もう一つ。その首の傷はいつつけたものかな?」
「首? ……痛っ」
サカキ博士の言葉を聞いて右手で首に触れてみると、確かにあった。
血は出てないみたいだけど、触ったらまだ痛みが残る。
こんな傷あったかな? ゼルダに蹴られたのは腹だから、関係ないし。
……左の横腹が急に痛くなってきた。
「んー、俺が第一部隊を通せん坊した時はなかったんですけどね」
「その少しの間で傷つけられた覚えは?」
「ないです」
「……ふむ」
考えられるのは俺の記憶がない時、か。
第一部隊はあの後すぐ通られちゃっただろうし、その後サカキ博士が来るまでの空白の時間。
……ん? そしたらどっちかが会ってないとおかしくないか?
逃げ道なんてなかったと思うんだけど。
「サカキ博士が……」
「言っておくけど、私は違うからね」
先に言われてしまった。
ですよねー。お、俺は最初から分かってましたとも。ええ。
だとしたら誰なんだろうな。狙われる心当たりもないし。
「……ん?」
「どうしたんだい?」
「いえ、……なんか、寒気が……」
気のせいかな、すごい今寒気がしたんだよ。
でも誰も俺のことを狙ってないし、まだアラガミからの攻撃はこっちにないし。
アラガミからの攻撃の予兆、とは考えにくい。
予兆だったら第一部隊も何かしらの動きを見せるはずだけど、そういう動きはない。
「何なんでしょうね?」
「さあ?」
俺もアラガミだけじゃなくて周りを警戒しておいた方がよさそうだな。
いつ何が来るか分からない場所だからな、ここは。
「何もないといいんですけど……っ!?」
身体が咄嗟に反応。左側からきた剣戟を神機の刀身で防ぐ。突然すぎて盾は展開できなかった。
言ってるそばから何かきたよ……。しかも力強っ! 鍔迫り合いで負けそうだ。
しかも、襲ってきた人物のせいで思うように力が籠められない。
ひょっとしたら向こうの方が俺より力が強いんじゃないかな。
いや、今までの戦闘を見てとっくに気付いた。向こうのほうが断然強い。
「メリー、どうして……!」
「……」
俺に攻撃をしてきたのはメリーだった。
箱舟にいるはずのこいつがどうしてここに? いや、それよりもどうして攻撃を?
色々と聞きたいことはあったけど、手元に集中しないと斬り捨てられそうだ。
ただ、メリーはこの前ゼルダが聞いた洗脳された時の様子と違っていた。
瞳の色は紅じゃなくていつも通りの黒だし、瞳に光もあるように見える。
そこからなんとなく、意思が見えるような……。
「……えーと、メリーさん。もしかして正気で攻撃しに来てます?」
「……ふふ、当たり前じゃない。あたしを押し込むなんてよっぽど死にたいのね?」
「あ、ちょ、力込めないで……!」
どうやら洗脳ではなかったようだ。そこは安心した。
その後攻撃を中断する代わりに殴られるという条件でその場は収まった。理不尽だ。
鳩尾に十四発と微妙な数入れられた。確かに一回とは言ってないけどさあ……。
「ぐふ……。と、ところでお前、どうやってここに?」
「決まってるじゃない。ブレンダンに吐かせた」
「ブレンダンさん……」
それからメリーの長々しい説明が始まった。
目が覚めたら知らない場所→近くにブレンダンさん→訳を聞く(強引)→エントランスへ→ツバキさんに聞く(お願い)→ここへ。
簡単にまとめるとそんな感じらしい。
ブレンダンさんとツバキさんとの対応の差が違い過ぎるだろう。
俺が頼んだばっかりにすいません、ブレンダンさん……。
「何で出てきたんだよ! 箱舟にいれば助かったのに!」
「あのねえ。あんた、あたしが大人しくしてますなんて言うと思う?」
「……思わない」
「でしょ? 別にあたしは今ここで死んでもいいし」
「そんなこと……!」
「あたしの命よ。あたしが決めて何が悪いのよ」
踏ん反り返ってメリーは言うが、そんなことを言われても困る。
俺は誰にも死んでほしくないのに、目の前の人物は死んでも構わないという。
ふざけるなよ。
「俺は誰にも死んでほしくない。もちろん、お前もだ」
「はあ? 何その綺麗事。……ま、どうでもいいや」
「どうでもいいとか……」
「堂々巡りになりそうだからこの話は終わり。また今度ね」
ひらひらと手を振りながら面倒そうにメリーは言い放った。
……話を逸らされたような気がする。
「で、今度はあたしから質問。これどういう状況なわけ?」
「この星の存亡をかけた戦いかな」
「間違いではないね」
「ふうん。殺り応えありそうね」
「……参加するならしてくれば?」
目を爛々と輝かせてアラガミを見据えるメリー。
新種ってのは何してくるか分からないから怖いけど、こいつは情報なしでも突っ込むからなあ。
女のくせして勇気は人一倍あるって言うかなんて言うか。
見てるこっちとしてはもう慣れちゃったけど、少し危なっかしいよ。
「……ん、そうだ」
「どうしたの、夏」
「ちょっと必殺技を思いついた。で、それにはメリーの協力が必要だ」
「必殺技? 面白そうじゃない。何すればいいの?」
「こっちきて」
たった今考え付いたものを即興でやるのは難しいかもしれないけど、やってみる価値はある。
折角だし名前欲しいなー。……やっぱりいいや、俺にネーミングセンスはない。
では手順を説明しよう。まず初めにメリーを呼び寄せる。近接神機使いなら誰でもいいぞ。
次に、その神機使いの手をしっかりと掴む。これで準備完了だ。
「よーし、いくぞー」
そしてぐるぐると神機使いを振り回す。
ここで勢いをつけるために振り回されてる神機使いの足が浮くほど早く回す必要がある。
最後に……、
「きゃあああああ!?」
攻撃対象に神機使いを投げつければ終了だ。ハンマー投げならぬ神機使い投げ。
俺の仕事終了ー。後は頑張れ、メリー。
「後で……、殺すっ!!」
メリーは空中で神機を構え、そのままアラガミに突入していった。
女の形のアラガミにメリーの神機がブッスリ突き刺さった。
人間で言う心臓の位置か……。まあアラガミだから死なないんだけど。
それでもいい感じのダメージにはなったんじゃないだろうか。
「うん、初めてながら上手くいった」
「君も大概乱暴だねえ」
「あっはっは。普段の仕返しですよ」
これくらいは罰があたらないはずだ。
俺だって普段、散々鳩尾に攻撃を食らってるんだから許されるだろう。
……そういや、俺、メリーと違ってよく気絶しないよな。割と全力でやられてると思うんだけど。
「いい感じに優勢になってきてますね」
「メリーくんのせいで優勢になりすぎている気がしなくもないがね」
「あいつが入るとアラガミが不憫に見えます」
「そうだね」
先程まで多少の苦戦が見られた戦闘も、いまや完全に優勢に傾いていた。
メリーが入るだけでこんなにも変わってくるものなのか……。
なんだかアラガミが可哀想になってきたので黙祷をしておいた。ご愁傷様です。
完全にやることがなく傍観していると女を模したアラガミが日輪を掲げるようなポーズをとる。
むっ、何かくるな。メリーから寄越された視線に頷きを返して盾を展開した。
案の定女のアラガミを中心にぐるりと遠距離攻撃のビームのようなものが発射された。
盾でダメージを軽減させつつ、吹っ飛ばされないように足にありったけの力を込める。
なんとか上手くいったようでサカキ博士にダメージなし、俺の体力も問題ないというすばらしい結果になった。
……俺が言うのもなんだけど、ちょっと緊張感なくないか? 地球の存亡がかかってるのに。
「あ、男のアラガミが落ちた」
「限界が来ていたのだろうね。もう半身も時間の問題だろう」
「これで……、終わりですっ!!」
いつ終わるのだろうかとサカキ博士と話していたまさにその時。
ゼルダが怯んだ女のアラガミにチャージクラッシュを叩き込んだ。
それが合図。女のアラガミは地面へと倒れ伏した。
――――――――――
二対の対になっていたアラガミが倒れてから一分も経たない頃だっただろうか。
突然、あの時のエントランスのように地面が揺れ始めた。かなり大きい。
しかし今回はなかなかその揺れが止まない。いや、止む気配すら見せない。
これはさすがにおかしいのではないか?
「はあ、はあ……。ちくしょう! あのデカブツ、止まらないよ!」
疲れきった様子のコウタが大声を上げる。揺れの原因は奥にある大きなアラガミのようだ。
なんだかほとんど何もしなかったのが申し訳なくなって、コウタに回復錠を渡してあげた。役立たずですいません。
メリーが睨んできた気がした。
「そんな、どうして……」
「全部捕喰したら案外止まるんじゃない?」
「そんな時間はないし、神機が悲鳴を上げるよ、メリー」
『ふ、ふふ……無駄だ。覚醒したノヴァは、止まらない……』
各々が焦りの表情を浮かべる中、アラガミ、基支部長が残酷な現実を口にした。
おいおい、嘘だろ? あんなに必死に戦ってたのに、その結果がこれかよ。いや、俺は戦ってないけど。
努力は実を結ぶとか言うけど、あれって嘘なのかよ。
「この私が珍しく断言する……。不可能です」
「サカキ博士まで、なんてことを!」
「何とかならねえのか、博士!」
「残念だが支部長の言う通りだよ。溢れ出した泉は、ノヴァが止まることは……ない」
「そんな!」
サカキ博士まで支部長の言葉に乗っかっちゃって取り付く島がない。
ああもう! こういう時のための対処法みたいな本を誰かが書いてくれればよかったのに!
俺の残念な頭じゃ解決策なんてとてもじゃないけど弾き出せない。
「アラガミの行き着く先、星の再生……。やはりこのシステムに抗うことはできないようだ……」
「ふざけるな! こんなの……、認めねえぞ!」
『そう、それでいいのだ。お前たちは……早く、箱舟に……』
「し、支部長……。あなた、もう!」
支部長が苦しそうに咳き込んだ。もう話をするのもやっとと言う状況のようだ。
アラガミのものとなった身体は所々霧散が始まっており、崩れかけている。
これじゃ、まるで支部長が犠牲になったみたいな……。
『……余計な心配は無用だ。もとよりあの船に私の席は……、ない』
「なんですって……!?」
「おいおい、マジかよ……」
『ふふ、世界にこれだけの犠牲を強いた私だ……。次の世界を見る資格などない……』
支部長の言葉に驚きを隠せない俺たち。
だって、普通だったらこういう時は自らも逃げる道を選ぶものだ。
それを支部長はあえて死の道を選んだ。普通は選ばない。
……でも、そうか。それならこんなところで第一部隊を待ったりしないよな。
『あとは、お前たちの、仕事だ……。ふふ、適任だろう……?』
「親父……」
それが最期の言葉だったのか、支部長はその後一切喋ることはなかった。
俺はそれを見て、ただ静かに黙祷を捧げた。
揺れは尚も激しさを増していく。結局、終わりってのはこんなにも呆気ないものなのだろうか。
悔しさが滲んだ言葉がみんなの口から零れていく。
「夏……」
「……メリー?」
みんなの姿をただじっと眺めることしかできなかった俺の横に、いつの間にかメリーが立っていた。
もう驚くことはない。だっていつものことだから。
メリーも少し疲れているように見えたので回復錠を渡しておく。こいつには必要なさそうだけど。
「あたし、案外こっちに来れて楽しかったわよ」
「……」
「って、こんなこと言ってたら生に未練があるみたいじゃないの。馬鹿みたい」
「……馬鹿で、いいんじゃないか?」
ふと口から零れた言葉を拾ったのか、メリーが怪訝そうに俺の顔を覗き込んだ。
なんだか頭を心配されているような気もするが、それは放っておこう。
「人間って馬鹿なんだと思うよ。天才でも、たまにおかしなミスをしたりするし」
「ふうん」
「なら、馬鹿でいいじゃん。馬鹿なりに考えりゃいいじゃん」
「……ほんと、あんたって……。いいわ、止めとく」
メリーが何か言いかけたが、すぐにそれを止めた。
俺もそれを追求することはせずに「そっか」と返事だけ返しておいた。
もう終末捕喰までどれくらいの時間が残されているのだろう。
ただ、ただ叶うなら、もう一度エントランスで馬鹿みたいないつもの会話をしたかった。
俺とメリーがいろいろと話して、暴力振るわれたりして、時々ゼルダも会話の輪に入ってきたりして。
本当に、あれが一番楽しかった。暴力は勘弁だけど、俺の日常はいつだってあれだった。
きっとあんな日には二度と戻れないんだ。
なんだか悲しくなって、思わず目を閉じる。
『ありがとね』
そんな俺の耳に入ってきたのは、聞いたことのない澄んだ少女の声だった。
――――――――――
『みんな、ありがと』
何を、何が、ありがとうなの? 言いたくて口を開いても、音を紡げない。
黄色の光が輝かしいほどの白い光へと変わる。
ノヴァの額の部分にある水色の光は一段と輝いていて、泣きたくなった。
揺れはいつの間にか引いていた。
「なんだ、これ……」
「シオ、なのか?」
「まさか……。ノヴァの特異点となっても、人の意識が残っているなんて……」
サカキ博士の驚きの声が耳に入る。夏さんの声も入ってきたけど、どうやら状況を理解していないようだった。
引いていた揺れが再び起こりだし、思わずまたカウントダウンが始まったのかと焦る。
だけど、そうじゃなかった。ノヴァは、段々と上昇し始めていた。
……どうして?
「段々と、上昇しているわ……?」
「シオ、お前……」
『おそらの、むこう。あの、まあるいの』
シオちゃんの言葉を聞いて僅かに見える隙間から空を見る。
いつも見ている空に、嫌味なほどいつもと同じような綺麗な月が浮かんでいた。
いつもと変わらない風景が私たちのことを嗤っているようで、唇を強く噛み締めた。
『へへ……、あっちのほうが、おもちみたいで、おいしそうだから』
……今、シオちゃんはなんて?
シオちゃんは攫われる少し前のソーマさんの言葉のことを言っていたのだろうか。
こんな星を食うやつの気が知れない、とか確かそんな感じだったはずだ。
シオちゃんの声を聞いてコウタさんがサカキ博士に詰め寄るが、サカキ博士も予想だにしなかった出来事に混乱している。
ノヴァを月に持っていくことで回避しようなんて、今まで誰も考えなかっただろう。
涙が零れそうになって上を向いていると『わかるよ』とシオちゃんがゆっくりと言葉を口にした。
『いまなら、わかるよ』
先程シオちゃんの身体から生えてきた黒い触手のようなものが更に殖え、地面にしっかりと根を張った。
まるでその場から離れることを拒んでいるようだった。
『みんなにおしえてもらった、ほんとのにんげんのかたち』
「シオ……」
誰がその名を呼んだのだろう。私だったかもしれないし、ソーマさんだったかもしれない。
みんながみんなシオちゃんに注目していた。それこそ、夏さんやメリーさんも。
『たべることも』
傍らに倒れている、私たちよりも遥かに大きいアラガミ。
支部長を取り込んだアラガミは既に事切れているのか喋ることは無かった。
支部長が夢見ていた世界はどんな世界だったのだろう。
『だれかのために、いきることも』
コウタさんが呆然とした様子でシオちゃんを見つめている。
先程は取り乱していたがそれも落ち着いていたようで、ただただ静かだった。
『だれかのために、しぬことも』
サクヤさんが悲しそうに顔を歪めた。リンドウさんのことを思い出してしまったんだと思う。
……あの時の私は、無力過ぎた。みんなを守りたいのに、神機使いになって早々に尊敬していた人を失った。
私はあの時よりも強くなれただろうか。
『だれかを、ゆるすことも』
アリサさんが崩れるように座り込んでしまった。両手で隠すように顔を覆っている。
肩が震え、嗚咽も漏れてきているところから泣いているのだろう。
慰めてあげたいけれど、私にはどうすればいいのか分からない。
『それが、どんなかたちをしてても……』
ソーマさんだけが、唯一シオちゃんから視線を逸らしていた。きっと辛いのだろう。
いつものような口調で言っているのだから尚更かもしれない。
シオちゃんが一番懐いていたのがソーマさんで、シオちゃんを一番可愛がっていたのはソーマさんだから。
『みんな、だれかとつながってる』
私は泣いていた。さっきから、涙が止まってくれないのだ。
グイグイと袖で力強く拭い取っても後から後からボロボロと零れてしまう。
そんな私を見兼ねたのか、夏さんが白のハンカチをくれた。
「何言ってんだ……、戻って来いよ!」
コウタさんがまた声を荒らげた。
そろそろ見上げていると首が辛くなってくる高さまで上がってきた。
焦っているのだと思う。でも、不思議と冷静に見守っている自分がいた。
『シオも、みんなといたいから。だから、きょうは、さよならするね』
誰かが息を呑んだ。
「さよなら」いつか来るかもしれないと心のどこかでは思っていた。その度に否定した。
この毎日はずっと続くんだって。また明日、みんなで笑っているんだって。
『みんなのかたち、すきだから。……えらい?』
「全然っ、えらくなんか……ないわよ!!」
『へへへ、そっか。……ごめんなさい』
アリサさんの絞り出した声に、シオちゃんが謝る。
その声には感情が籠っていて最初に出会った時とは比べ物にならなかった。
ちゃんと見守ってあげなきゃいけないのに、目を逸らしたい衝動に駆られる。
『もう……行かなきゃ』
ノヴァの揺れが完全に停止した。
シオちゃんの身体から黒い根がどんどん生えてきて地面にしがみつく。
それが私には離れたくない、行かないでと訴えているように思えた。
『だから、おきにいりだったけど、そこの“おわかれしたがらない”、じぶんの“かたち”を、たべて』
「そんなこと……、できるわけないだろ……」
誰しもが絶句した。反応することが出来たのはコウタさんだけだった。
みんな、止めることはできないと分かっていた。分かっていても諦めきれない。これは、未練だろうか。
『ソーマ……。おいしくなかったら、ごめん』
「……一人で勝手に決めやがって」
『でも、おねがい。はなれてても、いっしょだから』
もう泣くのは止めようと思って私は目元に強くハンカチを押さえつけた。
ようやく涙が収まったことに少しだけ満足する。理性が涙をせき止めてくれたみたいだ。
少しだけ鼻を啜ってからソーマさんに向きなおって、少しだけ頷く。
言葉は使わない。使わないんじゃなくて、必要がないから。
ソーマさんも私に頷きを返してから、シオちゃんの前まで歩いて行った。
その後は何をしていたのかよく分からなかった。
しばらくシオちゃんの前で立ち止まって、それから神機と捕喰形態へと移行させた。
――そのまま、ソーマさんはシオちゃんを、喰らった。
――――――――――
『みんな、ありがとう』
シオちゃんの声が、エイジス島に響き渡った。
黒かった触手は白い、しかし水色がかった色に変わった。
周囲に蔓延っていた触手を強引に引き千切り、シオちゃんは空を飛んだ。
大気圏を越え、宇宙に行ったノヴァはまるで花の様だった。
白い花はその蕾を広げ、優しく月を包み込んだ。
ふと、空から白い雪が降ってきたことに気付いた。
そして、ソーマさんの神機の色が白に代わっていることにも気付いた。
……まるで、シオちゃんの色みたい。そう思った私は、自然に少し笑っていた。
――その日から何らかの影響が受けて、月には地球と同じような緑が観えるようになったという。
――これもまた、彼女のおかげなのだろうか。
――既にその姿が見えなくなった空を、私たちはいつまでも見つめていた……。
次話からいよいよBURST編に突入です!
しかし、ゲームをプレイしたことがある人なら分かると思いますが、どう見たって介入できないことが最後にあります。
というわけで、BURST編はオリジナル展開を交えてやっていきたいと思います。
まあ前に番外編でやっていたのを引き延ばして強引にいれているだけです。なので見たことがある人は「ああ、これか」と生暖かい目で見ていてください。
次話からもよろしくお願いいたします。