GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
キャストは全部ゼルダさんです。
44,5、裏たちの会談
――あら、ゼルダ。おはよう――
――おはよう、ゼルダ!――
――おはようございます、メリーさん、夏さん――
聞こえてくる会話、映像を羨ましいと思いながら見る。俺があの会話に加わることは生涯ない。あったとしても、俺はいつもの態度になってしまいあんな楽しい会話はできないのだろう。
ふう、とため息をついた時、珍しく他から聞こえてくる声に気付いた。
……他、とは俺以外のゼルダの裏の人格たちのこと。
もともと俺たちは個別の記憶・時間等は共有できない。それは表に対してもそうだし、裏に対してもそうだ。
ただ、ただ時々ではあるが偶然の一致か何かで繋がる時がある。それは退屈なここでの暇つぶしになるし、話し相手になってくれる。
そしてそれは同時に、
「やあ、№1。熱心に№0の今を見ているのか」
「よお、真面目スーツ野郎。俺はてめえが大嫌いだ」
「はあ。私も君じゃないか。だからこそ区別をつけるために番号があるのに」
「てめえを№2って言ったって分かりづれえだろうが。こっちがいいんだよ」
「相変わらず君はぶっきらぼうだ。本当に同じ派生人格なのか疑いたくなるよ」
煩い奴らの登場のサインである。
俺はネクタルスーツと呼ばれる服を身にまとったゼルダを睨み付けた。俺は真面目人間であるこいつが苦手である。表はまだいいのだ。しかし、限度と言う言葉がこの世には存在する。
俺たちには個々に振られた番号がある。それは俺たちが“自我”を持った瞬間に勝手に割り当てられるもので、頭の中にふっと浮かんでくる。それは俺たちの名前の役割を果たしてくれる。
ちなみに俺は№1。目の前にいる真面目スーツ野郎は№2だ。表に割り当てられた数字はないが、俺たちは敬意をもって数字の場合では№0と呼ぶことにしている。
「で、お前だけなのか?」
「そんなことはない。これから煩い奴らが来るぞ」
「……あぁ……。面倒くせえな」
煩い奴らの事を考えると頭痛がするのか、№2は痛そうに片手で頭を押さえた。俺だって押さえたい。あいつらはどこか子供っぽい思考を持っている。それがやたらと面倒だ。
俺は基本的に子供が嫌いである。あんなに我儘で煩いものはない。手がかかるやつなんざ、俺はごめんだ。もし表が子供を儲けたら俺は何が何でも奥に引っ込んでやる覚悟がある。
「やっほー! 元気?」
「お前のせいで元気ではねえな」
「私も№1に同感だ」
「え? 私はまだマシでしょ? ところでお菓子いるー?」
「うぜえ」
「ええ!?」
三人目が現れた。№3、アンナミロワールを身にまとったゼルダである。つまりメイドのピンクバージョン。以前、料理の企画がどうとかで一度表と入れ替わった経験があるやつだ。その表に出たときの状況のせいかすっかりパティシエだ。
今もどこから取り出したか分からないがクッキーを差し出してきた。俺は辛党だ。表に渡せ。
まあ、まだこいつはマシなのである。こいつはこれでもまだマシなのである。……問題は、№4なのだ。
「じゃじゃーんっ! №4! 4ってちょっぴり不吉な予感! みんなのアイドルっ、ゼルダちゃんだよっ」
キラッ、と語尾に星マークがつきそうな感じで登場した№4。なんだか墓穴を掘ってる気がしなくもない。
俺が一番苦手な、というか嫌いな人格。№4、ヘブンリーゴシックを身にまとったゼルダ。何をどう間違えたのか「自分が一番可愛い!」と信じきっているアイドル(笑)である。
しかしこうやって貶してはいけない。これはあくまでゼルダが捨てた可能性から生まれた一つの人格。つまり、表も一歩間違えばこうなる運命だったのかもしれないのだ。笑ってはいけない。そう、決してっ……ぷふ……。
「よお、№4。精神科の可能性の人格が早く生まれるといいな」
「ちょおっと、№1! それどういう意味よぅ」
「そのままの意味だ。……まさかお前、日本語も分からない程に……」
「何その哀れみの目。ゼルダちゃん怒っちゃうよ? ぷんぷん!」
「気持ちわりぃ」
「ふふん、世の男子諸君はアイドルであるゼルダちゃんに夢中なのだー!」
「何故だろう、殺意が湧いてきてしまうよ、№1……」
「№2ったら、照れ隠し可愛いぃ!」
「殺す」
№2の目が殺る気に満ち溢れている。あいつは普段冷静であるが、一度キレると俺以上に手が付けられないという厄介な奴でもある。まあここにいるやつはみんな厄介であるのだが。そもそもここにいるやつは本体の№0が死なないと死ねないのだが。
№2は意識から生み出した表が普段使っている神機を手に№4に襲いかかる。だがその掛け合いが何と滑稽なことか。「絶対殺す! №0に迷惑になるようなやつは存在してはいけない!」「ヤダ、自分で独占したいなんて考えちゃ駄目よ№2!」「ああもう死ね! さっさと成仏しろ!」「うふふ、捕まらないわよぅ」何がしたいんだ、こいつら。
「あ、あの、喧嘩、よくないです」
「ああん? てめえ誰だ?」
「ひぅ!? す、すみませんすみませんすみませんー!」
「え、ちょ、そこまで謝られると俺も困るんだが……」
「№1って低姿勢な子に対しては優しいよねー。はい、お菓子」
「№3は黙ってろ」
俺は低姿勢な子に対して優しいんじゃない。ただ、ああいう子にはどう対応していいか分からないだけだ。何もしてないのにただ視線を向けただけでも怖がられたらさすがに俺だって困る。
とりあえず、どう接したらいいんだろうか。どうにも居心地が悪くなり自分の髪をくしゃりと掻き乱した。今は俺に与えられた身体だし構わないだろう。表に出たときは迷惑がかかるからやらないが、実はこれは俺の癖だったりする。
「え、えと、僕、№5です」
「ほう? 番号が若い割に今まで見なかったな?」
「ぼ、僕が出ちゃったらシラケちゃうからいつも遠巻きで見てたんだ」
「つまり消極的なゼルダか。そんな心配いらねえよ」
「そうそう、ここの人たち優しいしねー。その中でも№1は特に」
「黙れよ、№3」
「痛い痛い。効果ないけど首絞められると普通に痛いんだよ?」
かなり容赦なくギリギリと№3の首を絞め上げる。しかし№3は余裕らしくニッコリ笑顔で「ギブギブー」と言っている。ウザったい。ちくしょう、なんで死なないんだこいつ。
しかしこのままでいても№5を怖がらせるだけかもしれないとふと気付き、仕方なく俺は№3を解放した。ちっ、№5のおかげで命拾いしたな。
№5はオーシャンパーカーにコーラルスラックスを身にまとい、オーシャンパーカーと同じ色の少しブカブカの帽子を被っていた。服の組み合わせを変えている性格は珍しいが、表は服を大量に有している。それも可能なのだろう。
「とにかく、こういう機会は滅多にないからちゃんと他のと接しとけ」
「う、うん! ありがとう!」
「どーいたしまして」
「№1優しい子ー」
「てめえはマジで殺されてえのか?」
「私死なない子ー」
「ああ、うぜえ」
№3に対して舌打ちをする。それを見てにこにこする№3。俺の苛立ちが増した。
どうも№3は態と俺を怒らせているようにしか見えない。というか態とだ。
この前訳を聞いた時に「№1はツンデレちゃんだから可愛いよね!」と言っていた。マジうぜえ。
イライラしていると俺の背後に気配。即座に裏拳を放つ。俺の背後にいたのが運の尽きだ。
「おいおい、いきなり裏拳なんて物騒だねえ」
「……№6か。ちょうどいい、死ね」
「相変わらずの暴力精神だな。そこが大嫌いだよ」
「お褒めの言葉どうも!」
目の前で怠そうにしている№6に問答無用で殴りかかりに行く。迷惑なんて知ったことか。
№6は着物を着ているゼルダだ。きつそうな物を着ている割には素早い。うぜえ。
俺がいるために生まれることは滅多にないはずの暴力的思考を持つ人格である。
口調も多少俺と似ているために尚更腹が立つ。
「くっそ、吸収してやる。お前は生まれちゃならねえ人格だ」
「いきなり存在否定かい? あたしは生き抜いてやるよ」
俺は他の人格と違って、特別な存在意義があった。
それは暴力的思考や犯罪者になりかねない危険な思考を吸収すること。この役目は俺がゼルダの中に存在するだけで自然に実行される。まあ要するにいるだけでいいのだ。
俺がいることによって普通そういう思考を持った人格は生まれることがないはずなのだ。
だがどうしたことか、目の前に俺以外の暴力思考を持った奴が存在している。
もし俺の能力を掻い潜る方法があるとしたら後々それは危険である。
「あんたの能力なんざ、あたしには効かねえよ」
「ああ、うぜえ。なんでこういう時に限って……」
しかし一度人格として存在してしまった以上、本体が死なない限り人格が死ぬことは無いのだ。まあ何かしらの方法でその人格そのものを壊すことも可能なのだが、それは本体も傷つくだろう。
要するに、こいつを滅することは不可能に近いのだ。それがまた癪に障る。
「落ち着け、№1。こいつも存在するからには意味がある」
「№2。お前、№4はどうした?」
「ああ、死なない程度に殴って来たよ」
「……お前も案外暴力的思考を持ってるよな」
「最高の貶し言葉をどうも」
№2も俺の能力を掻い潜って存在したような気もしなくないが。
多少なら問題ないのだろうか。本体に影響がなければ、俺としては問題ないのだが……。
「そういえば、№1。お前、また勝手に表に出たみたいだな」
「何度言ったら分かんだよ。あれは強制であって俺の意思じゃねえ」
「ずりぃなー。お前は別の登場手段があるなんてさー」
「あれは喜ぶようなことじゃねえ。表に負担が掛かんだよ」
俺は先にも言った通り、暴力的思考等を吸収する能力がある。それは表も例外ではない。その能力通りに俺は表の感情すらも吸収することがあるのだ。
例えば、殺意や爆発しそうなくらい大きな怒りなど。そういったものが対象に当たる。
しかし、俺にも容量と言うものがあり、一度に吸収できる大きさは限られている。だがそう言った場合でも吸収はしなければならない。それが俺の役目だから。
だから俺が表に出てしまうのだ。その際の暴力的思考をいっぺんに引き継ぎ、入れ替わる。
表がそのままだった場合、恐らくその感情が重すぎて潰れてしまう。だから俺が吸収する必要があるのだ。
「というかさあ、何カリカリしてんのさ、№1?」
「……なんのことだ?」
「とぼけんなや。事件とやらも終わったんだろ?」
「ああ、終わったな」
「なのにあんたは浮かない顔つきだ。どうした、らしくねえぞ」
「……別に」
こいつは、本当に嫌いだ。的確に人の弱みを突いてきやがった。
俺は、表がどれだけシオのことを可愛がっていたか知っている。事件が終わった今、ゼルダの心には悲しみが溢れている。
しかし悲しんでいるのはゼルダだけではないということもまた事実である。
不用意な言葉は逆に傷つけることになりかねない。俺は何も行動できずにいた。
「あんたも優しい奴なんだなぁ?」
「うっさい、殺すぞ」
「へいへい。ま、無理すんなよ」
着物ゼルダはビシッと片手を上げると暗かった背景に溶け込むように消えた。
言うだけ言って帰りやがったぞ、あの野郎め……。
なんだか今日は落ち着かない日である。事件も終わって万々歳なのに。
きっと、そのはずなのに。
「あ、あの……」
「ん? おう、どうした、№5」
「な、なんだかよくない予感がするんだ……」
「……そりゃ、どういう意味だ?」
「僕、消極的でしょ? ある意味、負の感情だよね」
「そうだな」
言われてみればそうである。消極的なやつは自ら負の感情を生成する。
そんな奴も、本来なら生まれることがないはずなんだが……。
最近は妙にイレギュラーが多い気がする。
「で、つまり何て言いたいんだ?」
「そのせいか、負の感情には敏感みたいで……」
「ほう?」
「最近、表も沈んだ雰囲気だから、更に鋭敏でね」
そう言って苦笑する№5。
さっきまでびくびくしていた割には、それほどとっつきにくい性格ではなさそうだ。
曇った表情になった№5はスッと目を閉じて精神を集中しているようにも見える。
それにしても鋭敏、と言ったか。それはつまりこいつも負の感情が取り込めるのだろうか。
「さっきから心臓が煩いんだ……、きっと良くないことが起こる」
「良くないこと……」
「良いこともあるかもしれない。でも、危険が多い」
「おい、そりゃどういうことだ?」
「一番危ないのは、あの人。そう、あの人の名前は……」
「おい、おいっ!」
№5の姿が急にぼやけて、消えて行った。なんてこった。
辺りを見回してみると他の人格も徐々にいなくなり始めている。
まあもとから大して多いわけではないのだが……。
最後に№2がこちらに手を振っていたが唾を吐いて返した。
……しかし、№5のやつ。とんでもないこと予言していきやがった。
“あの人”と言ったからには、それは表ではないのだろう。さっき№5は「表」と言っていたから。
だとすれば誰が狙われるのだろうか。皆目見当がつかない。
「ちくしょうめ……」
これからのことを思うと、少し頭痛がしてきた。