GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
『これが神機だ。バケモノを……、アラガミを駆逐するための武器だ』
どうして疑わなかったのか。
――――――――――
現在、病室。
目的は勿論ゼルダを見舞うためだ。
「体調に問題はありませんが、念のため今日は安静ですね」
「わっ、私は十分元気です!」
「そう言われましても……。もしかしたらアラガミ化が……」
「だーかーらーっ、もう元気なんですってば!」
「いえ、ですから安静が必要で……」
「むー、一条さんのケチ!」
「えぇっ!?」
病室に入った途端すごいものを見た。ゼルダと一条さんが口論していたのだ。いや、口論って言ってもゼルダの一方的な意見の押しつけなんだけどね。
あれー、一条さんが何故だかヘタレキャラに見えるよ。実際にヘタレキャラなのかどうかは疑問であるけど。
「あ、夏くん。お久しぶりですね」
「どうも。アーク計画があった日以来ですかね?」
「そうですね。またここでお世話になります」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
舟は一隻も飛ばなかったとは言え、アーク計画に乗った人たちは乗らなかった人たちとぎくしゃくしてしまっているらしい。例えば、ブレンダンさんとか。いつも通りの人たちもいるんだけど、良心の呵責、というやつなのだろうか。負い目を感じているらしい。
それと比べたら一条さんって結構いつもと変わらないな。
「たはは、同僚にど突かれちゃいましたよ。なに舟に乗ってんだー、って」
「ど突かれただけでよかったですね」
「はい。いつも通りに戻れるなら、と甘んじて受けました。……夏くんは?」
「俺ですか? メリーの特訓の内容が厳しくなりました」
「……相変わらず、大変そうですね」
「めちゃくちゃ大変ですよ」
メリーの特訓ってリンチに近いからなー……。俺って嫌われてるのかな。
ぼんやりと考えていると膨れっ面をしているゼルダと目線があった。
「むー、出撃したいです……」
「まだ今日は駄目ですって、何回言わせるんですか」
「だって身体が鈍っちゃいますよぅ」
「あなたなら大丈夫ですよ、希望の神機使いさん」
一条さんが膨れっ面をしていたゼルダの頬を両手で押す。ぷぅ、とゼルダの口から空気が漏れた。なんだか微笑ましい光景だ。でも、一条さんの言葉に聞きなれない単語があったような。
「あの、一条さん。希望の神機使い、って?」
「ああ、私命名です!」
「そこで胸を張られても。いや、説明を求めているんですよ」
「ゼルダさんは期待の新型さんですから。それにアーク計画のことを考えると英雄です」
「あっ、あれは私だけじゃ……」
「結果的に第一部隊全体が一つになれたのは、あなたがいたからだと聞いていますよ」
ニコニコと笑いかける一条さんを見てゼルダが少し身を縮ませた。
ごにょごにょと「私は何もしてないですよ」と言っているところはゼルダらしいな、と思う。俺だったらちょっと調子に乗っちゃいそうで怖い。でもいつも謙遜しなくてもいいと思うんだ。
「ゼルダ、たまには謙遜しなくてもいいんじゃないか?」
「でもあれは私一人じゃ無理でした」
「ゼルダがいたからいい流れになったんだと俺は思うよ」
「で、ですから私はそんなに大層なことは……」
「……ん? 誰の携帯ですか?」
一条さんが首を傾げているのを見て、ようやく俺の携帯が震えていることに気付いた。電話か? でもいったい誰から……。
携帯を手に取って画面に表示されている名前を見て思わず俺の表情が引き攣るの感じた。げっ、メリーだ。慌ててボタンを押して通話ができるようにし、耳に携帯を押し当てる。
「どうした、メリー」
『おっそい! 早く来なさいよ、いつまで待たせる気!?』
「うっ……」
馬鹿じゃないかと思うくらいのでかい声が俺の耳に入った。うぐ、痛い。
少し耳を押さえながら咄嗟に耳から離してしまった携帯を再び耳に押し当てた。一条さんが苦笑しているのが視界の隅で見える。
「悪い悪い。でも今、病室なんだ。もう少し小さな声で……」
『知ったことじゃないわよ、そんなの! さっさと来なさいよね!!』
「……」
反論しようと口を開いたところで俺の耳にブツリ、と通話を切る音が聞こえてきた。虚しく通話終了の『ツー、ツー、ツー』の音が耳に入る。
開いた口から零れたのは言葉ではなくため息になってしまった。あの野郎……。
「本当に大変ですね」
「まったくです。はあ、今日も疲れそうだ」
「でもメリーさんと夏くんはいいパートナーだと思いますよ?」
「えぇー、何を言ってるんですか。その内俺、殺されますよ?」
「夏くんこそ何を言ってるんですか? あれはツンデレですよ」
「あんなツンデレがあってたまるか!!」
俺が何回あいつの
味方に殺されそうになった俺の気持ちを考えたことも無いのにそんなこと言わないでほしい。目線だけで訴えかけたら気まずそうに一条さんから視線を逸らされた。
「……あ、あと夏くん。ここは病室なので静かにお願いします」
忘れてた。
――――――――――
嘆きの平原。今日も今日とてサカキ博士の依頼は無視である。いや、だってそれよりも重要な依頼を課されたものだから……。
ズバリ、ハンニバルのコア回収。うん、つまりは連戦してこいっていう依頼だ。絶対死んで来いって言ってるよね。俺は何か悪いことでもしただろうか。
「これで、何体目だ?」
「七。そろそろ飽きてきたわ」
「疲れたんじゃなくて、飽きたのか……」
傍らにハンニバル。ただしコアは抜かれたもの。まあそろそろ復活しそうだけどな。ハンニバルに対しての対策だけど、ハンニバルのコアを使えばちゃんと倒せるようになるらしい。
俺たちの依頼はつまりそれ。ちなみに俺たちの順番は殆ど最後に回るらしい。酷いなー。結構貢献しているつもりなのに。
「そういえば、ゼルダって“希望の神機使い”なんだってさ」
「へえ? なんだかおもしろい名前ね、誰がつけたの?」
「一条さん。ちなみに俺は“おかしな神機使い”らしい」
「あら、随分と夏らしいものをつけてもらったわね」
「俺らしいのかよ……」
「あたしはなんか言ってた? 変なのだったら殺しに行くから教えて頂戴」
「怖っ!? 大丈夫だよ、何も言ってなかったから」
「……ふうん」
言えない。絶対に言えない。一条さんは実は言ってたんだけど、とか言えなくなった。
だって言っちゃったら一条さんが命の危機に立たされる。俺は仲間を売るような真似はしないんだ。でもどういう意味なのかは気になるよな。一条さんの言ってたこと。
「そうね、あたし……。つけるとしたら、あれしかないわね」
「『災厄の神機使い』」
メリーの言葉を聞いて肩が跳ねた。幸いなことにメリーは気付いていないようだ。
同じだ。一条さんが言っていたことと、メリーが言ったことはまるっきり同じなのだ。喉が緊張で引き攣るのを感じる。ここまで見事に一緒だなんて、二人の性格は全く違うのになんで。
「ど、して、そう思ったんだ?」
「どうして? そうね、あたしがバケモノだから、でいい?」
「それは果たして理由になるのか?」
「なるでしょ。あたしが言うんだから」
「相変わらずよく分からない自論を振りかざすな」
よく分からないけどメリーが持っている事情故にそういうことを言っているって事か。
やっぱり一条さんはメリーの事情を知っている可能性が高そうだな。前は同じ支部にいたって言ってたし。まあ聞いたところで曖昧に濁されて、話を逸らされて終わりだろうけど。
「さて、お喋りはここまでね」
「ん? ……ああ、そうだな」
「最終ラウンドを始めましょうか」
起き上がったハンニバルを見据えるメリーの目が心なしか捕食者のように見える。まあ実際、神機使いはアラガミにとって捕食者みたいなものなんだけどな。
よし、ちゃんとお仕事をしないとな。じゃないと俺の特訓の量が増える。今日はすごい疲れてるのにこれ以上増やされてたまるか。
「ははっ、脆いのよ!」
と思っていたらメリーがいきなりハンニバルの逆鱗を結合崩壊させた。
すごいね、いきなりだね。なんで最初にそこを結合崩壊させたんだ。いや、脆いのは確かだし銃撃に弱いんだけど。でもそこを結合崩壊させたら……ほら空飛んだ。
「ちくしょう、近寄れねえ!」
「ぷくく、旧型」
「今日のお前はとてもウザいな!!」
火柱に包まれて空に浮かび上がったハンニバルは自身を中心にして火柱を周囲に飛ばして攻撃してきた。俺は盾を展開してやり過ごすことしかできないのだが、メリーは簡単に無駄な動きなくそれを避けながら銃撃で応戦している。
あー、本当に新型が羨ましいな。なんであんなに便利なんだ。
「でえええいっ!」
降り立ったハンニバルに高速で近寄って後ろに回り込み、尻尾を切断するメリー。
なんで力任せなんだよ。普通に結合崩壊を狙えばいいじゃないかよ。
「最近のお前って強引だよな……」
「ストレス溜まるのよ。それとも夏が代わりに斬られてくれるの?」
「死ぬからね!?」
なんか八つ当たりされている気がする。酷い。
そう思っている間にもメリーはハンニバルに一撃一撃重い攻撃を加えていく。俺がアラガミだったら、メリーの姿を見ただけで逃げ出すなうん。さっさと逃げる。
メリーが敵だったら俺って何があったとしても絶命すると思うんだ。……いつか越えてやるつもりだけど。いつまでもパートナー、それも女の後ろだなんてかっこ悪いだろ?
まあ
「はい終了、お疲れ様ー」
「早っ!?」
「あんたが駄弁ってるからよ」
「心の中! 心の中でのことだから駄弁っているとは言わない!」
「煩いわよ、言い訳しないで」
「言い訳じゃないよ!」
この俺の扱いの酷さはいったいなんなんだ。
確かにちょっと色々と考えたりしていたけどさ、それだけ終わるような相手じゃないと思うんだ。というかハンニバル倒れるの早すぎるだろ。もうちょっと頑張れよ新種。
とりあえず少しくらいは仕事をしようとコアの回収を率先してやる。なんだろう、虚しい。
「帰るわよ、夏」
「はいはい……」
すたすたと歩いて行ったメリーの後を慌てて追う。置いて行かれちゃたまらない。……え、いつも置いて行かれてるじゃないかって? ほっとけ。あれって結構傷つくんだからな。
しかし最近は上も俺の扱いが酷いなあ、とか考えているとメリーが立ち止まっていることに気付いた。ん? 帰らないのか?
「はい、夏。これあげる」
「へ? ……冷やしカレードリンクか」
「出先で飲む好物は別格なのよ?」
そういうメリーの手にはブラックコーヒー。なるほど、こいつにしては珍しい粋な計らいだな。拒む理由もなかったので手渡された、というより投げ渡されたそれを開け一気飲みする。
ぷは、やっぱり美味いなこれ。確かにメリーの言う通り、エントランスで飲むのとはまた一味違う。
「たまにはいいでしょ?」
「そうだな、ハマりそうだ」
「……」
「メリー?」
急に黙り込むメリー。なんだなんだ、何があったんだ。
いつも俺に対して煩いからいきなり黙り込まれると少し怖いんだが。
「……ぷくく、夏の、間抜け顔っ……!」
「お前なあ……」
心配させといてそれかよ、酷い奴め。
というか間抜け顔じゃないから! これ、俺の普通の顔だから!
なんで普通の顔を見たときに笑うんだ。それって失礼だろう。
なんだか最後に拍子抜けしてしまった。