GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
『これじゃ、アラガミと変わらない……!』
人がアラガミへと堕ちたようです。
――――――――――
それは、必然的に起こる出来事であったんだと思う。だからこそ、どうして俺なんだ。
あまりの苦しさに思わず涙目になり、目の前の景色がぼんやりとでしか見えなくなった。
鼓動がどんどんと早くなり、それを落ち着けるために深呼吸しようとして、おれは咽込んだ。
俺が一体、何をしたっていうんだ。
場所はエントランス。一階の、つまりオペレーターのヒバリちゃんのいる階。そこで、“俺たち”は倒れていた。
ゴホゴホ、と苦しげに咽るソーマ。蹲り続けるタツミさん。倒れている俺。それが今回の事件の被害者だ。
どうしよう、冷や汗が止まらない。俺ってこのまま死ぬのかな。死んじゃうのかな。
ちなみにゼルダはエントランスの隅のほうで引いていて、メリーは興味深そうに俺たちを観察している。
「ソーマ、タツミさん、夏さん。どうです、味は?」
そして今回の事件の犯人……、コウタが俺たちの前で面白そうに笑っていた。
いや、正確に言えば犯人はコウタだけじゃないんだ。もう一つ、俺たちを苦しめたことに直接関係があるものがある。
ソーマはようやく落ち着いたのか、キッとコウタに睨みを利かせる。
「てめえ……、何しやがる!!」
「え? 何って、ジュースを勧めただけだろ? 美味しい美味しい初恋ジュースを」
そう、俺たちがこうなった原因は足元に転がっている初恋ジュースが原因だった。
これこそがサカキ博士が作っていた究極の嗜好品であると、コウタはそう言っているのだ。
博士……、とんでもないもの作りやがって。なんだよこれ、激マズじゃないかよ!?
数時間の断水と三日の節電の結果がこれとか、ありえなさすぎだろ……。
「コウタ、一つ聞くぞ。お前、この味だって知ってたろ?」
「はい、知ってましたけど?」
「歯ぁ食いしばれ」
「ちょっ、夏さん怖いんですけど!?」
まだ少しくらいなら耐えられる味なんだ、こいつは。
蹲るぐらいのダメージはあっても倒れまではしないだろう、普通なら。
しかし俺たちがここまでダメージを受けたのは、当たり前ではあるが勿論理由がある。
実は俺たち、コウタにこのジュースがすごい美味いと勧められて飲んだのだ。
最初から三本持っていたところを見ると、完全にひっかける気満々だったんだろうが。
「大袈裟ね、あんたたち。普通に美味しいわよ、これ」
「メリー。お前って味覚も壊滅的だったんだな」
「はあ? あんたと一緒にしないでくれる、腹立たしい」
「最近お前すごい怖いよな」
ピンク色の初恋ジュースの缶を手にしたメリーが俺を睨んできた。俺の舌は壊滅的じゃない。
この壮絶な味を美味しいって言えるメリーの方がはるかに壊滅的だと俺は思うね。
とりあえず、後でサカキ博士は殴り込みに行ってこよう。
「サカキ博士 への 好感度 が 少し 上がった」
「どうしたの、メリー。片言だけど」
「ちょっとした遊びよ」
「でもそんな飲み物くらいで好感度が上がるお前ってチョロいな」
「煩いわね。これは世紀の大発明よ」
満足げに頷きながらそれを飲むメリーは本当に美味しそうだ。
お前、不味いものが美味しく感じる薬でも開発したのか? 本当にそれがあるとしたら欲しい。
……あー、普通にメリーの味覚っぽいな。なんで飲めるんだよ……。
「で、お前はそれを本当に気に入ったのか?」
「ええ。明日から任務後に飲むわ」
「今日からじゃなくていいのか?」
「自販機からなくなっちゃうでしょ?」
「どんだけ飲む気なんだよ……」
メリーの反応に思わずげんなりした。
一方後ろではコウタとソーマとタツミさんがなんか色々揉めていた。もう俺はいいや。
体調悪くならないといいな、とぼんやりと考えているとメリーが俺に何か差し出してきた。
これは、ノートか? 結構古ぼけてんなー。しかも汚い字で“日出”って殴り書きされてるし。
……うん? 日出? 俺の名字じゃないか。
「どうしてお前がこれを?」
「ああ、さっきあんたのおばさんが来たのよ。それで渡してくれって」
「おばさんが……」
パラ、と一ページ目を見てみると、俺の父さんの日記のようだ。汚い、実に汚い。
内容はなんてことない、平和な内容だった。日付は面倒くさがったのか一つも書かれていない。
なんか心の声みたいに父さんの気持ちが書かれてる……。なんだこれ、ギャグだろ。
母さんに一目惚れしたこととか、結婚したこととか、俺が生まれたこととか。
一回だけ母さんが書いたみたいだけど……。本当になんてことない、幸せそうな内容だ。
「ん、」
しばらく空白が続いて、最後のページ。
そこに一枚の写真と母さんが残したと思われる文があった。
母さんがこのノートに文字を書いたのはこれをあわせて二回って事か。
そこには父さんが亡くなったということ、それが信じられなくて母さんは探しに行くということが書いてあった。
俺を残していってしまってごめんと、許してほしいとも書いてあった。
「どうしたの、涙目よ」
「……なんでもない」
ノートを閉じて、写真を見てみる。
そこには黒髪に蒼い目の男と、茶髪に焦げ茶の目の女が映っていた。
女は生まれたばかりの赤ん坊を抱えており、赤ん坊は気持ちよさそうにすやすや眠っている。
きっとこの男が父さんで、女が母さんなんだろうな。それで、赤ん坊が俺。
全然覚えてなんかいないのに、なんでかこれを見るとすごく懐かしい。
思わず目から涙がこぼれた。
「あら、泣いてるじゃない。そんなにあのジュース不味かった?」
「違う。……違うんだ」
ぐっと涙を拭って、俺は写真をノートの最後にしまい込んだ。
あれだけ幸せな家庭が、俺にはあったんだ。覚えてないのがすごい残念だ。
ふと、もし父さんが亡くならなかったら俺には今でも両親がいたのではないかと思い……やめた。
今更すぎたことを悩んでも、意味はない。
「父さんと母さんのことが少しでも分かったのが嬉しかったんだ」
「そう、良かったじゃないの」
「うん。良かった」
俺はさっきコウタに騙されたことも忘れ、そっとノートの表紙を優しく撫でた。