GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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57、セクメト

『何度夢見ても、手を伸ばしても、掴めない』

 

 希望と言うのはとても遠い所にあるようで。

 

 

――――――――――

 

 

「あ、おはようゼルダー」

 

「すみません、失礼しますっ!」

 

 朝、ゼルダに朝の挨拶をしたらあっさりと横を通り抜けられた。

 えー? なんだろうこの拒絶された感じ。すっごいショックなんだけど。

 それになんだか恥ずかしい。例えるなら、公衆の面前でサプライズでプロポーズしたのにフラれた、みたいな。

 

「なんであんなに急いでんだ?」

 

「さあね? まあ、これが原因でしょうけど」

 

「……ん、それって巷で噂の“仄暗い羽”か」

 

「みたいね。なんでこんなの持って急いでたかは分からないけど」

 

 隣にいたメリーが持っていたのは、最近よく見かける素材の一つである仄暗い羽。

 なかなかに高額で売れるとのことであり、金欠の俺も密かに集めようと奮闘している品だ。

 いや、まあ見つからないんだけどね!

 

「メリー、一応聞いていいか?」

 

「何かしら」

 

「その素材はゼルダが持っていたので間違いないよな」

 

「その通りよ」

 

「スったな!?」

 

「ええ、スったわ」

 

 こいつ人の目の前で当たり前のように犯罪を犯しやがった!?

 その度胸は一体どこから来るのか、全くもってわからないよ。

 しばらくするとゼルダが戻ってきて慌てて辺りを見回し、俺たちの元に来た。

 大方、何かに使おうと思ったんだけど数が足りないのに気付いて落としたかどうか確認しにきたってとこか。

 

「ああ! 拾ってくれたんですね、メリーさん!」

 

「ええ、少しは気をつけなさいよね」

 

「うぅ、すみません……」

 

 おい! 誰か警察を呼べ!

 こいつ今あっさりと誤魔化しやがったぞ。しかも笑顔で。

 気付こうよ、ゼルダ。こいつが良い笑顔の時は悪い時だからね?

 ゼルダはそのまま気付かずにメリーから素材を受け取ってまたどこかへ行った。

 

「お前、いつか悪人になれるぞ」

 

「どうもありがとう」

 

「褒めてねーし」

 

 駄目だ、こいつと会話すると時々話が噛み合わなくなる。

 もうこの会話するの止めよう……。そう思いながら頭を抱え込んだ。

 そしてまたゼルダがエントランスに戻ってきた。

 

「はあ、先程はご迷惑をおかけしてすみませんでした」

 

「全然大丈夫よ。で、今日は何の任務に行くの?」

 

「そうですね、今日は……」

 

 わー蚊帳の外だー。

 というかなんで俺仕事の話なのに蚊帳の外になってんだろう根本的におかしいよね。

 俺だって同じ職業なんだからさ、ちょっとは話に混ぜてもいいじゃない。

 ……お願いだから、混ぜて……。

 

「では同行をお願いしてもいいですか、夏さん」

 

「ん? ああ、うん」

 

 あれ? やべえ、話の展開が分からないのに返事しちゃった。

 今日の依頼の話だって聞いてないのに、なんで了承しちゃったの俺。

 どうしよう、久しぶりにすごく嫌な予感する。……いや久しぶりでもないか?

 

「じゃあちょっと準備してきますね」

 

「おー、待ってる」

 

「早めに頼むわよ」

 

「お前は……」

 

 パタパタとゼルダは準備のために駆けて行った。

 ゼルダを待っている間俺は暇だな。なんか今日はメリーも準備終わってるみたいだけど。

 何して過ごそうかな。冷やしカレードリンク……は帰ってきてからの方がいいか。

 ソファでぐだーっとしてれば適当に時間潰せるかな。

 

「あっ、メリー先輩! 少しお聞きしたいことが……」

 

「俺も! 神機の変形で聞きたいことが……」

 

「ちょちょっ、いっぺんには無理よ!?」

 

 人気だなあ……。あのメリーが、人気だなあ……。

 俺はこういうこと一回もないんだよな。どうせ頼りねえよ。

 

「リーダーの居場所教えろ、センパイ」

 

「こんな可愛くない後輩いらない!!」

 

 後輩っていうのは胸ぐら掴んで人の場所を聞くようなもんじゃないと思うよ!

 しかもセンパイって片言じゃねーか。メリーと同じようなことするんじゃない!

 俺の胸ぐらを掴んできているのはアネットとフェデリコの同期であるソロ。

 とりあえずあれだな、メリーは笑顔でやってくるのに対してソロは無表情だ。

 無表情でやられるとちょっと俺も精神的にくるんですけど……。

 

「早く教えろ、馬鹿夏」

 

「わー懐かしー。やっぱ最初にそれ言ったのお前だな」

 

「多分俺だな。なんだ、他にもいるのか」

 

「メリー」

 

「黒女か、気が合いそうだ」

 

「間違っても結託するんじゃないぞ、フリじゃないからな」

 

「場合による」

 

 なんだ、場合によるって。その場合を俺は知りたいぞ。

 あとやっぱり最初に俺を“馬鹿夏”って呼んだのはお前だったんだな。

 メリーに呼ばれ始めてから前にも呼ばれていたような気がしてたんだよ。

 でも、お前か……。くそぅ、俺の苦労が確実に増えた!

 

「準備できましたー!」

 

「ほっ……。じゃ、じゃあ帰ってきたら続きにしましょう」

 

「リーダー、俺もお供したいのですが……」

 

「ソロー、任務に行きますから支度してください」

 

 メリーがホッと一息つき、ソロが駄々をこねはじめたところでアリサが登場した。

 そういえばアリサも最初はすっごい上から目線だったんだよなあ……。

 多分ソロの上から目線は治らないだろうけどな!

 

「断ったら?」

 

「ソーマとコウタに頼んで実力行使します」

 

「お前も合わせて今日のメンバーか」

 

「事実ですけど私にはアリサという名前があります」

 

「お前」

 

「……なんでアネットやフェデリコじゃなくてあなたが同じ部隊に来たんでしょう」

 

「上に聞け」

 

 なんてこった、俺だけかと思ったらアリサにまであたってやがる。

 本当にゼルダに慕ってるな……。なんだか犬みたいだ、尻尾振ってる。

 あいつはチームワークが大事なこの職場で一人狼を貫き通すつもりだろうか。

 

「ちょっと夏さん、幼馴染なんでしょう? どうにかしてください」

 

「アリサ、アドバイスをやろう」

 

「是非教えてください!」

 

「頑張れ」

 

「……それ、アドバイスじゃなくて励ましですからね?」

 

 アリサにジト目で見られた。そんな目で見なくても……。

 だって事実だし! こいつ結構頑固者だし! 俺が口出したら鳩尾殴るやつだし!

 あれ、それってメリーと同じじゃね……?

 

「ソロさん、今日はアリサさんたちと頑張ってください」

 

「分かりました、リーダー」

 

「リーダーに懐きすぎですよ……全く」

 

「早く行くぞ。……えっと、」

 

「アリサです。覚えてください」

 

「気が向いたらな」

 

「名前はそう言うものじゃないと思うんですけど」

 

 うん、なんだか大変なことになりそうだな。

 それはともかくとして早く依頼行こうぜ、なんか疲れてきそうだ。

 

 

――――――――――

 

 

 足に力を籠め、一気に標的に向かって踏み込む。

 

「はああああ!!」

 

 気合を声と神機に乗せて標的に向かって一撃。

 渾身の一撃をアラガミを狙って俺は神機を振り抜いた。

 

 

 カキィン!

 

 

「……ですよねー」

 

 なんとも虚しい音がその場に響いて俺の神機は弾かれた。

 何回聞いても悲しい気持ちになる音だなあ、泣きたくなってきた。

 あ、ちなみに今俺が戦っているのはセクメトです。そして俺一人です。

 今回の依頼は鎮魂の廃寺でセクメトとクアドリガ堕天の討伐。

 何故か俺に囮を任せて二人はクアドリガ堕天の方に向かいました……。

 

「一人空きがあるならソロ連れてきてもよかっただろ絶対ちくしょう」

 

 こんな理不尽なことが果たしてあっていいのだろうか。

 というかあれかな、ゼルダもついに俺を虐め始めたのかな。

 俺の精神が磨り減って行く……誰か助けて。

 

「ああもうウザったい! 面倒くさいな、っと!」

 

 繰り出された火の玉をステップで回避してそのまま斬りこむ。

 頭部を狙っての一撃。ただそれで俺の神機が思い切りセクメトに食い込んだ。

 え、ちょ、抜けない!? おおおお、どうしようどうしよう!?

 考えることはせずに適当にグリッと捻って力任せに引き抜いた。

 なんだよ、意外とすぐ抜けたじゃないか……。

 

「っそうら!」

 

 引き抜いた勢いで頭に向かって突きの攻撃。

 今度は深い所にはハマらず、セクメトを蹴ることで容易に抜けた。

 丁度いいタイミングで炎を纏った腕を振るうセクメトの攻撃は盾を展開することで防ぐ。

 盾にセクメトの腕が当たり俺は後方に少し吹っ飛ぶ。

 

「よっと……」

 

 俺はそれをスキル『空中ジャンプ』で体勢を立て直し、なんとか地面に着地した。

 さり気なく俺も技能が向上してるんだぜ。なかなか見せ場がないだけでな。

 でもこのまま一人でセクメトに挑戦するのヤダナー。だって苦手だもの。

 

 距離を取った俺に向かって低空飛行でセクメトが迫ってきた。

 それを空中ジャンプも使用して難なく飛び越え、地面に着く前にスタングレネードを使用。

 すぐに破裂してスタンしたセクメトに連撃を叩き込んだ。卑怯? 倒せりゃなんだっていいんだよ。

 この前のアルダノーヴァだってメリーの提案でスタングレネード連発だったしな。

 あれは酷かった。スタンから解けたら誰かがまたスタンに……可哀想だった。

 

「さて、どうしようかね……っ!」

 

 “WARNING(警告)!”の文字が俺の頭の中に浮かび、咄嗟に俺は全速力でセクメトから離れた。

 瞬間セクメトを襲う水色系統の弾丸の数々。おいおい、最近こういう展開多いぞ……。

 あとやっぱりあの軌道は俺にも当たる弾丸あるんだけど。

 俺が避けるって分かっててやってるの、あれ?

 

「遅くなりました」

 

「もうちょっと遅くてもよかったんじゃない?」

 

「何がだ。新型二人でやってるんだからもっと早くこれないのか?」

 

「メリーさんとちょっと月見を……」

 

「頼むからそれは依頼後にやってくれ、マジで」

 

 見たことがない弾丸を放ち続ける二人。クアドリガ堕天のアラガミバレットだろう。

 だから遅くなったのかもしれない。今もやまない弾丸の雨を見るに、ずっと喰ってたんじゃないかな。

 いったいどんだけ喰ってたんだよ……。逆に尊敬するわ。

 

「後は任せてもよさそう……かな?」

 

 俺はさっきの防御の分の体力を回復するためにポーチから回復錠を取り出した。

 

 

――――――――――

 

 

 うぅ、疲れた。

 あの後俺は訓練も兼ねてメリーに鎮魂の廃寺を走りまわされた。

 いや……だって神機振り回されたら逃げないとやばいでしょ。

 あれは完全に狩人の目でした。死ぬかと思った。

 だって今エントランスだけど、俺すぐにソファに座ったからね。

 

「お疲れ、夏。はい、あげる」

 

「おー、メリーにしては珍しい……サンキュ」

 

 メリーから渡された缶ジュースの口を開け、ぐっと喉に流し込んだ。

 やっぱり依頼後の飲み物は渇いた喉にとてもいい……っ!?

 ちょ、うあ、喉が!! 痛い! なにこれどういうことだよ!

 慌てて缶を見るとピンク色が見えた。まさか。

 

「うえっ、あ、ぐ、喉……!!」

 

「初恋ジュースの差し入れよ」

 

「お前のことだからそんなことだと思ったよ!」

 

「思ってたのに飲んだのね」

 

 うあー、俺の喉が大変なことになってるー。

 軽く意識を飛ばすレベルのそれに少しクラクラしてきた。不意打ち反対。

 頭を落ち着かせるために机の上に頭を乗せた。ただのグダグダしている人だ。

 メリーはクスクスと笑いながら俺の前に冷やしカレードリンクを置いた。

 買って来てくれていたのか……ちょっと嬉しい。

 

「そーいえばさー、メリーってどうしてそんなに自分を過小評価するんだよ」

 

「どうしてって……ただの自己評価よ?」

 

「ただの自己評価の割には頑固すぎるだろ」

 

「ゼルダも一緒じゃない」

 

「ゼルダは、まあ、うん。でもメリーはゼルダみたいなタイプじゃないし」

 

 確かにゼルダは自分のことを過小評価しすぎているけど、メリーはゼルダと違う。

 ゼルダほど真面目ではないけれど役目はきちんとこなしている。

 正反対に見える二人は案外似た者同士だが……それは置いておいて。

 

「パートナーってもんをやってるわけだから、ちょっとは知りたいんだよ」

 

「それは遠まわしにあたしの過去を聞きたいってこと?」

 

「ん? まあそれに直結するなら聞きたいな」

 

「そうねえ……まあ少しは信頼できるようになってきたし……」

 

 どうしようかしら、と考え込むメリー。

 小首を傾げて考え込む姿は可愛いけど、片手に初恋ジュースがあるからマイナスで。

 初恋ジュースはそれだけ俺にダメージを与えたんだ。

 

「ま、その内話してあげるわよ」

 

「その内って……いつだよそれ」

 

「話すタイミングってのは何事にもあるものよ?」

 

「そういうもんか」

 

「……それに、案外それもすぐきそうだし」

 

「なんか言ったか?」

 

「何も」

 

 何かを誤魔化すように初恋ジュースを一気飲みしたメリーが、少し引っ掛かった。

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