GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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58、被害者

『特別なんて要らなかった』

 

 ただ普通に生きて普通に死ねれば、それで。

 

 

――――――――――

 

 

「……あれ、ゼルダ?」

 

 エントランスに出ると、慌てた様子でエレベーターに駆け込むゼルダとすれ違った。

 昨日も急いでいたような……第一部隊の隊長はやはり相当な苦労があるらしいな。ご苦労様だよ。

 でも最近またゼルダが無理をしているような気がしてならないんだよな。

 なんというか、抱え込んでいるみたいな、そんな感じ。

 

「おはよう、夏」

 

「おはよう、メリー。……朝から飲んでるなー」

 

「夏も飲んだら? 頭がシャキッとするわよ」

 

「混沌に沈むから止めとくわ」

 

 確かに一瞬シャキッとするかもしれないけどその後は味覚にダメージが来るからな。

 あ、無理をしていると言えばメリーもちょっと様子がおかしいよな。明らかにおかしすぎるよ。

 メリーの場合はサカキ博士からの長期依頼を受けてからって感じがするけど。

 それが何の関係があるのかはさっぱり分からない。

 

「今日は何の依頼に行くんだ?」

 

「そうね、ゼルダの任務を手伝いましょう」

 

「お、ナイスアイディア。じゃあそれで」

 

 そのままメリーと話し込んでいると噂のゼルダがエレベーターから降りて来た。

 さっきの焦った表情と違って心なしかなんだか嬉しそうな顔をしているような気がする。

 なんでかは気になるけど嬉しそうな表情をしているならそれに越したことは無いかな。

 

「ゼルダー、今日も手伝わせてくれ」

 

「あっ、はい! お願いします!」

 

 笑顔ながら俺の声に応答するとゼルダはヒバリちゃんのところに駆けて行った。

 なんていうか、元気だなあ……。いや、これを言うと俺がお爺ちゃんみたいだから止めよう。

 俺は最近元気じゃないんだよね、俺の苦手なアラガミばっかり来るから。

 

「お待たせしました! それでは行きましょう!」

 

 依頼を受け終わったらしいゼルダが明るく俺たちにそう告げた。

 

 

――――――――――

 

 

 泣いてもいいですか。

 

「だーかーらっ、なんで俺に押し付けるんだ!?」

 

「だ、大丈夫ですか、先輩……」

 

「大丈夫じゃないかも……」

 

 今日の依頼場所は嘆きの平原。討伐対象はマグマ適応型ボルグ・カムランと極寒適応型グボロ・グボロだ。

 俺はその内の一体、ボルグ・カムランのほうをゼルダから任されているのだが。

 刃の通りはあまりよくないが、今はそれも許容範囲だ。問題は……。

 

「なんで新人を俺に……」

 

「す、すみません……」

 

「アネットのせいじゃないからね!? お願いだから落ち込まないで!」

 

 そう、何故かメリーとゼルダはアネットを俺に押し付けてグボロ・グボロのほうへ行ってしまったのだ。

 別に嫌だと言うわけでもないし迷惑と言うわけでもない。そういうことじゃないんだ。

 ただ普通は新型の新米は新型がついてあげて指導するべきだと思うんだよな、俺は。

 ゼルダの時は新型がいなかったから仕方ないと言え、今は状況がまるで違うんだからついてあげればいいのに。

 うー、なんだか空気が居た堪れない……。

 

「とっ、とりあえずあれだ、なんか頑張ろう!」

 

「な、なんかですか?」

 

「うん、なんか! とにかくがむしゃらに頑張ろうぜ!」

 

 元気づけるために態と明るい声を出した。忘れそうになるけど、一応交戦中だ。

 ボルグ・カムランの足を中心的に狙い、ダウンしたところでアネットが渾身の一撃を叩き込む。

 どうでもいいかもしれないけど、女子がハンマーを持つってなんかすごく怖いよね。

 俺が普段女子から叩かれているせいなのか、その標的が俺に来そうですごく怖い。

 

「よし、ダウン取った! アネット!」

 

「了解です! そぉいやっ!!」

 

 グシャっとあまり聞きたくない音がアラガミから聞こえた。

 相手がアラガミじゃなかったら陥没とか出血とか相当グロイことになってるんだろうな。

 あと、俺的になんだかアネットはすごく遅く見える。鈍足じゃなくて、神機の振りが。

 普段ゼルダの異常な腕力を見せつけられたせいか、俺はあっちが普通といつの間にか脳にインプットされたらしい。

 これからちょっとずつ矯正させていく必要があるな、これは……。

 

「先輩って人気者ですよね?」

 

「そうか?」

 

「はいっ、自然と周りに人が集まってくると言いますか」

 

「俺を弄るやつばっかりがな」

 

「え? でもゼルダ先輩は……」

 

 俺たちの会話はそこで途切れることとなった。

 俺の行動は実に迅速だったとちょっと誰かに褒めてほしいくらい胸を張って言える。

 アネットの腕を掴んで全速力で退避した、ただそれだけなんだけどさ。

 そのすぐ後にボルグ・カムランを襲う弾丸の雨。ちょっとマンネリすぎない?

 

「二日連続でご苦労なこった」

 

「あら、憎まれ口を叩くくらいの余裕は残ってるのね?」

 

「それなら是非参戦してほしいですね」

 

「君たちの辞書に“無謀”の文字は存在しないのか」

 

「そうですね、ないです」

 

「そんなにいい笑顔で言わないでゼルダ!」

 

 ゼルダがどんどんメリーに汚染されていく……! これ以上は止めて!

 ボルグ・カムランの尾が、足が、盾が凄まじい勢いで結合崩壊を起こしていく。

 アネットは俺の隣でポカーンとしながらそれを見守っていた。

 これは怖いよねえ。俺も怖い。だから見守る。

 

「ビックリしたでしょ、二人の本性見ちゃって」

 

「え、あ、はあ……」

 

「メリーは元からだけど、ゼルダは最近からああだよ……」

 

「……強いですね、お二人」

 

「強いね、二人は。間違いなく強い。だからこそ怖いよ」

 

「ああ、あの威力は確かに怖いですね」

 

「違うんだ。二人は無茶しやすいから怖い。無茶できる力があるから、尚更」

 

 二人のストッパーがいればいいんだけど、俺だと役不足だからな。

 あ、ソロに頼むっていう方法もあるな……。でもあいつ俺の言うこと聞いてくれないし。

 ゼルダだけなら任せられるだろうけどメリーは無理だろうな。

 

「何駄弁ってんのよ」

 

 それは突然だった。

 俺とアネットの間を黒の神機が通過した。投擲された、だと……。

 あの神機はメリーのものだな、なんて危ないことをしてくるんだあいつは!?

 仮におれかアネットのどちらかに当たったらどうするつもりだったんだろうか。

 

「あっぶねー!? 何すんだよ馬鹿野郎!」

 

「あたしは野郎じゃないわよ」

 

「そうじゃなくて! あ・ぶ・な・いって言ってんだよ!」

 

「大丈夫よ、もうアラガミは討伐したし」

 

「あーもう、話が噛み合わねー!」

 

 ほら見ろー、お前のせいでアネットが会話についてこれなくてショート起こしてるぞ!!

 というかいつの間に討伐し終わったんだろうか。おかしいな、ちゃんと見ていたはずだったのに。

 

「帰ったら初恋ジュース奢りね」

 

「はっ!? なんで!?」

 

「命令よ、下僕」

 

「下僕になった覚えはない!」

 

「あ、あの先輩方……」

 

 ドスッと、その嫌な音だけが妙に響いた。

 俺とメリーの間を一つの神機が通過していき、壁に突き刺さった音だ。

 俺は神機を持っているし、それはメリーもアネットも一緒だ。

 ということはつまりである。残っているのはたった一人なのだ。

 

「――では、帰りましょうか?」

 

 とても神機を投擲するようには思えない笑顔で、ゼルダは俺たちを見ていた。

 視界の端で半泣きのアネットが見えた。

 

 

――――――――――

 

 

 現在、病室。

 今回も一条さんにお茶を淹れてもらった。本当にすみません……。

 というか前も思ったけど一条さんってお茶淹れるの上手いよな。

 

「今日はどうしたんですか? あっ、もしかして私に会いに……」

 

「何それ気持ち悪い。そんなわけないでしょ、馬ー鹿」

 

「……うぅっ、夏さーん!!」

 

「元気出してください一条さん。これがこいつのデフォルトです」

 

 ぱあっと顔を輝かせた一条さんは即座に地獄に落とされた。半泣きで俺に抱き着いてくる。

 可哀想っていう気は起こるんだけど、抱き着いてくるのはちょっとやめてほしいかな。

 結構ガチで抱き着いてきてるから重いんだよね……。

 

「そ、それで本当の用件は? あ、ハンカチありがとうございました」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

「例の患者に合わせてくれないかしら」

 

「例の……。ああ、彼ですか」

 

 一条さんは俺にハンカチを返した後、急に真面目になった。なんだこの差。

 いつもの姿勢を見ているせいでそのきりっとした姿は妙に滑稽に見えた。

 

「彼は話せる状態ではあります。奇妙なことに彼は目と手足だけで済みましたので」

 

「目と手足だけ? 他の仲間は脳も取られたのに?」

 

「驚きですよね。生かした訳があるような気がしてなりません」

 

「口を潰してもいいし耳を潰してもいい。命を取ったって構わないんだから」

 

「警告。私はそんな意味があるような気がしてなりません」

 

 そこまで話して、ふうとため息をついた一条さん。

 「彼と会いますか?」と目線だけで俺たちにそう問うてきた。

 俺はメリーに視線を向けて判断を仰ぐ。メリーはすぐに俺の視線に気付いて頷いた。

 

「会います」

 

 俺がそう言うとやっぱりとでも言いたげな曖昧な笑みを一条さんは浮かべた。

 一条さんは病室の奥へと歩いて行き、俺たちもそれに誘われるようについていく。

 辿り着いたのは病室の本当に奥だった。いつも手前までだったからこっちまでは来たのは初めてかな。

 

「彼です。彼が、生き残りです……」

 

 閉ざされたカーテンを一条さんが遠慮がちに開いた。

 そこには目がある部分に包帯をぐるぐると巻き付けた手足の無い男が寝ていた。

 腕輪が無くなったことでオラクル細胞が供給できない彼は別の手段で供給しているらしい。

 その方法は俺には分からないが……まあ今はどうでもいいだろう。

 

「あの、少しお話、よろしいでしょうか」

 

 俺とメリーは一歩、そのカーテンの内側に入った。

 一条さんは入ってくる気が無いらしく、その場でじっと立っていた。

 俺の声に男はビクリと一度反応した後ブツブツと口を動かす。

 

「お、俺に、なんか、用、か」

 

「あの、あなたが襲われたことを聞きたいんです。辛い話でしょうけど……」

 

「いや、いい。俺で、話せること、ならっ……」

 

「無理しないで。あんた、汗の量ヤバいわよ」

 

 メリーが他人を心配しただと!?

 俺のことだって心配してくれたことあんまりないのに……。

 男はメリーの声に俺と同じようにビクリと反応した。しかし、それで終わりではなかった。

 

「はっ、はっ、はっ……!」

 

「だ、大丈夫なの?」

 

「くくく来るなああああ! 悪魔! 悪魔め! 出て行け! 今すぐに出て行け!!」

 

 急に声を荒らげたかと思うと、まるで抵抗するように身を捩りはじめた。

 まるで抵抗するかのようなその行動に俺もメリーも思わず棒立ちになった。

 ただ一人、一条さんだけが俺たちを押しのけるように男に近寄り慌てて抑え始める。

 

「また錯乱っ……! 大丈夫です、ここにはいませんから、落ち着いて下さい」

 

「嘘だ! そこに! そこに悪魔がいるんだ!!」

 

「落ち着いて。ここには人間しかいません、悪魔はいません」

 

「違うんだ! そこにいる! どうして分かってくれないんだ!」

 

「なんだ、これ……」

 

「時々思い出すのか、急に錯乱するんです。……すみませんが今日は帰ってください」

 

「悪魔め! 俺の仲間を返せええええ!!」

 

 男の悲痛な叫び声と必死にそれを宥める一条さんの声が病室に響く。

 俺とメリーは顔を青くさせながらも、黙ってその場を後にすることしかできなかった。

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