GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
「ヒバリちゃん、おはよー」
「おはようございます、夏さん」
エントランスに出てヒバリちゃんに日課の挨拶をする。挨拶は大切だ。人には折角コミュニケーションのために言葉って言うものがあるんだから、使わないなんてもったいないよね。それに挨拶をすると時間帯が分かっていいよね!
それからすかさず振り返る。……よし、今日はいないな。実はちょっと昨日の四人組がトラウマになっていたりする。ホッとしながらヒバリちゃんに向きなおると、ヒバリちゃんが苦笑いしながら俺を見ていた。俺が考えていることが分かったらしい。
「あの四人ならアリサさんを追って訓練場の方に行かれましたよ」
「まさかのストーカー!?」
「今頃ゼルダさんが追いついているかもしれませんね」
「何してるのゼルダ」
“追いついているかも”ってことはゼルダはアリサを追って訓練場に向かった四人の姿を見ていることになる。ゼルダは一体何をしに四人を追ったんだ。
ん? というか、その一連の顛末をヒバリちゃんは目撃していたのに止めなかったのか。喧嘩とかそういった問題を起こしたらツバキさんがすっ飛んでくるだろうからヒバリちゃんは止めそうなんだけどな。
「ヒバリちゃん、止めなかったんだね」
「私もその時、ちょうど忙しかったもので……」
なるほど、それなら仕方ない。
とにかくもう四人組のことは忘れよう。記憶のフォルダがあれだけでいっぱいになってしまいそうだ。俺の記憶のフォルダはこれから来る楽しい思い出のために取っておかねばならないのだから、そういったものは積極的に消去しなければっ。
「何故だ! チャレンジャーの真似をしたというのに何故駄目だった!」
「やっぱアレだろ、照れ隠しだろ!」
「あのツンデレ……。たまんねーよな!!」
「あ、アリサたん! はぁはぁ」
区画用エレベーターからどっと飛び出してきた四人組が目に入る。四人とも頬に綺麗な赤い紅葉マークがくっきりとついているんだが、何があったんだろう。
って、そうだ、早く行かないと見つかる!
「ヒバリちゃん、早く依頼お願い!」
「りょ、了解しました」
ヒバリちゃんが俺の言いたいことを察してかすぐに端末を操作して俺用の依頼を出してくれた。素早くそれを受け、四人組が使っていない階段を使って上へと登る。どうやらうまく撒いたようだ! 捕まったらそれこそ地獄だったぜ……。
見つからないように四人組の様子を覗い、隙を見て出撃用エレベーターまでダッシュ。あれ、なんで俺はこんなことをしているんだろう……。
「「「あっ、噂をすればチャレンジャー!」」」
「ひぃっ、見つかった!?」
慌てて出撃エレベーターに駆け込み乗車。即座に扉を閉めるためのボタンを押し、俺を追おうとこちらに向かって走ってきた三人からシャットアウトした。どうして一人がこちらに来なかったのかは分からなかったが、どうにか助かったようだ。
「あ、アリサたんっ!!」
とりあえずお前は一回黙ろうか。
――――――――――
「俺に大型くれるなんて、上も優しくなったなあ」
目の前にいる大型アラガミ――ボルグ・カムランを斬りつけながら俺はそう呟いた。今日は何とも珍しいことに俺の依頼が大型アラガミだ。俺の実力が認められた、ということだろうか。上の心境の変化が俺には読めない。結局支部長も、あの適合試験の時に会った――というか声を聞いた――きりだしなあ。
だが、大型アラガミは正直あまりやったことをないので立ち回りが上手くない。上手くないというか、初戦だしな。一応ボルグ・カムランの情報は移動中に支給されている端末で確認しておいたけど、さすが大型と言うべきか、やはり小型アラガミとは比べ物にならない程強い。
素早く俺を串刺しにしようと繰り出される尾に付いた針を避けながら敵に傷を負わせるのは少々骨が折れる。これで仲間がいたら的が散っていてよかったのかもしれないけど、生憎俺は一人だ。そういったことは出来ない以上、俺自身が持つスピードに頼るしかない。
この戦闘終わったら、俺の回避力がレベルアップしそうだなあ。
「最初はヴァジュラあたりがよかったな!」
何事もステップって大事だと思うんだ。新人が初陣でオウガテイル討伐に行くようにさ。いきなりボルグ・カムランは、ちょっと酷いと思う。というか俺一人で大型討伐っておかしくない? 普通誰か一緒に来るよね? なんなの、フェンリルはブラックなの?
俺の神機様に今付いている剣パーツだって、オウガテイルの素材を使ったものだしなあ。小型討伐の期間が長かったからやたら三匹衆の素材は持ってるよ。
「……そういえば、俺って他に神機パーツ持ってたっけ」
なんせ材料が小型くらいだからな。それ以外は最初に配給されたパーツくらいか。でも小型アラガミの神機パーツじゃさすがにこの先危険だよな。強度とかもそれほどないだろうし。今もそれが怖くて針が避けきれないところに迫ってきても盾で受け止めないで剣で受け流しているわけだしね。
それに小型アラガミの討伐だと、あんまりお金が入ってこないんだよね……。おばさんへの仕送りも考えたら、贅沢とかもできそうにないし。その分依頼先でアイテムを回収してやりくりするしかない。スタングレネードの素材とか、よろず屋で買うと結構な額になっちゃうんだよなあ……。もうちょっと安くしてくれてもいいのに、親父さん。アイテムの補充だけで手一杯だよ、まったく。
「まあ、これから頑張ってくしかないよね、っと!」
針を避け、地面に突き刺さるのを横目で見た後ボルグ・カムランの後ろ脚を全力で斬り裂く。ただショートブレードと言う軽い剣では斬り裂くには限界があったらしく、傷をつける程度に終わる。
今はまだこのままでいい、ダメージをつけていくだけで相手は倒れるんだから。部位破壊とか優先してたらその前に俺の身体が部位破壊します。
「黙って倒れてくれれば苦労はしないのにな!」
先程傷を付けた場所を重点的に狙ってダメージをボルグ・カムランに蓄積させる。それによって痛みでバランスを崩したボルグ・カムランがそのまま地面にごっつんこ。すかさずバランスを支えるために地面に突き刺さった針を狙って傷を入れる。
ショートブレードだから、砕くのは無理だけれど。何度も傷を入れればそれは使い物にならないまでに劣化する。連撃を叩き込んで強度を削る。そうすれば、あら不思議。あっという間に針は結合崩壊を起こす。なんて簡単。
「さ、まだまだ終わらないよな?」
気分が高揚しているのは、戦いを楽しんでいるから……なんてことはない、はずだ。どうしてはっきりと否定しきれないのかは、たぶん、相手が大型アラガミだからなのかもしれない。
――――――――――
「つ、疲れたあ……」
「お疲れ様です」
ヒバリちゃんのいるカウンターにべっとりとくっついてうなだれる俺。結局オウガテイルの神機パーツには限界があったのか、ダメージがなかなか蓄積されなくてそれなりに時間がかかってしまった。こうやって五体満足で帰ってこれたからよかったけれど、今度神機パーツを新しく作ったほうが良いかもしれない。
それにしてもヒバリちゃんは天使だなあ。疲れた俺に笑顔で労いの言葉をかけるヒバリちゃん。なるほど、タツミさんが惚れる理由もなんとなくわかるかもしれない。
「……何をしているんですか貴方は」
「んー? よお、アリサ。見りゃわかるだろ、疲れてるんだよ」
横から声をかけられそちらを見てみると、アリサが邪魔そうに俺を見ながら立っていた。そんな視線を向けなくてもいいじゃないか。もうちょっとフレンドリーにいこうよ。
なんて、心の中で言っている様じゃ相手には届かないんだけどね。
「部屋で休んでくださいよ、邪魔です」
「邪魔にならないように端に寄ってるんだけどなー」
「そこだと階段を使用する人の邪魔になるんですよ」
「え? ……あ、そっか。でも今日だけ許してよ」
「思うんですけど、ここの人たちって神機使いとしての意識が足りませんよ。殉職しても知りませんから」
意識が足りない……。そうだろうか。意識が足りていないなら、俺だってこんなところで一年も仕事を続けていないけど。そりゃ、神機使いに選ばれたら適合試験から訓練、それから初戦とあっさり通されるけどもね。強制だから、で片づけられる問題じゃない。最初は怖かったけれど、それでも俺は誇りをもってこの職場で働いているのだから。
あ、そういえば、朝の件はどうなったんだろう。この話を続けていても不毛だし、話題転換にはちょうどいいかもしれない。俺も気になっていたことだしね。
「そうだ。朝、大丈夫だったか?」
「朝? ……ああ、あのことですか」
「そうそう。ストーカーされてたみたいだけど?」
「……助けてくれた方がいたので大丈夫でした」
「そうか、よかった」
やっぱりゼルダがアリサを助けていたらしい。紅葉マークをつけたのもゼルダ、なんだろうな。アリサが名前を口にしなかったということは言いたくないということなのかもしれないから、これ以上の追及は止めておくか。
そう思って別れの言葉を口にしようとしたとき。
「ぐうっ、なんでチャレンジャーは普通に話せてるんだ……!?」
「やっぱアレか、不細工受け付けませんってやつか……!」
「あっ、あいつだって普通の顔だろ!」
「日出、夏……。あ、アリサたんを汚す奴め……!!」
なんで俺がこんなとばっちり受けなきゃいけないの。泣くぞ。
顔まで貶されるなんて酷い。俺だってすんごいかっこいいとは思っていないけれども、親が産んでくれたからこの顔で生きているんだ。それを貶されるのはいただけない。
さてどうしてくれようか、と考えていたら俺たちの横を見知った顔が通り過ぎようとしていたのでその腕を掴んで引きとめた。あの四人組のほうに歩いていこうとしていたようだけど、一体何をしに行くつもりなんだ。
「お前らしくないな、ゼルダ。どうした」
四人組の方へと歩いていこうとしたのは朝にアリサを救ったと思われるゼルダである。いつもの優しげな雰囲気が無いような気がするんだけど、気のせい、だよな。ゼルダの表情に影が差して怖いとか、決してそんなことは思ってないんだからね!
「……放してください」
「いや、でもさ」
「ちょっと交渉に行きたいので放してくれませんか?」
そりゃあ、もうにっこりと。にっこりと言われました。
とても綺麗なはずなのに、おかしいな、どうして俺が気押されているんだろう。だって俺の視界の端にいるアリサも後退りしているよ、どういうことなの、これ。
「放していただけますよね?」
「……ハイ」
素直にその手を離すと「ありがとうございます」と表情を変えぬまま言われました。ど、どういたしましてー! 俺なんかが役に立てたなら何よりです! あ、俺が進行を止めていたから全部おれが悪いんですねごめんなさーい! ……はは。
ゼルダがいなくなった後、四人組はぼろぼろになっていた。
何があったのかは知らない。明々後日の方向を向いてたから惨劇の様子は見ていないよ。見たら俺の中の優しいゼルダが消えちゃうよ。
「やべえよ、あの新人も超やべえよ!」
「友達のために駆けつける。アレって良い友情だよな!」
「女の友情とかたまんねーよな!」
「あ、アリサたんに、ゼルダたん……。ぐはっ、鼻血が……」
あ、ちょっと殴りたい。
指をぽきぽき鳴らしてみる。指を鳴らすのって、なんかよくないとかどこかで聞いたことあるけど、鳴らすと自分が強くなったような気がするよね。さあ殴りに行こう、喧嘩だ喧嘩ー!
あれ、ツバキさんがいる。ツバキさん、なんでそんなに笑顔で俺の方に詰め寄って来るんでしょうか。あ、やめてくださいこれやったの俺じゃないんです信じて――!
この後、どうにか弁解は出来たもののその場に居た他の傍観者の方々と一緒にどうして止めらなかったのか、とツバキさんに説教される羽目になりました。