GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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62、闇色の大翼

『助けて。……なんて馬鹿らしい、か』

 

 乞うたところで、ヒーローは来てくれやしないのに。

 

 

――――――――――

 

 

 今日も仕事日和だ。いつもと変わらない天気の贖罪の街に心地よい風が吹いている。

 昨日の視線など嘘のように感じてしまうのは、あれが本当に気のせいかと思うほど小さい気配だったからだろうか。

 とりあえず出先からこんにちは、夏です。

 

 今日は第一部隊に借りられた俺とメリーです。

 依頼メンバーは他にゼルダとソロ。さりげなくソロとの依頼は初めてとなる。

 今まで他の第一部隊メンバーと依頼に言ってることが多かったからな、ソロは。

 これもアリサが新人指導を頑張ろうと必死になって動いたおかげだろうか。

 

「お二人とも、すみません」

 

「いや、いいんだ。ゼルダの役に立てるなら……とぉっ!?」

 

「馬鹿夏! 何攻撃受けてんのよ!」

 

「いやいやこの状況結構つらいって! 回避率上がってもきつい!」

 

「いいから無駄口叩いてないで働け!」

 

 討伐対象の攻撃を食らって俺のジャケットが少し斬り裂かれた。

 直前に回避行動を取っていたんだが、遅かったらしい。まあやらなかったら命も持っていかれてただろうからジャケットが破れただけで済んだのはありがたいと思うべきだな。

 背中に冷や汗が流れるのを感じながらも地面から俺を焼き尽くさんとばかりに吹き出そうとする炎を回避する。怖いわ……。

 チラッとみんなに目線を向けてみると、さすがに無傷と言うわけにはいかないらしい。所々に傷が見える。

 中でも一番傷を負っているのはソロだ。期待されている新型とは言え、新兵だ。むしろここまで喰い付いてきている方がすごい。

 

「……あはっ」

 

「ねえなんで笑っていられるの!? 俺たち今囲まれてるんだよ!?」

 

 ハンニバルの斬撃攻撃を紙一重で避け(しかし掠ったのか薄い切り傷がコートに着いた)反撃を加えているメリーに向かって俺は声を張り上げた。

 そうだ、言ってなかったな。今回の討伐対象はハンニバルとヴァジュラ。大型二体の組み合わせは大きな脅威だし討伐するこちらとしても疲れるから勘弁してほしい。

 そして今、俺たちは一本道で見事に二体に挟まれていた。一周しても見つからなかったのに計ったようなタイミングで現れた二体が憎たらしい。

 

「さすがにこのままじゃ死ぬって!」

 

「一度散開して各個撃破を狙いましょう! 夏さんとメリーさんは向こうに、ソロさんは私と一緒に!」

 

「「「了解!」」」

 

 結果的にハンニバルをゼルダとソロ、ヴァジュラを俺とメリーが引き受けることとなった。

 一本道を必死になって俺たちは駆け抜け、なんとか広い場所に出る。後ろから飛んできた雷球をステップを踏むことで躱し、更に突撃もステップで避ける。連続技はスタミナがガリガリ削られるから嫌いだ。そんな愚痴を吐いたって向こうが減らしてくれるわけでもないんだけど。

 

「向こうはゼルダがいるとはいえ、相手はハンニバル。早々に片付けて援護行くわよ!」

 

「分かってる! ソロのことも心配だしな!」

 

「あいつはどうでもいい」

 

「おいおい……」

 

「まあ死なれたら困るしね、急ぐわよ」

 

 直後メリーが尻尾を斬り落としたのが視界の端に入る。俺はそれを気に留めずに前足に確実に傷を与えていく。

 苦しげに呻いているヴァジュラの斬り裂く攻撃を盾でガードすることによって事なきを得て、再び前足を斬りつける。

 思えば俺も大分大型のアラガミと渡り合えるようになったもんだよなあ……。前まではほとんど小型アラガミだったわけだし。

 それでもオウガテイルだって舐めてかかれないしな。いろんな種類のアラガミに対応できるようになったっていう認識が一番正しいのかも。

 

「……って、やば!?」

 

 ピリピリと微弱な電気が肌を走るのを感じて慌ててヴァジュラから距離を取ろうと攻撃の手を止める。帯電してやがる。

 咄嗟にステップを踏むが行動が遅かった。ヴァジュラを中心としてドームのような形の雷がバリバリと放電され、十分に離れきれなかった俺も必然的に巻き込まれる。

 

「うああああ!?」

 

 オラクル細胞を取り込んでいるとはいえ無傷では済まされない。身体中を電撃が駆け巡り堪らず悲鳴をあげる。

 放電が終わり、膝から崩れ落ちる。う、なかなか体力持っていかれるなこれ……。挫けそうだけど引くわけにはいかない。

 とにかく体力を回復させないと……。回復錠を使用しようと手を伸ばそうとするが手がしびれているようで思うように動いてくれない。スタンかよ。

 と、急に地面が遠のいた。少し腹が痛い。

 

「世話が焼けるわね」

 

「あー、悪いな……」

 

 どうやらメリーが俺を担いでいるらしい。口の中に強引に回復錠が流し込まれ溢さないように喉に流す。

 考えてみればこうやってまともにフォローされたのは初めてかもしれないな……。ちょっと感動した。

 スタンから復帰した直後メリーに投げ飛ばされた。うおいっ!? とツッコみたくなったけどメリーがヴァジュラの突撃を避けているのを見て納得した。邪魔だったんですね。

 

「決めなさい!」

 

「サンキュー!」

 

 メリーが神機で捕喰し、俺に受け渡してくれた。

 途端全身に力が溢れてくる。リンクバーストっていうのはやっぱりいいな。

 瞬間的に力の変化を身体に慣らし、神機に力を込めてヴァジュラに突撃していく。

 

「でやあっ!」

 

 ヴァジュラの前足での攻撃を隙間をくぐって前進することで回避、後ろ足を勢いのまま切断する。

 体勢を崩したヴァジュラの顔を抉る勢いでメリーが凄まじい連撃を仕掛け……ヴァジュラは地に伏した。

 

「ナイスフォロー」

 

「最近浮かれてんじゃない? 気をつけなさいよ」

 

「その通りかもな……気をつけるよ」

 

 メリーのコア回収を確認し、俺たちはゼルダとソロの援護に向かうため走り出した。

 

 

――――――――――

 

 

 はあ……今日の依頼は疲れた。

 ハンニバルはやっぱり慣れないよ……、今のところの一番の新種だしなあ、疲れる。

 今日も無事に五体満足で帰ってこれたことに安心しながら冷やしカレードリンクを口に含む。美味しい。

 

「……あれー、そういやゼルダは?」

 

「リーダーならリッカに呼ばれてどこかへ行ってしまった」

 

「リッカさんも呼び捨てなのか……」

 

「何しに行ったのかしらね」

 

「さあな、俺には分からん」

 

 背凭れに寄りかかりブラックコーヒーを飲んでいるメリーと板チョコを頬張るソロ。

 ソロに至ってはなんだか不自然にも感じるだろうけどソロなりに寛いでいるということだろう。

 飲み終わったのかメリーが無言でカップを俺に差し出してくるので黙って受け取り、新しく淹れてやる。

 あ、ちなみに今は俺の部屋です。帰ってきたらお茶しようみたいな雰囲気になって勝手に俺の部屋で行う事になった。

 ここまで言えば分かるだろうけどソロが食べてる板チョコは俺の配給品だ。何も言わないけどね、どうせあげようかなとか考えてたし。

 

「そういえばソロ、あんた結構やるわねー」

 

「そうか? 俺からしてみればまだまだだが……」

 

「一回も体力切れにならなかったんだからすごいんじゃね?」

 

「それでも服がかなりのダメージを受けたがな」

 

 ふう、とため息をついたソロは自身の服にチラリと視線を向ける。

 ソロは確かに体力切れにはならなかったがその分ちまちま攻撃を受けていたようで終わった頃には服はぼろぼろになっていた。

 今着ている服は新しく作ったものだ。まああのボロボロ具合はヤバかったよ、うん。

 

「ま、新兵だしこれからの成長に期待ってとこかしら」

 

「……そうか」

 

「なかなかお前にしては評価が高いなあ」

 

「あたしだってちゃんと人は見てるのよ」

 

 ソロの方に視線を向けてみると少し照れているのが分かった。些細な変化だからメリーには気付けないだろうけどね。

 こいつは褒められ慣れてないからな、褒められると嬉しいんだと思う。無愛想なくせにちょっとした可愛い一面を持っている奴だ。

 ここでもソロのイメージは“クール”の文字で通っているみたいだからこれが女子にバレたらかなり騒がれるんじゃないかな。

 

「あら? ソロったら、照れてるの?」

 

「気付いた……だと……」

 

 まさかメリーが気付けるとは思わなかった。本当にちょっと雰囲気が柔らかくなっただけなんだけど。

 メリーに指摘されたことが恥ずかしかったのか、今度は誰にでも分かるほどソロの顔が真っ赤にに染まった。

 

「っな!? て、照れてなどいない!」

 

「あらあらあらー、可愛い反応しちゃってー」

 

「からかうな!」

 

「録音いただきましたー」

 

「貴様……!?」

 

 テープレコーダーを俺たちに見せるメリー。なんでそんなもの持っているんだ。

 ソロは今の会話が全て録音されていたことに驚いているようで愕然とした表情だ。

 反応を楽しんでニヤニヤと笑うメリーは本当に悪い顔してる。いつも通りだ。

 

「どうしようかしら、ゼルダに渡そうかしらね?」

 

「やめろ!」

 

「あるいは複製してあんたのファンに……」

 

「やめ……! …………ファン?」

 

「えっ? 気付いてないの? あんた相当人気よ?」

 

「なんのことだ?」

 

 あれ、もしかしてソロもゼルダと同じような鈍感系なのか?

 ソロは顔もかなり整っている方だから女性神機使いに人気なんだよな。

 結構露骨な反応をしてアピールしている人もいたはずなんだけど、気付いていないというのか。

 

「……はあ、なんか興ざめね」

 

 からかう気がなくなったらしくメリーはそのままゴミ箱にポイと投げ入れた。入った。すげえ。

 その後はゼルダを少し待とうということになりなんでもない世間話をして時間を過ごした。

 ところで、ソロの身体に見えた痣っぽいものは触れないほうが良いのかな?

 

 

――――――――――

 

 

「――失礼しました」

 

 ゼルダはサカキ博士の研究室から出て一つため息を吐いた。その表情は曇っている。

 実はゼルダはリッカから“闇色の大翼”を取ってきて欲しいという依頼を受けていた。

 なんでもリンドウの神機が調子が悪いそうで、それを直すのに必要らしいということだった。

 先程の任務で討伐した後、他の三人に少し待ってもらうことで回収してきたのだ。

 

「あ、あなたでしたか」

 

「レンさん……」

 

 ちょうど病室から出てきたレンと鉢合わせになった。

 少し硬い表情をしていたゼルダはレンの姿を見て少しだけ表情を和らげた。

 そしてふと、レンも体調が悪いとこぼしていたような気がすると思い出した。

 

「レンさん、体調の方はどうですか?」

 

「ああ、大丈夫です。そろそろ治りそうなので」

 

「そうですか。それはよかったです」

 

 お互いに微笑みあう。少し話が長くなりそうだと思いゼルダはコーヒーと初恋ジュースを購入した。

 初恋ジュースをレンに渡して、ゼルダ自身はコーヒーを開けて喉に流す。

 

「あなたこそ大丈夫ですか? 最近リンドウさんに関することで随分動いているようですが」

 

「私は大丈夫ですよ。まだまだやらなければいけないことがたくさんあります」

 

「……無理のしすぎはよくありません。神機使いはいつだって死の危険と隣り合わせなんですから」

 

「分かっています。私は無理をしているつもりはないですから」

 

「そうですか……」

 

 レンの表情に一瞬だけ影が差す。ゼルダはそれに気付かずにまた缶に口をつけていた。

 レンも同じように缶に口をつけ、初恋ジュースを飲み干した。残念そうに眉を下げたが、もう一本買おうという気はないらしい。

 仕方なさそうにレンは空になった缶をゴミ箱に捨てる。少し遅れて飲み干したゼルダもそれに倣った。

 

「あなたは仲間に危険が陥った場合、自分が犠牲になればいいと思っていますね」

 

「ええ、そうですが、何か?」

 

「あなたはもう第一部隊の隊長だ。悲しむ人が大勢いるということを、忘れないでください」

 

「忘れるつもりは……」

 

「自分の命を蔑ろにしている時点でそれは忘れているも同じです」

 

「……」

 

「少し喋りすぎましたね……。それでは、仕事があるので」

 

 そのままレンは病室へと戻って行った。それからしばらくして、入れ替わるように一条が出てくる。

 ぐーっと伸びをする一条は相当疲れているのか目の下に隈も見える。一条はゼルダを見つけると嬉々として近寄った。

 どうやら話し相手が欲しいらしい。

 

「あっ、ゼルダさん! お仕事お疲れ様です! 今日はどんなアラガミを――」

 

「……」

 

「……ゼルダさん? どこか具合でも悪いんですか?」

 

 浮かない表情をしているゼルダに気付き、小首を傾げる一条。

 先程の会話を聞いていなかった一条にはゼルダが悩んでいることがさっぱり分からない。

 

「一条さん」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「私は、どうすればいいんでしょうか……」

 

「……はい?」

 

 だからゼルダの問いに答えを返すことが出来なかった。

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