GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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63、行方不明

『そんな……どうして……!』

 

 感情を殺す以外、どうしようもなかった。

 

 

――――――――――

 

 

 目を開けると、そこには何もなかった。

 ただただ真っ白な光景。自分が踏みしめている床も、天井も壁も何もかもが白い。

 ……いや、ここに天井と壁と言うものはあるのだろうか? なんだか無限に続いている気がする。

 終わりがなさそうなこの場所をぐるりと見回してから俺はその場に座り込んだ。

 まるで小説にありがちな天国みたいな場所だな、なんて思って苦笑いがこぼれた。

 俺はまだ死ぬわけにはいかないからな。

 

「そうかあ、これは夢か……」

 

 基本ノンレム睡眠の俺にとって夢っていうのはなんだか貴重なものに見えてくる。

 もしかしたら夢は見ているけど俺が認識してないだけかもしれないけどな。

 この夢だって、きっと起きてしまったら俺は忘れてしまうんだろう。

 

「何もないとか……暇だな」

 

 せめて何か娯楽とかがあればいいのに。夢なんだから突飛なことでも起こればいいのに。

 例えば地球がもうすぐ滅びます! とか、そういうインパクトがあるやつないかな。滅びても困るけど。

 この真っ白な空間にそんなことを求める方が酷ってもんか。

 

「……つ……なつ……」

 

「ん?」

 

 誰かに呼ばれた気がした。誰かは分からない。どこにいるのかも分からない。

 立ち上がって辺りを見回してみるけどやっぱりさっきと変わらない真っ白な部屋に変わりはなかった。

 でも聞いたことがある声だったんだけどなー? 誰だっけ……そう、仲間の声なんだけど……。

 

「夏」

 

「夏さん」

 

「何をしているんだ」

 

「あ!」

 

 いつ現れたのだろう。俺の目の前にメリーとゼルダ、それとソロが立っていた。

 それぞれ浮かべる笑みを見て、さっきまでの寂しさや退屈さが一気に吹っ飛んだ。

 俺も皆のところに行かないと。駆けだして、駆けて駆けて駆けて、辿り着けない。

 

「え? あれ?」

 

 なんで皆のところに行けないんだよ。全力で走ってみても全く意味がない。あまりのことに恐ろしくなる。

 そんな俺を嘲笑うようにメリーたちは踵を返してどこかへ歩いて行ってしまう。

 真っ白な空間に溶けるように消えて行った三人。後を追いかけてももうきっと追いつけないんだろう。

 足が限界を訴えて、俺は膝をついた。どうして三人のところに行けないんだよ……?

 白の空間が侵蝕されるようにじわじわと黒に染まっていく。独りぽつんと残る俺。

 

「嫌……嫌だよ、独りは……」

 

 俯きかけていた視線を上げると今度は目の前に茶髪の少年が一人立っていた。

 俺が見えるのは少年の背中だけだけど、背中越しでもその少年は泣いているのが分かった。

 気付いたら俺はその少年を抱きしめていた。きっと俺は少年を哀れんでいるんだろう。

 俺も独りは怖いから。

 

「大丈夫だよ……、俺がいるから」

 

「……駄目だよ。お兄さんじゃ、駄目なんだ」

 

「えっ?」

 

 泣いていた少年は着ていた古着の裾で目元に溜まっていたらしい涙を拭うと視線を上げて振り向き、俺を見た。

 俺は一瞬、呼吸と言うものを忘れて少年の瞳を見た。いや、少年の顔を見ていた。

 深い悲しみが感じられる蒼の瞳、癖がないはずの茶髪は少し乱れている。

 

「俺じゃ、駄目なんだよ――!」

 

 吐き捨てるようにそう言った少年は、俺だった。

 

 

――――――――――

 

 

「うわっ……!?」

 

 突然の覚醒。急に覚めた頭に身体が驚いたのか勢いよく俺は上半身を起こした。

 なんでこんなにも唐突に起きたのかは全く分からない。何か夢でも見たのか?

 でもそれらしいことは覚えてないし……気のせいかもしれない。

 

「あ、ようやく起きたのね」

 

「メリー?」

 

「そうよ、おはよう。あんまり(うな)されてたから起こすのが可哀想になっちゃった」

 

 俺が魘されていたって? じゃあ夢見てたって事なのかなあ……。

 というかこいつはまた忍び込んできたのか。もう慣れちゃったからいいけどさ。

 さっさとメリーを自室から追い出して着替え始める。汗で寝間着がべとべとだ。

 

「何の夢を見てたんだっけ?」

 

 考えてみるけどやっぱり思い出せそうにない。完全に忘れちゃってるな、もう無理か。

 乱れた髪を(くし)で整えてから自室を出て、律儀に部屋の外で待っていてくれたメリーとエントランスに出る。

 いつもと変わらないエントランスの雰囲気に少しホッとした気持ちになれた。

 

「夏さん、メリーさん、おはようございます」

 

「二人とも、おはよう」

 

「おはようゼルダ、ソロ。今日も頑張ろうな」

 

「おはよ」

 

 今日も二人は変わらないな。……あえて言うとするならゼルダがちょっと疲れが溜まってるな。

 またゼルダは一人で抱え込んでるのかなあ……。今度話を聞いてみるべきだな。

 

「メリーさん、アルダノーヴァ堕天討伐を手伝ってもらいたいのですが……」

 

「構わないわよ」

 

「俺は?」

 

「私、メリーさん、ソーマさん、コウタさんで行くつもりなんです。……すみません」

 

「その代わり今日は俺が付き合ってやろう」

 

「なんて上から目線だ」

 

 別に構わないけどさ。でも嫌な予感しかしないよな。

 そうだな……折角だから贖罪の街に行くか、調べたいことがあったし。

 ソロにとっては退屈な日になっちゃうかもな。あれ、じゃあソロを連れて行かなくてもいいんじゃ。

 

「俺、今日は贖罪の街で調査するんだけど」

 

「そうか、なら雑魚狩りで済むか。今は大型もいないらしいしな」

 

「……来てくれるの?」

 

「今日は付き合ってやると言っただろう」

 

 なんか分からないけどソロが優しい。こんな日もあるんだな……。

 その後俺とソロはメリーとゼルダと別れて互いに支度を始める。俺は終わってるんだけどな。

 それにしてもソロってそれなりに人気者だよな。イケメンめ。

 

「なんだ、俺の顔に何かついているのか?」

 

「何も」

 

 気付かない間にソロの顔を凝視してしまっていたようだ。とりあえずしらばっくれておく。

 それからしばらくしてソロの準備が完了、俺たちは出撃ゲートをくぐった。

 

 

――――――――――

 

 

 昼に来たせいか、日差しがちょっと眩しい。空を見上げたもののすぐに地面に視線を落とした。目がチカチカする。

 ソロも贖罪の街での一件は知っていたらしい。俺が簡単に説明するとすぐに頷いてくれた。

 手分けしたほうが見つけやすいかもしれないけど万が一遭遇した際に交戦することになったら一人では危ないから一緒に探すことにした。

 

「敵の容姿も分かっていないのか?」

 

「目撃者は全員亡くなってる。無理な話だよ」

 

「ふむ……なかなかに面倒だな」

 

「最近はまた被害もぱったり途絶えたしな」

 

 神出鬼没だしやることも性質が悪いとか、もう勘弁してほしい。

 色々なバケモノの姿を頭で想像してしまいちょっと泣きそうになる。

 あっ、でも人間の形はしているんだよな。……エイリアン、とか?

 

「しかし、何故犯人はここに潜伏しているんだろうな?」

 

「さあね……」

 

「なんで俺たちは狙われないんだ?」

 

「なんでだろう」

 

 言われてみれば確かにおかしいな。この前も俺とメリーは狙われなかったし。

 知らないところで何か狙われる人の規則があるのか? それとも……。

 ぐるりと教会の辺りを一周してみたが、結局何もいない。どこだよちくしょう。

 そう思っていたとき、スッと何かが前を横切って行った。

 

「……夏」

 

「ああ。今、何かいたよな!」

 

 教会の中へと入って行った何かを俺たちは警戒しながらも追いかける。

 だが教会の中に俺たちが入った時、そこには誰も居なかった。逃げ足速いな。

 壁に開いた横穴から逃げて行ったってところか。はあ、と落胆しているとソロはすぐに外に出て行った。

 どうやらまだ追いかける気らしいが……。はぐれたら逆に危険だって理解して! あと俺に一声かけてよ!

 

「先走るなよなー!」

 

 届かないと分かっているけど愚痴を大声で吐き捨てた。

 慌てて反対側まで行くと、遠くのほうで走っているソロが見えた。あいつも足速っ! と、急に立ち止まってキョロキョロと辺りを見回している。見失ったらしい。

 俺は小走りでソロのところへ向かって合流した。ソロはなんだか不満そうだ。

 

「見失った……」

 

「また今度って感じだな。で、どんな感じだった?」

 

「……黒」

 

「えっ?」

 

「黒かった」

 

「抽象的だな」

 

 まさか色を提示されるとは思わなかったよ……。他に印象はなかったのか?

 更にソロに聞いてみるが結局他は分からないということになった。うーん、残念。

 

「探そう。絶対いる」

 

「今日はもう無理だと思うのは俺だけか?」

 

「お前だけだ。探すぞ、夏」

 

「はあ……」

 

 結局その後、犯人らしき物は見つからなかった。

 ただ、ソロが新たに思い出してくれた情報では、犯人は神機を持っていたという。

 

 

――――――――――

 

 

 なんとなくいつもより活気がないエントランスのソファに座って、俺は考え事をしていた。

 

 犯人が神機を持ってるってどういうことだ?

 今日の依頼では俺とソロ以外に神機使いは贖罪の街に同時間は行っていないはずだ。

 ちょっと前に第一部隊同士が別々の依頼なのに遭遇したことがあるらしいけど、今回は陰謀もなさそうだ。

 第一陰謀的な何かなら俺たちから逃げることは無いはずだ。

 

「謎は深まるばかり、ってか」

 

「あら、第四の夏じゃない」

 

「え? ……あ、ジーナさん」

 

 ひょいと俺の目の前に顔をのぞかせたのは第三部隊のジーナさんだった。

 そういえばジーナさんと話したことってあんまりなかったかも。

 

「最近調子はどう?」

 

「まあまあってとこですね。ジーナさんは?」

 

「私もそれなりね。アラガミもいつも通り倒れていくし」

 

 どことなくジーナさんってメリーと似てるような……。戦いに貪欲なとことか。

 机の上に置いておいた冷やしカレードリンクの残りを一気飲みしてからまた机の上に戻す。

 もしかしたら飲むかもと思って買っておいた冷やしカレードリンクをジーナさんに勧める。やんわりと断られた。

 

「……そういえば、今日ってなんかいつもよりかは静かですね?」

 

「耳がいいのね?」

 

「毎日ずっとあの騒がしさを聞いているんですから、当然ですよ」

 

「そう」

 

 ジーナさんは苦笑いしてから視線を少しだけ伏せた。

 ふと俺の脳裏にあの日のことが蘇って慌ててそれをかき消した。

 あの日、つまりリンドウさんがいなくなった日のことだ。

 「アネットから聞いたことなんだけど……」とジーナさんは言いづらそうに切り出した。

 

「出先から、カノンとブレンダンが戻ってないらしいの……」

 

 言われた言葉を受け入れられず、しばらく俺は困惑したままだった。

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