GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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66、蚊帳の外

「いつかは、話さなければならない」

 

 分かっていても、その時が恐ろしくて。

 

 

――――――――――

 

 

 最近皆の様子がおかしい。

 皆の範囲がどこまで大きいかは俺には分からないけど、俺の知らないところで何もかもが進展しているようで、なんだか気持ち悪い。

 この感じは前に……アーク計画の時も感じた。“無力”っていう、現状ではどうしようもない、もがいたところで何かが変わるわけじゃない悲しくも確かな現実だ。

 結局俺は、何かから逃げているんじゃないだろうか。だから何も進歩しないんじゃないだろうか。

 

「ああ、くそ……。気分悪い」

 

 呟いたところで、誰かがそれに応えてくれるわけではない。当然だ、独り言なんだから。

 俺が今現在いる場所は、鉄塔の森。目の前に倒れ伏せるはサリエル。ついさっき依頼を終了させたところだ。

 コアも既に抜き取って後はヘリが来るのを待つだけ。周囲を警戒しつつ霧散していくサリエルを眺めている時間は暇で仕方がない。

 今日はメリーもソロもいない。メリーはゼルダと共にアネットのお願いであるカノン及びブレンダンさんの捜索に向かった。ソロはアリサにまた呼び出し食らってた。舌打ちしてた。

 ちょうど休暇だった俺はゼルダが抜けた分を少しでも補おうと思って、適当な任務をヒバリちゃんに見繕ってもらってこうして出てきたってわけだ。

 俺の神機と同種だったから少し不安もあったが……まあこうしてなんとかなった。

 

「っ、あー……怪我してたのか」

 

 身体に走る鈍い痛みを感じて見下ろせば、所々に傷が見える。これ気にしないで戦ってたのか俺は……。自分の体力もろくに管理できないなんて、神機使い失格だな。

 自嘲気味に笑うのと同時にサリエルが完全に霧散していった。特に何も思わず、無言で回復錠を取り出して中身を口に含む。いつも飲んでいる苦い味が喉を通り抜け、少し顔を顰めた。

 良薬口に苦しって言うのは本当だな。もう神機使いになって一年経つけど、これだけはどうしても慣れない。怪我しなければいい話だが、生憎俺にはそんな芸当は無理だ。

 

「……お? ヒバリちゃんからだ」

 

 ポケットに入れていた携帯電話が主張するように震える。取り出して開いてみればオペレータの文字がそのディスプレイに浮かんでいることが分かる。

 前みたいに非常事態が発生したとか、そんな内容じゃないといいなと祈りながら通話ボタンを親指で押して耳元に持っていく。

 

『あ、夏さん。お疲れ様です』

 

「ヒバリちゃんもお疲れー。どうしたの? 何か緊急の用事?」

 

『実はそちらに新たなアラガミ反応が出現したので、追加任務として討伐をお願いしたいのです』

 

「オッケー、構わないよ。反応は一つ?」

 

『はい。すみませんがお願いします』

 

 プツリと通話が途絶え、さっさと携帯電話を元の位置に仕舞い込みながら辺りを見回す。ここらあたりにアラガミがいそうな感じはないし……、少し移動してみるか。

 移動し始めてから何だが、嫌な予感がする。なんだろうな、天敵、って言葉が一番ふさわしそうなあいつがいる気がする。いや、絶対あいつがいる。

 

「やっぱりお前だったか」

 

 口から思わずため息がこぼれた。俺から離れた位置に悠然と腕を組み、堂々とした振る舞いで立っているアラガミ……その名をシユウと言う。

 ショートブレードではなかなか刃が通りにくく、俺が苦戦するアラガミの一体に入る。実に厄介な相手であり、正直に言ってしまえば交戦を避けたい一体だ。

 今は一人きり、頼りになるパートナーはいない。でも、だからどうした。彼女が来る前までは一人でやっていたんだ、これくらいできなきゃならない。

 

「ドンパチやりますかねーっと」

 

 やるべきことは、どう目を背けようとも変わらない。

 面倒事が回って来たならそれを一つずつ片して前に進むしかないんだから。

 神機を構えて戦闘態勢を取った俺に気付いたシユウがけたたましい咆哮を上げた。

 

 

――――――――――

 

 

 帰還後、病室に寄った俺は一条さんに怒られる羽目になった。

 もう少し自分の身は大切にしてくださいとか、体力回復に気を遣えないとすぐに死んじゃいますよとか。

 ご尤もすぎて反論の言葉なんて一つも口から出てこなかったよね……。

 というわけで大人しく一条さんの治療を受けているわけだけど、これがまた結構痛い。

 

「痛い! 一条さんもっと丁寧にお願いしますって!」

 

「消毒液ですから。沁みるのは仕方ないと思ってください」

 

「いたたたた!? ちょ、ぐりぐり傷口に押し付けないで!」

 

 ちょっと怒り気味の一条さんは笑顔を顔に張り付けて黙々と作業を続ける。

 一種の地獄をありがたくないことに体験している俺はただぐっと堪えて耐えるのみ。

 うぅー、沁みる……! でもこれは俺が悪いんだから俺が耐えないといけないんだっ……!

 というか一条さん絶対楽しんでるよね、これ。

 

「消毒液と絆創膏を貰いたいんだが……。夏?」

 

「おー、ソロ。どうした、怪我か?」

 

「掠り傷だ。だが手当てをしておくに越したことは無いと思ってな」

 

 プラプラと振る右手の甲には切り傷が見える。アラガミにやられたものだろう。

 顰め面をするソロを見る限りそれなりに痛いらしい。分かっちゃいるけど、痛覚感じるんだな。

 

「それでは、夏くんの後にやりますので待っていてもらえますか?」

 

「了解した。って、お前ボロボロじゃないか……? 何をしているんだ、全く」

 

「サリエル討伐だよ。ちょっと気が散ってたのかな?」

 

「馬鹿が。よく今まで死ななかったな、任務には集中しろ」

 

 一条さんが俺の隣に用意してくれたもう一つの椅子に座ると俺の目をじっと見つめるソロ。な、なんだよー。そんなに心配した目をしないでくれよ。

 心配してくれるのはありがたいけど、ちょっと過保護すぎるような気がするぞ。俺はもう二年経てば成人するんだぞ? そこまで心配しなくても。

 まあ俺もさ、周りの人が無茶したりしたら心配するけど。ソロの心配は重いよ。

 

「分かってるって。今日だけだから」

 

「そう言って明日死ぬとも……」

 

「うっわ、やめろって! 縁起でもないなー!」

 

「ふ・た・り・と・も。お静かに願えますか、ここは病室です」

 

「す、すみません……」

 

「何故俺まで」

 

 拗ねたように少しだけ口を尖らせてみせたソロが滑稽に見える。

 会った時と比べたらソロも随分いろいろな表情を見せるようになったな、と思う。それは友人として嬉しいし、これからももっと表情豊かになってほしい。

 ソロは積極性に欠けるからな。あんまり友人を自分から作れるようなやつじゃないし。だからアリサみたいに、ああやって多少強引でも引っ張ってくれる人がいるのはありがたい。

 それをソロはあまり良いこととは思ってないみたいだけど。嫌がるソロを引っ張って出撃していく今朝のアリサの姿を思い出して、ちょっと笑えてきた。

 あれもアリサなりの先輩としての気遣いなのかな。

 

「そういや、ゼルダたちってもう帰ってきたのか?」

 

「ああ、既に帰投している。しかし思っていたような結果は出なかったようだ」

 

「……見つからなかったのか、二人」

 

「あの二人はかくれんぼが好きなのか?」

 

 的外れなソロの発言に苦笑いしていると俺の手当てが終わったらしくポンと頭に手を置かれた。ちょっ、一条さんまで俺を子ども扱い? 確かに一条さんから見たらまだ子供だけど。

 すぐにソロの手当てへと移った一条さんは実に手馴れている。

 

「はい、ソロさんも終わりっと。二人とも、怪我には気を付けてくださいね」

 

「気を付けはするが、また来ることになるかもしれないな」

 

「は? どうして?」

 

「リーダーに誘われてな。エイジス付近でカノンらしき人を見たらしく、ディアウス・ピター討伐ついでに行ってくる」

 

「えっ、それなら俺も!!」

 

「生憎既にメンバーは決まっている。お前はいないものと思われていたようだ」

 

「ちぇ、俺も探しに行きたかったのに」

 

 また俺だけ蚊帳の外かよ。俺だってみんなの役に立ちたいのに。

 ため息をついていると俺の頬に冷たい何かが押し当てられ、一気に背筋が伸びた。

 びっくりしてそれに触れてみるとどうやら缶らしい。俺に缶を押し付けてきたソロはにやっと不敵に笑って見せる。

 

「メリーからだ。見つけたら渡してくれと頼まれた」

 

「……冷やしカレードリンクじゃなくて初恋ジュースなとこに悪意を感じる」

 

「あいつから悪意を抜いてみろ、もはや別人になるぞ」

 

「そりゃそうだけど。……ま、気を付けてな?」

 

「ああ。お前は今日休日なのだろう? ゆっくり休んで待っていろ」

 

 そのままソロは、恐らくエントランスに向かうため病室を後にした。

 それにしてもこの初恋ジュースはどうしたものか……。俺はちょっと飲みたくない。

 

「あ、噂の初恋ジュースですか」

 

「ええ。……いります?」

 

「本当ですか? いやー、飲んでみたかったんですよねー」

 

「でもあんまりいい味とは言えないからおすすめしな……ってもう飲んでる!?」

 

 一条さんの思い切りが良すぎて惚れそうなんだけど。

 と、そんなこと考えてる場合じゃなかった。なんでそんなに戸惑いなく飲めるの。

 異常がないかどうか一条さんの様子を見守ってみるが、一条さんは微妙な表情のまま天井を睨んでいる。

 

「これ、すごく不思議な味しますね……。なんかよく分からなくて」

 

「そ、そうですよね!」

 

「それでいて、すごく、……吐きそう」

 

「え、えぇっ!? 勘弁してください!!」

 

 みるみる顔色が青白くなっていく一条さんにいすを勧めて慌てて座らせる。

 俺の時より症状が重いな。人によって味覚は違うから仕方がないことなのかもしれないけど。

 とにかく介抱してあげないとな。もう少しここにいることになりそうだ。

 

 

 

 そうして俺がカノンのみが帰還したという事実を知ったのは、それから数時間経過して衰弱したカノンを負ぶったソロたちが再び病室に現れたからだった。

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