GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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67、瓜二つ

 目を開けたとき最初にあたしの視界に飛び込んできたのは、深紅に染まってその身を傾けた白だった。

 初め、それがなんなのか分からずただボーっと突っ立っていただけだった。それが人であると気付けたのは、慌てた様子でその身体を受け止める夏の姿を視界に入れたからだろう。

 

「おい……。おい、しっかりしろ! ゼルダ!!」

 

 その白が、白神ゼルダと言う名の少女の身に着けているブルゾンであると気付いたのは、夏がその人の名前を叫んだから。

 何故彼女は固く目を閉ざしているのか? 何故彼女の顔色は白いのか? 何故彼女の服が赤く染まっているのか?

 彼女の傷を見れば分かる。彼女は斬られたのだ。それによる出血が彼女の白を汚しているのだ。

 では何故彼女は斬られたのか? 何者に斬られたのか? 周囲にあたしたち三人以外の姿はない。

 

「なあ、どうしちゃったんだよ……。なんでこんなことするんだよ……メリー」

 

「……は、」

 

 震えた口から、間抜けな擦れた声ともいえない音がポロリと零れた。

 今、何て? あたし? 今、あたしの名前を言ったの、夏は。

 

「ぁ、え……?」

 

 ふと自分の身体を見下ろせば、べったりと赤が浸み込みあたしの黒のコートの色を変色させているではないか。そして、あたしの持つスサノオの素材でできた黒の神機も。

 これは夢だ、夢に決まっている。だって、あたしは前にも同じものを見た。全く変わらない、悪夢を。

 あたしがゼルダを手にかけたなんて、そんなことは嘘に決まっているのだ。仲間を殺すだなんて、どうしてそんなことが出来ようか。あたしは、いつだって変われない臆病者で。

 しかしこの夢は前よりもリアルすぎる。今回はあたしが“やってしまった”という状況証拠がすべて揃っている。きっとこの夢に出てくる夏は斬る瞬間を見ていたのかもしれないけどあたしは知らない。

 ああ、なんであたしはこんなにも冷静なんだろう? あたしは薄情な人間なの?

 ゼルダの綺麗な銀髪を濡らす血がてらてらと輝いて現実を見せつける。

 

 朱に染まる(ゼルダ)、泣いている(あたし)、呆然とする()

 この前と同じようで少し違う夢は、笑い飛ばせない程にリアルだ。

 とくり、と胸の奥で何者かが叫ぶ。「喰べてしまえよ」と。

 

「なんかの、間違いだよな? なあ、違う、よな? なあ、なあ、なあ」

 

 何が間違いなのだろう。主語をつけてもらわないと会話は成り立たない。

 随分と錯乱しているらしい夏の表情は悲しいほど受け入れたくないと書いてあるように見える。

 あたしが目を覚ませばそこでこの夢はおしまい。なのに、なんで目が覚めないのか。

 まったくもって夢と言うのは恐ろしい。ここ最近見続けた人が死ぬ夢は、これの予兆であったのだろうか。

 

「そ、うだ。メリー、大丈夫か? お前、最近具合悪かったよな」

 

 話題がまるで関係ない所まで飛んでしまった。夏らしくない。

 第一、夏はいつも馬鹿みたいに明るい笑顔を浮かべているのがチャームポイントだ。笑顔がないせいで、今は夏の顔をして別の誰かに見えてしまう。

 ゼルダの身体をそっと横たえた夏はあたしに近寄って肩を掴む。あたしより数センチほど背の高い夏が傍まで来ると、必然的に少し上を見なければ視線が合わないのがムカつく。

 

「大丈夫よ、夏。きっと、もうすぐ終わるから」

 

「終わるって……、何がだよ? なんでそんなに冷静でいられるんだよ!?」

 

「冷静なわけ、ない。あたしだって悲しいのよ」

 

「……メリー。やっぱお前、おかしい。本当、どうし――」

 

 プツリと言葉が途切れ、自然に下がっていた視線を再び夏に向ける。

 目は大きく見開かれ焦点があっておらず震えた唇からはついに最後の一音は発せられなかった。

 まるで糸の切れた操り人形のように力を失くし倒れ込んでくる夏を慌てて支える。

 

「ちょっと。ねえ? 夏?」

 

 背中に回した手に生暖かい何かが触れた。恐る恐る見れば鮮血がべっとりとついている。

 見れば彼の赤いジャケットが更に濃い色に染まっていっている。ばっさりと背中を袈裟斬りに斬られているこの夢の夏は、もう助からない。

 何でこんなに人が亡くなっていく様子を見続けなければいけないの。夢だと分かっていても辛いものは辛いの。ねえ、もう、やめて。

 堪らずぎゅっと目を瞑れば目元に溜まっていた水が頬を伝った。

 

「っ、」

 

 急に抱きしめていた亡骸がふっと重みを失くした。

 でも何かが残っている。丸ではないけれど、丸に近い何か。目線を落として、叫びだしたい気持ちに駆られた。

 抱えていたのは頭だ。先程まで抱きしめていた夏の頭だったのだ。耳は削ぎ落とされ、半開きになった口には舌は見られず、眼球をくり抜かれた二つの黒い穴は赤い涙を流している。

 

「もう、やだ……。何なのよ……、あたしが死ねばいいの……?」

 

 周囲に転がる、夏と同じような頭たち。全部が全部見知った顔。極東の神機使い。

 知ってた。きっと自分のせいなんだって。でも受け入れたくなくて。

 サカキ博士は気付いているはずだ。この支部において支部長になった時、サカキ博士には自分の事情は全て話したのだから。

 馬鹿なものだ。自分のせいだと思ってはいても、どれだけ死にたいと吐いても、結局あたしは。

 

「ねーえー? そろそろ起きなさいよ、バケモノ。早く喰べたくって仕方ないわ」

 

「……ああ、お迎え?」

 

「そうね。ええ、そうよ」

 

 冥土まで送ってやる。

 三日月のように歪む笑顔からは狂気以外の感情を感じさせなかった。

 

 

――――――――――

 

 

 ……どうも、夏です。ただいま、贖罪の街です。

 レーダーに不思議なアラガミ反応が引っ掛かったからひょっとしたら今俺たちが追ってる例の事件の犯人かもしれない! ということで繰り出してきたわけだ。

 なんだけど……、今日はメリーの様子がおかしい。

 

「そういえば今日、いつもは持ってないアイテム持ってきてさー」

 

「……」

 

「おーい、メリーさんや?」

 

「っあ、え? なんか言った?」

 

「えぇー……」

 

 とまあ、こんな感じなわけでして。どこか上の空って言うか、ね。

 いつも強気なメリーばかり見ているもんだからこういうのはどうも調子が崩れる。

 はっ、まさかそれが目的で……ってそんなわけがないねそうだね、自重します。

 

「お前、顔色悪いぞ? 先に帰るか?」

 

「気にしないで。ただの過労よ」

 

「馬鹿。それで一回倒れてるんだから無理すんな」

 

「終わったらすぐ病室行けばいいでしょ。それで十分よ」

 

 変なところで頑固しやがって……。

 あ、そういえば今日ゼルダたちは再び捜索にエイジスに向かいました。

 なんだったかな、ツクヨミってアラガミの討伐も兼ねて、だった気がする。

 今回はソロもメンバーに入れてもらえたみたいで表情が柔らかかった。

 

「んー……、そんじゃ教会の周りぐるっと回って帰るか」

 

「了解。さっさと行きましょう」

 

 左奥の突き当たりまで来た俺たちはそのままUターン。教会の方に向かって戻り出す。

 なんかこう、メリーを元気づけられるものとかないのかな? むむむ、と頭を捻って考えてみたが初恋ジュースしか浮かばなかった。いや、確かに好きだけども。

 あれ、そういえば最近エントランスで飲んでる姿見かけてないような……? もしかしたら部屋で飲んでるのかもしれない。一日に十本飲みたいとか言うようなやつだし。

 教会が見える位置までくれば今日も夕日がきれいに輝いている。自然万歳。

 

「はあ、憂鬱」

 

「なんで今日に限ってそんなにネガティブなんだよ……」

 

「最近夢の内容が酷いのよ。夢で疲れるなんて思わなかったわ」

 

「そういえば俺も殺されてたっけ」

 

 ひょこっと教会の横に開けられた穴から教会の中を覗く。異常なし。再び出て時計回りに教会を添って歩き出す。

 と、角を曲がったところで向こうから同じように角を曲がってくる人影が見えた。……ん? あの姿って、見たことあるような気がするんだけど……気のせいじゃないな。

 ちらりと横を見て目を丸くして驚いているメリーの姿を確認する。

 

「メリーって、双子?」

 

「馬鹿言わないで……家族なんてこの世にもういないわ」

 

「んじゃ、あれ誰だよ」

 

 こちらに向かって歩いてくるその人は、メリーとまったく一緒の容姿だった。

 ただ容姿が一緒なだけじゃない。身に着けている服や眼鏡、果てには神機も一緒だ。

 極東支部にメリーと一緒の神機使いがいるなんて聞いていない。じゃあ誰だあれは。

 

「ん? あら、感動のご対面って感じねー。って、間抜け面しないでよ」

 

「えーっと……どちら様?」

 

「え? メリー・バーテンだけど?」

 

 なんでもないようにきょとんとした表情で目の前のメリーは告げる。

 一方の俺とメリーはというとまったく展開について行けず混乱するばかりだ。

 

「それじゃ、さよなら」

 

「は――」

 

 腹を蹴られた。理解した時にはすでに身体は後方に吹っ飛んでいた。

 

「がっ!?」

 

「夏!?」

 

 地面に強く身体が叩き付けられて肺の中の空気が一気に口から吐き出される。

 ぐ、おぉぉ……!! 手加減とかそんなもの一切感じられない。俺の内臓大丈夫かな。

 左手で腹を押さえ右手で神機を持って立ち上がろうとするも、上手く力が入らない。

 腹の痛みが思考を邪魔してきて腹立たしい。

 

「何よそ見してんのよぉ!」

 

「っ、メリー避けろ!!」

 

 メリーの背後、メリーが剣形態の神機を振りかぶっているのが見えてたまらず叫ぶ。

 俺の声で我に返ったのかメリーは横っ飛びでその攻撃を避け、反射するように自らの神機を振るい……って、えぇ!? 駄目だよ!? 何そんなに簡単に人を傷付けようとしてんの!? 向こうもだけど!

 反撃されるのは想定外だったのか、メリーは少し目を見開くと、しかし不敵に笑って左手を盾にするように突き出す。神機あるのに盾使わないの!? いや、使わなくてもいい、って感じか?

 案の定メリーの左腕が斬り飛ばされ、地面に落ちる。うわああああ、何してくれてんだ!!

 

「やるじゃないの。失敗作の癖に」

 

「失敗、作? あんた何言って……」

 

「知ってるくせにとぼけないでよ! 失敗作のくせに生意気ね!」

 

「な、何言ってんだお前ら?」

 

 どうにも俺だけが会話に置いて行かれているような気がして割り込む。

 ギロリとメリーが俺を睨み付けてきて思わず萎縮する。そ、そっくりだ……。

 

「知らないの? こいつは博士の失敗作。あたしはそれを改良して作られた二号ってとこ」

 

「……人造人間?」

 

「面白いこと言うわね! これは人間ベースよ。あたしはアラガミオンリーだけど」

 

 メリーは茫然としているようで地面に尻餅をついて動かない。現にメリーが近くにいてポンポンと頭を叩いても目立った反応を示さない。お、おいおい……大丈夫かあいつ。

 

「ベースとかオンリーって、何の話だよ?」

 

「これは博士の神機でバケモノになった。あたしは元からバケモノ。って言えば満足?」

 

 前にメリーが何回言っても自分をバケモノと言ってやめなかったことを思いだす。

 あの時は神機使いなんてみんなアラガミみたいなもんだ、と言っても頑なに否定していたんだったか。メリーの言うバケモノとはそれを指しているのだろうか。

 

「じゃあ、お前はアラガミってことでいいんだな」

 

「そうね。でもこれを壊しちゃえばあたしは人間になれるの! 博士が言ってたもの!」

 

 笑顔でそう言い切ったメリーに俺は突進していた。

 背中に走る何とも言えない寒気を強引に無視してアイテムポーチに手を突っ込む。

 どんなことをしたっていい。とにかく逃げなければならい。こいつは危険だ。

 更に言ってしまえばメリーの体調が悪化している。恐らく俺たちが追っている事件の犯人はこいつで間違いないし、アラガミならこのまま討伐すべきだろう。

 だが今の状況では無理だ。犠牲者の中には神機使いもいる。実力は未知数だし――たぶん、その容姿も利用したのだろうが――何にせよ狙われているメリー守りながら戦う自信がない。

 今は一度引いて帰投するのが一番だ。

 

「さっきのお返しだ!!」

 

 ポーチからお目当てのアイテムを引き出してそのカプセルをメリーに投げつけて強引に割り、腹を蹴り飛ばす。あんまり蹴り飛ばせてない! 俺の力不足め!!

 メリーから距離を取っているうちにさっさとメリーを担いでしまうと俺とメリーにアイテムを一つずつ使用。持てる限りのスタミナを使って全力で走り出す。

 普段鍛えられてるからな……! メリーほどじゃないけど足には自信あるんだよ。

 

「おい、聞こえるか、メリー」

 

「……」

 

「わー返事ない……。こりゃ帰投を急いだほうが良いな」

 

 息も少し荒くなってきてるし嗚咽も……。えっ、まさか泣いてるのメリー。

 さっきまで割といつも通りだったのに、そんなにさっきのやつが衝撃だったのか?

 疑問は残るものの、とりあえず余計な考えを頭の隅にやってその分足に集中を回した。

 

 

――――――――――

 

 

 ギリ、と苛立つ少女は周りに浮いているザイゴートを一太刀で斬り落とす。

 先程夏が使用したアイテムのおかげで、少女の周りには小型アラガミが湧いていた。

 その手に握り締められている神機にその苛立ちを乗せて、少女はただ処理する。

 とてもじゃないが夏たちを追える余裕はなく、終わった頃には少女は諦めていた。

 

「ムッカつく……!!」

 

『あーあー、逃がしちゃって。駄目な子だなあ、君は』

 

「博士! あいつムカつく!! あたしより劣ってる癖に!!」

 

『ちょ、ちょっと落ち着こうかー。俺の耳がキーンってなってるから……』

 

 少女の右耳には黒くて丸いものが着けられている。所謂、通信機というものだ。どうやらそれを同じものがこの場にはいない“博士”にもついているようで少々参ったような声を上げた。

 だが少女の怒りは収まらない。写真でしか見たことがない相手をようやく見つけたのに逃がしたのだ。しかも、失敗作より更に弱いと思い込んでいた旧型によって、だ。

 メリーの姿をしていてもそのプライドはメリーよりも高いらしい。完全に見下しているその態度が玉に傷であることは誰がどう見ても明白だった。

 

『自分の失敗を他のせいにするのはよくないねえ』

 

「だって! もうちょっとだったのに!」

 

『煩いなあ。……お前がしくじっただけだろ、認めろよ』

 

 肝が冷えるような低音のドスが聞いた声。

 サッと少女の顔が青くなり、言い訳がピタリとやんだ。

 暫く気まずい空気が流れ、急に男は明るい声に変わる。

 

『何にせよ、次はないと思ってね?』

 

「は、い。博士」

 

『うん、いい返事! じゃあ、またねー』

 

 プツッと通信の切れる音が少女の耳の奥に響いた。

 緊張していた空気も和らぎ、ふうとため息が吐かれる。

 ぼんやりと少女が空を見上げると、夕日も既に沈みかけていて辺りが暗くなり始めている。

 少しの間それを眺めてから、少女は地面に視線を落とす。影のせいで表情は不気味だ。

 

「絶対、殺してやる……!!」

 

 少女は鬼の形相で地面を睨み付けた。

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