GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
俺は今、何を見ているんだろう。……あ、そうか、メリーか。うん。
頭がぼんやりしているのは不眠のせいだろうか。一条さんにも心配かけてそうだ。
俺は病室に来ている。
あの後メリーは異様なまでに取り乱してしまって、すぐに治療が必要になった。
一条さん曰く「ここまで情緒不安定になったのは初めて」だそうだ。
ほんわかしている一条さんには珍しく焦った様子で敬語口調は消え失せていた。
「……うん、黙ってた方が可愛いな」
ちなみにメリーは鎮静剤の効果により眠っている。
どう手を尽くしても暴れるばかりだったらしく仕方なかったらしい。
お邪魔虫である俺はその時中に入れてもらえなかったけど悲鳴が痛かった。
自分は悪くない、関係がない、殺してなんかいない……。まあ、俺には分からない。
結局のところ俺はこいつのことを何も知らないんだなと思い知らされた。
「早く良くなれよー。お前いないと調子狂うから」
静かに寝息を立てるメリーは、どこか辛そうに見えた。
――――――――――
あたしはいつも逃げてばかりだ。事実から、自分から、何もかも。
あたしの両親は神機使いだった、そして任務中に殉職した。
……外部居住区の人を守っての死と聞いているから、きっと名誉ある死なのだろう。
外部居住区でそれなりに有名人だった両親の死をみんなは悼んでくれた。
親戚がいない私は、元々親が家にいないので近くの孤児院に厄介になっていたあたしは必然的にそこで生活することになった。
それなりに慣れ親しんでもいたし、周りも優しい人ばかり。比較的アラガミ孤児としては、あたしは恵まれていたと言うべきだろう。
だがこの世の中、食い扶持を稼ぐということは難しい。
大の大人、それも男でさえ時々出る工場の募集に群がるのだ。小娘がどうして稼げよう。
あたしはその孤児院で働くことで衣食住を手に入れていた。
孤児院にしては迷惑だったかもしれないと今でも思っている。
「――すみません。ここに、メリー・バーテンという子がいませんか?」
人生が狂ったのは、あたしが十七になった年だった。
最早日課となった子供戦争(つまりはじゃれ合い)をしているとき、それはきた。
やってきたのは男性、どうやらフェンリルの研究員の一人らしく礼儀正しかった。
当時井の中の蛙でしかなかったあたしは情報や知識などに乏しくフェンリルという物も両親が働いていたところ、としか認識していなかった。
「あたしがメリーだけど、何か用かしら」
少しであるけれど、あたしは男に興味を持った。
その時あたしの繋がりはこの孤児院の中くらいだ。あたしを訪ねてくる人はいない。
初めての来訪者が研究員とはなんとも奇妙だったけど同時に面白くもあった。
「君は、力が欲しくはないか?」
「え? そりゃ、貰えるものなら貰っておきたいけど」
「おめでとう! 君は新型神機の適合者だ!」
「……はい?」
頬を嫌な汗が伝ったのを今でも覚えている。
何しろ両親は神機使い。適合試験の内容も今から思えば多少オーバーであるけれど聞いていたのだ。子供ながらにその話は一種のトラウマになっていた。
適合、つまりは配給を受けているあたしは強制的に行かなければならない。今よりいい生活を貰う前に、最悪の試験が待っている。それはかなりの恐怖だ。
「いやー、親に続いて神機使いかー。君は偏食因子を受け継いでいるのかもね」
「はあ……」
「世にはゴッドイーターチルドレン、なんて言葉があるし。君はそれなのかなー」
ぺらぺらと饒舌に話す研究員にあたしドン引き。周りの子、怖くて泣く。
あたしたちの様子に気付いたらしく慌てて弁明をする研究員は面白かった。
とりあえず話がこんがらがりそうなので子供たちを中に入れ二人きりで話すことにした。あたしだって知識があるわけじゃないけど、あの子たちはもっとわからないだろうから。
「それで、あたしは行かなきゃいけないのよね」
「配給を受けてるからね。こちらとしては申し訳ないけれど」
「構わないわよ。ここにもう迷惑かけてらんないし、仕送りもできるし」
あたしは孤児院に長く居すぎた。子供たちに慕われてはいたが、それでもどこか心の隅で気まずさを感じていたのだ。この報せはあたしにとっては吉報のはずだった。
……そう、“はず”だった。
「ついた! ここが俺のラボ、ザ・研究室!」
「テンション高いわね……」
「そりゃあもうね! あ、神機の調整してくるから、ここで待ってて」
そう言って研究員はあたしをそこにおいて奥の部屋に入っていった。
辺りを見回すとどこもかしこも資料の山でほとんど床が見えていない。研究員は散らかすのが好きなのか、それとも散らかすのが仕事なのか本気で悩んだ。
その中でも小ぢんまりとした机の上はそれなりに資料が綺麗に揃えられて置いてある。恐らくそれは成功したものなど価値のある資料で、乱雑なものは失敗例なのだろう。
足元に落ちていた一枚を拾ってみるが、どうにも難しくて呑み込めそうにない。読み書きは親と孤児院で教わったので問題はないが、どうも専門用語が多すぎる。
「お待たせ。……ああ、見ても分からないだろう?」
「ええ、まったく理解できそうにないわ」
「そうだろうね。まあそんなものだと思うよ」
自分の分からない技術が今も昔も世界を支えているのだな、ということしか分からない。研究者は人の分からないことを調べるのが仕事だがあたしはそうじゃない。よってその考えを忘れることにする。
ぽいと資料を捨てたあたしを研究員は苦笑いして見ていた。そして奥に行くよう促される。
「これが神機だ。バケモノを……、アラガミを駆逐するための武器だ」
「……この台は?」
「これは神機に適合するための装置だ」
もっとド派手な大掛かりな装置を想像していただけに少し拍子抜けだ。
つんと鼻に鉄錆のような臭いが入ってきて、思わず覆いたくなる。不衛生だ。
指示された場所に手を置けば、すぐに蓋をするように手が固定された。
鈍い痛みが手首を通して全体に伝わり、奥歯を噛み締めてぐっと悲鳴を押し殺す。
じわりじわりと身体を侵食される感覚と共に、ふと先程の臭いが思い起こされた。
(あれは……血?)
一度意識してしまえば、その意識はなかなか離れない。
更に精神を持っていかれそうになる程強い痛みが襲いかかる。
これは異常だ、普通ではないぞと支配されつつある意識の片隅が訴える。
「――おや、まだ粘るのか」
遠のきそうになる意識を必死に留めていると、妙にはっきりと男の声が聞こえた。
研究員の声、それが分かると次第に怒りが心を支配し始める。
彼はこうなることを知っていたのだ。そしてそうなるよう仕組んだのだ。
敵だ、悪だ、倒さなければならない。不穏な言葉が脳内を飛び交う。
「全く早く喰われておくれよ。君は礎とならなければならないのだから」
「なん、で……!! そんな事故、もう起きる可能性、ほぼないはず……!」
「なんで? 喰われるようにしてるんだから、喰われてしかるべきだろ」
冷たい視線を受けても、もはやそんなことは気にしなかった。
どうしてあたしなのだ。どうして喰われねばならないのだ。
理不尽に押し付けられた現実にくつくつと怒りが音を立てて湧き上がる。
「俺が造ったこの神機はな、世界に一つしかない、人を喰らって成長する神機なんだよ」
「非人道的よ……! 仮にもフェンリル局員が、そんなもの……」
「こいつは極一部の秘密なのさ。これが極限まで成長すれば、俺は一躍時の人だ」
「そんなの、上手くいきっこない!!」
「どうだかね。実際、こいつは既に数人喰ってんだ。てめえも早く喰われろ」
救いようのない人間だ。
世の中には優しい人たちばかりではないことはとうに知っていたはずなのに。
それでもこうなったのはほいほいついていったあたしのせいでもある。
ああ、自分は無力だ。どうしていつもいつも、こうも上手くいかないのだ。
外への怒りは内へと向かい、あたしはただひたすらに“力”を求める。
「アッハハハハ!! 光栄に思えよ? お前は偉大なるこの俺の踏み台になれるのだからなあ!」
「……ふざけるな」
今でも後悔しているのだ。ここで死ぬべきだったと。
痛みが静まり蓋を強引に抉じ開け、じっと神機を見る。
自分の一部であるように思えるのに、しかし関係のないもののようにも見える。
不思議なそれをそっと撫でるとどことなく応えてくれるような気がして。
「ば……馬鹿な!? 適合など、ほぼあり得ない!」
「……そう、あり得ない? なら、教えてあげるわ」
仄暗い狂気が心に灯る。これでもう二度と引き返せないのだ。
振り上げた神機、恐怖に染まる研究員の顔。とても、愉快でならない。
「大丈夫か!? おいっ、しっかりしろ!」
聞こえてきた声にぼんやりと目を開けると、男の顔が映りこんだ。
今では全く思い出せないが、とにかく心配そうに顔を歪めていたような気がする。
「ここ、は……」
「君はここで倒れていたんだ! よかった、意識があって……」
男の顔の後ろに見える天井は、きっとさっきまでいた研究所なのだろう。
ふと顔を横に向けると固まりかけた赤の水溜まりが見えた。
ぱっと男に顔の向きを変えられたせいで見えなかったが、あれは研究員なのだろう。
「見ちゃいけない……これは夢だ……忘れたほうが良い……」
「そう、なの?」
「ああ。忘れろ。二度と、思い出すな」
強い口調を聞くのと同時にまた意識が遠のく。慣れない力に疲れたのだ。
漠然と自分に置かれた状況を理解して、あたしはまた目を瞑った。
「どこで、間違ったんだろう」
神機使いとして活動するようになったあたしの周りに人は寄らなかった。
あたしの持つ不気味な神機のおかげだ。捕喰すれば他とは違うオーラを感じるし、なんなのか。
世界に一つしかない、非人道的な凶器。なんでこんなものに適合してしまったのか。
あの時あたしも喰われてしまえばよかったのに。そうすればこんな思いせずに済んだのに。
どれだけ泣き言を言っても現実は変わらない。それでも思考は止まらないのだ。
「これじゃ、アラガミと変わらない……!」
喰らうことで力を得るなんて、そんなものいらなかったのに。
何なら旧型でも良かった。平凡な何かで良かったの。特別なものなんていらなかった。
それならいっそのこと、死んでしまえばいいのではないだろうか。
そう考えて、何度睡眠薬の瓶を手に取っただろうか。
「誰か来てくれ! またやった!」
それでも眠りを妨げるのはやはりあの人だったのだ。
善意とは時に悪意になりかねないと思う。あたしはもうここにいたくはなかったのに。
いなくなりたい。ずっとずっとそう思っていても、心のどこかであたしはそれを否定していた。
いなくならなきゃ、でもまだ生きていたい。矛盾した考えを押し黙らせた。
「騒がしいわねえ……」
エントランスは、どこの支部でも騒がしいものなのだろう。
どんなところでも大体いる人は決まっているようなものだ。普通いないのはサカキみたいな変人だ。
何が言いたいかと言うと必ずムードメーカーはどこにでも一人はいるということだ。
あたしがいた支部にも飛び切り煩い奴が一人いたのだ。
「またユータが上官サマと衝突しやがったぜ」
「うっせ! というか俺は優太だ!」
「発音しにくいんだからユータでいいだろってー」
あたしはあまり話したことはなかったけどよく任務で同行することはあった。
彼はこの支部初の新型だった。それ故にあたしはこの煩いのに付き合う羽目になった。
今から思えば気を遣ってくれたのだろうが彼はよくあたしに話しかけた。あたしは無視したけど。
「おめえ無愛想すぎるだろ、もうちょっと笑えよ」
「……」
「お決まりのだんまりかよ。へえへえ、俺も黙りゃあいいんだろー」
とにかく、喋る。無駄口が多い。一見隙だらけに見えるのに、実力はある。
全くもって理解できなかった。優しさはイコールとして強さにつながることはできないのだ。
だとするならば優太には才能があったということだろう。そこだけは認めていた。
「今日の任務なんだっけ? いや、出先に来て言う言葉じゃねえけど」
「シユウ」
「んじゃ、とっとと終わらせて帰ろうぜー」
バスターを気怠そうに担ぎ前を歩く優太はそれなりに頼もしくはあった。
しかしまあ決まっている日常なんてものはなくて、いつかは消えてしまうものだ。
簡単に言ってしまえば、彼は死んだ。あたしはその時別の任務に出ていて同行はしていなかった。
「人なんてどうせ死ぬ生き物」
そんな当たり前のことは分かり切っていたはずだった。
神機使いとして優秀だった優太は、他の神機使いを撤退させるため殿を申し出たそうだ。
それで死んでしまうんだから、ツイていなかったというべきだろう。
優太の死は皆から悲しまれそして英雄視された。誇り高い神機使いがいた、と。
くだらない話だ。それでもあたしも彼の死は悲しいと思えたのだ。
「そんな……どうして……!」
悲しみの喪失を感じたのは、そのすぐ後のことだった。
何故、と疑うよりも先に神機、という言葉が浮かんだときは絶望すら感じた。
そもそもあたしがなるべく人を避けるようにしたのは人を喰らいたいという喰欲を抑えるためだ。
神機に振り回されてばかりで当初は任務すら受けられず訓練場に籠りきりだったのを覚えている。
バーストも神機の暴走を抑えるためあまり使うことがなかった。
それが不満だったのだろうか。神機はあたしの悲しみを喰らったのだ。
人を悼むことすら、あたしには許されていなかった。
その日以来、あたしは感情を閉ざすことにした。
これ以上は危険すぎるのだ。あたし一人の犠牲で済むのなら喜んで犠牲になろう。
黙々と任務をこなすあたしを周りは機械であると呼び始めた。まあ渾名なんてどうでもいい。
「君がメリー・バーテンか」
「……誰、あんた」
極東支部支部長、ヨハネス・フォン・シックザール。彼はそう名乗った。
どうやらここの支部長と話をつけて、私を異動させることになったらしい。
何とも勝手な話だがあたしは構わなかった。場所が変わろうとやることは変わらない。
向こうでは特務を任される。任務での神機のデータを取る。この二つが目的らしい。
要するに駒になれ、ということだ。それもオプションとして加わっただけに過ぎないだろう。
アラガミを倒す、それに変わりはないんだから。
「あたしが行かなきゃならない理由は」
「ない。しかし激戦区である極東は優秀な人材を求めている」
「あたしは優秀じゃない。優秀なのは……」
「優秀かそうでないかは君の実績が物語っている」
何も変わらないはずなのに、あたしは何かを期待していた。
新天地、その言葉に少し浮かれていたのかもしれないし、事実そうだったのかもしれない。
「面白いもの。そこに行く代わりに、面白いものが見たい」
「君の思う面白いもの、とはなんだね」
「分からない。あたしの知らないもの」
ちょっとした好奇心が顔を出していた。
思えばこの時からあたしは感情を開き始めていたんだと思う。
何かを予感していた、わけではないけれど。何かを求めていたのだろう。
「……本日からここでお世話になります。メリー・バーテンです。よろしくお願いいたします」
極東支部で最初に会った神機使いは旧型の男だった。
茶髪、蒼の目、ヘッドフォン(後に耳あてと知るのだが)。……なんだかちゃらそうだった。
上官である人物、ツバキを恐れながらも会話しこちらを窺う彼は少し面白かった。
「うわ、ひでえ。あ、俺は日出 夏。俺も同じ十八だ。よろしく」
そう名乗った男もそうだが、極東支部は暖かい場所だった。
温かく懐かしい場所。それはどこかあの孤児院を思い出すようで気付けば普通に接していた。
なんというか……ここにいる人たちはあの子供たちみたいに純粋に思えたのだ。
脆くなっていた心は、そう言った優しさを渇望していたのかもしれない。
いつの間にか、その温かさが当たり前になってしまっていた。
それと同時にあたしはどこかで恐れていたのだ。
自分の神機の秘密が伝わってしまった時、彼らは自分から離れていってしまうんじゃないかと。
いつかは話さなければならない。分かっていてもどうしてもその勇気が出なかった。
だからいつもその質問から逃げ、話すことが出来なかった。
あたしの弱さを受け入れてくれるかどうかが不安でならなかったのだ。
――――――――――
白い天井が見える。……ああ、病室か。
任務に行ってからの記憶が曖昧だ。自分そっくりの何かを見たのは覚えているけれど。
とにかく起き上がろう、そう思って何かがあたしの身体に乗っていることに気付く。
「ぐぅ……」
「……何寝てんのよ、この馬鹿」
ずっとここにいたのだろうか。睡魔に負けて椅子に座りながらもこちらに身体を預けた夏がいた。
しょうがないやつだ、と心の中で笑いながら容赦なく頭をはたく。
「てえっ!? ……あ、メリー! 起きたんだ!」
「今ね」
「ごめんな。俺がもうちょっと早く気付いてあげたら……」
「あんたが謝ることじゃないでしょ、馬鹿」
「なんで貶されたの俺」
いつもみたいに大きな声でツッコまないのは気遣ってくれているのだろうか。
眉を顰めながら普通の音量でツッコむ夏にいつも通りを感じて、ちょっと笑う。
怪訝そうに首を傾げる夏はそれだけで面白いと思える。
「安心しろよな。あいつは俺が倒してやるから」
「あんたじゃ頼りないわよ」
「酷い。これでもパートナーだぞ? 信用しろよ」
「何を信用しろと」
「ねえ、態とだよね? 態とだと言ってよ」
ふと今朝見た夢を思い出す。やっぱり、あの中での夏は夏らしくなかった。
「……夏。遅くなったけど、あたしの話を聞かせてあげるわ」
「……おう」
隠す必要なんてどこにもありはしなかった。あたしは全てを夏に打ち明けた。
夏は夢の中の夏以上にらしくなかった。真剣に聞き逃さないようにあたしの話を聞いてくれた。
時折頷いたりしてくれたくらいで口をはさむことすらない。将来いいカウンセラーになれそうだ。
「そうか……。分かった。話してくれて、ありがとうな」
「いいのよ、いずれ話そうと思ってたし、大したことないわ」
夏はあたしが言っていたことをまとめようとしているのか少し首を傾げている。
足りない知恵を必死に絞ってもいるんだろう。黙ってそれを見届けることにする。
「うーんと、つまり、失敗作はメリーじゃなくてあの神機ってことだな!」
「……は?」
それは、ちょっと違うんじゃないだろうか。
あいつは神機を上手く扱わない、その機能を生かそうとしないあたしのことを言ったはずだ。
いい方向に捉えようと態と言っているのか、それとも天然なのか。夏の頭を本気で疑う。
「うん、なら簡単だ! 俺がメリーは強いんだぞって思い知らせればいい」
「ちょ、ちょっと、何言ってんの? というかあんたがどうやって?」
「ん? 俺はメリーに鍛えられたからな。俺が負かせば、メリーが勝ったことになる!」
「無茶苦茶なこと言わないでよ……」
「へへっ、俺は頭が回らないからな。自分が正しいって思ったもの、信じてみたいんだ」
そこは自信を持って言うところじゃない。
けど、自分が正しいと思ったものを信じてみたい、か……。
あたしも自分でケリを付けないといけないんだと思う。
「あ、メリーさん! もう鎮静剤はいらなさそうですね」
「あら、一条。どうしたの、泣きそうな顔して。殴られたの?」
「……いつも通りのメリーさんですね! 私、安心しました!」
「ねえ聞いてる? 気持ち悪いわよ?」
やっぱりここは暖かい。だから、ここを守りたい。
旧市街地に潜むあの子のことを思い、あたしはそっと思考を巡らせた。