GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
「よお、ゼルダ」
「あ……、夏さん」
神機格納庫にて、第一部隊隊長さんはっけーん。どうやら一人のようだ。
まあやろうと思っていることは一緒、っていうところなんだろうか。
「昨日はすごかったみたいだな、お疲れさん」
「私は大したことをしてませんよ」
「ブレンダンさんは連れ帰るわ、タツミさんたち助けるわ……。ヒーローだろ」
「言い過ぎですよ」
照れくさそうにそう微笑むゼルダは可愛らしい。
こいつは本当にすごいよな。新人だった頃には想像もつかないことをいくつもいくつも。
大した新型がこの極東支部を救ってくれてるって事か。それで無理しちゃ本末転倒だけど。
「ちゃんと仲間も頼ったらどうだ?」
「夏さんに言われたくありませんよ」
「ははっ、本当になあ。全くだよ」
揃いに揃って馬鹿、ってことなのかもな。
ただ馬鹿にだって出来ることはある。そこは理解して欲しいもんだ。
「そんじゃ、健闘を祈ってるぜ」
「夏さんも気を付けてくださいね」
人知れず俺たちは互いを激励した。
――――――――――
贖罪の街近くにて。
もう少しで目的地かな、と思いながら車を走らせている。
勿論俺は今一人である。メリーにはもう少し安静にしておいてほしいからな。
あ、ゼルダはエイジスに行ったみたいだ。強敵なんだろうな。
「夏……」
「ひぃ!? びっくりしたあ!? なんでいるの!?」
後部座席から亡霊みたいな女の声が聞こえてきた。ゾゾゾッと背中に寒気が走り、思わずハンドルを持つ手が揺れ車が蛇行する。慌てて戻し、建物への衝突を回避。
ミラーで後部座席を確認すれば、病室にいるはずのメリーがいた。全然気付かなかったんだけどその空気スキルはどういうことなのか説明願います。
ちゃっかり神機も持ってきてるみたいだしやる気満々だ!? 計画総崩れだ!?
「安静にしとけよ!? 一条さんはどうしたのさ!」
「あたしが持ってる全ての飴を献上したわ」
「飴で説得される医者ってどうなの」
一条さん、ちょっと安過ぎやしませんか。
それでも脳裏にメリーの要求と飴の二つで心が揺れている一条さんが簡単に浮かぶから不思議だ。一条さんに対する認識っていったい……。
「お前、車で待機な」
「やだ。一緒に行く」
「こんの駄々っ子!」
面倒くせええええ、と頭を抱えていると目的としていた場所についてしまった。
メリーは何を言ってもついてくる気のようだ。こんなことになるなら縛りつけてくればよかった。
軽い頭痛を感じながらも神機を持って車から降り、もどきの捜索を開始する。
辺りをしきりに気にしながらも俺と同じように車からメリーが降りてきた。
「不安なら待ってればいいだろ?」
「嫌よ。あたしは守られるタイプじゃないもの」
「へーへー、そうですか」
ブラブラと捜索を続けていれば、もどきにはすぐに会うことが出来た。
広い空き地でこちらを睨み付けているのが見えたからだ。おぉう、殺気が。
「よくのこのこやってこれたわねえ? 神経を疑うわ」
「その方がお前にとっては都合がいいだろ?」
「そうね。ま、来なかったら乗り込もうと思ってたわ」
すごい笑顔でとんでもないこと言いやがった。
アナグラ内にそう簡単に入れるとは思えないけど……ツテでもいるのか?
とにかくどう倒してくれようか。コアを破壊するのが一番簡単なんだけど。
……回収? 馬鹿言え、脅威の排除の方が優先されるべきことだろ?
「大丈夫よ、あんたたちはあたしが殺してあげるから」
「させない。そんなこと、あたしがさせない!」
「おまっ、え、馬鹿!」
抑えきれなくなったのかメリーがもどきに向かって突進を仕掛けた。
そのまま始まる戦闘。……ああー、最悪の事態が発生しちゃったよ。
どっちが本物か分からない。これ、駄目だ。だから来てほしくなかったんだ。
俺は一体右と左、どっちのメリーを援護すればいいんですか!?
マジックのトランプみたいに二人がすごい勢いで移動するからもう分からない。
「おい、メリー! コートの裾斬れ!」
「「命令するな!」」
「ハモるな! 面倒くさいなあもう!」
だけども俺の言った意味が分かったのか、素直にコートの裾を斬るメリー。
右は……コート修復した!? コートも身体の一部なのか、あいつは。
左は……斬れたな。って、右も同じところ自分で斬ったああああ!?
そしてまた分からなくなる。お前ら動きすぎ、止まれ。
「ああ、もうっ! 撤退するぞ! 車まで戻る!」
「今こいつを逃すわけにはいかない!」
「ここで倒さなくちゃいけないの!」
「双子か!!」
俺だってこんな時にツッコみをしたいわけじゃないんだよ。
でもツッコミをしなくちゃいけない気がするんだよ……これが宿命と言う奴か。
っと、ボケまでする必要はないんだ、とにかく俺はどちらかの手助けをしなくちゃいけない。
でもどうやって? スタングレネードは違うし、でも直接攻撃怖いし。
そうやっておろおろとしているうちに、勝負にも段々と違いがでてきた。
余裕そうなメリーと、少し青褪めた様子のメリー。どちらもメリーでややこしい。
ふむ、つまりこれから味方を当てろと。間違えたら大変なことになるな。
いつまでも傍観ばかりしているのは嫌だ。旧型は旧型なりの仕事せにゃならん!
「どっちが本物だ!!」
「「……」」
「あっ、無視ですかそうですか」
どうやらあくまでも自分で判断しろということらしい。
本物どっちだゲームって、現実に起こると相当プレッシャー来るね……。
これ選ばないって選択肢はないですか! ごめんなさい真面目にやります!
メリーがメリーを弾き飛ばし、弾き飛ばされたメリーは体勢を立て直してすかさず鍔迫り合いへと持ち込む。ぎりぎりと絶妙に保たれたとき弾き飛ばされた方がインパルスエッジを……めんどい!!
そんなことが何合か続いて、また鍔迫り合いに戻ってきた。
左が余裕なメリーで、右が余裕のないメリー。これどうやって見分けつければいいの。
「夏、あんたそのままそこにいなさい。あたしが終わらせる」
「今すぐ帰って!! それでサカキ博士と対策立てて!」
「お前ら俺にどうしろと」
俺の身体は二つはないんですよ。どっちかの意見しか聞き入れることはできないんですよ。
……まあ、これでなんとなくどっちが本物かは分かったような気がする。
俺は決めちゃえばさっさと行動を起こしたいほうだ。だから実行しよう。
神機を構えて二人のメリーを見据える。間違えるなんてミスは、起こさない。
「やっぱり、夏はあたしの味方ね!」
「どうして!? 帰ってって、言ったじゃない!」
駆けだした俺を見て嬉しそうに言う左と、愕然とする右。
こうも反応が違うと少し面白いかもしれない。違いが分かった今、俺も結構心に余裕が持てたんだな、となんとなく思った。
ああ、でも、それよりも面白いものがあるとしたら。
「なんで笑ってるんだよ、ばーか」
俺の生涯で飛び切りの嘲笑を顔に張り付けて、左のメリーの神機のコアを貫く。
呆然とする二人のメリーを見て更に笑えてくる。俺って案外悪役に向いてる?
前会った時にもどきは自分はアラガミだと言っていた。つまり、神機もセットで。
神機自体にはコアがついている。二つ以上コアを有しているアラガミは、今のところ俺は知らない。
メリーが神機によりバケモノになったなら、もどきの本体は神機なのではないか。俺はそう推測して神器のコアに神機の刃を突き立てたのだ。
かなーり危険な賭けだったけど、結果的にビンゴだったようだ。もどきの身体が力無く地面に仰向きに倒れる。
それを見たメリーもふらっとその場に尻餅をついた。
「ど……して……」
「お前、見てろって言ったのに、なんで加勢したら喜ぶんだよ、矛盾してるぞ」
「……じゃあ突進するまでどっちか、分からなかったの?」
「いや? 泣いてる方がメリーだと思ってた」
「泣いてないから!!」
「まあ、男の勘ってやつだな!」
あるぇー? ネタバラししたら何故か本物からすごく怒られたよ? おかしいな。
どうしよう、土下座でもすれば許してくれるかな、と自尊心を投げ捨てているともどきが急にクスクスと笑いだした。
「結局、なれなかったのね。……記憶を貰った人形じゃ、駄目なのね」
「お前はお前だったんだよ。でもメリーじゃない」
「ふふっ、でも私、欲張りだから。アラガミだから」
何もかもがどうでも良くなったのだろうか。もどきの一人称が私に変わった。
どことなく雰囲気も優しくなったように感じるのは殺気をあてられることがなくなったからだろうと思う。記憶を貰ったことで、こいつ自身も限りなくメリーに近くはなったかもしれない。
それでも記憶があったとしても、それはまた別人なのだ。その人になることはできない。
「わたしね、いいこにしてたんだよ、がんばってたんだよ」
「そうだろうなあ、あんなに必死に殺しに来てたからな」
「なんであんたは敵と普通に会話をしてるのよ」
「こいつはもう襲ってくる力もないよ。霧散し始めてるし」
人を喰らったことで言葉を覚えたのだろうが、元の精神はそれなりに低いようだ。
喋り方もゆっくりとしたあどけないものになってきて、アナグラに時々くる子供たちのことを思いだす。
サラサラと神機、足、と霧散し始めた少女に恐怖の色は見えない。
「はかせのいいつけきいて、ひとたべて、がくしゅうして。たのしかったよ」
「お前は生まれてくるところを間違えちゃったんだな」
「……ちょっと待って、博士って、誰?」
バッと身を乗り出して少女の顔を覗き込むメリー。
メリーの様子を見てきょとんとした少女は「しらないの?」と不思議そうにしている。
「はかせははかせなんだよ。わたしのはかせなんだよ」
「あたしの神機を作ったやつは死んだわ! この世にいない!」
「はかせしんでない! いきてる!」
「だ、だって、すごい量の、出血も、見て」
困惑してまたパニックになりそうになっているメリーを宥める。
まだまだ精神は安定していないようだ、帰ったらたっぷり叱ってもらおう。
そんな俺たちを置いて、少女はぼーっと空を見上げた。
「はかせのみみ、おいしかったなあ、またたべたかったなあ」
「耳!?」
「はかせがくれたの。またあうやくそくって」
その博士ってやつ、躊躇なく耳を切断したんだろうか。
もしその話が本当ならその博士ってやつは非常識で同じ人間とは考えられない。
いや、元々こいつを作って人を襲わせるようなやつなんだし、常識なんてないか。
そんなやつが俺の近くにいるって考えたら……なんだか寒気がしてきた。
「こうかいはないよ、たのしかった」
「お前……」
「そうだなあ、つぎはきみたちのそばにいたいなあ……」
記憶の中の君たちは、楽しそうだったから。
そう言って俺に笑顔を向けてきた少女は黒い霧となって空に溶けた。
完全に霧散し切ったのか、もうどこにも少女はいない。
「……終わったなー」
「そうね、終わったわね」
「帰ったらお前、ツバキさんから説教な」
「断固押して拒否する」
「うるせえ、お前は要安静だったんだ。それくらい我慢しとけ」
とにかく問答無用なのだ。
今回はメリーのせいでややこしくなって疲れたんだからたまには俺に従え。
ということでメリーをおぶってみましたー。重い。
「何してんのよ。歩けるんだから降ろしなさい」
「嫌だ。メリー疲れてるんだろ? たまには休め」
「筋力ないんだから無理しなくていいのよ」
「女に心配されるなんて、俺も終わりかもな」
軽口を叩いてたらメリーに空いていた左手で頭を叩かれた。解せぬ。
全く、いっつもいっつも我儘ばっかりで嫌になっちゃうよなー。
こんな女に嫁の貰い手とかあるんだろうか。まともに接してるの俺くらいだぞ。
いや、こんなことしている時点でまともじゃないか。
「……ありがとう、夏」
「おー? なんか言ったかー?」
「っ、人が珍しくお礼言ったのに!!」
「痛い痛い痛い!! 叩かないで! 蹴らないで! 落とす!!」
「落としたら後でお腹踏んであげるから」
「俺はドMじゃねええええ!!」
「えっ……?」
「ねえ、なんでそんなに不思議そうな声出すんですかメリーさん、ねえ」
「くくっ、あはは、あははは!!」
笑い声も隠そうとしないメリーはご機嫌なようだ。
まあ、こっちのほうがこいつらしいか。そんなことを思って俺は前を向いた。
――――――――――
「あはは、壊れちゃったよ、アレ」
ある部屋で男は馬鹿馬鹿しそうに呟いた。
その男はメリーもどきに「博士」と呼ばれていた人物で、左耳を与えた男だ。
部屋に取り付けられた空調の風が直に当たり髪がサラリと揺れる。隠れていた左耳部分には、念のために未だガーゼがついている。
「ほんっと、……使えないゴミめ」
忌々しげに吐き捨てると、男は手に持っていた無線機を壁に叩きつけて壊す。
男は全ての会話をメリーもどきに取り付けた盗聴機で聞いていたのだ。故に展開が分かり、結末が分かり、苛立っていた。
ただ死ぬなら別に構わない。使えないガラクタなどこっちから願い下げだ。問題は左耳の情報を流したことだ。探されたら即バレるじゃん。面倒そうに男はこぼした。
「ま、ゴミ処理はしなくていいみたいだからいいかな」
何か自分にとっての利を考えたとき、男はそれくらいしか思い付かなかった。それだけ男は不機嫌であった。
「あーあ……、ちゃんと設計図通り作ったのになあ……」
男の視線の先には分厚い書類がある。
そこには何やら難しい計算式や、果てには挿し絵なんかもあった。
「やっぱり、一からアラガミとして作るんじゃなくて、途中で人にくっつけちゃったほうがいいのかな」
言いながら一枚の写真を取り出す。
メリーもどきに見せた、メリー・バーテン本人の写真だ。
それを持っていたナイフでズタズタに切り裂き、ぽいと撒き散らす。
ひらひらと紙吹雪のように舞い落ちる写真だったものを男はぼんやりと見守る。
「はあ、嫌になっちゃうな。ここら辺の人たち、全部殺しちゃおっかな」
つまらげに吐き捨てる男の瞳には冷酷な狂気が宿っている。
そうして持ち上げたナイフを、しかし下ろして懐にしまいなおした。
「今バレてもなあ。こっそり活動してた意味ないし」
ここで暴れては結構な話題になるだろうし、警戒されて上手いように身動きできなくなるだろう。それは男にとって困ることだった。
それに鋭く嗅ぎついてくる輩もいるかもしれない。現に男はたった一人、その心当たりがあった。その人物は男の狂気を知っていて、だが何も口出ししなかったからこそ生かしておいた人物だった。
今はもう、その人物がどうしているかは分からない。男はその人物を捨てたからだ。その人物の現在は少し気になる。だが二度と会うことも関わることも無いだろう。男はそう結論付けてその考えを早々に頭の隅に追いやった。
「これからどうしよっかなー」
近くにあった椅子を引き寄せて座り、男は腕組みをした。
とりあえず、方針は決まった。あとは舞台と役者が足りないだけ。それと時間も必要だ。男の計画は一週間やそこらでできるほど簡単なものではなかった。
「一年。……いや、応用もするから、二年かなあ」
三年、五年、十年、五十年。あ、お爺ちゃんになっちゃう。自分の発言にクスクスと笑ってから、男は新たに写真を二枚取り出した。
白神 ゼルダと日出 夏の二名がそれぞれ写っている写真を男は頭上に掲げる。
笑顔で写真に収まっている二人を見て、自然と男の口角も上がった。
「どっちから先に殺そっかなあ」
やっぱり難しいかなあ。男はそうぼやくと床に捨て、二枚を力強く踏みつけた。
アラガミに喰われて死んでくれないかな、一番自然だし。でも隊長と副隊長がうっかり喰われるとか笑える。
色々と考えながらも、男は足を休めずにグリグリと磨り潰すように動かす。
既に二枚の写真は汚くなってきていた。
「うーん、面倒だから先伸ばしにしちゃおっと」
男はお腹減ったなー、と暢気に呟きながら部屋を後にした。
「――ああ、目的は未だ達せず、か」