GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
今回は明人さんのお話です。コメディあり、シリアスありです。
前にツイッターで名前だけ流したかな?
「まったく、あなたも夏くんと同じく怪我が多いのねえ」
「す、すみません……」
病室にて。夏曰くオネエサンにゼルダは手当てをしてもらっていた。
任務中に左手の甲をざっくり切ってしまったため、その手当てをしてもらっているのだ。
バツが悪そうにオネエサンから視線を外すゼルダにオネエサンは苦笑いをする。
「明人と違って悪いことをしたって自覚があるんだねえ。結構結構」
「……へ?」
思いもよらないところで父の名前が出てきた。
バッと視線をオネエサンに戻したゼルダにびっくりするも、また笑顔に戻るオネエサン。
「こう見ても、ここでは長いのよ?」
「どう見えても?」
「こ・う・見・え・て・も」
「すみませんっ」
威圧感あるオネエサンの笑顔にゼルダは屈した。レディは敵に回してはいけないのだ。
再び普通の笑顔に戻ったオネエサンは懐かしむように目を細める。
「あんたと同じ白い服着ててね。毎回どっかを赤くしてくるんだよ!」
「怪我が多かったんですか?」
「あいつはとびきりさ! 治療するこっちの身にもなってほしいもんだよ」
もしかしたら、お父さんもここに座っていたのかな。
そんなことを思いながらゼルダは自分が座る椅子を撫でた。
――――――――――
「ぐぬぅ、何故バレたし」
病室から出てきた、クラウドブルゾンを羽織った黒髪の男がそう溢す。
彼の左腕、二の腕にはグルグルと丁寧に包帯が巻き付けられていた。
そしてクラウドブルゾンにもざっくりと切れ口があり、その付近は赤に染まっている。
男の名は白神 明人。第一部隊に所属するバスター使いである。
「だからいつも言っているだろう。無茶をするなと」
明人に続く形で病室から出てきた女は毎度のことにため息を吐いた。
女は明人の付添であり、ほぼ毎回病室に来ている明人に呆れていた。
女の名は雨宮 ツバキ。同じく第一部隊に所属するアサルト使いである。
「いいじゃんよ。結果的にヴァジュラは倒せたし」
「死に急ぐなと言っているんだ」
「別に死ぬ気はないぞ? 俺には妻子がいるしな!」
にっこりと笑顔で告げた明人に対し、ツバキは分かっていないと愚痴を溢した。
どんな任務においても明人は予想以上の成果を出し、極東支部内では一躍有名人だ。
しかしそれは明人がどんな小さな任務でも全力で取り組むからなのだ。
明人は任務遂行の為ならばどんな無茶もする。だから怪我が人一倍多かった。
「でもさあ、なんでバレるんだ? 俺はバレないように隠してたのに」
「その服が白だからだ。血の赤は目立つからな。無茶がバレたくなければ変えることだ」
「それは無理な相談だな。俺はこの服に愛を感じている!」
「……愛?」
きょとんとするツバキに対して、明人は渾身のドヤ顔を披露する。
だがどうやら意味が分かっていないらしいと気付き、ぼっと赤面させた。
一応羞恥心は持ち合わせている様である。
「このブルゾンは俺の妻のカラー! つまりジャスティスである!!」
ババーン! という効果音がつきそうなくらいの大声。再びドヤ顔。
一方で目が点になるツバキ。というのも、彼女は明人の妻と会ったことがあるのだ。
外部居住区にある自宅からサボり魔明人を連れ戻すのがツバキの役割でもある。
初めて会った時勘違いもあったが、今では明人の愚痴を互いに溢す仲だ。
「つまり、髪色か? あいつは銀色だったはずだが……」
「だってー、銀色なんてないじゃん。たまたま気に入ったのがこれだったし?」
「おい待て。つまりジャスティスは後から付けた理由か」
「うわああああ!? なんで分かったの!? さては超能力者か、ツバキっ」
「お前が自白したんだ」
「いつ!?」
あたふたと慌てふためく明人に「落ち着け」とツバキが声をかける。
呆れた表情のツバキと違って明人は本気の焦りを浮かべている。
「た、頼むから、家族には言うなよ?」
「ああ、家族にも言ったのか……」
「当たり前だ。……後付けでも、この服は俺のジャスティスであることに変わりないからな」
愛おしそうに呟いてクラウドブルゾンを撫でる明人。
それを見て笑みを漏らしつつ、ツバキは明人をエレベーターに押し込んだ。
「おー、姉上。明人さんも大丈夫っすかー?」
エントランスに着くと、エレベーター近くのソファに座っていた男が二人に手を振る。
男の名は雨宮 リンドウ。ツバキの弟であり、同じく第一部隊所属のロング使いだ。
「俺はピンピンしてるぞ。ありがとな、リンドウ」
「姉と呼ぶなといつも言ってるだろう」
「へいへい」
リンドウの近くに二人は腰を下ろす。途端にグデーっとなる明人。
明人の頭の中はクラウドブルゾンのしみ抜きのことでいっぱいいっぱいだ。
「明人、お前はしばらく休暇を取れ」
「えっ? どうしたんだよ、急に」
「お前は働くときは働くが、働きすぎだ。少しはこっちの心配も理解しろ」
「えぇ? 俺はそんな無茶してないってばー。なあ、リンドウ?」
「怪我はしすぎだと思いますケド」
「そうかあ? ……ああ、そうそう、有給ならとっくに消費しちまったから」
ケラケラとなんでもないことの様に笑う明人にツバキは愕然とする。
いつの間に、と呆然とするが今度は逆に明人がきょとんとする番だった。
「サボりのせいでさ、減らされちゃったんだよー。所謂、ツケ?」
「お前と言う奴は……!!」
「いてててて!! 首! 絞まっ! 助けてリンドウー!」
「いやあ、俺も姉上の逆鱗には触れたくないんで」
「薄情者ーっ!」
ぎゃあぎゃあとエントランスで騒ぐ彼らを、周囲の人間はまたかと苦笑して見ていた。
ムードメーカー兼トラブルメーカーな明人はよくツバキに説教される。それもエントランスで。
そこで明人がくだらない言い訳などをするせいで白熱する。そんなのがここでは日常だ。
ようやっと解放された明人はふう、と息を吐きながらどこかへと歩いていく。
「どうしたんすか? ……また任務なら付き合いますけど」
「いんや、家に帰る!! 恋しくなった!」
「ほう、それを私の目の前で発言するとはいい度胸だな」
「あっ……。が、外部居住区の見回りダヨー?」
「今更遅い!」
「ごめんなさーい!!」
神機使いのその脚力を利用して明人は素早く逃げ去った。恐らく、行先は自室だろう。
疲れた様子でそれを見送ったツバキは再びソファに腰を下ろした。
「まったく、明人も困ったものだ」
「明人さんのアレは態とだと思うぜ、俺は」
「態とであって堪るか。こっちは毎回毎回疲れるんだ」
愚痴を溢す姉を見て、世話焼きだなとリンドウは苦笑いをするのだった。
――――――――――
どーしてこーなった。
現実逃避気味に伸ばし棒を連発してみた。てへ。……おっさんのてへ、とか誰得だ。
一応俺は27だ。そろそろ三十路だ。ママもそろそろ三十路。どんどん色気出てくるぞ。
「慌てるなよ! ……こらそこ、押しあうな! 転倒したら危ないだろ!」
というわけでアラガミが侵入してきたので外部居住区の住民の避難誘導なう。
それにしても壁が脆くなったな。今度また集めに行かないと。
更新したらママに会いに行ってー、今度こそクッキー作ってもらうんだ。
心の中でほかほかとしてるけど、目の前は地獄絵図と言っていい。
逃げ惑う人々の悲鳴が耳に痛い。目を瞑りたくなる気持ちを抑えて足に力を入れる。
「これ借りてきますよーっと」
道端に詰まれていた廃材の中から丈夫そうな太い鉄柱を片手で拾い上げる。
うん、なかなか重い。これくらいなら、足留めには十分だ。同じものを計四本拝借。
ここで携帯電話を起動させる。さっきはツバキのコールが煩くて切ってたんだよなー。
おう……、ツバキからめっちゃ電話かかってきてた。履歴がヤバイ。
「もっしもーし、聞こえるかツバキ」
『明人! 今どこにいる!?』
開口一番それか。最初は「もしもし」が基本だぞ、と言えば「そんな状況か!」と返される。確かにツバキの言う通りかもしれない。
そういえば、俺の家族は無事に避難できただろうか。不意に過った家族の笑顔を、頭を振ることで思考の片隅に追いやった。
無事であればいいけど、今は任務に集中しなけりゃならない。
「うーん、どこだっけ? 逆探知いける?」
『ふざけてる場合か!』
デスヨネー。でもほら、俺ってば“明るい人”って書いて明人だから。
俺の取柄はこれくらいしかない訳で。……そんなこと言ってる場合でもないかー。
目の前に迷子の迷子の子猫ちゃん。いやん、太りすぎ。ごめんな、その肉を削いでやれる武器が今の俺は持ち合わせてないんだよなー。タイミング悪い。
でもまあ、その代わりと言っちゃあなんだけど、時間稼ぎの道具はあるんだ。
「とりあえず、ヴァジュラとエンカウントしちゃったからさ、応援頼むわ」
『はあ!? 明人お前、何する気だ!』
「あはは、俺の口から言わせる? 言わなくても分かるだろー?」
明るく喋ることに勤めながらヴァジュラが放った雷球を素早く躱す。
……ん? あれ? 携帯電話が反応しない……。今ので壊れた!? 嘘っ!?
「正解は、囮でしたー。うーん、正解発表できてないな」
これじゃあ逆探知できない? あ、でも電源は生きてる。
もしかして、俺が通話切っただけか。うわー、ツバキには悪いことしちゃったな。
よいしょ、と声を出して背中に背負っていた鉄柱の一本を右手に持ち、構える。
「そんじゃ暫くお相手願いまーす。前座だって頑張れる!」
人生は気合いとやる気と家族の愛と仲間の絆と……予想以上に多かった!
とにかく守りたいものの為なら人は頑張れる。それは日々の経験で実証済みだ。
くるりと鉄柱を回し脇で抱え込むように持ち直して突進。隙をついて右前脚にぶっ刺す。
「ヴァジュラの串刺しー……はキツいから、脚全部縫いとめてやんよ!」
こういうのは時間が勝負なんだ。さっさと動きを封じなくちゃ他のがとれちまう。
二本目を同じように構えて、俺は突進していった。
ツン、とあまり好ましくない鉄のような臭いが辺りに充満する。
警戒しながらもツバキは速足で外部居住区を駆ける。
馬鹿な同僚が囮をやっているだろうと思われる場所に駆けつけるためだ。
神機使いはオラクル細胞を取り入れることで確かに人間離れした力を得ることが出来る。
しかしアラガミの前では神機を持っていなければ例え神機使いでも無謀に近い。
アラガミに対抗できるのは神機のみ。これが常識となっているからこそだ。
「っ、これは……」
周囲の家が倒壊することによってできた開けた場所でツバキはヴァジュラを見つけた。
ヴァジュラは四肢を鉄柱によって地面に縫いとめられており、身動きは取れない。
と、いうよりも、ヴァジュラは既にその身に深い傷を受けて絶命していた。
コアもろとも破壊されたのであろう。コア摘出の跡はないが、霧散していっている。
「……遅かったな、姉上」
「リンドウ? お前は他の場所に行ったんじゃ……」
「他のとこは終わらせて応援に駆け付けたんだよ」
険しい表情でその場に立つリンドウの側に、シユウと血溜まり。
シユウが無防備なヴァジュラを倒し、そのシユウをリンドウが倒したらしい。
だがそうなってくると、この場にいなくてはならない人物がいないではないか。
ツバキはスッと温度が下がったのを感じた。血溜まりは、シユウのものではない。
シユウのその向こう側。霧散しかけている身体の向こうを覗き込み、ツバキは絶句した。
「俺がきたときには、もう、手遅れだった……」
違う、とツバキは思わず否定したくなる。
クラウドブルゾンは主人の血で真っ赤に染まっており、その肌をも染める勢いだ。
どこか笑っている様に見えるその顔は今にも起き上がって喋り出しそうだ。
白神 明人が、死んだ。
それは家族だけでなく、関わっていた者に少なからず影響を与えた。
――――――――――
自分がこの服を愛用しているのは父が着ていたものと同じだからだ。
ゼルダはそれを思い出し、思わず笑ってしまった。
目の前でオネエサンが不思議そうにゼルダを見ている。
「あ、すみません……。父を思い出しまして」
「そうかい? そういや、明人も同じ服だったっけ。色も同じとは……」
「自分からこの服を選んだんですよ」
「へえ。……それは、明人のことが忘れられないからかい?」
眉を八の字にして様子を覗ってくるオネエサンに対し、ゼルダは頭を振った。
確かにゼルダは、時折父が恋しくなる。それは事実であるし、否定することではない。
だけども、これにはまったく違う理由があるのだ。
「違うんです。この服は、この色は、……私のジャスティスなんです」
「……え?」
オネエサンはゼルダの発言がよく分からなかったのか、首を傾げる。
「分からなくてもいいんです」とゼルダは苦笑いをした。
明人はよく、この服を自慢げに見せてそう口にしていたのだ。
それはゼルダにとって思い出であり、父を目指すための理由でもある。
要するにゼルダは形から入るタイプなのだ。
「なんだか分からないけど、頑張ってね。……はい、終わり」
「ありがとうございました! 任務行ってきます!」
「えぇ? 休んだほうが良いと思うけれど……」
「いえ、父を目指したいので!」
「はあ……?」
そのままゼルダはぺこりとお辞儀をして、去っていった。
オネエサンは「不思議な子だねえ……?」と呆れたように呟く。
「ふわ……。あれ、誰か来てましたー?」
「……一条、あんたも若い子に負けてないで仕事をしなさいな」
「えっ? なんでそんな話になったんですか?」
困惑する一条を他所にオネエサンはどこか嬉しげな様子で奥に引っ込んでいった。