GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
とりあえず活動報告にでも書いておきますので、まずはコメディを楽しんでください。
今回は一条さんがメインのお話ですよ!
いずれこうなるだろうって、皆さんも予想していたのでは?
「な、なんということだ……っ」
男にしては長い、肩にかかるほどの緑髪である一条はかろうじてその一言を絞り出した。
無論、一条にはもっと他にも不平不満を並べ連ねたかったのだが、それらは全て喉で詰まってしまい、音に変わることはなかった。
こんなことがあっていいはずがない。これは夢である。様々な思考が脳裏を過ぎる。だがしかし、現実というものはそんなに易しくはない。無情にもそれは一条を叩きのめす。
普段は冷静で(お菓子が絡むこと以外は)慌てることのない一条は冷や汗を大量に流した。
絶望に打ちのめされた身体はわなわなと小刻みに震え、一条の動揺を表している。
目元には涙が浮かび、目の前の現実を否定するかのように一条の視界を歪ませる。
何故一条はここまで絶望しているのか?
それは至極単純な理由であり、単純であるからこそ一条にとっては問題だったのだ。
世の人はくだらない、と一条を一蹴するかもしれない。女々しい、と一条を罵倒するかもしれない。だとしても、一条にとってこれはどうしても譲れない問題であったのだ。
一条に絶望を与える物、それは床に置かれた正方形の板状の物体である。
その上に一条は乗り、降りて、また乗り、やっぱり降りて、もう一回乗る。
何回も何回も、これは故障であろうと思いやり直しているが、されど数字は変わらない。
「ふ、太った……だと……!!」
冷酷にも事実を捻じ曲げることなく伝える物体――体重計。
乗った者の体重を計測するその機械は、無慈悲にも無機質な数字を羅列した。
――――――――――
「――ということなんです」
俺に相談を持ちかけ、その経緯を力説する一条さんは最後にそう締めくくった。
だが俺としてはポカンと情けなく口を開きっぱなしにするわけしかないわけで。
まあ、なんだ。とりあえずだな。
「どういうことなの」
どうも、夏である。
依頼で負った傷の治療に病室を訪れたら一条さんに捕まって相談を持ちかけられたんだ。
一条さんからの相談なんて珍しいから、どんなものなのかと今まで聞いていたんだけど……。
要するに一条さん、ダイエットしたいそうです。
「その一言で済ましますかっ!? 私には死活問題なんですっ!」
「俺としてはいつか太るだろうと思ってましたけど」
「な、何ですって……!?」
「だって一条さん、甘いもの好物だし、運動してないし」
「うぐぅ!」
というかダイエットしたいなら俺を巻き込まなくてもいいだろうに。
どこかで普通に運動をしていれば自然と痩せるんじゃないかな。
そもそも俺はダイエット、という概念自体がよく分かってないんだよな。
だって太ったことないし。痩せてる訳でもないけど、普通体型だ。
よって俺にとってダイエットとは無縁の代物なのである。
「い、今までは運動しなくてもそれなりに体重を保ててたんですよ……」
「それが急激に太った理由は?」
「弥生さんです」
「ああ、弥生。……はあ?」
「もっと厳密に言えば、弥生さんとカノンさんです」
まったく意味が分からない。いきなり何を言い出すんだこの医者。
カノンだけなら、まだ分からなくもない。だってお菓子作り上手いし。
カノンが作るお菓子は極東支部の人間に大人気だ。それは一条さんも例外でないらしい。
でもなんでそこで弥生が出てくるんだ? 弥生はまだここにきて一週間ちょっとのはずだ。
「弥生さん、お菓子作りが趣味らしくて。カノンさんとタッグを組んだんですよ」
「あ、そうなんですか」
「その二人が作った新作クッキーが、すっごく美味しいんですよ!!」
「よかったですね」
「それで調子に乗って食べてたら太ったんですよ……」
「あー……」
どうやら二人が作ったお菓子を差し入れてもらったらしい。
だけども、それを貰いすぎてどんどん食べていたら太った、と……。
「一条さんが太る原因はその自制できない心じゃないですかね」
「ご、ご尤もです」
「じゃあ、我慢しないといけませんね」
「やっほー。一条、いる?」
気楽な声とともに、メリーが入ってきた。
その手にはなんだか彼女には似合わない小ぶりのバスケット。
どうしたんだろう。これからピクニックにでも行くんだろうか。でもどこに?
「ほら、もどきの件で迷惑かけたから、そのお詫びよ」
「へえ、お前でも悪かったって意識はあるのか」
「そりゃあ、あるわよ。あの事件からあたしは変わるって決めたんだから」
メリーがポジティブになったのはいいことだけど、俺としてはちょっと怖い。
だってメリーが俺を殴ってくるラインが曖昧になっちゃったんだもの。
もう一回慎重に見極めなおさなきゃいけないのは俺としてはつらい作業だ。
「それで、そのバスケットは何ですか?」
「一条、甘いの好きでしょ? だからあたしの部屋のお菓子みんな持ってきたの」
「えっ、えっ、いいんですか!?」
「いいのよ。あたしはどっちかって言うと辛いものの方が好きだから」
煎餅好きなメリーらしい回答だ。
それにしても結構いろんなものが入ってるな。食べないから溜まったのかもしれない。
キラキラと瞳を輝かせる一条さんは幸せそうに頬を緩ませた。
だけど、今はそれどころじゃないんじゃないかな。
「いーちーじょーうーさん?」
「……ハッ。な、なんでしょう、夏さん」
「……ダイエット」
「はうっ」
一条さんから切ない声が漏れる。いや、涙目でこっち見られても。
俺はあくまで一条さんのために忠告をしただけであって、悪いことはしていない。
だからそんな目で見つめてこないでよなんか罪悪感湧いてくるから!!
「あら、ダイエット? それはタイミングが悪かったわね」
「メリーさんはそういうの、困ってなさそうですね……」
「太らないし。それに仕事で動いてるもの」
「羨ましい……」
ジト目でメリーを見つめる一条さん。
メリーにはまったく効果が無いみたいでジッとバスケットの中身を見つめる。
「じゃあ、今の一条にはこれは必要のないものなのね」
「一応、そうなりますね……。しばらくお菓子を断とうと思いまして」
「そうよね。また今度、別のものを持ってくるとするわ」
「ああああ!!」
何を思ったのか、メリー、一条さんの前でお菓子を食べ始めた。
すっごく美味しそうにドーナツを二つ、あっという間に平らげた。
呆然と食べ終わったメリーを見つめる一条さん。魂が抜けそうな顔だ。
メリーはそんな一条さんをお構いなしに、別のお菓子へと手を伸ばした。
こいつ……鬼畜だ……っ!!
「お、おい、さすがにその辺にしとけよ……」
「楽しくなってきた」
「やめてくださいいいいい!!」
「嫌だ、一条。病室では静かにしないといけないんでしょう?」
「やめたげて!」
人差し指を唇に当ててウインクしてみせるメリーは悪魔にしか見えない。
実際、一条さんにとっては本当の悪魔に見えるんだと思う。
「神は死んだ!!」と大声で嘆く一条さんは悲壮感を纏っている。
「馬鹿ね。あたしたちが戦ってるのは神じゃない」
「そこは問題点じゃないよ! もう可哀想だからさ……」
「ご馳走様でした」
「あの量を……一人で……!?」
この短時間に食べるとか、尊敬すらしてくる。
全てのお菓子が消え去ったことに一条さんは絶望し、その場に崩れ落ちた。
誰かこの悪魔を俺と一緒に討伐してくれませんか。単騎では無理です。
「大丈夫よ、一条。あたしがダイエットに協力してあげる」
「……え゛」
ビクリと身体を震わせ、怯えた目でメリーを見やる一条さん。
その様はまるで小動物の様であり、メリーは捕食者だ。
「聞いたわよ。あんた、ヒバリさんと一緒で、神機待ちなんでしょ」
「え、あ、は」
「だから今の内から特訓してあげる……!」
「いいいいいいいです! だ、だってほら、どうやって!?」
「んー……。あたしが木刀を振るから、一条が避ける」
「死ぬ!!」
ぴゃあああ、と怯えて病室の奥へと一条さんは引っ込んでいった。
面白そうにケラケラと笑うメリーに正直ドン引きである。最初の感謝は何処へ。
メリーの目を見るに、実際やる気だったんだろうけど、これは酷いな。
「何よ、運動こそダイエットに一番大事なことでしょ」
「いや、そうだけどさあ……」
「やるかやらないかはあいつ次第よ。あとは知ーらない」
さすがのメリーと言えど、強制させる気はなかったらしい。
下手すれば一条さんが危ないからな。そこらへんは弁えてるんだろう。
それでも意地悪な笑みが消えないところはメリーらしいな……。
その笑顔は最早一条さんにとって脅しに近かっただろう。
「ま、しばらく様子見ってとこかしら」
それは何の様子見なんですかね。
――――――――――
数週間後、病室にて。
なんだか死にそうなくらいぐったりしている一条さんがそこにいた。
「……どうしたんですか」
「どうしたも何も、運動、したんですよ……」
「どんな運動したらそんな表情になれるんですか」
「……メリーさんの申し出を受けた以外に、良い答えは用意できません」
「やったんですか」
まさか本当にやるなんて思っちゃいなかった。
俺が思っていた以上に一条さんは根性のある人だったらしい。
結果から言ってしまうと、一条さんのダイエットは成功したらしい。
喜ばしいことに、前よりも体重が減ったとか。な、何よりです。
「いやあ、さすがメリーさんですよねえ……」
「もう喋らないでください。聞いてる俺が苦しくなってきます」
「ああ、すみません。今日は休んでろ、って言われる始末です。情けない」
「医者の不養生……」
「この場合は少し違いますけど。無理をしすぎたのは否めませんね」
休日万歳、そう呟いて頭を机に置いた一条さんは疲れ切っている。
こんな状態で患者さんを診せたらどんなミスするか分からないしね……。
むしろ一条さんの方が患者になっている状態だ。
「何はともあれ、減量大成功ー。あはは」
「ちゃんと休んでいてください」
「ええ、そうします。明日には復帰したいですし」
「仕事頑張りますね」
「今の私に出来るのはこれしかないんですよ。暇で暇で、堪らないです」
はふぅ、と一息ついた一条さんはぼんやりと目を細める。
ボーっとしている一条さんは何だか珍しく、ミステリアスに見える。
男性にしては長い髪が一条さんが頭をズラしたせいで顔に垂れ、表情が見えなくなる。
「ふわ……、眠い」
「部屋で寝てくださいよ」
「いいじゃん。面倒だし。……なんなら夏さんが連れてってくれるんですかー?」
寝ぼけている一条さんはお仕事モードから通常モードに切り替わったらしい。
なんだかとっても面倒くさいです。こんな悪乗りする人だったのか。
時折混ざる敬語がちょっとイラッとくる。
「分かりました分かりました! 連れて行きますから!!」
「バンザーイ。夏くんって優しいなあ、モテますよね絶対モテますよね」
「分かってて言ってますよね」
「ふふー、そうじゃないと効果ないじゃないですかー」
酔っ払いって、こんな感じなのかもしれない……。
まあでも、たまにはいいか。こんなこと、滅多に起こることじゃないし。
そう自分に言い聞かせて納得させ、俺は一条さんと一緒に病室を後にした。
――――――――――
――それから更に数日後。
「あの、夏さん」
「あ、一条さん。どうかしました?」
「……カノンさんに、しばらく差し入れはいいと、伝えてください……」
「もう駄目だこの人……」