GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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このお話は「GOD EATER~ノッキン・オン・ヘブンズドア~」の内容に少し触れます。ご注意を。


*05、少女は悩む

 怒りを抑え込んでただただ周囲のアラガミを狩り尽くせば、物語は終盤だった。

 裏のあの子を出さないように、怒りをアラガミにぶつけて発散したおかげであの子は出てこない。

 あの子は私だけど、あの子ばかりに任せちゃいけない。これは私がしなければいけないから。

 

 アラガミテロを企み、散々外部居住区に被害を出したオオグルマが痛みに悲鳴を上げる。

 頭に過る父の言葉を一言一句間違えずに記憶から引きずり出せば、自然と身体は動いてくれた。

 もっともっと速く。自分の中で最高速度を出すも、その距離はなかなか縮まることがない。

 

 オオグルマが完全に身動きが出来なくなる。

 間に合わない……、いや、間に合わせなければいけない。

 どれだけ悪いことをしても、彼は人間。私たちと同じ人間。

 そして世界に見捨てられてしまった、悲しい人。

 

「その人を……放してええええ!!」

 

 助けるために振るった初撃。

 それが当たる寸前、虚しく肉が食い千切られる音を、私ははっきりと耳に入れた。

 

 

――――――――――

 

 

「……リーダー?」

 

 任務終了後、エントランスに帰還。いつも通りの変わらぬ温かさに包まれるその場所が、俺にとってはとても幸せであることのように感じる。

 そんな中、我らがリーダーは疲れ切ったようにフラフラとエレベーターに乗り込んでいった。

 あのままじゃあ自室に着く前に倒れるんじゃないだろうか。不安に思い、俺も乗り込む。

 

「ああ、ソロさん。先程の任務、お疲れ様でした」

 

「はい。……ええと、リーダー」

 

「なんですか?」

 

 優しさを含んだ純粋な黄の瞳が俺を真っ直ぐに見つめる。

 リーダーは優しさを体現したかのような可憐な女性であった。

 裏の人格を知った当時は驚いたものだが、それでも俺は彼女を尊敬している。

 しかし、リーダーは優しいからこそ酷く脆く、俺はそれが不安でならなかった。

 

「何か、悩んでいますか? 少し疲れているように見えて……」

 

「えぇ? だって、リンドウさんも帰ってきましたし、前ほど激務ではないですよ?」

 

「そうですが……」

 

 リンドウさんを連れ帰ったリーダーは、二人揃ってツバキさんに怒られていた。

 その内容までは知らないが、戻ってきたリーダーは涙目だったため大分効いたらしい。

 可哀想ではあるが、俺からもあまり無理をしないように少し説教をしたものだ。

 ツバキさん効果なのか、リーダーは子供のように何度も頷いていた。

 

「その、身体的疲労ではなく、精神的疲労です」

 

「……問題ないですよ?」

 

「嘘をつかないでください。俺で良ければ、話、聞きますから」

 

 リーダーは性格故なのか、無理をしやすい。そして無理を押し通しやすい。

 嘘をつけばなんとなく雰囲気で分かるものの、それでもリーダーは負担を抱えすぎだ。

 確かにリーダーの言うとおり、事件は終わったし今のアナグラは平常運転だ。

 それでもリーダーは何かを抱え込んでいる。共に仕事をする期間は未だ浅いが、俺でもそれは察せた。

 

「じゃあ、お言葉に甘えてしまいましょうかね」

 

 悪戯がバレた子供のように苦笑いを浮かべるリーダー。

 もしかしたら俺がしたことはリーダーにとって迷惑だったのかもしれない。

 

「あ、迷惑じゃないんです。私としても、ありがたいですよ」

 

 リーダーはエスパーなのだろうか。

 ……いや、夏もよく同じように俺の思考を読んでいた。

 あいつに思考を読めるとは思えないから、顔に出てしまっているのかもしれない。

 

「今ココア淹れますから、寛いでくださいー」

 

 リーダーの部屋に通されると、 リーダーがお茶を淹れてくれる。

 どうやら少し長い話になるようだ。俺としては別に構わないけれど。

 しばらく待ってみるものの、話が始まらない。仕方ないので出されたココアを啜る。

 

「ソロさんは、アラガミテロを知っていますか?」

 

「……俺が神機使いになる前の話ですね。後から事件の全容を聞きました」

 

「ではそのときの首謀者がどうなったか、知っていますか?」

 

「そこまでは……」

 

 アラガミテロ。

 一人の男が実行したアラガミを利用したテロのことだ。

 その時の外部居住区はとても不安定な場所だった。しょっちゅうアラガミがくるのだから仕方ない。

 俺が知っているのはそれだけであり、首謀者も興味がなかったため聞いていない。

 

「私はアリサさんとその首謀者を追い詰めたんですよ」

 

「そうなんですか」

 

「でも、……その人はもう、この世にはいません」

 

 悲しそうに笑うリーダーは、しんみりした空気を取り繕うようにココアを飲んだ。

 まさか首謀者が亡くなっていたとは思いもしなかった。病気、などではないのだろう。

 きっと目の前で、何か不意な事故か何かで亡くなってしまったのだと思う。

 

「人はな、支え合わないと生きていけない。だから、お前らは誰かの支えになれるように生きていけ。それが善人であろうと、悪者であろうと」

 

「へ……」

 

「私の父の言葉です。私は父の言葉を道標にして生きてきたんです」

 

「リーダーのお父さんは、とても立派な人なんですね」

 

 リーダーが引きずっている理由は、つまりそこにあるようだ。

 普段からいろんな人を守りたいと公言しているリーダーだ。

 例えその人物が首謀者であろうとも救えなかったことが、黒い染みとして心に残っているのだろう。

 最近まで慌しかったからこそ、その反動で一気に参ってしまっているのかもしれない。

 

「リーダー、話してくれてありがとうございます」

 

「え。……ちょっ、ちょっと、ソロさん!?」

 

「抱え込まないできちんと話してくれたことが、俺は嬉しいです」

 

 ココアのカップを机に戻して立ち上がり、リーダーに近寄る。

 俺がしたのは別になんてこともない。ただ単に頭をできるだけ優しく撫でただけだ。

 身長的に俺はどうしてもリーダーが妹のように思えてしまうときがあるのだ。

 頭を撫でてあげたいというのは俺の願望であったが、まあいいだろう。

 

「ええええ!? どうしてこうなったんですかー!?」

 

「いや、なんとなく」

 

「なんとなく!? だって、私真面目な話してたのに!」

 

 ぷぅ、と頬を膨らませるリーダーはどこか子供のようだ。

 きっと、リーダーは子供なのだろう。父親の言いつけをきちんと守る、手のかからない子供。

 そのまま大きくなってしまったせいで、頼るという選択肢を忘れてしまっているのだろう。

 だからこそリーダーには頼るということを覚えてもらわなければ困る。

 

「これからも、俺や、第一部隊の人たちを頼ってください」

 

「わ、分かりましたからー! この頭に乗せられた手の訳を!!」

 

「妹を持った気分です」

 

「それは理由じゃないです!」

 

 さすがにリーダーが拗ねてきたので頭を撫でるのを止める。

 仁王立ちで「私怒ってます」アピールをするリーダーが微笑ましい。本当に同い年だろうか。

 

「リーダーはもう少し、コウタを見習うべきです」

 

「えぇ……コウタさんですか?」

 

 あ、リーダーが微妙な顔をしている。

 

「コウタくらい明るく振舞うべきです」

 

「……確かにコウタさんの無邪気さは、尊敬します」

 

 脳内ではしゃぐコウタでも再生されたのか、クスリと笑みを漏らすリーダー。

 ひとまず、リーダーは元気になってくれたようで何よりである。

 

「そういうわけで、これからリーダーが何か隠し立てするたびに、俺は脳天にチョップします」

 

「酷い!? 暴力反対ですよー!」

 

「それくらいしないと、リーダーはまた無理をしそうですからね」

 

 再び頬を膨らませるリーダーに苦笑いしつつ、俺はまたその頭を撫でた。

 

 

――――――――――

 

 

「わあい、弥生さんだ! 今日はどんな差し入れですかー?」

 

「今日はロシアンクッキーですよ!」

 

「え……なんか全部真っ赤なんですけどこれ……」

 

 病室にいる一条さんに差し入れを持ってきた私です!

 最近はなんとなく病室に入り浸ることが多い気がします。

 あ、別に怪我をしたわけじゃないんですよ? なんとなく一条さんとお話したいんです。

 どうしてか、なんて聞かれたら私のほうが困っちゃいます。

 

「トマトとイチゴとハバネロですっ」

 

「最後の味が凶悪ですね……。じゃ、じゃあこれを」

 

「では私はこれを」

 

「いただきます!」

 

 お互いに一枚ずつ真っ赤なクッキーを手に取る。

 ちなみに私もどのクッキーがどの味かは分かりません。色は同じだしね。

 パクリ、と一条さんと同時にクッキーを口の中に運ぶ。

 すると一瞬後に、私の口内を激痛が走りました。

 

「か、からあい!!」

 

「わ、私もハズレです……っ!!」

 

 どうやら二人揃ってハズレのハバネロを引き当ててしまったようです。無念。

 一条さんの淹れてくれた美味しい美味しい紅茶を口に含んで痛みを癒します。

 私と一条さんはとっても仲良しなようです……あはは。

 

「そういえば、一条さんはいつからここにいるんですか?」

 

「いつからでしょう。年月を数えるのは苦手でして。メリーさんに聞いてください」

 

 そういえば一条さんはメリー隊長の少し前に赴任してきたんでしたっけ。

 一条さんはこうやって私がお菓子を持ってくると毎回いろんな話を聞かせてくれます。

 前は技術屋のときのお話しも聞いたんですけど、私にはちんぷんかんぷんでした。

 

「そうですねえ。では、今日は悲しい男の話をしましょう」

 

「悲しい男の人……?」

 

「ええ。彼は世界を恨んで、道を違えてしまいました」

 

 眉を八の字にしてみせた一条さんはどこか困り顔のようにも見えます。

 そして私は脳裏で目の前の一条さんのように困ったような誰かを見ました。

 

「その人はもういません。止めた人がいたからです」

 

「なんでその人は、世界を恨んだんですか?」

 

「さあ、そこまでは私にも分かりません。ただ、その男はとても哀れでした」

 

 まるでその悲しい男の人が本当にいたように話す一条さん。

 ううん。きっと、本当にその人はこの世に存在していたんだと思う。

 だって私は神機使いになる前、悲しい目をした男の人に会ったから。

 

「世の中って残酷だね。ねえ? ……、……?」

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、いえ……。私の悪い癖です」

 

 たまに、誰もいないはずなのに、隣にいたはずの誰かに語りかけてしまう。

 世間知らずな幼子だったころからの癖。そのせいで私のあだ名は「幽霊ちゃん」になった。

 誰にも見えない隣の幽霊に語りかけているように見えるんだって。おかしいね。

 

「そうですか。……それにしても、面白いと思いませんか?」

 

「今の話に、面白い要素なんてありましたか?」

 

「彼は世界を憎んでいました。そして同じように人を憎んでいました」

 

 分かりませんか? と目線だけで問う一条さんに私を首を横に振ります。

 私には一条さんが最初に言った「悲しい男の人の話」としか受け取れませんでした。

 一条さんはそんな私を見て苦笑いしながらクッキーをひとつ摘んで口の中に放る。

 またしてもハバネロを引いたらしく、口を押さえてしばらく一条さんは悶えていました。

 

「だって、彼は人の身でありながら人を憎んだんですよ?」

 

「……旧世代でも、そういった事件はありましたよ?」

 

「まあ、そうなんですけど。……彼は“個人”ではなく、“人間”を恨んだんです」

 

「ええっと……?」

 

「“人間”を恨んだということは、彼は本来、自分も恨まなければいけなかったんです」

 

 ちょっと話が分かりそうにないです。

 私が首を傾げていることに気付いたらしい一条さんは「戯言です、忘れてください」と苦笑いしながら言いました。

 誤魔化すようにまたクッキーをつまんで口に放った一条さんは顔を輝かせました。どうやら、イチゴを引き当てることに成功したようです。

 

「えへへ、美味しい……」

 

「一条さんは幸せそうに食べてくれるから嬉しいです!」

 

 ふにゃっと優しく笑ってくれる一条さんが私は好きです。

 一条さん以外にも、ここにはお菓子を喜んでくれる人が大勢いて嬉しいです。

 きっとカノンさんという先駆者がいるからなのですね……! 感謝感謝なのです。

 

「っ、うわ、休憩時間過ぎちゃった……」

 

「あ、すみません……」

 

「いえ、私のミスです。……それじゃあ、明日のお菓子も楽しみにしていますね?」

 

「はいっ、期待していてください!」

 

「弥生さんのお菓子のおかげで、残りの仕事も頑張れそうです」

 

 ぺこりと一礼してから、私は病室を後にしました。

 明日は何を作りましょうか……。よろず屋さんのところに顔を出してみましょうか。

 カップケーキとか、いいかもしれませんね!

 

 

 

「……弥生さん、いいお嫁さんになりそうで何よりです」

 

 一方、一条はちょっと寂しそうに病室でそんなことを呟いたのだった。

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