GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
連続で少女つけたのは間違いだっただろうか
温かな家庭。たった一人の家族。
小さなハリボテ小屋が、少女の実家でありすべてだった。
楽しそうに食事をする母と娘を、緑髪の少女は見ていた。
「……」
笑顔で見守る少女に二人は気づいた様子はない。
それもそのはず、これは少女の記憶であるからだ。
少女とはつまり、今少女の目の前で食事をしている娘でもある。
(私、走馬灯でも見てるのかなあ)
少女……、弥生はそんなことを考えながら記憶を見つめる。
走馬灯など見たことがないから分からないけど、と一人ごちた後で否定する。
きちんとベッドに入って眠ったことを思い出したからだ。
「あ……。うわあ、いやな記憶」
景色が一瞬で切り替わり、思わず弥生は顔をしかめる。
全力で外部居住区を駆ける自分、それを追っているグボロ・グボロ。
この出来事のおかげで弥生はグボロ・グボロがトラウマになっていたりする。
訓練でも対グボロ・グボロとのシミュレートではかなり苦労していた。
それくらい弥生にとってグボロ・グボロは恐怖だった。
だけど、弥生はトラウマばかりでもなかったと思う。
転んだ弥生に飛んでくる遠距離攻撃を盾で防いだ神機使い。吹っ飛ぶグボロ・グボロ。
呆然としている弥生をおぶってくれた男と、グボロ・グボロの相手をする女。
神機使いとなった弥生にとって上司であり先輩となる人物だ。
二人と出会えたことを弥生は今でも感謝しているのだ。
「私も素敵な神機使いにならなきゃ……」
現在の弥生は、新人としてはそれなりに役に立つくらいの戦力だ。
それでも何故だか、弥生は運で生きているような面があり、弥生もそれに納得していなかった。
例えば何もないところで転んだと思ったらその真上をアラガミの攻撃が通過しただとか。
誤射したと思ったら相手に当たる前に避けてくれたりだとか、そんな類いのもの。
運だけで生きていてはいつか見放され死んでしまいかねない。だからこそ弥生は強くなりたいと願い、任務後には毎日訓練場に篭ってその日の復習をしていたりする。
「私は、まだまだなんですかね……」
しょんぼりと落ち込む弥生を他所に景色がまた切り替わる。
今度は適合試験のときの記憶だ。情けなくもびーびー泣いている弥生がいた。
「情けないなあ」とちょっと笑いながら弥生はそれを眺める。
『や、やった……。私も神機使いになれたー!』
「大変なのはこれからなのに、私ってば明るすぎるなあ」
『先輩方のお役に立てるように頑張らないと!』
「全然上手くできてないのに、……私は駄目駄目だなあ」
ここのところ、弥生は上手くいっていない。
同行した神機使いからは嫌そうな眼で見られたり、といいこともない。
毎回弥生との任務に付き合い、その度にフォローしてくれる二人の先輩にも、申し訳なかった。
気づけば弥生の頬を涙が伝っていた。
「……泣いたからって、今の状態がどうにかなるわけじゃないのに」
すぐに泣いてしまう自分が、弥生は嫌いでたまらなかった。
どうでもいいことでもすぐに涙が出てきてしまうのだ。なんとも、情けない。
我慢しなければ。そう思っていても意思とは関係なく流れる雫。
感情のコントロールが上手くできない自分が、弥生は大嫌いだった。
『泣かないで、弥生』
誇らしげに神機を見ていた過去の自分が消え、一気に真っ暗になった。
恐怖さえ感じる黒の空間に響く、暖かい声に弥生は驚きながらも耳を傾ける。
暖かい、懐かしさを感じさせる知らない声。矛盾した説明であるが、弥生はこれが正しいと思えた。
「誰? あなた、誰なの……?」
弥生は恐る恐る尋ねる。
怖い人だったらどうしよう。そんな感情がありありと見られる。
『……君の知ってる、知らない人だよ』
それは弥生も感じていた、矛盾している正しい答えだった。
「わ、訳分かりません! 日本語でお願いします!」
『んー、日本語で喋ってるはずなんだけどなあ』
困ったように笑う誰かに弥生も困り果ててしまう。
知っているはずの知らない人は弥生を困らせたことに慌てる。
弥生もまた誰かを困らせたことに慌てる。案外似ている二人であるようだ。
「私はあなたを知っているんですか?」
『うん。今は隠れちゃってるだけだけど、きっと思い出せるよ。弥生だもん』
「あなたを忘れちゃってるのも私なんですけどね……」
どうやら誰かさんはマイペースらしい。
弥生はすっかり誰かさんのペースに乗せられて困惑している。
ふ、と弥生の周りにいくつものディスプレイが浮かび上がった。
しかしそれらはすべて布に覆われて隠されており、映像を見ることは叶わない。
それが誰かさんとの記憶であるのだな、と弥生はぼんやりと思う。
『弥生は忘れちゃったわけじゃないよ。だから、安心して』
「でも、現に私はあなたを覚えていないです」
『隠されちゃってるだけ。時が来れば、こんな布切れきっと吹き飛ぶ』
「ふ、吹き飛ぶって……」
『弥生なら盛大に吹っ飛ばしてくれるんだろうなあ』
わくわくしている誰かさんにおいていかれる弥生。
無邪気なその声に呆れ返っているとひとつのディスプレイから布が取れ、映像を映し出す。
忘れてしまった、それでも記憶の片隅で微かに覚えていた誰かさんとの記憶。
「これは……」
『これは覚えてたんだ? 弥生らしいねえ』
誰かさんを目の前にして泣きじゃくっている弥生がいる。
誰かさんの姿は完全にぼやけてしまって確認することができないのが残念で仕方なかった。
泣くことをやめない弥生を必死に宥める誰かさんはとても困っている。
『……弥生がいい子にしていたらまた会えるよ』
『本当? また会えるの? お別れじゃないの?』
『弥生がいい子にしてたらね、神様がお願い事叶えてくれるよ』
『神様が……?』
『ちゃんと行動で示さないと、神様は気づいてくれないから』
誰かさんの様子を見るにそれは苦し紛れの一言だったのだろう。
それでも幼い弥生はそれを信じた。だからこそ弥生はその言葉を覚え続けている。
ようやく泣き止んで笑顔を見せたところで映像は途切れてしまった。
それを合図にしたように周りのディスプレイも消えていった。
「誰かさん。あの、」
『ストップ。……その先は、また会ってからにしてほしいな』
「分かり、ました」
『ん。弥生は、いい子だね』
暗かった空間が急に明るく光り輝く。
白い光は弥生を包み込み、その意識を奪っていく。
それが夢から覚める合図であろうことは弥生にも察することができた。
それと同時に目が覚めたとき、自分はこの出来事を覚えていることができるのかと不安にもなっていた。
――――――――――
このところ籠っているというのは、事実だったのか。
訓練場に入ってすぐに見えた光景に少し後悔した。
というよりも、先客がいるなら伝えてくれたらいいだろうに……。
ニヤニヤしながら俺に意味ありげな視線を送ってきた男性職員を恨む。
「弥生」
「えっ? あ、ソロさ……わぶっ!?」
「馬鹿、余所見をするな」
「話しかけてきたのソロさんですよね!?」
声をかけると先客である弥生が振り返り、そのせいで見事にオウガテイルからアイアンテールをお見舞いされていた。別に返事をもらいたかったわけじゃないんだが。
持っていた神機を銃形態に変えるとオウガテイルに向かって射撃する。既にそれなりのダメージが蓄積されていたらしくたいした手間ではなかった。
消えていく訓練用ターゲットを横目で見てから弥生を見ると座り込んでいた。
「鍛錬とは頭が下がるが、無理をしてまでやるものではないぞ」
「私は無理なんてしてませんよ」
「している。睡眠時間でも削っているのか? 隈ができているぞ」
「えっ?」
慌てて自らの目元を手で擦る弥生。
隈と言うのは擦ったら消えるものではないのだが……。
「嘘だ」
「ひ、酷いです!」
ここまで素直だと誘導もしやすくていいな。
訓練をしようと思っていたが、仕方がない。しばらくこいつの話し相手になってやるか。
悩みの相談なんかは夏のほうが得意だから俺ごときが勤まるかどうかは分からんがな。
話を聞くくらいならできるだろう。
「どうした、お前らしくもない」
「逆に私らしさって何なんですか」
「ドジ」
「……ソロさんに期待した私が馬鹿でした」
何を期待していたって言うんだ、おかしなやつめ。
だが弥生が弱っているのは確かだな。いつもなら夏ほどのツッコミをしてくれるのに。
なんだかツッコミの度合いで元気具合を確認するのもおかしい気がするが、普段のこいつを見ているとそれくらいしか判断基準がないからな。
「あ、お菓子が上手く作れなかった、とかか?」
「私の悩み小さくないですか!? 違いますー!」
違うのか。お菓子作りが好きだと聞いていたから正解だと思っていたんだがな。
……む、そうか。確かにお菓子作りならここに籠る理由がないな。うっかりしていた。
「とりあえず、チョコレートでもどうだ?」
「何でチョコレート……?」
疑問に思いながらも受け取ってくれるところは弥生が良い奴だと分かるな。
疲れ切っている身体を酷使したところで得られるものはない。
十分な休息も鍛錬には欠かせないのだ。俺にとってチョコレートは休息の一部だ。
「無理をするな。休むのも大切なことだ」
「私、一刻も早く先輩たちの力になりたいんです!」
「焦ったところで現状が劇的に変わることはない」
「でも……!」
「落ち着け」
脳天にチョップをかませば弥生は丸くなってしまった。
む、それほど力を入れたつもりはなかったのだが……。夏はこれくらい普通に耐えるし。
いや待て、夏が頑丈過ぎるという可能性もあるぞ。そもそも弥生は女子だ。
「すまん」
「女の子を叩いて謝罪がそれだけですか!?」
「ごめん、申し訳ありません、お許しください。……どれが望みだ?」
「“それだけ”ってそういう意味じゃないです!!」
違うのか。よく分からないな。
弥生の反応がよく分からず首を傾げると、弥生はおかしそうに笑い始めた。
「やっと笑ったな」
「えっ……」
「お前は馬鹿みたいに笑っていればいい。その方がお似合いだ」
「あれ!? なんか褒められてる気がしない! むしろ貶されてる気がする!!」
弥生には日本語が伝わらないのか?
俺らしくはないがきちんと褒めているというのに、酷い奴だ。
しかし、弥生は笑っていたほうが可愛らしいな。
やはりチョコレート様は偉大だな……! あっという間に人を笑顔にしてくれる。
「お前は努力しろ。そうすればきっと強くなれる」
「でも、私は今皆さんの役に立ちたくて……」
「出来ることが限られているなら、無理に範囲を広げることも無い。今できることをしろ」
「……ソロさん……」
「お前は料理をするのだろう? 最初から凝った料理を作れたか? 違うだろう」
弥生は素直ないい子だ。
きちんと話せばこちらの真意にもちゃんと気づいてくれる。
だからこそ先程の憂いた表情から笑顔に変え、俺に頷いてみせる。
「幽霊さんとやらとは交信しないのか?」
「幽霊? 交信? ……ああ、あの噂ですか」
「やはり嘘か。非現実も甚だしいからな」
弥生が虚空の誰かと話していることはアナグラ内では既に有名だ。
以前、リーダーも虚空の誰かと話していたが、それにはきちんと理由があった。
だがどうやら弥生のはリーダーとはまた別物であるらしい。
「私、幽霊とお話なんてしてません」
「だろうな。霊感があるようにも見えない」
「……私も気づかないうちに、誰かにお話を振っちゃうんですよ」
無意識に話を振るとは、驚いたものだ。
つまり弥生にとって傍にいた誰かがそこにはいるということか?
……やはり弥生は幽霊と交信しているのではなかろうか。
「忘れた誰かでもいるんじゃないか」
「忘れちゃった誰かさん……そうかもしれません」
「それならゆっくり考えておけ。お前は急に答えを出せるタイプには見えない」
「酷いです」
遅いのは別に悪いことであるとは思わない。
考えることはそれだけ人の様々なものをもたらしてくれるからな。
何も早いことばかりが良いことであるというわけではない。
「まあ、頑張れということだ」
ぽんぽんと弥生の頭に手をやってから俺は自分の神機を持って立ち上がり、出口へ向かう。
今日は鍛錬ではなく、フリーの任務でもして過ごそう……。
「あ、行っちゃうんですか?」
「ああ、任務をいくつか見繕ってもらおうと思う」
「私も連れて行ってください!」
「……は? お前は今は休む時だと……」
「今休みました! なのでお願いします」
何と言う屁理屈……。面倒なやつに捕まってしまったようだ。
断ろうとして、リーダーに似た瞳を見てしまいたじろぐ。これは逃げられそうにないぞ……。
「分かった。だが無理をするようなら足手まといだ、すぐに撤退しろ」
「はいっ、ありがとうございます!」
なんで嬉しそうにしているんだろうか。俺には分かりそうにない。