GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
平穏。
それは誰しもが望むものである、と俺は信じている。
断言ができないのは、歴史上、戦乱を好む者やそれ以外のものを第一としてきた者がいるからだ。
だが少なくとも俺は一番大事であると考えている。
「あ、そうだ。あたし、明日元の支部に帰るから」
「……はい?」
だから束の間の平穏が崩れるなんて、ちっとも予想しちゃいなかったんだ。
なんでもないことのように言ってのけた女性、メリーは少し冷めたコーヒーを一気飲みする。
空になったカップを机に戻しながらこちらを窺ったメリーはきょとんとしている。
「何、どうしたの?」
「い、いや……。随分いきなり言ってくれるなあ、と」
「いいじゃないの。墓参りとか、いろいろよ」
「いろいろって、そんな大雑把な」
「向こうの新型の育成とかね……。戻ってからも目的増えるかもだし、いろいろってこと」
こっちはだいぶ落ち着いたから。そう告げたメリーはいつもと同じだ。
確かにリンドウさんの件、そしてメリーもどきの件が片付いてから数ヶ月は経過している。
弥生も最初の頃と比べれば幾分かマシになっているのも事実だ。
しかし俺としてはメリーには極東から離れてほしくはないのだ。
「おいおい、今ちょっと極東大変そうだろ。落ち着いてなんかないじゃないか」
「ここの人たちなら大丈夫でしょ。みんなちょっとやそっとじゃへこたれないわ」
今、極東は少しずつではあるが本来の形から変わろうとしている。
そもそもトップが変わったのだから下の者が影響を受けるのは当然だ。
それ以前に第一部隊も少しずつ別の方向へと目を向け始めている。
それぞれが何を考えているかなんて、俺にはわからないけれど。
みんなよりよい未来へと目を向けて歩き始めているのだ。
「アリサだって、里帰りしたじゃない。あたしだって許されるはずよ」
「そう、だけどさ」
アリサはつい先日、ロシア支部へと発った。
両親の墓参りや向こうでの新型が云々……、まあ大変だってことだな。
でもここでアリサを引き合いに出してくることはないだろ。
あ、ちなみにゼルダはアリサがいなくなって泣きそうだった。
ソロは清々としてたっぽいけどな。何かと引きずり回されていたし。
「なあに? あたしが傍にいなくて寂しいの?」
「そんなこと思ってないし!」
「はいはい、泣き虫夏君はしょうがないわねえ」
「ちくしょう、すごいムカつく」
態とらしく笑ってみせるメリーの笑顔がちょっとウザったい。
まあ、本音を言えばメリーの言う通りでもある。
ここしばらく、俺たちはパートナーとして一応やってきたんだ。
いつも隣にいたはずのメリーが去ってしまうのは、不本意ながら寂しいと思えた。
「大丈夫よ。何も向こうにずっといることはないわ」
「そうなのか?」
「ええ。あたしが好きなのは、こっちだから」
「そっか……」
「戻ってこれないなら支部長脅してでも戻ってくるわ」
「何言ってんだやめろ!?」
良くないことを企んでいるかのような笑い方。
女性らしくないけれど、それがメリーなんだろうな、と思う。
メリーはメリーだからな。性別なんてメリーを括っている一つの枠に過ぎない。
ぶっちゃけこいつはほとんど男みたいなもんだし。
「あ、そうそう。一条も戻るそうよ」
「え? 一条さんも?」
「一条、あたしの監視役だったんですって。ま、そりゃそうよねえ」
一条さんが話題に上がるとは思っていなかったのでちょっとびっくりだ。
監視、か。恐らくメリーの神機についてのことだろうな。
メリーの神機は特殊なものである。見張り役でもいないと上は不安だろうな。
もし暴走でも起こしたりなんかしたらたまったもんじゃないだろうし。
「一条が進言してくれてね、もう監視の必要はないだろうって」
「へえ、一条さんが……」
「だから監視役の任も解かれたんだけど、一応支部に戻るところまでは一緒みたい」
つまり一条さんは向こうの支部にとどまるということだろうか。
極東の賑やかし要因がまた一人いなくなるんだなと思うとまた寂しくなる。
仕方ないことだって、俺はわかっているはずなんだけどな。
「あとね、一条、また研究やるかもって」
「医者なのに?」
「やる気が出たそうよ。丁度よく本部のほうでプロジェクトが立ち上がるみたいだし」
「じゃあ一条さんは本部のほうに行くのか?」
「たぶんね。大きな企画らしくって、頑張るー、って意気込んでたわ」
一条さんが研究者として活動しているところを俺は想像できそうにないんだけど。
研究者って白衣着てるイメージしかない。今も一条さん着てるけど。
……ということは外見的なイメージは何も変わらないんだな。
「何辛気臭い面してんのよ。しゃきっとしなさい、しゃきっと」
「はいはい、分かりましたよー」
メリーは言いたいことを言い終わったのか、自室へと戻っていった。
なんでも支度をしなくちゃいけないんだそうだ。
殺風景なあの部屋なら支度なんて三十分もあれば終わりそうだけどな。
「そうかあ、メリー、行っちゃうのかあ」
なんとなくぽっかり空いた心の穴が、虚しかった。
――――――――――
翌日、ヘリポートにて。
ついさっき元の支部へと戻るためにメリーと一条さんは各々の荷物を運び込んだ。
メリーも一条さんも随分と荷物が少ないのが気になったけどな。
ただ一条さんはやはりこっちに戻る気がないのか、メリーよりは荷物が多い。
「夏くんともお別れですかあ。寂しいですね」
「俺も寂しいですよ」
「弥生、しっかりやんなさいよ」
「はいっ、メリー隊長も頑張ってください!」
見送りにこれたのは俺と弥生だけだ。
他の人はバタバタと忙しそうだったからな、仕方がない。
弥生も俺と同じく昨日にこの話を聞いただろうに、カノンとクッキーを作ったようだ。
可愛らしくラッピングされた二つの袋をそれぞれに渡していた。
当のカノンは依頼にアサインされてしまったらしくこの場にはいない。
「考えたら、弥生さんとカノンさんのお菓子も、これが最後なんですね」
「最後なんて言わないでください! また会いましょう?」
「……その可能性を果たせる可能性はかなり低そうですけどね」
「えっ?」
「私はもう、この極東支部に戻ってくる気はないんですよ」
「そんな……」
「でもここでの生活はとても充実していました。本当に、ありがとうございました」
弥生はじわりとその丸い瞳に涙をにじませる。
慌てて一条さんが取り出したハンカチでそれを拭うが、拭いきれなかった涙が零れ落ちる。
まさかそんな反応をされるとは夢にも思っていなかったんだろう。
おろおろと慌てる一条さんは父親みたいだ。
「ど、どうして泣くんですか……?」
「だって、一条さんとまた会えないなんて、悲しすぎます……」
「困りましたね……。私は、弥生さんの笑った顔を最後に見たいんですけれど」
弥生の一条さんに対する懐き方は見ているこっちが微笑ましいほどだった。
まるで父親のように慕い、毎日話題を持ってくる弥生のことを一条さんも大切に思っていたはずだ。
弥生は服の袖で強引にごしごしと涙を拭うと、にっこりと笑った。
「絶対、また会いましょう。……お元気で」
それだけ言うと、弥生は走ってヘリポートから去ってしまった。
辛かったんだろうな、と思うのと同時に後で宥めないと、とも考える。
一条さんも悲しそうに弥生の背中を見てから、俺のほうに少し会釈してヘリに乗り込んだ。
今はそっとしておいて上げるべき、かな。大切そうにお菓子の袋を両手で包んでいた一条さんを見て、俺は何も言わなかった。
「それじゃ、夏、またね。後のこと、よろしく」
「煩い。勝手に仕事放りやがって、帰ってきたら覚悟しとけ」
「あははっ! ぜんぜん怖くないわよーだ」
実はメリー、第四部隊の隊長としての仕事を完全に丸投げしてきた。
俺は副隊長から繰り上がりのような形で第四部隊隊長となった。
そうは言っても、俺は代理だ。きちんと然るべき人が来た場合、俺は譲る予定である。
俺に隊長なんてたいそうなものが務まるとは思えないしなー?
俺は影から誰からを支えてやることのほうが得意なんだ。
「……あたし、絶対極東に戻ってくるから、死なないでよね?」
「俺はお前に鍛えられたんだ、死にはしないさ。メリーも元気でな」
「勿論。あたしを誰だと思ってんのよ」
ニヤッと笑みを浮かべて、メリーは踵を返しヘリに乗り込んでいった。
閉じた扉、小さな窓からメリーのものと思われる手がこちらに振られる。
俺も見えていないんだろうと思いながら、同じように手を振る。
そうして、ヘリが小さくなって見えなくなるまで、俺はずっとそうしていた。
――――――――――
昨日も今日も明日も。きっと変わることのないはずの日常。
だけどもそれはとても脆くて、儚くて。だから俺は日々を大切にしなければいけない。
「夏さーん! 任務行きませんかー?」
「おう、いいけど……。相手は?」
「セクメトとハガンコンゴウですね」
「俺なんだかお腹の調子が悪いなー」
笑顔で依頼書を見せてきたゼルダに背を向けて、お腹を押さえながら後にしようとする。
それなのに俺の腕をつかんでぐいっと引っ張り戻したのは、弥生だ。
「もうっ、何言ってるんですか! 行きましょうよ、隊長代理!」
「だからそれやめてってば! 面白がってるよね!?」
弥生が素直から悪戯っ子にジョブチェンジして俺は悲しいです。
昼ご飯を共にした弥生に仮病は通用しなかったらしい。強制連行ですね分かります。
仕方なく依頼書のメンバーの欄に自分の名前と弥生の名前を書き込む。
既にゼルダの名前とソロの名前が書き込まれているから、このメンバーか。
「お。ソロとの依頼は久しぶりかもな?」
「そうだな」
「うおうっ!? お前、いつから俺の後ろに!?」
「今だ」
態々気配を消して俺に近づく意味が分からん。
こいつは俺を暗殺する気があるのだろうか……、とくだらないことを考えてみる。
ちょっとした現実逃避だ。セクメトさん大嫌い。
「新型三人の中に旧型一人の気分はどうだ?」
「接近戦を頑張ろうと思います」
「そうか」
「ジョークを投げたんならちょっとは反応返せよ!? 言葉のキャッチボールは!?」
「お前のボールはあらぬ方向に飛んでいったぞ」
「酷い! そんなことないだろ!?」
まったく、ソロはもう少しノリがよくなってもいいと思う。
そんなんだから友達増えないんだよー。……はい、ごめんなさい。
俺が落ち込んでいるとゼルダが肩にそっと手を置いた。やめて、虚しい。
「あっ、ゼルダさん! もうすぐ時間ですよ!」
「え? あ、本当ですね」
「もうそんな時間か」
「それなら早く行こう。それで早く帰ってきてご飯食べるぞー!」
「夏さん、さっき食べたばっかりですよー」
「食いしん坊ですねえ」
「食い意地張ってると太るぞ」
同僚が厳しい。
……こんな職場だけど、これからもめげずに頑張って生きたいです。
切実に、生きたいです。絶対死なないんだからな!
「よっし、今日もお仕事頑張るぞ!」
番外編はここで一旦切ります。
次回、キャラ紹介を投稿してからGE2編に入る予定です。
これからもよろしくお願いいたします。