GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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しばらく別の人のターンも混じってくるんじゃよ。


71、三年後、それぞれの始まり

「お、お腹減った……」

 

 ぐるる、と腹の虫が殺風景な場所に響いた。

 ごろりと赤茶色の土の上に寝転がった左耳のない男は今にも死んでしまうのではないか、と疑いたくなるくらい元気がない。

 男は別に断食をしているわけではない。むしろ一般的な成人男性よりもよく食べている方であると言えよう。それでも男は飢えを訴え続けていた。

 

「満たされないとか、あーりーえーなーいー! 俺はまだ死ねないよー!」

 

 ぎゃあぎゃあと喚く男は、ぱたりと動きを止めた。息を引き取ったわけではなく、こんなことをしては余計にエネルギーを消費して逆効果だと気づいたからだ。

 食料を探しに行く元気もなく、男は仰向けに寝転んだままぼんやりと時を過ごす。

 

「いたっ」

 

 空から一滴、滴が降ってきて男の目に入る。パチパチと瞬きをして、男は目を閉じた。

 降り注ぐ、普通でない赤色をした雨。まるで血のようで不気味なそれを男は甘んじて受けた。たとえ、それが巷で噂される黒蛛病の原因だとしても。

 むしろ男は飢えを少しでも満たすために口を開いてそれを飲み始めた。もし男の側に誰かいたのなら「自殺行為であるからやめたほうがいい」と忠告しただろう。

 だが男とて黒蛛病については知っていた。知っていても、それよりも飢餓を如何にして満たすことが今の男にとっての最優先事項なのだ。

 

「やっぱり雨は不味いなあ。ご飯……美味しいご飯……」

 

 切な気に呟いた男の周りをオウガテイルが囲った。その数、四体。

 男の様子を窺い、少しずつ距離を詰めるオウガテイルは捕喰者の名にに相応しい。

 

 

「――はあ、お腹減ったあ」

 

 だが、残念ながら相手が悪かった。数秒後にはオウガテイルは全滅しており、男はそのコアを貪っていた。なりふり構わず、と言った感じで必死に喰らいつく。

 四体のコアを喰らっても、男の飢餓はおさまらない。それでも行動できる程度には回復したらしい。面倒そうに「よいしょっ……と」と声を出して立ち上がり、辺りを見回す。

 

「なーんにもない。なんでここ来たんだろ。もっとご飯あるとこ来ればよかった……ん?」

 

 何かを見つけたのか、男はじいっと目を凝らす。

 その先にあったのは移動要塞……通称フライアが進行中であった。

 移動中のフライアをぼんやりと見つめ、男の口元が歪む。

 

「そっか。俺は、あの子たちを追いかけてたんだっけ」

 

 思い出した思い出した、と頭をコツンと男は叩いてみせる。

 それからまだ満たされていないらしいお腹を擦りながら男はフライアを追って歩き出す。

 ふらふらと今にも死にそうな足取りだが、その瞳には狂気が宿っている。

 

「神機兵……ブラッド……。ふふっ、どっちも美味しいんだろうなあ……」

 

 口の端の涎を拭った男はそう遠くないであろう会合の日を想って表情を緩ませた。

 

 

――――――――――

 

 

 過労で死にそう。主に同僚のせいで。

 どうも、夏です。あれから三年経ちました。え、早い? そんなこと言われても。

 第一部隊の主だった人はクレイドルに移行したり、ラウンジができたり……、とこの三年の間に極東支部もだいぶ様変わりしました。

 そうそう、防衛班も再編成されてな。カノンが同じ第四部隊所属になったんだよ。あと、他の支部から変態上司が来ました。本格的に上は俺を殺すつもりらしい。

 

「っとお! あっぶねえ!」

 

「射線上に入るなって、私いつも言ってるわよねえ!?」

 

「聞いてるから避けてんだろ!? カノンももう少し俺のこと考えてよ!」

 

「ほらっ、次行くわよ!」

 

「聞いて下さいカノンさあん!!」

 

 最近はカノンとペアを組むことが多いんだよね。

 確かに俺は誰かさんのスパルタ指導の甲斐あって危険には人一倍敏感だけどさ?

 ……まあ気にするまい。カノンだって日々頑張ってるわけだし、俺が避ければ問題ない。

 

「よし、今日の依頼は終わり、っと……」

 

「私、今日は誤射が少なかった気がします!」

 

「その調子で頑張ってね」

 

 三年前と比べ長くなった髪は後ろで結わえられ嬉しそうにふりふりと揺れていた。本人がこうやって嬉しそうにしているところを見ると、あんまりきついことも言えないよな。何もしていないわけじゃないし。

 そう思いながら手の甲で汗を拭っていると、通信が入った。件の上司、真壁ハルオミさん……通称ハルさんからだ。ハルさんは弥生と組んでいたはずだけど、向こうのほうも討伐終わったのかな。カノンに周囲警戒の指示を出して通信に出る。

 

「ハルさん? そっちは終わったんですか」

 

 さっきから変態上司とかボロクソ言ってるけど神機使い歴は結構長いんだよな。戦場では本当に助けられるし頼りになる人……なんだけどね。まあ少し変わった人って言うか……なんていうか。人生の先輩と言うか、大人の余裕がふんだんに入っている人だ。

 

『おー、何の問題もなく、な。そっちはどうだー?』

 

「こっちもいつも通りって感じですね。弥生はどうです?」

 

『……相変わらずだな。今日も五回ほど転んだ』

 

「弥生……」

 

 あいつも一応三年目なのに、どうしたもんかなー?

 ため息を吐きながらも迎えのヘリが来る地点で合流の約束をして通信を切って、合流地点まで移動し始める。

 第四部隊は個性豊かな人が多くてちょっと困りものである。変態上司に誤射姫、ラッキーガールなんて個性強すぎる。

 

「っと、今度は電話か……」

 

「夏さん人気者ですねえ」

 

「うーん、どうなんだか。……あ、メリーからだ」

 

 一年前に極東支部に戻ってきたメリーも引き続き第四部隊に所属している。三年前と違うことと言えば、俺たちと別行動、つまり単騎での行動が多い。

 隊長の座もハルさんに押し付けて今は高難易度依頼を受けているらしい。あいつも自分から大変になる理由を作っちゃって。随分お人好しになったもんだ。

 

「んー、どうしたー?」

 

『今日、向こうで泊まることにしたからそっちよろしく』

 

「……あれ? 泊まるのって明日じゃなかったっけ」

 

『捕まっちゃったのよ。ごねられちゃったらもう勝てないわ』

 

「甘いなあ……。了解」

 

『神機の持ち出し許可は貰ってるから、応援が必要ならいつでも呼んで』

 

 メリーの言葉に返事をしようとすると向こうから騒がしい声が聞こえてきた。

 いつものことながらその人気っぷりに苦笑いしつつ電話をる。

 俺より人気者なのはメリーのほうってわけだな。

 

「メリーさん、何て言ってたんですか?」

 

「今日は泊まるってさ。三年前からは想像もできない人気っぷりだ」

 

「むしろ逃げていきそうですよね。私も今度、お菓子作って持っていこうかな?」

 

「そうするといいよ。カノンのお菓子は好評だからな」

 

 お菓子作りは現在でも健在である。

 俺たち極東支部に務める連中はみんな差し入れが楽しみだったりする。

 甘いものが疲れに良いって言うのは、本当なんだなあ。

 

「あ、ハルさん、お疲れ様です」

 

 考えているうちに、無事にハルさんと弥生に合流できた。

 鶯色の癖っ毛に焦げ茶の不敵な目。襟元などに金のメタリックの装飾がついた黒のジャケットは肘までまくられていて、下に着込んでいる虎柄のシャツがチラリと見える。情熱的な赤いズボンにはチェーンがついていて、足元は白いブーツでさっぱりとしていると思いきや内側には虎柄。……まあ、つまり、ハルさんはちょっとチャラいのだ。

 

「そっちもな。怪我はしてないか?」

 

「大丈夫です! 弥生ちゃんは……?」

 

「私は膝を擦りむいただけです!」

 

「……後で手当てしてやる」

 

 タイミングよくヘリの地点でハルさんたちと合流することが出来た。

 暫くして俺たちを回収しに来たヘリに乗り込み、俺たちはアナグラに帰還した。

 

 

――――――――――

 

 

 フェンリル極東支部。

 三年前に起こったエイジス事件、そして激戦区として世界に知られている場所だ。ここ三年間の間は特に何も問題なく、いつも通りの日々が続いている。

 

 ただ、変わったことと言えば“赤い雨”と“感応種”の存在だろうな。

 赤い雨は突然起こるようになった謎の気象現象のことを指す。この雨に触れてしまうと“黒蛛病”っていう変な病気になっちゃうんだよな。

 今のところ治療法は発見されてなくて、サカキ博士も頑張ってる。

 

 感応種は新しく出現したアラガミの種類のことだ。

 詳しくは知らないけど、感応現象を使ってるアラガミのことを指すんだって。俺も前に一度だけエンカウントしたんだけど、神機使えなくて撤退したわ。

 感応現象の影響で使えなくなっちゃうんだって。面倒だよね。

 

「よお、ソロ。書類とにらめっこしてどうした?」

 

「ん……夏か。いつも通りだ」

 

「誤字チェックかよ……。しなくてもいいのに」

 

「暇だからな。これが終わればサカキ博士の書類整理だ」

 

「お前は本当に雑用ばっかりだな」

 

 俺の幼馴染は呆れるくらい雑用ばっかり請け負ってる。コウタと同じクレイドル服(前は閉められており、薄手の紺色の長袖が腕を隠している)をまとっているソロは、もう副隊長の職務を任されるほどの人物にまでなっていた。

 だがこいつ、他の連中が忙しくなったのに自分だけいつも通りだと思い込んで負い目を感じているらしい。自分から他の人がやらなさそうなことを探してるんだよな。物好きなこった。

 

「ま、身体壊さない程度に頑張れよ」

 

「俺が身体を壊すわけがない。そういう言葉はアリサにでもかけてやれ」

 

「……お前、段々とゼルダに似てきてないか? 俺は不安でならないぞ」

 

 頑張るのはいいけど、それで身体を壊されちゃ困るんだよな。友達としても同僚としても。あ、ゼルダだけど、大分前から極東支部にいない。クレイドルのお仕事でお出かけ中である。

 他にもクレイドルのメンバーではアリサ、ソーマ、リンドウさんが不在かな。みんな頑張ってるよね。

 

 てきぱきと書類の山を片付けてしまったソロはひょいとそれを抱えて去ろうとする。とと、手伝ってやんないと。さすがに量が多すぎるからな。ソロの顔が隠れてるくらいだし。

 

「半分手伝うぞ」

 

「非力なお前なぞお呼びでない」

 

「おまっ、ひっでえなあ……」

 

「冗談だ。……少し頼めるか?」

 

「任せとけ!」

 

 ソロから少し書類をとって抱え込む。むむっ、重いな! でも頼まれたからには頑張る!

 ソロと一緒にエレベーターに乗り込んで支部長室へと向かったのだった。

 

 

――――――――――

 

 

 き、きんちょーってやつを、僕は今、実感してます……!

 だってこれ怖いですって! 絶対アルコールパッチテスト程度じゃないです!

 どこの世の中に横になってアルコールパッチテストするやつがいるんですかー!?

 騙された。フェンリル訴えます。絶対訴えてやるんです。

 

『気を楽になさい……』

 

「できるかー! できませんってー! 何なのこれ怖いです帰らせてーーー!!」

 

 強制だってのは知ってますけど、怖いことはごめんですよー。僕は他にやりたいことがあるんですよ。……あ、でも移動要塞、でしたっけ。ふむ、移動できるなら早く見つけられるかも……ですかね? それにもしかしたら極東にも行けたりして。って、いやいやいや!

 僕、騙されない!

 

『あなたは既に選ばれてここにいるんですよ』

 

「選ばれたってなんです!? 僕はもう帰りたいんですよー! 帰らせてー!」

 

 腹を括らなきゃいけないって、分かってるんですケド。怖いものは仕方ないんですよ。怖くて涙が出ちゃう、だって男の子だもん! 男の子だって泣いてもいいじゃない!

 

『……これより、適合試験を執り行います』

 

 あっ、誰だか知らないけど、今この人僕のこと無視しましたねっ、無視しやがりましたねっ。酷いです。いたいけな男の子のSOSを無視するなんてありえないです! 断固抗議します!

 ……まあ、いいです。僕だって一応、覚悟を決めてここに来ているんです。もう大人しくしますよ。

 ええっと、どうやら僕はブラッドっていうのになるみたいです? 神機使いってことですよね、つまり。それはなんとなく分かっているんですけど……。

 

「あの、ギュルルって、ドリルみたいなの回ってるんですけど」

 

 なんですかあれ。何で回ってるんですか。回る意味は何処にあるんですか。本当に知りたい時に限って誰も答えてくれないんですね、無視なんて酷いです!!

 ぎゃあああ! 落ちてきた! 右手首! 僕の右手首! 痛い! 何なのすごい痛い! だってこれ間接的ですよね!? 腕輪に当たってるのに何で痛いんですかありえない!

 

「痛いいいい!! 痛い痛い痛い! 帰りたいよ帰らせてええええ!!」

 

 動いて! 僕の右腕動いて! 固定してるやつぶっ壊してでも動けええええ!

 思い切り右腕に力を入れて逃げ出すように引けば、案外簡単に自由になりました。力を入れ過ぎたせいで神機と一緒にベッドから落ちましたけど、この際気にしません。

 とにかくまだ右腕……というか手首ら辺が痛いのは問題です、大問題です。

 

「い・た・い! い・た・い!」

 

 ベシベシ右手首を叩きますけど、まったく痛みが緩和される様子が無いです。というか地味に腕輪が邪魔ですね……。仕方がないから手の甲を叩いてますよ。

 ……お。段々痛みが和らいできましたね。ふう、かなり焦っちゃったじゃないですかー。

 

「これが、神機、ですね」

 

 なんだ、軽いんですね……。というか、これって剣って言うより、槍ですね。

 僕が小さい時に外部居住区で見た神機使いは剣だったんですけど。進化でもしたんですかね。ま、なんでもいいです。これが僕の相棒に変わりはないんですからね。

 

「よろしくお願いします。僕の相棒」

 

 僕が神機使いになるなんて、思ってもいませんでしたけど。

 神機使いになった以上はとことん暴れ回ってやるんですから。

 “カミサマ”の好きになんて絶対にさせませんよ!

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