GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
次からは時系列気を付けて書くので堪忍してください。
「夏、またコウタに呼ばれた。お前も来い」
「えぇ……またぁ? 俺は人間に恋してるよ?」
どこかワクワクした様子のソロに引き摺られるようにして俺はラウンジに連れてこられた。そのままラウンジの右側にあるテレビスペースまで行くと、そこには既にコウタがいた。そして何故かロミオと飛鳥までいる。コウタがいるのは分かるんだけど、どうして二人もいるんだろう。
「ロミオに飛鳥。お前らも好きなの?」
「勿論ですよ! 夏さんも好きなんですか?」
「好きって、何がですか? というか何が始まるんですか? 面白いもの?」
どうやらご執心なのはロミオだけらしい。「俺はソロの付き添いだよ」と苦笑いを返しておく。付き添いと言ってもソロもコウタやロミオのように愛しているわけではないんだけどな。
そうこうしているうちに、お目当てのものが始まったらしい。四人は大きな画面に写し出された黄色の髪の少女の歌と躍りを真剣に見始めた。
今話題のアイドルはユノさんの他に、もう一人いる。それが今写し出されている彼女、シプレ。神機兵を従えてまるで人間のように歌って踊るシプレは、人が作り出したバーチャルアイドルだ。本当に良くできてるなあ、といつも感心してしまう。
『神機兵! シルブプレ?』
「「オゥ! メルシー!!」」
そのシプレの恋の魔法にかかってしまったロミオとコウタのお目当てが、今流れていた音楽だった。どうやらこれはシプレの新曲らしい。よくあんなメロディや歌詞を考えられるよな、と思う反面、神機兵をこんなことに使ってもいいのかとも思う。まあ反響はいいみたいだからいいだろう。ただバックダンサーの神機兵は凄まじくシュールだと言っておこう。
満足げに今回の曲について、シプレの魅力についてロミオと語り合っていたコウタは、「よし」とつぶやいた後、ソロのほうに顔を向けた。
「ソロ、いけるか?」
「……問題ないぞ。覚えた」
「え? 覚えた……って、何が?」
ソロは目を瞑ってしばらく考え込むようにした後、目を開いてコウタの問いに力強く首肯した。そんなコウタとソロの会話にロミオが首を傾げる。まあ、分からないよな。
「まだ何かやるんですか? 僕、シプレの映像漁りに行きたいから帰りたいです」
「飛鳥、お前……。まあ、余興みたいなものさ」
「ロミオは目を瞑っておくといいよ。初心者に視覚的情報は酷だと思うし」
飛鳥がシプレ信者に早変わりしたシプレ怖い。魔法の勢いは止まらないってか。
コウタはそんな飛鳥の様子を特に気にした様子もなくロミオに目を閉じさせ、耳だけを集中させておくよう促す。ソロは俺たちから少し距離を取り、周囲に障害物がなく自由に動けることを確認して俺たちに「できるぞ」と声をかけた。
「じゃ、お願い!」
「分かった」
そして、ソロが踊り始めた。音楽はないが、確かに聞こえる。ずっちゃずっちゃ、とリズム音が俺には聞こえるぞ……! 踊りだけではない。次の瞬間ソロの口から放たれた声、歌詞は先程ディスプレイの向こう側で新曲を披露していたシプレそのものだった。とても普段低音のソロから出る声色には思えない。
CM用と言うことであまり長くなったせいか、それはすぐに終わった。やりきったソロは満足そうに少し頬を緩めている。そろそろお前はシプレのファンになるべきだ。
「す、すげえ! 今、今そこにシプレが!?」
「ロミオー、もう目を開けてもいいんだぞー」
「相変わらずキレのあるいい動きだったよ、さっすがソロ!」
「誉めるな、照れる」
ある時コウタがシプレのミュージックビデオを見ながら「ソロだったらリアルシプレができるかもなー」なんて言ったのが事の発端だった。そういったものには興味がなさそうなソロが珍しく興味を持ったのでコウタが見せてみたところ、ソロは短いものならほとんど一発で覚えてやり遂げて見せた。これには言い出しっぺのコウタも幼馴染みの俺も開いた口が塞がらなかった。
それからほぼ毎回(と言っても今回のこの新曲で三回目)、ソロはシプレのファンというわけではないのにコウタに連れ回され、その度にリアルシプレをやっている。連れ回されているソロは「楽しい」と本当に楽しそうに俺に話してくれるが、実際に見ている俺としては時々悲しくなる。幼馴染の無口クール系。小さい頃は憧れていたりもしたやつがそんなことしてみろ、イメージがぶっ壊れるぞ。本人が良いならいいけどさ。
ちなみに「これで目が大きくて身長が低くて愛想がよくて……女だったらなあ」とはコウタ談である。もう少しでコスプレの域にまでソロが手を出すところだった。さすがのソロも条件にあっていたとしてもそこまではしないと信じたいけど、変なところで悪乗りが発揮されるときがあるから否定しきれない。
「いい運動をした……!」
「運動ではないけどな」
「ああ、なんだか目が覚めました。……ロミオ、任務行きますよ」
「えっ、シプレ漁りするんじゃないの!? 副隊長になら俺のコレクション見せるよ?」
「なんかもう、どうでもよくなりました。ほら、行きますよ」
そう言ってソロの真顔でシプレによって魔法が解けたらしい飛鳥はロミオと一緒に任務を受けるためラウンジを後にした。初恋っていうのはいとも簡単に崩れ去るものなんだよ。そう、今は亡き初恋ジュースのようにな……! ああ、初恋ジュースは飽きられたので売り上げが無くなり、もう売っていない。唯一と言っていいくらいのファンだったメリーはそれを知った時にマジで引き籠りになりそうになって、説得が大変だった。
ともあれシプレ会はお開きらしい。コウタとソロにこの後の予定を聞いてみると、訓練監督、書類整理と返ってきた。二人の忙しさは相変わらずのようだ。第一部隊メンバーは本当に倒れそうなくらい仕事大好き人間そろってるよな。ワーカーホリックかよ、休め。
クレイドルに移ったアリサとかもそうだけど、みんな頑張りすぎだと思うんだ。神機使いは身体が資本なのに、もう頑張り屋が多すぎるよ。
「そういう夏さんはどうすんですか?」
「いつも通り、かな。任務で二人の矯正」
「無理はするな。何かあれば俺も手伝う」
「その言葉、そのままそっくり返すぜ、ソロ」
むしろ俺はソロの方が心配だ。ここのところ何か思いつめたりすることが多くなったように思える。俺はソロの少しの表情も見分けることが出来るけれど、その表情が変わる理由までは分からない。きちんと事情を聞けば分かるがソロはいつも「やることがある」と俺とその件について話をしようとはしない。
無理することはない。ソロが話してくれるその時まで待つとしよう。最近書類仕事ばっかりしてるみたいだし、たまには依頼に連れ出してやるのもいいかもしれない。身体を動かすとすっきりした気分になれるしな。
ともかく俺はソロたちと別れて神機保管庫に向かう。丁度いいくらいに任務の時間になったからな。神機保管庫には先にカノンと弥生が来ていた。そして傍らにはリッカさん。神機のことで相談しているらしい。
「弥生ちゃん、神機変えたらどう? 棍棒、重いでしょ?」
「お、重いですけど、でもほら、任務に支障はないですよっ?」
「確かに被弾率も低いって聞いてるけど……私は弥生ちゃんの戦い方、心配だなあ」
尚も「大丈夫」だと言い張る弥生にそう言うとリッカさんは仕事に戻って行った。
弥生の戦闘は俺が見ていてもとても心臓に悪い。誤射とか味方に攻撃は当たったりしないし、迷惑はかけていないんだけど、ヒヤヒヤさせられる場面がとにかく多いんだ。バスターブレードはその大きさから火力も高いんだけど、その分隙も大きい。そのことを考えて立ち回ってもらいたいんだけどな。
「あ。夏先輩、遅いですよー」
「ん、ごめん。弥生、カノン」
「あの……ハルさんはいないんですか?」
カノンが辺りを見回してハルさんが到着していないことを俺に告げる。それは当然だ。だってハルさんには今日、休暇を取ってもらったからな。
ギルがハルさんと同じ支部にいたって事を聞いて、久しぶりなんだから積もる話もあるだろうと思い休暇を取ってもらった次第だ。極東支部は忙しい場所だけど、これくらいなら頑張れば俺たちでも行けるだろう。そのことを二人に話すと二人とも頷いて賛成してくれた。二人とも良い子だよなあ。
ただ今日は依頼の他にも二人の戦闘についての指南もあったからな。俺一人では見きれない……、というか銃の扱いに関しては俺はさっぱり分からない。というわけで今回はなんと助っ人を呼んだのだ!
「というわけで、お願いします、ジュリウスさん!」
「こちらこそ、よろしく頼みます」
ふっふっふ、今回はブラッド隊の隊長を務めているジュリウス・ヴィスコンティさんに同行を頼んだのだ! お願いしたらあっさりと引き受けてくれたよ。すごいいい人。
隊長になるくらいだからジュリウスさんはすごい人なんだろうし、それに血の力? っていうのにも目覚めているらしい。そんな人なら俺よりも的確なアドバイスを頂けるだろうと思ってのことだ。
ちなみにジュリウスさんは俺の一つ年下らしいんだけど、なんとなくさん付けしてる。なんだろう、さん付けしなくちゃいけないような気がしたんだ。カリスマが溢れているって言うか。……あ、別にギルがカリスマないとか、そういうことじゃないんだよ? ギルはほら、友達だから。
「お兄ちゃんがいつもお世話になっています!」
「俺は大したことはしていないさ。むしろ、あいつには助けられている」
「え、あのいかにも真面目じゃなさそうに見えるお兄ちゃんが……?」
「そうでなければ、副隊長は任せない」
弥生の飛鳥に対するイメージが最初から悪いな。ムードメーカーすぎるところから、まあその評価も分からなくはないんだけどさ。飛鳥だってやる時はやると思うよ。
ジュリウスさんに随分信頼されているところを見るに、ここに来るまでに飛鳥は相当な活躍をしたんだろうしな。今度飛鳥の武勇伝を是非とも聞きたいところだ。
「よっし、じゃあ四人揃ったところで出撃するか」
「私、今日こそ誤射ゼロで帰還してみせますから!」
「お、おう、頑張れ……」
――――――――――
黎明の亡都。今回の依頼の場所だ。
今回の依頼はオウガテイルなどの小型アラガミの討伐なのでそれほど大したことはない。むしろこの四人なら全然余裕、というレベルだ。だからって油断していいって訳じゃあないんだけどね?
ともかく、何が言いたいかと言うと予定した時間より早く終わってしまったということだ。カノンは自慢の火力でドレッドパイクを吹き飛ばし、弥生はオウガテイルをホームランし、ジュリウスさんは確実に一刀のもとにコクーンメイデンを斬り捨てる。俺はザイゴートを斬り落としてたよ、ちゃんと仕事してたよ。
そうして一段落して、周囲警戒をしつつヘリを待っていたときだった。
「まるでピクニックだな……」
ぼそっと呟くように――というか多分独り言なんだと思う――そう言ったジュリウスさん。それを聞いてビクリと身体を震わせて硬直したのは弥生だった。ギギギ、と音が鳴りそうなくらいゆっくりとジュリウスさんのほうに振り返った弥生は何かやらかしてしまったというような顔をしている。俺もカノンも、そして発言をしたジュリウスさんも怪訝そうに弥生を見つめる。
「きょ、今日って、ピクニックだったんですか……!?」
「えっ」
どうして弥生がそこまで焦っているのか分からない。ジュリウスさんも困惑してしまっている。
しかしただ一人、カノンだけがその意味を理解することが出来たらしい。「あ……、あー!」と大声を上げて同じように慌てはじめた。男性陣、完璧に置いてけぼりである。というかジュリウスさんの発言でこうなったんだから、ジュリウスさんは理解してもいいと思うんだけど……。
「ピクニックなら早く言ってくださいよ! そうしたら私、弥生ちゃんと軽食作ったのに!」
「そうですよー! サンドイッチとか作って……。うー、ごめんなさーい!!」
なるほど、今日の目的はピクニックだと勘違いしていたらしい。でも俺言ったよね、出撃する前にちゃんと特訓だって言ったよね。……言った、よね……? 今更ながら不安になってきたよ。
しばらく放心してしまっていたものの、とにかくこのままでは良くないと思い「今日はただの任務だから!」と二人を宥める。こんなに危ない場所でピクニックなんてしようとは思わないよね、普通。それこそ前にメリーから写メで送られてきたフライアにあるらしい庭園とかならまだ理解できるけどもさ。
「じゅ、ジュリウスさん! 今日はただの依頼ですよね!」
「はい。……誤解させてしまってすまない。ピクニックというのは比喩だ」
「……ひゆ?」
「つまり例え話って事ですよ、弥生ちゃん。あー、よかったあ……」
どうやら誤解が解けたらしい。
今回の依頼の目的を思い出して……くれてはなさそうだけど、良かった。結局弥生もカノンも思い思いの戦闘だったしな。本当は大型アラガミに全員で取りかかったほうが二人の様子も見やすかったんだけど。致し方ない、大型アラガミの依頼がなかったのだ。
「それにしても……、話に聞いていたよりも誤射率が少なかった気がするのですが」
「え? あー……」
「そ、そういえば! 私、今日誤射ゼロじゃないですか!?」
そうだ、ジュリウスさんには二人の戦闘面での短所を伝えておいたんだった。
確かに今回、カノンはほとんど誤射がなかった。何度か危ない、と思える場面もあったがいつもと比べれば合格点だ。……と思ったけどこのメンバーだったら当然の結果なのかもしれない。運で被弾率どころか見方から誤射される確率をも下げる弥生、戦場全体の把握・立ち回りが得意なジュリウスさん。この二人はたとえ誤射されても素早く避けることが可能だ。
あ、うん。危ないって思った場面は全部俺です。今回一番カノンの被害を被りそうになったのは俺です。俺の回避精度もまだまだってわけだな……。
「ん、この調子で頑張ろうな、カノン。あと周りをちゃんと見ような」
「はいっ、頑張ります!」
「あ、あのー……私は……?」
嬉しそうに顔を輝かせるカノンとは正反対に、不安そうに俺たちの表情を窺うのは弥生だった。
今日の弥生も変わらず被弾率が低かった。さすがの神回避と言うか……。転んだ時に頭上をオウガテイルが通り過ぎたりね。避けてるからいいけど、見ているこっちとしてはヒヤヒヤものだ。弥生は被弾率も低いし、味方への誤射も少ないものの、その危なっかしさが問題なのだ。今まで大きな怪我をしていないからいいが、このままでは本当に大きな怪我を負いかねないので特訓しているわけだ。
「クリティカル率が高く、被弾率は低い。……隙が多いのが唯一の難点、か」
「あ……、リッカさんにも似たようなことを言われました……」
「バスターブレードよりも、もう少し軽い……ショートブレードなどに変更したほうがいい」
「……変更しなくちゃいけませんかね」
シュン、と頭垂れる弥生。弥生自身、自分の身が危険であることは理解しているはずであるし、それを補おうと日々訓練場に入り浸っていることも俺は知っている。それは全てバスターブレードを完全に使いこなそうとしているからだ。しかし、どうしてバスターブレードにこだわり続けるのかは俺にもわからないが。
「いや、無理に変える必要もない」
「え?」
「高いクリティカル率も活かせるし、要するに立ち回りさえ意識すればどうにかなる」
「た、立ち回り……ですか」
「素質はある。訓練すれば今よりもいい動きが出来る筈だ」
「はい……はい!! 私、頑張ります、頑張ってみせます!!」
ジュリウスさんは味方を励ますのが上手いな。弥生も「頑張るぞー!」と張り切っていてとても微笑ましい。ブラッド隊長ってやっぱりすごいんだな。今日の依頼の同行を頼んで本当によかった。
しかし俺も副隊長らしい仕事をしないとなー。その肝心の副隊長らしい仕事って言うのがいまいち分からないんだけどね。俺には先輩としての威厳もないわけだし、特にアドバイスが上手くできるわけでもないし。最近は旧型より新型が増えてきているから、その点においても俺がアドバイスできることは少ない。……いつの間にか俺も古参兵の位置づけにいるのにね。
なんだかなー、と黄昏ていたらお迎えが到着したらしい。俺たちはヘリに乗り込んで極東支部に帰還した。
「シプレ! シルブプレ?」
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「シプレとシルブプレってどういう意味だろう」
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