GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
「ラケル博士ー! お久しぶりです!」
「お久しぶり、飛鳥。ですがお客さんがいますので……」
「……」
飛鳥との任務後、ご飯を食べてから直ぐにフライアに連れてこられた。先の任務中に突然起こった謎の瞬間移動を調べるため……ということだったのだが。飛鳥はそのことを既に忘れているのか、ラケル博士と言う車いすに乗った女性に思いきり飛びついていた。ええと、俺の存在を忘れないでもらえるとありがたいな。
不満そうに頬を膨らませた飛鳥は、だけども素直にラケル博士から距離を取って俺の隣に並んだ。
「夏さん。僕たちブラッドのお母さん的存在、ラケル博士です!」
「初めまして。極東支部第四部隊副隊長、日出 夏と申します」
「存じておりますわ。以前、メリーさんからあなたのことをお聞きしましたから」
エミールと一緒にブラッドの支援をしに行ったときのことを言っているようだ。メリーはそれ以外にもフライアに行った目的があるって言っていたけど……、ラケル博士に用事があったのかもしれない。一体ラケル博士に何を吹き込んだのか皆目見当がつかないが、「その節はうちの隊員がお世話になりました」と返しておく。メリーが副隊長ではなく俺が副隊長というポジションにいるのは今でも何だか不釣り合いに見える。
変なことでも吹き込まれていないといいな。と思っていたら、飛鳥はここで退場らしい。ラケル博士に挨拶を言ってから退室してしまった。えぇ、二人きりって何だか気まずいんだけど……。
「……飛鳥は随分あなたに懐いているんですね」
「あの子は私に本当の母親を重ねて見ているのでしょう。愛に貪欲な子ですから」
そういえば飛鳥は妹である弥生に対してはあんなにくっつているしよく見ているのに、他の家族……母親や父親のことに関してはまるきり関心がないように見える。それなのにラケル博士には母親を重ねて見ているってどういうことなんだろうか。でもプライベートな話題だしな、俺が踏み込むわけにはいくまい。
飛鳥の話はここまでにして、瞬間移動の話に移ることになった。どうやらラケル博士は心当たりがあるらしい。あとはその心当たりがあっているかどうかを確かめるだけであるらしいのだが……。今日は疲れているだろう、とのことで今日はフライアに泊めてもらって明日検証することになった。ということは明日は依頼に行けるかどうかも分からないな。後で連絡を入れておかなきゃ。
フライアは広いからー、ということでラケル博士からあてがってもらった部屋の位置を教えてもらった後、俺はラケル博士の部屋を後にした。なんだか不思議な女性だったな。いちいちの言動に人を惹き込むような、そんな魅力があった。メリーは苦手だってメールに書いていたけど、そうでもない気がする。
さて、寝るまでの時間、すっかり暇になってしまった。今から寝てもいいんだけど、少し早いような気もするし……。そう思って、メリーのメールを思い出した。“一度は行ってみたほうが良い場所”とメリーがえらく絶賛していた場所があったな。確か……庭園だったっけ。
「あー、これはメリーが好きそうな場所だな、うん」
庭園に着いてみて、絶賛した理由に納得した。今や貴重といえる自然あふれるその場所は読んで字の如く正に庭園だった。穏やかな空気が流れるこの場所にいれば悲惨な現実など瞬く間に忘れてしまえるだろう、とても落ち着いた空間。これはメリーがあの子たちを連れて行きたくなるわけだ。見せられないからって何本か花を持ち帰らせてもらったそうだし。
そんなことを考えていると、木の下で誰かが居眠りをしているのが見えた。って、誰かも何もあれはジュリウスさんじゃないか。そういえばフライアでの仕事があってここ数日は支部内では見かけていなかったな。一人だけの呼び出しで仕事って、何をしているんだろう。相当疲れているみたいだし、そっとしておこう。庭園を楽しむのはまた今度、ってことで。
小さな声で「おやすみなさい」と声をかけ、俺は庭園を後にした。
――――――――――
翌日、フライアの訓練場にて。
やっぱりできて間もないからなのか、極東支部の訓練場よりも傷は少ない。うちの訓練場もそろそろ綺麗にしてくれないもんかなあ。見ていて痛々しいくらい傷がついてるんだよな。
今は昨日と同じ状況を再現したいということでダミーサリエルと戦闘中。で、さっきまで昨日と全く同じことをしていたんだけど……瞬間移動は起こらなかった。どうしてだろう、ということでダミーサリエルから少し距離を取り、自分なりに考えてみている。
昨日の俺と今の俺は何かが違うんだ。それは地理的な状況じゃなくて、もっと別のもの。今の俺に足りない要素は何なんだろうか。
『夏さん。私はあなたがブラッドアーツに覚醒したと思っています』
「ああ、はい。それは先程聞きました」
俺はこの検証をする前にラケル博士から心当たりの内容を聞いていた。それがブラッドアーツの覚醒。ただブラッドアーツとはブラッドが血の力に目覚めたことによる副産物である、ということをジュリウスさんから既に聞いていた俺はこれに首を傾げていた。どうしてブラッドアーツに覚醒できたのか、という理由は検証の後で答え合わせということになってしまったけれど。
『ブラッドアーツはあくまで自らの内に眠る可能性。あなたの意思によって発動するのです』
「俺の、意思……」
ラケル博士の声を聞き、ハッとした。そうだ、確かに昨日の俺とは違う点があった。
神機を握り直して俺はサリエルに接近し、地面を蹴りつけて空に飛び出し、そして斬りつけた。ダミーサリエルが反撃の挙動を取ろうとしている。ここの挙動は少しずつ違ってくるが、大まかな動作を俺は記憶している。恐らくサリエルは後退しつつ俺に毒鱗粉を吹っかけてやろうとしているのだろう。まあ、かけられたって俺はヴェノムにはならないのだけど。
だけどこれは俺にとってチャンスだ。俺は昨日の俺と同じ意思を見せる。
――サリエルの背後、いや頭上を取りたい。
気持ちの悪い浮遊感が、一瞬だけ俺を襲った。
一つ瞬きをした時、俺の視界はまったく別のものに変わっていた。下を見れば大まか昨日と同じような位置にいることが分かる。そのまま俺は神機を振るい、冠からサリエルを真っ二つに裂く。……はずだったのだが、やっぱり胸部辺りで止まってしまった。ぶらん、と神機を支えにしてぶら下がってしまう。
あれだな、今の俺って最高にカッコ悪いな。
『お疲れ様でした』
検証は今ので終わったらしい。俺を支えている神機が刺さっているサリエルが溶けて消えたことで、俺は尻餅をついてしまった。うぐぅ、微妙な高さだったから微妙な痛みが……。
ジンジンと痛む尻を擦りながら訓練場を後にする。神機をフライアの神機格納庫に預けてから俺はラケル博士の部屋を訪れた。この部屋でさっきの訓練場での数値を調べるんだって。調べなくても、あれは明らかに普通のことじゃないと思うんだけど。ああ、でもあれが何か危険なことだったら困るから、調べてもらえるのはありがたいことなのかもしれない。その、ブラッドアーツとやらはサカキ博士じゃわからないことだろうしね。
「ジュリウスや飛鳥、シエルと同じ数値が出ました。ブラッドアーツと見て間違いないでしょう」
「ええと、それで、どうして俺はブラッドアーツに覚醒できたんでしょうか」
「飛鳥の血の力……“喚起”によるものだと私は考えています」
シエルを血の力にまで至らせたっていうやつだっけか。いまいち詳しいものとかは知らないけど、なんかすごいものらしい、とだけは認識している。でも俺が飛鳥と出会ったのはつい先日だし、一緒に依頼に行ったのは昨日が初めてだ。そんなすぐホイホイ覚醒できたらブラッドの人たちとかもう全員血の力に目覚めてるんじゃないかな。
その点はラケル博士も気になっていたらしい。そしてラケル博士はシエルが血の力に目覚めたのも二人が互いに心を交わしたからだ、ということを説明した。ほう、俺は日が浅すぎて心を交わすとかそういうステップ全然踏んでいないんですが。そりゃラケル博士も不思議に思いますよね。俺も不思議です。
「……そういえば、あなたはゴッドイーターチルドレンですね」
「ああ、調べたんですね」
ゴッドイーターチルドレン。俺が神機使いになってから初めて知った単語だった。調べて分かったが、このゴッドイーターチルドレンが神機使いになると偏食因子が濃くなるらしく、そのせいで危険視されているらしい。だから定期的にメディカルチェックが必要、みたいだが俺はそれらしいことをされた記憶がない。最近になって定期的なメディカルチェックをするようになってきたが、最初の頃はあんまりなかった。普通逆じゃなかろうか。
ということで俺自身ゴッドイーターチルドレンってなんのこっちゃ、なんだが今回はそれが関係しているらしい。いや全然話の流れ見えてないけどね。このままだとゴッドイーターチルドレンの神機使いってなんかすごいんだぜって認識で終わってしまう。
「ゴッドイーターチルドレンだから取得が早い。そういうことがあるんですか?」
「いえ、関係はあるかもしれませんが、違うと思います」
「そうなんですか」
「あなたは特別、外部の影響を受けやすいのかもしれません」
「外部からの影響……例えば飛鳥の血の力のような……?」
「ええ。ですがその分、脆い」
またか。知らない声が聞こえた。どこかで聞いたことがあるような気がする言葉は、だけども聞き取ることは叶わない。ズキリと頭が痛み、目の前の光景が一瞬だけ別の光景に切り替わったような気がしたが、どんなものだったかはやはり分からなかった。最近、たまに俺に起こるこいつは一体なんなんだ。依頼中にきたらキレるぞこの野郎。
ぼんやりと今自分に起こったことを考えていたけれど、ラケル博士の「どうかしましたか?」という言葉で我に返る。危ない危ない。今のままじゃ俺が変人確定されてしまう。些細なことだしこれは個人の問題だ。ラケル博士に言っても仕方ないことだろう。
「なんでもないです。すみません」
「構いませんよ。……私としてもあなたのことは心配です。これからは定期的にこちらでメディカルチェックを受けてもらえますか?」
「了解しました」
ラケル博士いい人だ……。全然フライアと関係のない俺の体調を気遣ってくれるなんて。美人さんだしさぞかしモテるんだろうな。とと、調子に乗りすぎた。ラケル博士が俺のことを気遣っているのは研究対象だからって可能性もあるしな。うん、うぬぼれるのは止めておこう、そうしよう。
それから俺はいくつかラケル博士と言葉を交わした後に別れた。用事が終わったし、極東支部に戻るとするかな。そう思いながらエレベーターに乗り込んだところで携帯電話に着信が入ったので慌ててエレベーターから降りる。エレベーターに乗ったら電話する人がいた、とか他の人から見たら迷惑だろうしね。
電話してきたのはメリーだった。ここ最近直接面と向かって話した覚えがないことに気づいて少し悲しくなる。俺も彼女も極東の古参兵。そのキャリアのためにあちこち引っ張りだこになることもある。今回はたまたま互いに予定がいろいろと立て込んでしまっただけだ。だから仕方ないことなのに……。
「久しぶり」
『最初はもしもしが基本でしょ?』
「まさかメリーに常識を説かれる日がこようとは」
『喧嘩売ってるのかしら?』
「冗談だよ。……ところで、用件は? そっちは忙しいんだろ」
サカキ博士に頼まれて遠出しているって聞いているし、たぶん特務をやってるんだと思う。三年前は俺も巻き込んでくれたのにどうしてか今回は俺を巻き込まないようにサカキ博士に言ったらしいのだ。そんなに頼りないかなあ、俺。これでも頑張っているのに。
今日の分の用事が終わっている俺と違って、長期的な特務を受けているメリーの方が忙しいだろうに。たまにこういった連絡をしてくれるのは安心できるから嬉しいけどもね。
『暇になったから電話しただけ。そっちは?』
「ちょっと用事があってフライアに」
『フライア? なんでそんなところに夏が……。極東にフライアが来たのは聞いていたけど……』
隠すことでないと思い、俺はメリーに昨日のことと今日のことを話した。メリーはフライアにお邪魔した際にジュリウスさんのブラッドアーツを目撃していたらしい。俺がブラッドアーツを覚醒させたことを話すとえらく驚いていた。
『そう、夏がブラッドアーツを……。どんな感じ?』
「瞬間移動系?」
『は?』
「説明するのが難しいんだよー。ま、今度一緒の依頼の時に見せるよ」
メリーがいつ帰ってくるかは分からないけど、約束する。成果があがらないから近々帰ってくるみたいなことをさっきメリーが言っていたのもあるけどな。それまでにブラッドアーツのことをちゃんと理解し、使いこなせるようになっていなければならない。
カッコつけたいっていうのもあるけど、単純に理解しきれていないものを使うのが怖いというのもある。それが原因で死んだりしたらたまったもんじゃないからな。上手い話には裏がある。俺はブラッドアーツに覚醒するのが専門家であるラケル博士の目から見ても早かった。何か変なことが起こるに違いないのだ。用心しておくに越したことはない。
「あ、そういえば、ラケル博士にブラッドアーツの名前つけてもらったんだ」
『名前?』
「必殺技にかっこいい名前はつきものだ。でも俺、名付けは苦手だからラケル博士に頼んでみた」
『ふーん……。それで? なんて名前をもらったの?』
わりとどうでもよさそうなメリーの声が聞こえる。残念だ。メリーにはこの感覚がわからないなんて……。まあメリーは女だから分からないかもしれないな。飛鳥辺りだったら分かってくれそう。
ラケル博士が名前なんて要らないわ、とかそういうことを言う人じゃなくてよかった。考えたら血の力の名前を考えているのってたぶんラケル博士だもんな。識別的な意味でも名付けることは大切で重要なことだと思ってくれているのだろう。きっと名付けることによって生まれるロマンの辺りは分かってないと思う。
「“ダンシングザッパー”……。それが俺のブラッドアーツの名前だ」