GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
この話が微妙なところで切れることになったので二話連続投稿にした次第です。
そういえば小説内でお知らせし損ねたのですが、この小説は1月15日付でマルチ投稿をやめました。これからはここでの投稿のみになります。
詳しいことは活動報告にあるので興味がある方はどうぞ。
“赤い”カリギュラが出た。
極東支部に戻ってきて真っ先に俺の耳に飛び込んできたのはそんな言葉だった。
幸いにもその赤いカリギュラ……ルフス・カリギュラの被害は今のところなく、既に飛鳥・ギル・ハルさんの三名が討伐に向かったそうだ。精鋭のブラッド隊二人に各地を渡り歩いたベテランのハルさん。ルフス・カリギュラの実力は俺には分からないが、あの三人なら問題はないだろう。
「そっか、カリギュラか」
随分前のことだけど、俺はメリーから貰ったカリギュラの神機パーツを一度使ったことがある。その時にハルさんから何を素材にした神機パーツか聞かれて、「カリギュラです」と答えたときに数秒表情が固まったのを見た。ああ、何かあったんだな。そう察するには十分な出来事だった。
それ以来、大切な神機パーツであるということも相まって、俺はその神機パーツを使用していない。リッカさんたち技術班の人たちに頼んで、なるべく奥の方の人目につかないところに保管してもらっている。……はずだったんだが、どうして飛鳥は俺の神機パーツを見つけることが出来たんだか。
「ヒバリちゃん、弥生とカノンいる?」
「弥生さんとカノンさんは現在、シエルさんとの合同任務で出ていますね」
「そっか。ありがとう」
ということは今の俺は暇ということになる。確かにどれくらいかかるか分からなくて、念のため今日は有給を取っておいたんだけど……。いざ暇になるとまったくやることがないな。困った。
今日は筋トレでも……いや、ダンシングザッパーの練習をするべきだな。ダンシングザッパーの発動タイミングの見極め、突然変わる視点の慣れ。課題は多い。何しろブラッドアーツ自体がまだ未知の領域なんだ。誰かに聞くこともできそうにないからな。
「今訓練場って誰か使ってたりする?」
「ええと……ロミオさんが使用中みたいです」
「ロミオが?」
「あと、後ほどサカキ支部長が訓練場に来るそうです」
「……戻ってきたら俺が使うって分かってたんだな」
ヒバリちゃんにお礼を言ってから区画移動用エレベーターに乗り込み、神機格納庫に向かう。今日は色んな所に神機を移動させてばかりだなあと思いつつ神機を受け取り、訓練場に移動した。訓練場の扉にある表示で現在の使用者・ダミーアラガミの表示を確認。使用者はロミオ・レオーニ、ダミーアラガミは……ヴァジュラ?
極東支部は人員不足だし激戦区。だからヴァジュラを単騎で討伐してね、なんて無茶な依頼が来ることがないこともないが……。ブラッドの人たちまで無理をさせることはないだろう。こっちの空気に慣れようとしているのなら、そんなに無理をしなくてもいいんだけどな。俺らとしては感応種だけどうにかしてもらえればいいのだから。……なんて言い方は薄情すぎるか。
訓練場に入ってみると、既にヴァジュラは前足や頭などいくつかの部位を結合崩壊させた状態になっていた。この狭い空間でたった一人、よくも動けたものだな。さすがブラッド隊の一人ということだろうか。ただ……動きが少々荒いように見えるのは俺の気のせいだろうか。ロミオは、何かを焦っている?
「ロミオー」
「あ、夏さん」
ちょうどダウンしていたヴァジュラにチャージクラッシュを決めて止めを刺したところだった。ダミーとは言え、一人でここまでとは、ブラッドやりおる。第三世代と言うだけあって個々の能力も十分に高いようだ。今や旧型ではなく第一世代と呼ばれるようになった俺としてはちょっと羨ましい。適合できるなら第二世代の神機に乗り換えたいものだが、それも見つからないし。
脇に置いてあったタオルで軽く汗を拭ったロミオの手にはマメが多い。適合によって本来の重量よりは軽く持てるとはいえ、やはりバスターは重いのだろう。自分よりも大きなものを振るう者の苦労か。……ゼルダや弥生の手にもこんなマメがよくできているのだろうか。そう考えると痛ましい。
ともかく、こんなマメができたままじゃ満足に神機も振るえないだろ。手を取って簡単にテーピングを用いて手当てしてやる。俺の知識は聞きかじった程度だから、本当は病室に連れて行ってオネエサンあたりに任せた方がいいんだろうけどな。ま、応急処置ってやつだ。
「ありがとうございます」
「いいって。後でちゃんと病室行けよ。それと、力任せに神機を振るうのは止めとけ」
力に任せて無理に振るうのであれば、マメが悪化しかねない。マメは靴擦れと一緒だ。悪化すると相当痛いし、依頼にも支障をきたすに違いない。こんなに頑張っているのに水を差すようで悪いが、その時になって困るのは努力を続けているロミオ自身なのだから。
「夏さんって、どうして応急処置を覚えたんですか? 衛生兵じゃないのに」
「俺が怪我しやすくてな。自然に身に付いちゃったんだよ」
あの頃はがむしゃらに戦っていたな、なんて他人事のように思い出して笑ってしまった。三年前メリーと組んでいたころの俺と第四部隊の副隊長を任せられている俺、いったい何が変わったっていうんだろうか。俺的には場数と歳の違いくらいしか分からないが、もっと変わったことがあるだろうか。
考えているうちに、いつの間にかぼーっとしてしまっていたらしい。心配そうなロミオに「夏さん? 夏さん?」と何度も呼びかけられているのに気付けなくて、ついに揺さぶられるまで分からなかった。うーむ、ついに老化が始まったんだろうか。二十歳までは早く年を取りたいと思うが二十歳を過ぎると年を取りたくないと思うようになる、なんて聞いたことがあるけど、まったく同感だ。
「ごめんごめん、それで何?」
「サカキ支部長が呼びかけてるのに反応がなかったから、心配したんですよ」
『ようやくお帰りかね、夏くん』
「どーも。ただいま帰ってきました」
意外とサカキ博士来るの早かったな。でも嫌味は勘弁してください。
サカキ博士に俺が覚醒したブラッドアーツの簡単な詳細を伝えて、その練習に相応しそうなダミーアラガミを相談する。まだ慣れていないこともあるから、ということでとりあえずダミーサリエルを使うことに決定した。先にブラッドアーツ自体に慣れてから他のアラガミでも通用するかどうか検証したほうが安全だろう、ということだ。
そこまで話したところで、すっかりロミオを置いてきぼりにしてしまっていることに気付いた。俺も早くダンシングザッパーを実戦で使えるようになりたいということでついつい相談のほうに意識を注ぎすぎてしまった。ちょっと無神経すぎたかもしれないな。俺は先にロミオと話していたわけだから。
「夏さん、ブラッドアーツ取得したんですか……?」
「え? あ、うん。昨日ね。まだ制御とかは難しいけどさ」
肩を竦めてからロミオには危ないので訓練場から出てもらう。見学したい、とのことだったので今はサカキ博士と同じく、上の強化ガラスで守られた場所からこちらを見ている。なんだか見世物小屋の動物になった気分だ。大した動物でもないんだけれど。
軽くストレッチをして体を温めたところでサカキ博士にダミーサリエルを出してもらい、いざ検証開始した。まず俺が望めばいついかなるときでも発動できるのか。結果から言ってしまうと、それなりの過程が必要だということだった。
まず、俺は空中にいなくてはならない。これはちょっと語弊があるのだが、今は置いておくとする。次に俺は何撃か相手に攻撃を叩き込んでいなくてはならない。これはマーキングのようなものか、ということで納得した。そしてこれが大事なのだが、ダンシングザッパーは一回の上限として三回までしか望むところに移動することが出来なかった。どうしてかは分からないけど、使っているうちに体力的にも精神的にも疲れてきたので身体が自動でセーブをしていると仮定した。これは使いどころを見極めないと面倒そうだ。
と、ここまで大まかな内容を掴んだところで、実戦でどう使うか、という話題に移った。けれどサカキ博士はあくまで戦場の人間ではないので、やったほうが早いだろうという話になった。対サリエルでのダンシングザッパーの使い方か……。どうしようかな。
「よっし、始めますか」
トントン、とその場で数回跳ねてから一気にダミーサリエルに肉薄した。ダミーサリエルの冠にある瞳が輝くのを確認し、素早くダミーサリエルの真下を通過した。直後、俺の背後で熱量を感じたが、大方ダミーサリエルが広範囲のビームを床に叩き付けたんだろうと思い、特に確認もしなかった。身体を翻して思いっきり飛びあがるとスカートを斬り裂く。あまり効いていない様子だったが特に気にせず、こちらに向き直ろうと時計回りにその場で回るダミーサリエルを見ながら思う。ダミーサリエルの右斜め後ろの地点に行きたい。
少しの浮遊感後、俺の身体は正しく望んだ位置に浮いていた。内心でガッツポーズをしつつ剣戟を加え、左斜め後ろをとり、更に攻撃。望んだ場所は概ね期待通りで誤差などはなさそうだ。だがいつまでも死角ばかり狙っていてはアラガミの方に先手を取られる可能性もある。つまり視覚への移動とそうでない場所への移動を巧く組み合わせる必要がある。これは、俺が思っていたよりも難しそうだ。
ダミーサリエルのスカートから鱗粉が零れたのを視界に入れ、警戒のためにダミーサリエルの身体を蹴り、一度距離を取った。離れた位置に着地した俺はいつでも行動を起こせるようにと姿勢を低くしてダミーサリエルの様子を覗う。
「っ、あ、ぇ……?」
はずだった。
途端、地面が地面でなくなり、底なし沼に引き摺りこまれるかのような感覚に陥る。身体が傾いた、ような気がする。地面に倒れたかどうかは分からなかった。名前が呼ばれたような感覚があったが、ぐわんぐわんと変に反響して正確に俺の名前であるのか判別もつかない。
しまったな、ちょっと浮かれてたかもしれない。でもまだやれる。まだ疲れてない。まだ余裕がある。そうに違いないのに。どうして段々手足の先から感覚が無くなっていって――?