GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~   作:キョロ

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誰が手を伸ばすのか(Episode1 メリー)

「こうやって戦うのはしぶりね、飛鳥」

 

 飛んでくる尾針を最小限の動きで回避するメリーさん。

 ピ、とコートの裾を少し擦った尾針はそのまま地面に刺さり、溶けました。その軌道を見守ることなくオウガテイルに肉薄したメリーさんは一太刀で斬り捨てます。素早く捕喰してコアを回収してしまうと、次、こちらへ先程から遠距離攻撃を仕掛けてくるコクーンメイデンを見据えて神機を銃形態へ切り替えました。

 

「はい。久しぶりですね」

 

「そうそう、出迎えに行けなくて本当に悪かったわ。……いろいろあってね」

 

 銃口から放たれた弾がコクーンメイデンに命中し、そのまま爆発しました。一般的にモルターと呼ばれるその弾は数発でコクーンメイデンの身体を抉り、死を贈ります。いやはや、味方への被害も高いから不人気なこの弾を積極的に使っている人がいるとは……。以前にも思いましたけど、メリーさんって味方を見ていないようで見ていますよね。

 背後から迫っていたオウガテイルを一突きして、ふうと少し息を吐く。先程からメリーさんの戦闘があんまり早いもんだからついていくのがやっとな状態の僕です。

 

「あのー……これ、僕必要ですか?」

 

「え? あたし一人でやれって言うの?」

 

「一人でとは言いませんけど、二人でとも言いませんね」

 

 僕はメリーさんに依頼されて、黎明の亡都へと赴いていました。

 で、依頼と言うのは、オウガテイルの掃討でした。夏さんの部屋から引きずられながらこの話を聞いた時、僕は特に急ぎの用事もなく、ブラッドとしての出撃ともかぶらないことが分かったので二つ返事で引き受けたのですが……、とても後悔しています。

 何しろこのオウガテイル、数が多かった。後から聞かされた僕は思わず抗議したのですが、まあ意味もなく。「ああ、ちょっと多いわよね」というメリーさんの言葉に項垂れるしかありませんでした。“ちょっと”で済まされる数じゃないです!

 

「大丈夫大丈夫。小型掃討任務の割に報酬良いし、問題ないわ」

 

「僕が気にしてるのはそこじゃないんですよ!」

 

 そう言うメリーさんのコートはそれなりに傷が目立ちます。最初は僕の方がアラガミの注意を妙にひきつけていたような気がするんですけど、縦横無尽に通路を駆けながら滑るように斬り伏せていくメリーさんが次第に注意を稼いでいました。ヒヤッとする場面であろうが余裕のある場面であろうが、メリーさんは無駄な動きを極力減らして動いているせいで服へダメージが入りやすいんですよね。そういう戦い方怖いから止めてもらいたいんですけど。

 ボコっと少し遠い位置に連なるようにして現れたコクーンメイデン。……が一の字にバッサリ斬られました。容赦なさ過ぎて震えるんですけど、あの、間違っても僕の方に来ないでくださいね。滑るように刈り取らないでくださいね。僕、味方ですから。

 

「……どうしたの、飛鳥。もしかして、体調悪い?」

 

「え、いや、そんなことは。……ある、かも?」

 

 聞かれて、今朝の夢のことを思い出してしまいました。最近は全く忘れていたんですけど、忘れるなって事でしょうか。性質が悪すぎて反吐が出そうです。まあ、甘んじて受けますけどね。

 「どっちなのよ」と吹きだしたメリーさんに「大丈夫ですー」と返しておきました。あんまり心配させたくもないですしね。それにちょっと一人になりたい気分になりました。ずくり、と胸が痛みます。

 

「僕、植物園の方にオウガテイルいないか、見てきますね?」

 

「分かったわ。でも無理しないで」

 

「その言葉、そっくりそのまま返します!」

 

 メリーさんの周囲にはまだ二、三体ほどオウガテイルが残っていましたが、あの様子ならすぐに片付けてくれそうです。目標の討伐数まで、メリーさんがかなり頑張ってくれたおかげで大分近付くことが出来ました。残党の数はもう現実的な数字になってきました。

 一人になることが出来たことにホッとしながら荒れ果てた植物園の方のエリアに入ると、やっぱりオウガテイルがいました。コクーンメイデンもいますが、足しても一人でやれない数じゃありません。大丈夫、これくらいできます。極東の人ほどじゃないですが僕だってそれなりに実力はあるんですから。

 

 

「――お待たせ、遅くなってごめん……って、酷いわねこれ……」

 

 しばらくして開けた地点でオウガテイル討伐に専念していたメリーさんが僕のところにやってきました。ちょうど最後のオウガテイルの身体にチャージスピアを突き立てていた僕は引き抜いて、コアを回収します。

 深呼吸を繰り返して冷静になったことで、改めて自分の現状を把握しました。

 

(……あー、どう言い訳しましょうかねー)

 

 僕の周りに転がっているアラガミだったものはほとんどが原形を留めていない程、ぐっちゃんぐっちゃんになっていました。たぶんコアも破壊しちゃってると思います。完全なオーバーキルです。神機使いの職務はアラガミを倒すことですが、その内に内包しているコアを回収することも重要な職務になっています。……上にバレたら大変ですねー。このオウガテイルのコアも、メリーさんがこのタイミングで来てなかったら壊しちゃっていたかもしれません。

 せめて霧散し切った後に来てくれたら良かったのに……。いえ、これはまだ途中に来なくてよかったと安堵するべきですね。それにメリーさんに非はありません。僕に非があるんです。

 

「あたし、前に新人の初陣に付き合ったことがあるけど……一人がこんな感じだったわね」

 

「はあ」

 

「でもあんたはパニックになってやったとは思えないわ。汚いけどこれ、結構狙ってるもの」

 

「……うーん、分かっちゃいます?」

 

 確かにオウガテイルは足、目、尾を狙って潰したような記憶があります。なんにもなくなって、まるで肉ダルマみたいだなあなんてぼんやり思ったような。コクーンメイデンは視覚と攻撃手段を奪う意味で頭をまず叩いたし、その後に身体の内側に仕舞っている針を使えなくするために抉りました。さしずめ見栄えの悪いカカシってとこでしょうか。……ああ、これオーバーキルどころじゃないですねー。大分やりすぎちゃってますね。

 

「リッカさんが嘆いてたわよ。あんた、時々神機の扱いが粗いそうね」

 

「うぐっ!? そ、それは……」

 

「スピアのその傷付き方……薙いだんじゃなくて叩いたわね? 鈍器じゃないのよ、それ」

 

 そういえば以前にリッカさんから「次無茶な扱いしたら怒るよ!?」って怒られたんでした。「今怒ってるのに怒るよって言い方面白いですね」って返したら拳骨落とされたんですよね。僕どうなっちゃうんでしょうか。スパナでボッコボコに殴られるんでしょうか。……いや、リッカさんはそんな人じゃない。ですが、何されるか分からないから怖いです……お説教コースですかね……。

 しどろもどろになった僕を見てメリーさんは一つ大きなため息を落としました。

 

「あと、この際だから聞くけど。あんたとあたしって面識ある?」

 

「は? いえ、ないですけど」

 

「そう? なんか飛鳥の態度が思わせぶりだったから、あたしったらつい勘違い……」

 

「――でも、メリーさんのことは、僕が神機使いになる前から知ってましたよ」

 

「え?」

 

 今度は僕が優位な立場に立ったようです。困惑した表情を見せるメリーさんに僕は微笑みを返しました。あ、メリーさんの目が胡散臭いものを見る目になってる。そりゃそうですよねえ、面識はないのに知ってるって、なんか変態臭いですもん。それともひょっとして、メリーさんは同じことを前にも経験したんでしょうか。メリーさんってそれなりに顔良いですからね、ストーカー? ……それは随分命知らずすぎますかね。

 だけど変な誤解を植え付けるわけにはいかないので僕は自分の前で両手を振って見せました。

 

「変な意味じゃないですよ。僕はメリーさんと同じ孤児院出身なんです」

 

「……ますます分かんないわ。これでもあたしはあそこの子、皆覚えてるのよ?」

 

「メリーさんが知らないのも無理ないです。僕はメリーさんと入れ違いで孤児院に入ったので」

 

 これは、事実。メリーさんが“新型神機”の適合者として孤児院を出て数日後に僕はその孤児院に入りました。メリーさんのことは、そこにいる子供たちや大人の人から聞いたということになります。最初は大分無口だったけど、出て行く直前は本当にいいお姉さんをやっていたとか。ちょっと信じられませんけどね。

 まだ信じてもらえないようなので何人か思い出せる子供の名前を出せば、やっとメリーさんの肩から力が抜けたようでした。そんなに信用を得ていなかったとは、随分と悲しいものですねえ。

 

「ああ、もう、やめてよね。変に勘ぐっちゃったじゃない」

 

「すみませんねえ。僕、からかい癖があるもので」

 

「困ったもんね。……ま、いいわ。任務は終わったんだし、帰りましょう」

 

 踵を返して僕に後姿を見せるメリーさん。これを機に信用してもらえたら嬉しいです。

 でも、ごめんなさい。僕、嘘はついてないけど、知っていること全部を口にしているわけじゃないんです。……これだから信用が築けないのかもしれませんね。まったく、メリーさんのおっしゃる通り、本当に困ったものですね、僕ってやつは。

 

 

――――――――――

 

 

 幸い、帰ってきたとき神機保管庫にリッカさんはいなかったので、神機を預けてさっさとエントランスに戻りました。後で呼び出される予感しかしませんが、今だけは自由を謳歌するとしましょう。

 メリーさんは自分の神機について少し技術班の人と話すことがあるのか、少しの間神機保管庫に残るようでした。いわく、謎が多い神機、だそうです。毎回戦闘の後に今日はどういう調子だったとか細かいところまで報告して分析して、少しでも理解しようと努めているんだとか。神機想いの良い使い手だと思います。神機も泣いて喜んでいるんじゃないでしょうか。

 

「あの! せんせー、まだかえってきませんか!」

 

「もう戻っているはずなんですが……」

 

「せんせー! まだ! ですか!」

 

 あれ、子供の声……? ひょいと階下のヒバリさんのほうを見てみると、ヒバリさんが五、六歳くらいの短い茶髪の少年と話していました。そういえば一般人が立ち入れるのってあそこまでなんですよね。その先、つまり階段の上は上がっちゃいけないことになっていた、はずです。

 どうやら子供は“せんせー”という知り合いを待っているようです。黄色いくりくりの丸い目は純粋そのものでこの世の穢れを一つも知らないと言っているようでした。

 

「やっぱり、帰ろう。アトス、ねえ……」

 

「ヤダ! ゆーきだって、あいたいからきたんでしょ!」

 

「そう、だけど。でも、迷惑はかけたくないよ」

 

 アトス、と呼ばれた茶髪の少年の後ろに更に少年。菜種油色の髪色をした少年――ゆーきって呼ばれていたから、ゆうきくんでしょうか――はアトスくんよりも年上のようですが、やっぱり子供であることに違いはありません。アトスくんと違ってゆうきくんの髪は長めで、目にちょろちょろとかかってしまっていて邪魔そうです。ちらっと赤い目が見えましたが、あれちゃんと前見えてるんでしょうか。

 

「飛鳥、さっきはありがとうね。で、そこで何してるの?」

 

「あ、メリーさん。なんか下に子供がいるんですよ」

 

「子供? へえ、何の用なのかしらね……っ!?」

 

 興味津々と言った感じで階下を覗いたメリーさんの顔が驚愕に染まり、勢いよく階段を下りていきました。え、ちょっと、いきなりどうしたんですか。

 

「……あっ!」

 

「せんせー! せんせーだ!」

 

 メリーさんの姿を視界に入れたらしい少年二人の顔が文字通り輝きました。か、可愛い……。

 ぎゅうっとメリーさんにしがみつく二人の幸せそうな顔はちょっと羨ましすぎるくらいです。でもメリーさんとどういう関係なのでしょうか。

 

「メリーさん……結婚してたんですか?」

 

「そんなわけないでしょう! そんなわけないでしょう!」

 

「大事なことだから二回言ったんです?」

 

「ちょっと今からかわないでくれる!? はっ倒すわよ!?」

 

「ごめんなさい」

 

 メリーさんの目が本気と書いてマジと読む目でした。触らぬ神に祟りなし、でも殺せるなら触ってもいいよね。今のメリーさんに対抗できるカードがないのでいい子な僕はおとなしくしておきますが。

 口を尖らせてぶーっといじけてますアピールをしている僕には目もくれず、メリーさんは少年二人に拳骨を落としました。神機使いが本気でやったら頭がカチ割れてスプラッタどころの騒ぎじゃないので、勿論手加減したようですがそれでも少年二人は痛そうに頭を押さえてしゃがみこんでしまいました。ゴツン、ってかなりいい音しましたしね。この間のリッカさんの拳骨を思い出して僕も思わず頭を押さえちゃいました。

 

「この……このお馬鹿! アトス! ここは来ちゃ駄目って何度も言ってるでしょう!?」

 

「だ、だっておれ、せんせーにあいたかったんだもん! しんぱいだったんだもん!」

 

「週二回は顔出してるでしょうに……。優希、あんたもなんで連れてきちゃったのよ」

 

「……僕だって、先生のこと心配で、会いたくなっちゃったんだ」

 

「あ、あんたたちねえ……」

 

 それ以上強く怒ることが出来ないのか、メリーさんは困った顔をしながらここまで二人きりで来るのがどれだけ危険なことかをくどくど説きはじめました。アトスくんとゆうきくんは下を向いていたので反省しているように見えますが、時々チラッと目配らせして笑っていました。会えた嬉しさの方が勝って説教が耳に入っていないようです。

 

「あの、ヒバリさん。あの子たちとメリーさんはどういう関係ですか?」

 

 メリーさんから直接事情が聴けそうにないので事情を知っていそうなヒバリさんに尋ねてみることにしました。ヒバリさんは少しだけ目を泳がせてからそっと僕に「アラガミ孤児は知っていますか?」と聞いてきました。アラガミ孤児……。アラガミによって両親を失ってしまった子供たちのことを指す言葉であったはずです。

 僕が知っていることを伝えるとヒバリさんは頷きました。

 

「メリーさんは外部居住区で孤児院を経営しているんですよ」

 

「……それ、経営っていいますか? 利益は……」

 

「出ません。慈善事業になりますね。でもメリーさん、とても生き生きとして……」

 

「律儀に説明してあげなくてもいいのよ?」

 

 メリーさんの声がして振り向くと、いつの間にか説教が終わっていたのかメリーさんは二人の頭を撫でて僕をジト目で見ていました。なんだかんだ甘やかし過ぎじゃないですか、メリーさん。

 

「ヒバリさん、外出許可お願い。送り届けるついでに、向こうで泊まっちゃうわ」

 

「了解しました」

 

「せんせーとまるの!? いっしょ!?」

 

「その代わり、明後日に行く約束の前倒しだから明後日は行かないわよ」

 

「えぇ~!?」

 

「先生のけちんぼ」

 

「なんとでもおっしゃい」

 

 二人の背をぐいと押して早く行くように促すメリーさん。ぶすっとしていた二人は渋々と言った感じでそれに従い、歩きはじめました。メリーさんもその後についていきます。

 なんというか、孤児院で聞いた情報は嘘じゃないってことが分かりました。あんなに優しい顔をしたメリーさんを見たのは初めてかもしれません。

 

「……メリーさんって、良い人なんですね」

 

「ええ。とっても、良い人ですよ」

 

 僕たちはメリーさんの後姿を暖かい視線で見送りました。




○優希 (11)
内気な少年。メリーの運営する孤児院にいる。

○アトス (6)
活発な少年。メリーの運営する孤児院にいる。
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