GOD EATER BURST~旧型神機使いの日常と苦労~ 作:キョロ
弥生に「ごめん、お兄ちゃん。付き合ってくれるかな……?」と言われて、これは禁断のルート開拓かと二つ返事で引き受け、ただいま鉄塔の森です。うん、そんなことは起こり得ませんよね! でも見知らぬ自称お兄ちゃんから頼れる人レベルになったことは素直に嬉しいので心の中で第二第三の僕に胴上げされることにします。バンザーイ!
はい、というわけで任務なんですよ。今回の討伐対象はグボロ・グボロ。魚みたいなアラガミですね。火力のあるブラストで背ビレを吹き飛ばし、スピアでお口をぐちゃぐちゃにすればおしまいです。とっても簡単ですね! いやあ、ますます弥生からの好感度が上がっちゃいますね! 困っちゃいますね!
「……で、行かないの?」
待機地点に到着してから既に三十分は経過しています。あんまり長すぎると任務の制限時間が越えちゃうんですが。越えたからはい人生終了、みたいなことはないんですけど、僕らは人間ですので長時間すぎる任務には身体が耐えられないんですよね。そりゃ、一般人レベルは越えてますけど。
任務に出る際、ヒバリさんから「くれぐれも、弥生さんのサポートをどうかお願いしますね」と言われていましたが、もしかしてこのことでしょうか。でもグボロ・グボロはそう強いアラガミではないと思います。今回の任務場所が鉄塔の森なので逃げられると少し面倒ではありますが。
「……あのね、お兄ちゃんに今回頼んだのには、理由があるんだ」
「え?」
「私……グボロ・グボロが怖いの」
話によると、弥生は神機使いになる前に外部居住区に侵入してきたグボロ・グボロに追いかけ回されたことがあるそうです。その時の恐怖が未だに残っているようで、どうしてもグボロ・グボロが相手の時だけ身体がすくんでしまって満足に動けないのだとか。
ハルさんや夏さんからは「無理をしなくていい」と言われているみたいですが、神機使いとしてそれは駄目だと思い、時間があれば訓練場に籠り特訓しているらしいです。だけどいっこうに慣れる気配がない、と。
なるほど、理解しました。
「つまり僕はグボロ・グボロを原型が分からないほどボッコボコにすればいいわけだ」
妹のトラウマなんて僕が吹っ飛ばしてあげればいいんじゃないですか! 最初に言っていたみたいに、背びれ吹き飛ばしてお口ぐちゃぐちゃなんてもんじゃ、物足りないです。グボロ・グボロなんて脅威じゃないって事を教えてあげるんです、えへん。……ああ、でも、それじゃ僕個人の気が晴れません。その時のグボロ・グボロはもういないですけど、今後グボロ・グボロに出会ったらそいつらも全部同じようにしてあげないと。
「そ、それはやりすぎ! コアに傷でもいれちゃったらどうするの!?」
「わあ、弥生は優しいなあ。天敵にお情けをかけなくてもいいんだよ?」
「お情けじゃなくて神機使いとしての職務だからね!?」
半分は冗談なのにそこまで怒らなくてもいいじゃないですかー。しょぼーん。
ぶすぅ、といじけ続けるにも時間が足りないので、とりあえず弥生とそこから動くことから始めました。うろうろ動き回っているグボロ・グボロを探さないと話になりませんからね。
見つけ次第、ぶっ飛ば……したいところですが、考えてみたら僕一人が全部やっちゃったら意味ないですね。脅威でないことを教えるよりも、弥生が自分でも倒せると言う実感を持ったほうが良さそうです。それなら僕は前回同様、後方支援に回れば良いですね。今回はスタングレネードでの支援も考えつつ……といったところでしょうか。
というわけで、軽く作戦会議。
「まず、ヒレを叩こう」
「ヒレ?」
「移動手段を断つためにね。僕が片方をめった刺しにするから、弥生はもう片方を殴り潰してね」
「……想像したくないなあ」
それが終わってから僕は銃での支援、弥生はそのまま砲台を叩き折ってもらうことにしました。途中「容赦ない……」と弥生が呟いていましたが、敵相手に手加減するなんて、それこそ申し訳ないでしょう?
ふふん、と脳内でドヤ顔をしていると、「あ」と弥生が小さく声をあげました。グボロ・グボロを見つけたのかと思いきや、視界には何もいません。
「あのね、後でお兄ちゃんに聞きたいことがあって」
「僕に? スリーサイズでもなんでも聞いて!」
「うん、それは聞かないからね。安心してね」
喜ばれませんでした。スリーサイズを聞いて喜ぶのは男性くらいなんでしょうか。確かに僕は弥生のスリーサイズを聞いたら喜びますけど。……いや、逆に知らないからこその世界ってあるんじゃないでしょうか。それもありですね。
想像の世界にトリップしていたら弥生に服の裾を引っ張られました。ああ、うん。目の前にグボロ・グボロがいるんですよね、知ってます知ってます。さすがの僕も完全に油断するなんて自殺行為しません。なんといっても極東はアラガミ動物園。油断してたらきっと想定外のアラガミにばっくりいかれちゃいます。
「ぐ、グボロ・グボロ、いる、いる、どうしよう」
「落ち着いて、深呼吸。……うん、背を向けてるから気づかれてないね」
「今なら簡単にヒレが潰せる……ってこと?」
「そうだね。すり潰して穴だらけにして、使い物にならなくしちゃおうか」
どうせこの先使う予定なんてもうないわけですし、僕たちが壊しちゃえば未練なんてなくなって、きっといつもより早く絶命してくれるんじゃないでしょうか。
弥生に目配らせすると、深呼吸をしながらしっかりとグボロ・グボロを見据えていました。少し手が震えているように見えますが、しっかり集中できていますし、これなら大丈夫でしょう。集中しすぎて僕が見えなくなっているような気がしますけど、今回は僕が上手く立ち回れば何も問題ないはずです。優しく背中を何度か撫でて余分な力を抜くよう促し、僕自身も集中します。
ふっと息を吐いて、弥生とほぼ同時に一歩を踏み出し、前方へ飛ぶように駆けだしました。
「よいしょ……っと!!」
「そーれっ!」
右ヒレを抉るように薙げばグボロ・グボロが怯んだように呻き、仰け反ります。反対側から鈍い打撃音が聞こえてきたので弥生が勢いよく左ヒレを叩いたんでしょう。躊躇もないようなのでほっとしながら、右ヒレを足で押さえつけてせっせと穴開け作業に移行します。刺す度に嫌悪感が募るのは何故でしょうか。
なかなか満足のいく出来になったところで一度グボロ・グボロから距離を取ります。グボロ・グボロはバッと自らの身体を基点にして体ごとヒレを振り回し始めました。よくよく注視してみれば左ヒレも既に相当のダメージが入っているようです。順調に進んでいることを確認してから銃形態に切り替えて尾ビレを狙い撃ちしてみたら、ぐるぐるするのが飽きたのか僕に突っ込んできました。弥生を狙わないでくれるのは嬉しいですけど、僕ばっかり狙うのもどうなんでしょうか。恋でもされちゃったんでしょうか。ノーサンキューで。
再び剣形態に戻してチャージすると、構わず背ビレに矛先を合わせて飛びます。向こうもそれなりの勢いで向かってきてくれていたので刺さるのは簡単でした。中途半端に刺さったせいで僕がブラブラしちゃってることだけが気に食わないですけど。次にやる機会があったらもう少し上手くやりましょう。
「目、瞑っててね!」
グボロ・グボロにスタングレネードを叩き付けてスタンを誘発させ、スピアを引き抜いてグボロ・グボロの眼前から撤退します。今回そのポジションに収まるのは弥生ですからね。僕はその間……やっぱり銃形態だと邪魔そうなので、スピアで尾ビレ突っついてましょうかね。
入れ替わるように眼前に立った弥生はバスターブレードを構え、ぐっと力を溜め……。
「どっ……せぇい!!」
渾身のチャージクラッシュで砲台をボッキリ叩き折りました。
……提案したのは僕ですけど、こうやって見ると結構恐ろしいですね。
――――――――――
「倒せた!」と喜んでいた弥生を眺めながら帰投したら待ち構えていたリッカさんにしこたま怒られました。先のメリーさんとの戦闘がついにバレてしまったのです。ロミオたちとの任務の時もうまく逃げることが出来たのに、うっかりしてました。「もう二度と乱暴しない」としっかり指切りげんまんさせられました。僕もあんまり乱暴しすぎて神機が使えなくなるのは嫌なのでお説教もちゃんと聞いていましたが……リッカさんはもう怒らせちゃ駄目ですね。身を以て実感しました。
それで、僕はすっかり忘れていたわけですが、弥生から話があると言われて部屋に連れてこられました。弥生の部屋に入ったのはこれが初めてですね。あちこちに指南書らしき本が積まれて置かれています。他にもあみぐるみがいくつか置いてあったりしますが、そういった女子っぽいものより本の方が多めであるように思えます。
「それで、話ってなに?」
「お兄ちゃん、今日は私と寝よう!」
「……うん?」
どうしてそうなったのか分からないんですが……。弥生なりの告白か何かでしょうか。
事情が分からずに首を捻っていると、弥生もそこを話すに至る間の部分がすべて抜けていることに気付いたのか、説明してくれました。話が何回か飛んでいましたが、要約すると「他の人の部屋には泊まるのにどうして私の部屋には来てくれないの?」ということだそうです。「もしかして嫉妬? 嫉妬してくれたの?」と言ったら嫌そうな顔になったので大人しく口をつぐみました。
しかし、そうでした。まだ弥生の部屋には泊まったことがありません。そもそも弥生の部屋に泊まるという選択肢が僕の頭の中に存在していませんでした。ああ、コンプリートするなんてこと、できるわけがなかったんだなあ、なんて今更なことに気付いてしまいました。
「お兄ちゃんが来てくれないから、その、嫌われちゃったのかな、って思って」
「そんなまさか! あるはずがないよ。嫌だなあ、弥生ったら」
必死に弁明しても不安そうな顔を向けてくる弥生が愛おしくてたまらない。保護欲を誘う、っていうんでしょうか。ずっと守ってあげたくなります。ずっと昔、別れるときに誓ったんだもの。次に会う機会が訪れることがあったら、永遠に傍で守っていようって。
「一緒に寝てもいいけど……。僕、弥生の隣で寝たら何するか分からないなー」
「……お兄ちゃん、さすがにその発言はどうかと思う」
「わあ、ドン引き!? 待って待って、冗談だよ! チャンスをください!!」
自分から弥生との溝を深めてしまいました。そんなことを言いたかったわけじゃないのに、おかしいですね? と言っても発言した後からどんなことを言っても信じてくれそうにないので、どうにかもっと聞き苦しくない言い訳を考えることにしました。……あ、でも言い訳ってどこまでいっても言い訳の域を出ませんね。やめましょう、この案はまったくの無意味です。
こういうときは話を逸らしたほうが早いかもしれません。そうと決まれば何か他の話題は……なかった! しいて言うなら弥生を褒めまくる話ならありますが、前にこの話を別の人にしていたときに聞いていたらしい弥生に止められたので使えません。なんということでしょう。
「弥生の部屋はさ、一番最後に来ようと思って。デザートは最後にー、みたいな感じで」
話は逸れてないけど、その代わりそのひとつ前の弁明もできる。これが正解ですね! ここから上手く話を繋いでいけば弥生の意識はそっちに逸れてくれるでしょう。
「そうなの?」
「うん。そうじゃないと僕、毎日でも弥生の部屋に泊まっちゃいそうだしねー」
これはたぶん本当。というより、願望でしょうか。その頃に僕たちの関係がどうなっているかは分かりませんが、そうなっていたらいいと思います。言霊っていうものもありますし、こうやって言葉に出したから叶うかもしれません。これから毎日それを願ってアラガミを倒していたら叶えてくれるでしょうか?
ともあれ、当初の意識を別の方向に向けることは成功したようで、それも今の理由に納得してくれるという最高の結末に辿り着くことができました。よかった、これにて一件落着ですね。安堵の息を吐いて弥生から視線を外すと、机の上に置いてある一冊の本が目に入りました。その本の上に乗っている物が気になったんですけどね。
「弥生、この植物、なあに?」
「あ、それはね、三つ葉のクローバー」
「これがクローバー……」
見たことはありませんが、名前だけは知っていました。見つけると願いが叶う、四葉のクローバーっていうものがあるそうです。ただでさえ植物が少ないこの時代ですから、四葉のクローバーを探すのは昔よりも困難でしょうね。だからこそ見つけたときに喜びが大きいのだと思いますが。
二つある三つ葉のクローバーは水分が抜けているのか、綺麗な緑色ではありませんがしっかりとその形を保っています。押し花とか、それと同等の処置をしたのでしょう。
「お兄ちゃんは三つ葉のクローバーの意味、知ってる?」
「え? 四葉は幸福……みたいな意味なのは分かるけど、三つ葉もあるの?」
「ふふ、お兄ちゃん、それが三つ葉の意味なんだよ」
得意げに笑う弥生は三つ葉のクローバーを一つ、僕に渡して教えてくれました。
四葉のクローバーの意味は“幸運”。そして三つ葉のクローバーの意味こそ“幸福”なんだそうです。「今でこそ三つ葉も珍しくなっちゃったけど、昔は四葉を追いかける人が多かったでしょ? だから、本当の幸せはいつも近くにあるんだよ、って事なんだと思うの」自分の分の三つ葉を胸にそっと抱いて話す弥生は、どうしてか僕にとって遠い人に見えました。
「私にとっての三つ葉はね、お兄ちゃんとかハル隊長とか……私の知ってる皆なんだ」
「弥生……」
「だからね、お兄ちゃん。私からもありがとう。ハル隊長、前よりすごくいい顔してるの」
周りの人がいることが幸せだなんて、やっぱり弥生は天使だったんですね。すごくいい子に育ってお兄ちゃん泣きそうです。昔はあんなに泣き虫で僕から離れないような子だったのに……! 教育がよかったんですね。母さんは弥生を大切に想っていましたから、当然かもしれません。
「弥生は天使なんだね……っ」
「え、待って、どうして泣いてるの!?」
涙が止まらなくて弥生に心配をかけてしまいましたが、この涙くらいは許してくれますよね。ああ、今日はハルさんの部屋に泊まりに行きましょう。こんなに可愛い弥生を見せてくれてありがとうございますってお礼も言わなきゃいけませんし。
昔、五枚以上葉がついているクローバーは不吉なものだと聞いたような記憶があるのですが、今調べてみるとそんなことはないみたいですね。今となってはその情報自体どこで聞いたものなのか全く思い出せませんが。