黒い仮面のレユニオン構成員=黒い沈黙説(学会追放) 作:イカ墨リゾット
気分転換なので初投稿です(時間稼ぎとも言う)
俺の名前はローラン。此処、龍門でフィクサーをやっている。
え?フィクサーが何なのか知らないって?そうだな。まぁ、簡単に説明すればそれ相応の報酬さえ払えば、基本的にどんな依頼でも受ける便利屋みたいなもんさ。それこそ、雑務から遺跡探索、子守から殺しまで何でもだ。……いや、流石に龍門に来てからはそう言うグレーな依頼はやってない。本当だぞ?
これでも少し前まではかなりヤンチャしていたけど、今では日々の生活費を稼ぐのに精一杯なんだ。1番の理由としては仕事が少ないからだな。まず龍門には俺たちフィクサーが少ないんだよ。何でだと思う?
お、御名答。その通り『ペンギン急便』さ。確か……エンペラーとか言うペンギンが経営してる運送会社でな。要するにトランスポーターだよ。何処よりも早く届けるってのが売りのところなんだ。俺も何回かお世話になってるしな。
けど実態は……トランスポーターの皮被った便利屋なんだよなぁ。まだ要人の護送とか、武器の輸送だったら分かるんだけど、この辺のマフィアとドンパチやったりカーチェイスを繰り広げるのは幾ら何でもおかしいだろ。トランスポーターってのは銃を乱射したり剣の雨を降らせるモンだったのか?受ける依頼が過激過ぎるだろ。しかも近衛局からも依頼が来るんだと。
荒事関係の依頼の殆どを持っていっちゃうから、腕に自信があった奴の殆どは龍門から出ていったんだ。アイツらの後始末をして稼ごうと思っても、大抵の場合、あそこの社長のペンギンが金払って直しちゃうんだよなぁ。
俺も一応事務所を経営してるんだけど、1日に良くて2、3人ってところなんだ。だから龍門中を練り歩いて、いっつも依頼を探してるんだ。ゴミ拾いとか下水道掃除とか、買い物の代理とかな。お陰で今では大抵の事なら難無くこなせるよ。喜んでいいんだか悪いんだか……。
これでも前まではそこそこ有名だったし、依頼も結構舞い込んで来たんだぜ?まぁ、戻るつもりは無いけどな。滅茶苦茶疲れるしな。それに今の生活は確かに苦しいが、あの時に比べればすごい気楽だし、やり甲斐があるんだよ。
いっそ俺もトランスポーターに転職しようかな?免許って何処で取れたっけな。
「あれ?おじさんじゃん!こんな朝早くから大変そうだね〜。」
「そう思うんだったら少しは依頼を残しておいてくれよ……。あと俺は20代後半だ。まだおじさんじゃない。」
どうやら昨夜この辺でマフィアの抗争があったみたいで、珍しく近衛局から依頼が届いたんだよな。内容は破片やら血痕とかの処理だけど、近衛局からの依頼だから結構良い報酬なんだ。だからこんな早朝から張り切ってる訳だが、これまた珍しい事に、こんな時間にあのアップルパイ狂に絡まれた。
「にしても珍しいな?お前がこんな時間に起きてるなんてな、エクシア。」
「昨日は有給取ってガンショップに行ってたんだよ。あの守護銃を改造する時間が堪らないんだよ!」
「じゃあいつもより早めに寝てたんだな。」
「あはは〜。……実は3時のおやつにと思って、アップルパイとお酒を飲んでたんだけど、そのまま酔っ払って寝落ちしちゃって。」
「昼間っから飲酒してたのかよこの頭アップルパイ……。」
コイツはエクシア。この辺じゃ珍しい部類に入るサンクタの少女だ。とにかく天真爛漫で明るくて、異常なまでにアップルパイに執着する変な奴だ。
一部のサンクタは守護銃ってのを持っていて、何でも構造が複雑過ぎてサンクタにしか扱えないんだとか。利点としてはクロスボウよりも弾速が速くて連射が効くところだが、音が一々でかいし、何より金が掛かる。
まず弾が馬鹿にならない値段だし、定期的にメンテナンスもしなくちゃいけない。そしてそこに維持費も入って来るんだ。サンクタじゃない俺としては、何故そんなモンを使ってるのか不思議でならないんだよな。
そしてさっきの銃を乱射するトランスポーターの正体はコイツだ。銃口から金をばら撒いてるのと変わらないって理解してんのか?
「今さらっと酷いこと言ったよね!?私のガラスのハートにヒビが入っちゃったよ!そう言う訳だからランチ奢って!」
「こっちは日銭稼ぐのに精一杯なんだよ。頼むからどっか行ってくれよ……。」
「釣れないなぁ。そんなんじゃ彼女出来ないよ!」
「うるせぇ!!」
にひひと笑うアイツを追っ払う。此処に置いておけば気が散るし、何かとんでもないトラブルを運んで来るに違いない。
……いや、まぁ俺だって彼女が欲しいと思う事はあるし、勿論世の中の一般的な、男性諸君と同じ様な思考回路は持っている。別に枯れている訳ではない。だが、俺みたいな奴の過去を知った上で受け入れてくれる人は、この世に一体何人いるんだろうな?
兎に角、考えたってしょうがない事だ。今は依頼に集中しよう。
周囲に散乱していた瓦礫やら瓶の破片やらを片付け終えて、血痕の処理に取り掛かる。流石にクロスボウの矢とかは回収して行ったらしい。
血液ってのは温度が上がると逆に固まりやすくなるが、見た感じはもう完全に乾いてしまっているので、そこまで気にする必要は無いだろう。昔知り合った同業者に教えて貰った薬品を、持ってきた布に染み渡らせてから血痕を拭い取る。見る見る取れて行くもんだから、つい楽しくなってさっきよりも手を動かすペースが上がった。
この薬品の調合方法を教えてくれたあのフィクサーは今、どうしているんだろうな。あの格好からして、恐らく殺しがメインだったんだろうな。まだテラ中を飛び回ってるかもしれないし、何処かの戦場でくたばってるかもしれない。結構馬が合ったんだけどな。確か青の……青の、何だっけな?まぁ、いいか。
そんな事を考えている内に、粗方の処理が終わった。後はゴミ袋に纏めた物を出しに行って、その途中で近衛局に寄るだけだ。これで二千龍門弊……一応元は取れてるけど、だとしても少ないな。いつもの依頼に比べりゃ全然マシだけどな。
「すみません。依頼の方が終わりましたので、報酬を貰いに来ました。」
「ああ、ローランさんですね。分かりました。少々お待ち下さい。」
今は近衛局に来ている。相変わらず統一された内装でピシッとしていて、俺みたいなのがいるのは場違いだと思わされる。
本来なら依頼を遂行したら必ず確認を取って貰うんだが、その辺は信用されてるらしい。だったらもっと良い依頼を持ってきて欲しいものだが、幾ら信頼があっても所詮は底辺フィクサー。実力が足りないと判断されても仕方がない。
「はい。お持ちしましたよ。」
「ええ、ありがとうございます。」
そして俺は今回の報酬を受け取ろうと、手袋を外し………視界がブレた。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、たっぷり10秒経過したところで、ようやく俺が取り押さえられているのだと理解出来た。
周囲を見渡す。制服に身を包んだ近衛局兵士が3人、俺を押さえ込んでいる。床に強く打ち付けられたからか、鉄の味がした。少し離れた所で兵士の1人が無線機を取り出している。
さっきまで愛想笑いを浮かべていた事務員はカウンターの向こう側で立ち上がり、まるでゴミでも見るかのような視線を向けてくる。
何で俺はこんな目に遭ってるんだ?少なくともやましい事はしていない。そんな事を考えていると、ふと、視界の端に自分の右手が映った。
フィクサー稼業を始めてから使い込んできた、数少ない信頼出来る物の内の1つだ。随分と汚してきたが、シミも傷も無い、強いて言えば綺麗な、なんて事無い普通の手だ。
そう思っていた。
手の甲の辺りに、黒い、艶のある物体が付着していた。というか生えていた。
俺はアダクリスでもないし、ましてやヴイーヴルでもない。だからこれは鱗とか、甲殻なんかじゃない。じゃあ何なんだ?いつから生えてた?
いつもだったらすぐに解る事だが、この時だけは頭が働くのを放棄して来た。早く動き出せと強く念じる。で、分かった。
押さえ付けられる。怯える様な目。差別する様な視線。いつの間にか生えていた黒い物体。
ああ、鉱石病か。
自身の破滅する様子が、頭にすんなりと入って来た。
必要最低限の物だけをリュックに詰めて、俺は今、テラの広大な大地を彷徨っていた。
あの後、薄暗い部屋にぶち込まれたかと思ったら、大体8時間ぐらい放置された。イライラしながら待っていると近衛局の奴が入って来て、一発殴られた後にとんでも無い事を言われた。
お前は感染者だから本来なら独房送りだが、今までの龍門への貢献度から見て特別に自由にしてやる。荷物を纏めて今日中に出て行け、だってさ。
思わず掴み掛かった。出て行けだと?ふざけるな。俺が今までどんなにこの都市の為になる事をして来たと思ってるんだ?そもそも鉱石病は他人に感染る物ではないというのは知ってる筈だ。これからどうしていけばいい?
そんな事を言っていたら滅茶苦茶に殴られた。我ながら情けないと思うよ。
お前の様な人間がいるだけで龍門の風紀が乱れるから、だとさ。じゃあスラムのヤツらはどうなるんだよ?アイツらは何で追い出されないんだよ。……龍門市民だからだってさ。龍門に来てもう数年になるって言うのに、俺は市民ですらなかったのか?
事務所の前まで連れて行かれて、荷物を纏めろと言われた。1番大きいリュックに食料と着替え(と言ってもスーツしかない)、ありったけの金と身分証明証を詰めた財布と護身用の大きな特殊警棒……に偽装させた剣を詰め込んで、コーヒーと昨日買っておいたハムハムパンパンのサンドイッチを食べて事務所を出た。この味とはもう会えなくなると思うと、寂しいものである。
この事務所だってそうだ。此処での苦楽を共にして来た俺の仕事場兼家だし、過去に一度だけ、俺の元に来たフィクサー見習いーーー……ちょっと違うが、まぁ似た様な物だろうーーーを受け入れた事のある思い出の場所だ。
暫くの間感慨に浸っていたら、近衛局のヤツらに強引に車に押し込まれ、検問前まで連行、検問から蹴り出されて、外で都市に入れるのを待っているヤツらに珍しげな視線を向けられて、現在に至る。
思い返してみれば、随分と落ちぶれたものだ。過去の実績も、今となっては俺を縛り付けるだけの鎖でしかない。
感染者になった俺には、受け入れてくれる場所も、その権利を手に入れる為の金も無い。鉱石病には感染しないように、十分に注意を払っていたんだけどなぁ。
いっそ、天災にでも巻き込まれて死んでしまおうか。そんな考えが頭を過ぎる。もし地獄が本当に存在するのならば、今頃俺が葬って来たヤツらが俺を待ち侘びているのだろう。そろそろ行っても良いのかもしれない。
生きる気力なんか、龍門に来る前に随分と擦り減って、だんだん戻ってきて、そして一気に削られた。今となっては自分の命なんて、どうでもいいとさえ思えてしまう。
どうせ死ぬんだ。最後くらい思いっきり楽しんでみようか。そんな考えをすぐに打ち捨てる。そんな事したら、アイツらと一緒になってしまう。それだけはゴメンだ。俺はあんなクソ野郎どもとは違う。
目的が欲しい。生きる目的が、死ぬ目的が。仲間が欲しい。俺を導いてくれる誰かが、俺と一緒に歩んでくれる誰かが。
遠くに、白い装束に簡素な仮面を被った、一団が見えた。
ローラン君
Library Of Ruinaという韓国製のゲームに出てくる主人公。世界観がかなり世紀末なゲームとして有名。この小説では龍門で活動する底辺フィクサーとして登場。とある二つ名を持っている。
ウェイ長官
龍門のトップを務める貴族。ローラン君を追放する事についてはどうでもいいと思っていた。この時点でやらかしてる。