黒い仮面のレユニオン構成員=黒い沈黙説(学会追放)   作:イカ墨リゾット

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みなさんは体調などを崩していませんか?私は体だけは強いので、激動の四月を何とか乗り越えられそうです。

マドロック姉貴とロスモンティス姉貴を引ける事を願って初投稿です。やったぜみんな!もうすぐゴールデンウィークだよ!(休めるとは言っていない)


ローランとW

ヴィクトリア王国のロンディニウム市、そのスラム街の何処かに存在する寂れた倉庫。倉庫の側の路地を一本の街灯が照らしている。その光は儚げで、今にも消えそうだ。

見る人によっては幻想的とも取れる光景だが、その光の元には似つかわしく無い、蠢く闇達が通り過ぎて行った。

特筆する点も無い、言ってしまえばごく普通な男達が倉庫の中に入って行く。全員が自身の両腕で抱えられる程の木箱を持っており、その瞳は若干の怯えが混ざりながらも、これから手に入る莫大な利益に爛々と輝かせている。

倉庫内の天井からぶら下がる電球の一部に灯を付け、運び込んだ木箱をそそくさと積んでいく。ずっしりと感じる重さに思わず笑みが溢れるが、それは倉庫内にいる全員が同じだった。

 

彼等は此処、ロンディニウムのスラム街で幅を利かせているギャング組織の一員であり、違法ルートで入手した商品を売り捌く、組織の収入を任されているチームの下っ端である。

最近はこのスラム街で最大の規模を持っていた『グラスゴー』が衰退した事により、実質裏ロンディニウムのトップの座が空席になった為、以前よりも組織間の抗争が多発していた。抗争には沢山の人員と武器が必要になる、つまり金がある組織が最終的に勝利を収めるのだ。

 

それはどのギャングも承知の事であり、全ての組織が新しいルートや収入源の確保に奔走している状態だ。

この倉庫内にいるギャング達が所属している組織はロンディニウムでは有名で、グラスゴーがまだ力を振るっていた頃から数々のルートを掌握しており、グラスゴーに続いて勢力が大きかった組織である。着々と資金を集めて力を蓄え、ギャングの頂点に立つ事を虎視眈々と狙っていた。

 

そして、この木箱達は彼等の目的への大きな一歩になる物であり、それこそ一気に抗争の大部分を鎮静化させる事が出来る程の物だ。運び込んだ木箱の内一つの上部をバールでこじ開け、中を確認してにんまりと笑う。箱いっぱいに詰まったエンケファリンは、彼等の将来を薔薇色に輝かせてくれる。

続いて、武装した大勢の男が倉庫に入ってきた。男達は組織に所属する戦闘員が殆どだが、中には歴戦の傭兵も混じっている。これらの物資を売り捌くまで守り通す。それが男達に課せられた役目だ。

 

三日間交代を挟んでこの木箱達に張り付き、ネズミ一匹逃さずに監視する。その間は常に精神を擦り減らすが、リターンを考えればさほど気にはならなかった。

下っ端の一人が無線機を取り出し、今回の命令を下したチームのリーダーに連絡を取ろうとするが、何故かノイズが混じっており、上手く連絡が付かない。その下っ端は溜息を吐いて無線機を仲間に渡し、直接リーダーに会う為に三人の護衛を連れて出ていった。

 

 

 

 

 

あれから三時間が経過したが、どうもおかしかった。直接リーダーに会いに行った四人が帰って来ないのだ。一時間もあれば行って帰って来れる筈なのだが、一向に帰ってくる気配が無く、さらに機械いじりが得意な男が先程から無線機をいじっているが、此方も通信が繋がる気配がしなかった。

全員が何か向こうであったのではと思い始めるが、守っている物が物である為、今度は本当に下っ端の五人をリーダーの元へと向かわせる事にした。

夜の闇に消えていく五人を見届けて、彼等は今一度、所持している装備の確認を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なぁ!もう本当に何も知らないんだよ!お願いだから、た、助けてくれぇ!」

 

「……コイツ、本当の下っ端ね。さっきの奴らを殺したのは不味かったかしら?」

 

男は自分が知っている全てを話したが、目の前のサルカズが目線を逸らす事は無かった。

三時間前に出ていった四人が帰ってこず、続いて男を含む五人が送り出されたのだが、急に街灯の灯りが消えたと思ったら何処かの路地裏にいた。

鉄の匂いに気付いて周囲を見渡せば、視界に映る血と肉。そして目の前に立つ二人の男女。男は今日ほど自身の不幸を恨んだ事は無かった。

 

「ねぇローラン。コイツの事、どうしようかしら?私に任せてくれてもいいけど?」

 

「いや、いいよ……俺に任せておいてくれ。」

 

ローランと呼ばれた男が前に出る。その手には鈍い銀色に輝くハンマーが握られている。

 

「ひ、ヒィイイイィイッ!やめろ!やめろって!俺が何したんだよ!?」

 

「まぁ、怖がるのも無理ないよな。けど安心しろよ?俺は別に殺しはしないよ。」

 

ローランはハンマーを振り上げる。

 

「……ちょっと痛いかもな。」

 

男のこめかみにハンマーが叩き込まれ、崩れ落ちる。ローランは男を担ぎ上げ、男が吐いた倉庫の方向へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな死体なんか抱えてどうするつもりなの?精々中身を売るぐらいしか出来ないと思うわ。」

 

「いや、だから死んでないって言ってるだろ?ちょっと記憶を吹き飛ばしただけさ。一人だけあんな光景脳に焼き付けて生きてくなんて、可哀想だからな?」

 

訝しげな目を向けてくるWに対し、ローランは空いた方の手でハンマーをぶらぶらさせながら話す。

 

ローランが握っている『老いた少年工房』製のハンマーは店主直々の精神に干渉するアーツが付与されており、先程の男にした様に、これで頭部を叩けば簡単に記憶処理を施す事が出来る。他にも破壊工作や相手の武器破壊にも使えるので、ローランはこれを重宝していた。

 

「この辺に置いておけばいいかなっ、と。じゃ、コイツが言ってた倉庫に行くとしますかね。」

 

「昔のあなただったら殺してたのに、わざわざ御苦労なモノね。」

 

「過去は過去で今は今だ。目先の事を考えようぜ?」

 

「それもそうね。」

 

ローランは手袋から長剣を取り出し、Wは手に握った起爆装置を回して遊んでいる。

ローランとWはタルラからの指示も無く、暇な時間が生まれたので、暇潰しと金稼ぎを兼ねてロンディニウムにまで依頼を探しに来ていた。

そこで知り合った金持ちから、復讐目的の為のとあるギャング組織の殲滅依頼を受け、夜になってからスラム中を飛び回って殺戮を始めていた。

 

「基本的にこの手の組織は『首から上』を潰せば後は勝手に自滅するけど、どうせなら『手足』も潰しておいた方がいい。あのおっさんも喜ぶだろうしな。」

 

「言っておくけど、あなたもそのおっさんの仲間入り間近よ?」

 

「……俺はまだ二十代だぞ?でも、マジか……確かに人によっては、おっさんか……?」

 

ショックを受けているローランが言っている『首から上』とは組織のトップやその周辺の幹部を意味する単語であり、『手』は組織の戦闘員、『足』は組織の財産の元締めや売人を意味している。ローランが一人で使っている言葉だが、それなりに長い付き合いをしているWは意味を把握していた。

 

「あー、お前は見てていいぞ。下手に爆破すると俺らも巻き添え喰らうからな。」

 

「それだったら大丈夫よ。今回はこのナイフで、丁寧に相手をするわ。最近は中距離から一方的に爆破してばかりだったから、ちょっと鈍っちゃったのよね〜。」

 

言葉とは裏腹に熟達したナイフ捌きを見せるW。ローランは苦しんで死ぬだろう相手の苦悶の顔を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜……取り敢えずは依頼、完了ってところかな?そっちはどうだ。怪我とかしてないか?」

 

「勿論よ。少しは腕の立つ奴もいたけど、精々雑魚の寄せ集めってところね。」

 

少し前まで男達がいた倉庫は、二人の人間を残して全て動かなくなった。血液が飛び散った惨状が広がっているが、二人は特に気にする素振りも見せずに話し合う。

 

「じゃあWは此処にも爆弾を仕掛けておいてくれ。確かまだ持ってたよな。」

 

「りょーかい。」

 

Wが爆弾の起爆装置の設定を始めているのを尻目に、ローランは何かと気になっていた木箱の中身を覗いていた。一見何かしらの食料品や雑貨に擬装されてはいるが、いかんせんお粗末なので簡単に正体を確認出来た。

 

「うわぁ……これ全部エンケファリンかよ?一体何人のジャンキーが生まれるんだろうな。こっちは………純正源石か。チッ、下っ端が何人感染しようとお構い無しかよ。」

 

「何々?何か良い物でも入ってた?」

 

横からWがずいと顔を出してくる。それも結構な近距離、かつ明かりを消していた為暗闇からだ。

 

「うぉっ!?……驚かせるなよ。まぁ、ほら……見てみろ。これ全部売り捌いたら報酬要らない気がするなぁ。Wは欲しいか?純正源石に理性回復剤、エンケファリンまであるぞ。純正源石に至っては何の処理も施されて無いから、運んでるだけで感染するとかクズだな。……俺が言えた事じゃないか。」

 

「源石爆弾の材料に必要だから、純正源石だけは貰っておくわ。はい。この容器に入れておいてね。あなたは私よりかなり後に鉱石病に感染したんだし、これくらいいいでしょ?」

 

「ま、そうだな……。」

 

ローランはWから容器を受け取ると、そこら辺から見つけてきた大きなトングの様な物で純正源石を詰めていく。動きに一切の無駄が無いところを見るに、ローランは依頼で似た様なモノを受けた事があるらしい。

 

「ねえ、エンケファリンって麻薬なのよね?これってどうやって製造してるか知ってるかしら?」

 

Wがエンケファリンが詰まった容器を指で遊びながら問い掛ける。

 

「ん?あぁ……俺も詳しくは知らないけど、一番最初にそれを生み出したのはライン生命だってな。なんでも、とある実験の副産物らしい。そこから成分を分析して複製して、被験者とかに投与してたらしいけど、何処かからその存在と実物が漏れた……らしいぞ。」

 

「ホント、やけに詳しく知ってるのね?」

 

「うっ………俺がまだ色を貰う前に、ライン生命から依頼を受けたんだ。この薬品が出回る前に売人を始末しろって依頼。その時に軽い説明を受けたんだ。一応依頼は達成したけど、やっぱ無理だったみたいだな。」

 

「はぁ……まったく、何でそんな依頼受けたのよ。あなたの頭を覗けば、この世の全てを知れる気がしてきたわ。」

 

「そんな頭の持ち主はいないよ。」

 

二人は悠々と倉庫から出て、依頼人の屋敷へ歩き始める。

 

「実の娘を殺された恨み、か。俺とお前に向けられた恨みってどれくらいあるんだろうな。」

 

「数えたくも無いわね。それよりもほら、空を見上げてみなさいな?依頼の成功に花火なんて良いと思わない?」

 

「まったくだな。」

 

ロンディニウムに爆音が響き渡り、夜空には複数の爆炎が上がる。一時的にだが、スラム街は昼の様に明るかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、あの無駄に強がってたヤツの顔は見た?バラバラにされるって分かってても何もできないあの絶望してる感じ、結構面白いと思わない?」

 

「俺には理解しかねるよ……。」

 

人気の無い路地裏をローランとWは歩いていた。ローランの手には依頼の報酬が入ったアタッシュケースが握られている。看板の切れかかったネオンが、ケースを不気味に照らし出している。

大規模な爆破が出来てご機嫌なWとは対照的に、ローランのその顔は陰鬱に染まっていた。

 

「にしても、何かに引火したのかしら?思ってたより爆破が派手になったわね。」

 

「なぁ……俺って、何で生きてるんだろうな。」

 

「機会があればもう一度……はぁ?何よ急に。」

 

上機嫌で語っていたWの話を堰き止める様に吐き出されたローランの言葉に、Wは少しイラついた様子で返す。

 

「自分が生きたいから生きてるんでしょう?それ以外に何があるって言うのよ。」

 

「そうか、そうだよな……お前には、生きる目的があるもんな。それに比べれば、俺なんて……。」

 

「……ちょっと、本当にどうしたのよ?」

 

遂にローランはケースを手放し、頭を抱えて壁にもたれ掛かってしまう。一瞬見えた表情は歯を食いしばっており、その目には生気が感じられなかった。何処か苦痛の表情にも似たものを浮かべるローランから滲み出た黒い靄に、Wは目を見開く。

 

「さっき殺したヤツらの中に、一人だけ家族写真を持ってるヤツがいたんだ。俺は、特に生きる目的なんか持たずに、逆に持ってるヤツらを殺したんだ。何でこんな事してたんだ……。」

 

「……まだ立ち直れて無かったの?いい加減断ち切ったらどうなのかしら。弱肉強食の世界なのよ。殺した分だけ生きたらどう?」

 

ローランから滲み出る黒い靄が次第に濃くなっていくのを見て、Wは焦りを覚える。

 

「違う、違うんだ。俺なんかが生きてたって、何も良い事なんて起こりはしない。」

 

「世界はいつも俺から何かを奪っていく。俺はそれを取り戻して、俺自身の中身を埋めたかった。それだけだ。」

 

「だからと言って、他人から奪って良い訳じゃないんだ。俺は今まで何人殺した?殺した分だけ、幸せを掴めたのか?」

 

「結局、俺は空っぽのままだったんだ。底の無いバケツに幾ら血を注いでも、満たされる事は無い。ただ、他を食い潰していくだけだ。」

 

黒い靄がローランを渦巻いていく。

Wはこの現象を知っていた。以前ローランが話してくれた事がある。一部の人間は自身の特定の感情が最大限に到達した時、その心情を現実に引き出すと。最初は馬鹿馬鹿しくて気にも留めていなかったが、実際にそれを見て考えを改めた。

ローランは過去に一度だけ、これを引き起こした事がある。その時はローランがかなり疲弊していた事と、Wが尽力した結果事なきを得たが、今回はそうはいかなかった。簡単な殲滅だった為にローランは疲弊しておらず、Wは証拠の爆破の為に大量の爆弾を消費した。

 

このままだと周囲一帯が更地になるのは火を見るより明らかだった。あの黒い靄は有る筈も無い中身を埋めようと、全てを飲み込んでしまう。

Wは、ローランがこんな姿で苦しむのを、見たくは無かった。

 

「ぁ……W?」

 

「しょうがないわねぇ……あなたは別に、空っぽなんかじゃ無いわよ。ちゃんと考えて動けるし、私をおちょくる事だってあるじゃない?」

 

「じゃあ俺は……何で、生きてるんだよ?」

 

「それぐらい自分で見つけるモノよ。………そうね、少なくとも一つあるわ。」

 

「私は依頼人で、あなたはそれを受けたフィクサー。まだ依頼を受けているのに、勝手に逃げようって言うの?」

 

「私の依頼を達成する。これだって、立派な生きる意味でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、ゴメン、W。凄く情けないところを見せちゃったなぁ。しかも、お前に慰めて貰うなんてな。」

 

あの後、ローランは立ち直る事が出来た。顔色も良く、いつものおちゃらけた態度もとるようになったが、背中は冷や汗で濡れていた。

 

「ほんっっっとうにその通りよ。はぁ、この私があなたを抱き締めるなんて、何をさせたのか分かってるのかしら?」

 

「うん。ゴメン。本当にゴメン。ほら、この通りだ。」

 

ローランは以前依頼で行った事がある極東で教わった、どうしても相手に謝る、もしくは自身の意見を貫き通す為の奥義、土下座を披露した。

 

「ふーん、そう……まぁ、許してあげるわよッ!」

 

「ふゲェっ!?……は、ははー。そのお心遣い、感謝します……痛てぇ。」

 

地面に付けられたローランの頭を、Wは踏み抜いた。カエルが潰れた様な声が漏れるが、ローランは全て自身が悪い事を自覚しているので抵抗出来ない。

 

「あースッキリした……いつまで寝てんのよ。さっさと立ちなさい。それと、完全には許してはないからね?」

 

「逆にそこまで許してくれるだけありがたいよ。……あー、腹減ったなぁ?何か食おうぜ。」

 

「ま、確かにそうね。……この時間で開いてる店だと、ピザが良いわね。」

 

「お、ピザか。いいな。」

 

二人は道を進んでいく。そこに、さっきまであったしがらみは殆ど無かった。

止まる事はせずに、ずっと歩き続ける。そうすればきっと見つかる。希望的観測だが、どんな形であろうと生きる意味が見つかるのは間違い無い。

 

「ピザと言ったら、やっぱクアトロ・フォルマッジだよな!濃厚な味わいとあのチーズの伸びが堪らないぜ。」

 

「何言ってんのよ。ピザと言ったら、普通はマルゲリータでしょ?バジルの風味とモッツァレラチーズ、そしてトマトソースの味。あのシンプルさが一番なのよ。」

 

「「………あ゛?」」

 




・ローラン君
年下に慰めて貰う二十代後半。色々と吐き出したらしい。クアトロ・フォルマッジ派。

・W
年上を慰める聖人。実際のところWの抱きついてまで慰めるというファインプレーが無ければ、ビクトリア王国に虚無ゾディアが爆誕していた。マルゲリータ派。

・シージとインドラ
ロドスで寛いでいたところ、部下から危険視していた敵対組織が一夜で壊滅したと聞いて椅子から転げ落ちた。

・老いた少年工房
極東に店を構える個人制の工房。店主が一人で切り盛りしている。作成した物に店主がアーツを付与し、性能を高めてくれるが、店主が認めた人物しか入店出来ない。工房名通り、店主はヴァルポのショタジジイ。
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