黒い仮面のレユニオン構成員=黒い沈黙説(学会追放) 作:イカ墨リゾット
危機契約が全く進まないので初投稿です。イフリータちゃん昇進2しちゃったよ……。
有りと有らゆる負の感情がごちゃ混ぜになった様な剣撃。荒々しい激情の刃をスカジは防ぐ。
体全体を使い、斜め右上から振り下ろされた長剣を受け止めながら、スカジは鍔迫り合っている大剣越しにローランを観る。先程まで浮かべていた歪んだ表情は消え失せ、代わりに恐ろしいまでの無表情が貼り付いている。廃墟を移動しながら、様々な方向から飛び掛かる斬撃を受け流す。
何かしらの覚悟を決めた時、ローランはその感情を絶対に表に出さない。スカジはそれを知っていた。しかし、知っていたからこそ、ローランがどんな覚悟を決めたのか、ある程度の予想が付いてしまった。
ローランはスカジとの関係を完全に断ち切ろうとしていた。攻撃の一つ一つに殺意が纏わり付き、致命の一撃と成ってスカジの体へ繰り出される。
ローランとしては、スカジを殺すぐらいなら自分がスカジに殺されたかった。それぐらいでしか、友だちとの関係を断つ方法が思い付かないからだ。自身が死んで悲しむ人間など、三本の指で数え切れるぐらいしか思い付かないし、戦死という形ならきっとWも納得してくれる筈だ。せめて、自分が知っている誰かに引導を渡して欲しかった。
だが、おかしい。自分という殺人鬼が殺すつもりの攻撃を叩き込んでいるというのに、何故彼女は、スカジは殺意を出さないのだろうか。さっきの一撃だってそうだ。アレがローランの頭を真っ二つにするつもりで放たれていたのなら、ローランの腕の傷はもっと深かった。相手が凶器を手に襲い掛かってきたら、誰だって本気で抵抗するだろう。チャンスさえあれば凶器を奪い取り、躊躇無く相手を殺す。
そんな当たり前の事をしないのは、生きる意味を見出せない負け犬か、他殺願望を抱える精神異常者だ。
じゃあ、目の前の友だちが取っているのは何だ?数え切れない程見て、叩き潰してきただろうが。アレは防御体勢だ。相手の出方を伺い、カウンターを入れる為の体勢。ああ、分かってる。スカジはそんな事をするヤツじゃ無いなんて事は、最初に出会った時から察してた。
何で受け止めようとするんだ?何で反撃に転じようとしないんだ?躊躇う必要はないんだ………だから、俺を救うなんて間違ってるんだ。
一向に反撃しようとしないスカジに腹が立ち、ローランは手数で圧倒しようと武器を変える。
その両手に握られるのは『ケヤキ工房』製の戦斧とメイス。硬い相手にはメイスで、そうじゃない相手には戦斧で対応出来る組み合わせだ。回転する様に両腕を振るい、その大剣ごと粉砕せんとばかりに叩きつける。
別々の方向から迫る攻撃に、スカジは冷静に対処する。戦斧を大剣の刃で受け止め、メイスは柄で無理矢理挟み込む様にして防ぐ。尋常じゃない衝撃に手が痺れるが、武器が零れ落ちる事は無い。
今、最もローランの心に近く、それを外側から治す事が出来るのはスカジだけだ。Wでさえも、その心が崩れない様に補強する事しか出来なかった。
私がローランを止める。その覚悟はローランの覚悟に並び立つ。深淵の如き闇に囚われる彼に、私が光を指し示す。それが友だちだから。
より一層強固になる防御に、ローランは攻めあぐねる。幾ら攻撃を加えても、彼女が揺らぐ気配がしない。
だったら、君が俺を嫌いになるまでやるだけだ。動きはもう、大体把握出来ている。
スカジが漸く繰り出した、ただの牽制の為の攻撃。それを完全に見切ったローランは、大剣の腹に向かって、戦斧から持ち替えたハンマーを思い切りぶつけた。
予想外の方向からの衝撃にスカジの体幹が崩れ、胴体ががら空きになる。ローランはその腹部を………メイスで振り抜いた。
腹の中身が潰れて、混ざり合う感触。目を見開く友だち。口から溢れる血液。ローランは瞳越しに伝わってくる傷を振り払う様に………鳩尾にとてつも無い勢いで爪先を蹴り込んだ。
その一撃をまともに喰らい、しかし先程ローランがやって見せた様に、衝撃を利用して距離を取るスカジ。口内を蹂躙する液体を吐き出し、必死に呼吸をする。大剣を杖にして立ち続けるその姿は、誰の目から見ても重症だ。
「ごほっ、ごほ、……一つ、教えてあげるわ。」
腹部を押さえながらも、その目はしっかりとローランを見据えている。口元から顎に伝う血液を拭い取り、言葉を紡ぐ。
「貴方は私を殺そうと思っていたのなら、今の一撃で殺せたわ。……結局、貴方は私を殺せなかった。」
弾かれた様に動き出したローランの両手は、手袋から黒いショットガンを取り出し、銃口をスカジに向けた。引き金に人差し指を掛け、親指で散弾が炸裂する距離を調整する。
銀色のパーツが光り輝いた。
「私だって貴方を殺したくないわ。だから助けるの。私の覚悟は……貴方よりも強いのよ。」
スカジにとっては聴き慣れない発砲音が鼓膜を震わせる。1mも離れていない地面から破片が飛び散り、スカジの肌を傷付ける。
空になったシェルを排莢し、ローランは狙いをスカジの頭に向ける。仄かに香る硝煙の匂い。
「……俺が君を、殺せないだって?そんな訳無いだろ。俺はもう、決めたんだよ。」
「手が震えてると、説得力の欠片も無いわよ。どうしたの?それで私の頭を吹き飛ばせるんでしょう?」
スカジは、ゆっくりと大剣を担ぎ上げた。もう腹部は押さえていない。
「前に色々と普通じゃ無いって事は言ってあったでしょ?私はもう動けるわよ。最大のチャンスを逃してしまったのにね……貴方は、安堵している様に見えるわ。」
「……。」
その銃口から次弾が発射される事は無く、手袋へと消えていった。前髪を掻き上げながら、ローランは口を動かす。
「スカジ。俺はさ、君になら……ッ!!」
何処か悲しげな表情は、即座に憤怒一色へと変貌した。
「お前らは、お前らはッ!!煩い五月蝿いうるさいさっさと黙れよッ!!死ねよッ!!邪魔くせぇーんだよおおおおおッ!!」
振り抜いた長剣と、巨大な逆三角形の盾が激突する。突如回転を始めた盾の縁にローランは押され、下がると同時に幾つもの矢が飛来する。その全てを長剣で切り払い、一刻も早く消し去りたい乱入者達を睨み付ける。
盾を構えた、長身のオニの女が立ち塞がり、その背後から続々と近衛局の兵士やロドスのオペレーター達が姿を現す。そのさらに後ろでは、数人の人影にスカジが運ばれて行く光景が見える。
「何も聞こえないと思えば、いきなり叫びだすとはな。うるさいのはお前の方だぞ。」
前に出たチェンが剣先をローランに向ける。
「……フロストノヴァはどうした。さっきまで戦ってただろ。」
「あいつはもう撤退してる。残っているのはお前だけだ、黒い沈黙。」
「……チッ。」
一瞬で拳銃を両手に出現させ乱射するが、即座に対応した近衛局とロドスの重装オペレーターに防がれる。これ以上撃っても無駄だと判断したローランは、クリスタルアトリエの双剣に切り替えて跳躍した。
狙いは敵の後衛。内側から潰してやる。
周囲の建物を蹴り、敵の中心へと飛び込む様に接近するローランを迎撃したのは、巨大な紫色の一撃だった。完全に何も無いところからの攻撃。師匠の顔が脳裏を過ぎるが、体を捩って即座に下がる。
気付けば、最初にいた位置へと戻って来ていた。先程のアレは、恐らく姿を消すアーツの持ち主が潜伏していたのだろう。
「お前への対策はある程度出来ている。真っ向での戦いに持ち込めれば良い。」
「そうかよ。なら、コイツは初めてだな?」
オニの女───ホシグマが刃を回転させながら盾をローランに振るが、思わぬ衝撃に弾き返される。オニの膂力を使って強引に盾を構え直すが、下から跳ね上げられた。
流石に不味いと感じた重装オペレーター達が前に飛び出し、ホシグマを守る様に盾を掲げるが、今のローランにとってそれは悪手でしか無い。チェンとホシグマが下がれと怒号を飛ばすが、間に合わない。
膨大な質量で身体が真一文字に両断され、それを防いだ者は上から盾ごと切り裂かれる。
ローランが使用したのは『ホイールズ・インダストリー』製の大剣である。峰の部分に張り巡らされたパイプ。取り付けられたシリンダーが伸縮し、剥き出しの歯車が噛み合って回り、蒸気を吹き出す。機械仕掛けの大剣を前に、盾で防ぐという行為は愚かとしか言いようが無い。
スカジならば受け止めていただろう。だが、目の前に転がっている人間だったモノは出来なかった。それだけの違いだ。
目を覆いたくなる程の激しい閃光が当たりを包み、光と影を作り出す。瞼や掌、ヘルメットのバイザー程度で対処出来る光量では無い為、殆どの者が個人差はあれど視界を失う事になった。
ローランはすぐさま大剣の腹を盾に閃光の遮断を試みたが、何者かに襟首を勢いよく引っ張られた為、それは叶わなかった。そのまま誰かに担がれ、されるがままに運ばれていく。しかし、その感覚は不思議と安心するものだった。ローランは、その誰かのぼやける横顔を見て、意識を手放した。
「……閃光弾か、やられたな。」
「どうしますか隊長。追跡は可能かと。」
「いや、やめておこう。何かしらの罠に誘い込もうとしているのかもしれん。兵士達も疲弊しているし、死傷者も発生している……死体を回収しろ。ロドスのドクターへの報告も兼ねて、撤退する。」
「っは、ほんっとうに重いわね。どうやってこんなモン振り回してるんだか。」
気を失ったローランの右腕を肩を組む様に掴み、空いた方の手で大剣を引き摺りながら、Wは落ち着ける場所を探して進んでいた。
あの乱戦状態に上から閃光手榴弾を投げ込み、視界を潰してからローランを回収したWは、未だに起きる気がしない友人をジト目で射抜いた。久しぶりにじっくり観察したローランの顔は、Wの記憶に鮮明に焼き付いた。
戦闘の影響で乱れた頭髪からは整髪料の香りがした。髭は綺麗に剃ってあり、不快感は感じない。肌は艶こそ無いがすべすべとしており、痩けていない。目元が若干黒くなっているのは、恐らく寝不足だからだろう。緩んだ眉間には、うっすらと皺が走っている。どんな時でも──笑っている時も、怒っている時も──眉間に皺を寄せている所為だろう。その目付きの悪さが第一印象になっている事を、この男は知らないらしい。無意識でやっているのだろうが、良い加減に辞めた方がいいだろう。
相変わらずの黒いスーツは、所々に赤黒い汚れが付着している。よくよく見れば、左の前腕が裂けていた。Wは一際大きく溜息を吐くと、ローランをゆっくりと地面に降ろす。自身のポーチから消毒液と包帯を取り出し、慣れた手付きで傷の処置をしていく。ローランはスーツのポケットに何か入れている訳でもなければ、バックパックを背負っている訳でもない。要するに怪我を治療する為の救急キットの類を一切持ち歩いていないのだ。これには傭兵をやっているWとしても呆れるしかない。さっさと依頼を終わらせて去っていくのがローランのスタイルだが、それでも最低限の物は常に持っておくべきだろう。
少しだけ苛ついていたWは包帯を巻き終えた腕を強めに叩くが、ローランが目を覚ます気配はしなかった。自身が歩いてきた方向を見るが、誰かが追いかけてくる気配は無い。折角仕掛けたトラップが無駄になってしまったようだ。気晴らしに片手に持った大剣に目を向ける。
爆弾を扱う関係上、Wはある程度機械に関して詳しいが、この機械仕掛けの大剣はどのような仕組みなのか理解出来そうも無かった。持ち手のトリガーを引き、大剣の速度と威力を高めるのは分かるが、何を動力にしているのか、どのように大剣を加速させているかが理解出来なかった。アーツが付与されている雰囲気がしないので、恐らく機械しか使っていない。Wは首を捻った。
上から奮闘するローランを眺めながら戦況を伺っていた時、この大剣から蒸気が吹き出ているのが見えた為、実は結構単純な仕組みなのかもしれない。
刃が付いている側の持ち手の近くに『Wheel's-Industry 』と刻まれている。これを製造した工房の名前なのだろう。今度、ローランに聞いてみようかと考える。
なんとなく、大剣の持ち手をローランの掌に押し付ける。すると、大剣は僅かな銀の光を残して消えていった。こんな事なら、最初からこうすれば良かったとWは天を仰ぐ。こちら側からは外に出せないのに、仕舞う事だけは出来るのか。
「……私じゃ、あんたの事をちっとも救えないって言うつもりなの?」
ローランからの返答は無い。
「別にいいわ。あのお友だちと何をしていたかは知らないけど、あんたが自力で立ち上がるしかないって。私はそう思ってるから。これ以上面倒くさい人間なんて、見た事無いわ。」
Wは再びローランを担ぎ上げ、歩き始めた。
・ローラン君
まだ完全に決心がついていなかったので、Furioso不発。
・スカジ
スカジ「もう治ったわ。」
ガヴィル「ウッソだろお前!?」
・W
ローランとスカジの関係が気になっている。
・ケヤキ工房
多数の地域に支店を持つ工房で、駆け出しのフィクサーでも扱えるような武器に良心的な値段。性能も中々。ローラン君が所持する戦斧とメイスは作らせた物ではなく、とある知り合いからの贈り物だったりする。
・ホイールズインダストリー
レム・ビリトンを中心に活動する工房。ロマンを追い求める狂人が数多く所属する。ローラン君曰く、俺はただの大剣を注文したと思ったら、何故か魔改造されて渡された。何を言ってるのか分からねーと(ry
本作のWheel’s-Industry は作者が勝手に付けただけなので、本当の英語版はよく分かりません(サボり)
メカメカしい便利屋「ローランノヤツ、レユニオンッテ組織ニ参加シタッテヨ。」
帽子を被った便利屋「また昔みたいに荒れていないと良いんだけど。」
三鳥みたいな便利屋「我は危険な状態にあると予測するぞ。」
天使みたいな便利屋「私達でも手に負えないですからね……。」