黒い仮面のレユニオン構成員=黒い沈黙説(学会追放) 作:イカ墨リゾット
今いる場所に、これから行く先に、そして辿り着く場所に、誰かがいると安心出来る。それが自分と同じ境遇、又は同じ目的を抱えてるってなると、随分と気楽になれるってもんだ。
ん?ああ、俺だよ。ローランだ。……こんな見た目じゃ分かんないか。
俺が見つけたあの白装束の集団は、『レユニオン・ムーブメント』って言う感染者の自由を取り戻す為に戦っている組織の、その1部隊だったらしい。……知らなかったな。それも、結構な規模があるみたいだ。
全員が感染者で構成されていて、種族はサルカズにウルサス、フェリーンにリーベリと様々だ。正直言って驚いたな。だって普通だったらサルカズは魔族だとか言われる、所謂差別の筆頭なんだが、その差別が全く無かったんだよ。互いに気を配り合って、励ましあって、支え合っていた。そこに種族の垣根なんか無かったのさ。
……一度鉱石病に感染しなきゃ、こうはならないんだろうなぁ。つくづく、悲しいモンだよ。俺が言えた事じゃ無いけどな。
最初は勿論武器を構えられて警戒されたが、俺が感染者だと分かると、まるで家族に接してるみたいに暖かく迎えてくれたよ。……あんまこう言うのには慣れて無いんだ。顔が赤くなってもしょうがないさ。
その後にアイツらの組織の方針を聞いて、まぁ、悪いモンじゃ無かったからな。それに行く宛も無かったし。俺も参加したんだ、レユニオンに。
そしたら今着てる、アイツらと一緒の白装束と仮面、武器を渡されたんだ。
スーツを綺麗に畳んでリュックに入れてから、パーカーとシャツが合体したみたいな制服を着て、チェストリグを着ける。結構大きめだな?
改めて周囲を見渡す。ピッタリなヤツもいれば、ぶかぶかなヤツもいる。どうやら全部一緒のサイズでしか支給されないらしい。定期的に体を鍛えておいてよかったよ。
武器は粗末な作りの、それこそ大量生産品ですよと言わんばかりの鉈だった。鍔が無く、握る部分に布が巻いてある。なんとも危ない獲物だ。
だからこれはもしもの時の為の予備として受け取って、俺はみんなに持って来ていた剣を見せて、ついでにある程度なら戦えますよアピールもしておいた。どうやら戦えるヤツは大歓迎らしい。
そして仮面を渡されたんだ。アイツらはコレしかなかったんだと言っていたが、一体どう言う嫌がらせなんだろうな?
それは何処にでも売っていそうな、シンプルでチープな、無機質で、何処か不気味さを感じさせる仮面だった。アイツらが被っているのと同じ物だ。
ただ1つ決定的な違いがある。……俺の仮面は黒かった。
俺がかつて被っていた『仮面』とそっくりの色、形だ。唯一違う点と言えば、2つの穴がぽっかりと、目の部分で開いている事だろうか。
俺は戸惑った。またコレを被るのかと。
あの仮面を着けている間は、自分の世界が広がっていて、誰にも邪魔されなかったんだよ。
飛んで来た瓦礫から、矢から、刃から、憎しみから、恨みから、……血から、現実から、あらゆるモノから守ってくれた。
着けている間は、俺が俺じゃ無くなる。全くの他人になれる。顔を隠せる、視線を隠せる、思考を隠せる。昔の俺にとっての必需品だったな。それ故に、外さなかった。外せなかった。
誰も知らなかった、知られなくたかったあの時の俺の顔。自分でもどんな顔をしていたのかは分からない。まぁ、どうせ碌でも無い顔だったんだろうな。
仮面を顔に近づける。勿論あの時の仮面じゃない。それでも、思う所がある。
俺はまた、ただ人を殺して、拷問して、破壊して、騙して、依頼を遂行する、まだ落ちぶれていなかった時の『フィクサー』になっちまうのかな?
ただ自分をひた隠して、忘れさせて、騙し続ける、あの機械みたいな、俺に?
いや、違う。今の俺は目標を持っている。仲間がいる。これだけ有れば、十分に違うじゃないか。だから違うんだ。
俺は仮面を、被った。
……ああ、懐かしいよクソったれ。
あの後、夕食になった。……お世辞にも美味いとは言えなかったけどな。
そこで俺の身の上話をしてみたんだが、みんなコレを聞いて同情してくれるんだ。何とも言えない感覚にモヤモヤしたけど、悪くはなかったかな。
そこで誰かが愚痴を言い始めたんだ。いや、恨みに近かったかな?非感染者の、感染者に対する扱いについて語っていた。
こうして考えてみると、結構無慈悲で、理不尽で、不条理なモンなんだな。この世は。
ただ病気になった。別に空気感染する訳でも無い。みんなも気を付けよう。それだけでいい筈だ。
……今更後悔してももう遅いな。過ぎた事なんだ。こう言うのからは逃げずに、受け入れる努力をした方が何倍も良い。俺が過去から学んだ事だ。
みんなが自分の夢を、希望を、後悔を、罪を話して、それをお互いに慰め合って、支え合う。仲間ってのはこんなモノだったっけ?あー、やっぱり分からないなぁ。
全員が全員、この世の最底辺を見て来たって顔をしてるんだよな。入り口ですら無いと思うんだけどな、それは。
まぁ、アイツらも、俺も、程度は違えど叩きのめされた弱者って事さ。こーしてみんなで集まれば、ほら、もう怖く無いだろう?
どうせ破滅する運命なら、それを知っていると言うのなら、1人で逝くよりも大勢の方が、苦しいけど、悔しいけど、怖いけど、まだマシなんだ。あの孤独に比べれば。
ああ、仲間ってこう言う事か。
地平線の向こうから顔を出した光が、俺の瞳に突き刺さる。こうして拝んで見るのも久しぶりだな。
辺り一面、草木も生えない、その代わりに黒い結晶が連なっている、不毛の大地に今日もテラの風は吹く。全身で浴びているだけで、気分が清々しくなってくる。まるで仮初の希望が見えて来た時の様な、そんな空っぽな気分だ。正直言って、滅茶苦茶気持ち良いよ。最高だね。
あの後支給された毛布に包まって寝た俺は、いつもの習慣で染み付いた時間に起きていた。今、こうして崖からテラを眺めている。
遥か向こう側に移動都市が見える。この雄大な風景に混ざり込む異物は酷く邪魔くさい。いっそピンポイントで天災にでも巻き込まれたりしないかな?
みんなは鉱石病は悪だって言ってるけど、それは間違いだと思うんだ。
俺達はどうやって此処まで発展する事が出来たんだろうな?どんな分野に於いても、根本にあるのは決まって源石だ。俺達は、源石無しじゃあ此処まで来れなかったのさ。
だったら何かしらの代償が有ったとしても、何もおかしくは無いだろ?そう言う事だよ。切っても断ち切れない、そんな関係。良い事だと思うぜ。
俺は別に鉱石病を恨んじゃいない。それはお門違いってヤツだ。対策を怠った、俺が悪いんだからな?
俺は恨んで、いや、怒っているのは今の感染者に対する扱いさ。感染したら人外扱い、異物扱い。相変わらず、世知辛いモンだな?
……おっと、どうやら結構、思考の世界に浸かってたみたいだな?詩人な気分ってこう言うのを言うんだろうなぁ。……フッ。
部隊の隊長から今日の活動について話される。ウルサス帝国付近の、とある山間部にある村での感染者の支援だとさ。……大丈夫なのか?
ウルサス帝国って言ったら、感染者への当たりがトップクラスに強い国だ。恐らくその村には感染者ばかり集められているんだろうけど、当然ウルサス帝国軍の見張りが巡回してるんだってさ。
うわぁ……、ウルサス人にはあんまり良い思い出無いんだよなぁ。
数ある種族でもトップクラスの怪力を誇るウルサス。屈強な男どもは兎も角、女子供でもりんごを握り潰せるなんてザラにある種族だ。
滅茶苦茶力が強い。それだけだ。それだけで十分な脅威になる。今までのフィクサー生活で、アイツらの怪力で無惨な肉塊と化したヤツを何人も見てる。ホント、攻撃を避けても生きた気がしないんだよなぁ。
味方にいれば頼もしいけど、敵に回った時は目も当てられない惨状が繰り広げられるんだ。何てったってサルカズよりも強いんだからな。力比べは挑まない方が賢明だぞって、身を持って教えてくれたアイツらには頭が上がんないよ。
さて、何人死ぬんだろうな?俺はそんな理由で死ぬつもりなんて全く無いけど、久しぶりだしな、勘が鈍ってなければいいんだけど。
でもさ、前を歩くアイツらが死んだらって考えてみても、何とも思えないんだよな。ただ生命活動を停止させただけ。他人と言っても過言じゃないヤツの死なんて、如何悲しんだらいいんだろうな?教えて欲しいモンだよ。
ホント、変わってないよ。忘れてたってだけだ。頭でも強く打ち付ければ忘れるかな?
ローラン君
何故か仮面を被る事に抵抗感を覚える二十代後半。
レユニオン・ムーブメント
感染者が非感染者に抵抗する為に作り上げた組織。最近、方針がズレ始めているらしい。