黒い仮面のレユニオン構成員=黒い沈黙説(学会追放) 作:イカ墨リゾット
そのやさしさに めざめた男♪
………
……
…
詫びるマーン!!
ローランが窮地に追い詰められている一方、ペイルにも深海からの魔の手が迫りつつあった。
「ロドス・アイランドの君達は、確かにチームワークは中々のものだけれども……個々の実力が、ね。」
拳銃の照準をチェンの額に合わせながら嘯く。
「勿論これは近衛局にも言える事だけど、このままじゃ今回の教訓を活かす機会は未来永劫なさそうだね?」
「……既に勝った気か?その傲慢さが足元を───!」
チェンの挑発を遮るように鳴り響いた銃声は、その音と痛みで沈黙を齎す。
「チェンさん!!」
「ああ。いや、ごめんね。そんな安っぽい挑発につい反応しちゃうのもそうだけど、これに関しては仕方がなくないかな?人間とは誰しもが常に他人の上に立ちたがるものさ。幾ら気を引き締めていても、自身の優位を確信できるのが心の中だけじゃなく現実でもできるのなら、誰だって傲慢になる。」
弾丸はチェンの右肩を大きく抉り、しかし止まる事なく直進して地面にめり込んだ。アーミヤが堪らずに叫ぶが、それには事態を好転させる力はない。
抉れた肩から飛び出したピンク色の筋繊維が血に染まっていく光景は見るからに痛々しく、チェンは傷口を確認して意識が飛びそうになった。どうも右腕が殆ど使い物にならなくなったショックよりも、ペイルのアーツが確実にチェンの心身を蝕んでいる結果の方が大きいようだ。
熱が失われていく四肢。理解してはいけない何かが鮮明に浮かび上がりつつある脳内。惨たらしく殺されて物言わぬ有機物になるか、精神が崩壊して廃人になるか。その二つに一つしかないとチェンは思い始めてしまった。
ブレイズは朦朧とする意識の全てを触手への対処に割いている為動けず、アーミヤや他の遠距離攻撃手段を持つオペレーターも触手に防がれて手が出せず、前衛を担当しているオペレーターと近衛局の隊員への被害は甚大。ドクターは身構えてはいるが、何かをしている素振りはない。
対照的にペイルは汗一つかいておらず、いかにも余裕といった風体だ。メフィストは自分の思うように戦況を動かせない事に不満気だが、ペイルとの実力差を認識しているファウストに釘を刺されているので大人しく家畜を操っている。
「苦しそうだね。心も体もズタボロだし、僕が楽にしてあげようか。」
その声に反応して一本の触手が持ち上がる。鎌首をもたげる蛇にも見えるそれは、誰かが割って入る隙をを作る事なくチェンに向かって伸びた。そして、その恐怖に震える瞳を貫く。
「ッ!?」
間一髪のところで触手は止まり、冷や汗をどっとかくチェンを他所に空にその先端を向けた。見れば他の触手だけでなくペイルも空を見上げており、その口元は忌々しげに歪んでいる。
「......ファウスト、君達は逃げた方がいい。非常に癪ではあるけれど、僕じゃあれを抑えきれそうにない。」
そう言うや否や全ての触手を空に向かって射出した。生々しい見た目とは裏腹にジグザグと不規則に伸びる触手は、一定の距離まで伸びるとその標的───ロドス・アイランドのロゴが刻まれた飛行機に向かって一直線に殺到する。
触手の豪雨がコックピットを直撃する、すんでのところで全ての触手が切り払われた。ペイルは勿論、その様を観察していたファウストも少なからず衝撃を受けた。あの物理もアーツもなんら効果を示さない丈夫さを備えたあの触手達が、毒々しい水色の蛍光色の液体を撒き散らしながら切断されたのだ。予想外の出来事にメフィストは硬直したが、それはロドスも近衛局も同じだった。
「ああ、本当にどうなってるのかな?いっつも良いところで邪魔してきてさぁ……来るぞ!!」
「っメフィスト、兵士を再展開しろ!狙撃部隊はあの飛行機に火力を集中させるんだ!」
着陸態勢にも入っていない飛行機から飛び降りるのは二つの影。普通ならば良くて下半身がミンチになる事間違い無しの高度からの落下だが、二つの影は空中にいてもお構い無しだと言わんばかりに身体を捻って蠢く触手達を薙ぎ払い、矢を弾き、大きなヒビを作りながら無傷で着地した。戦場に響く大きな衝撃に場が静まり返る中、ドクターだけが満足気に頷いていた。サムズアップしながらナイスタイミングとでも言いたげだ。
「急いで呼ばれて来た訳だけど、貴方の判断は賢明だったわ、ドクター。私達の専門分野ね。」
「深海から遠く離れた地であってもこの有様……忌々しくて堪りません!貴方ごと葬り去って差し上げますわ!!」
「……大人しく誰にも感謝されない戦いを続けてろよ。親玉を倒しただとかどうだとか、浮かれちゃってさぁ。」
落下の際の空気抵抗で飛びそうになったテンガロンハットを手で直すスカジと、怨敵を操る術者を前に歪んだ笑みを浮かべるスペクター。そして苛立ちを隠そうともせず、罵倒を吐き付けるペイル。
爛々と目を赤く光らせる二人と、ミチミチとトランクから不快な音を響かせながら水色の目で睨み付ける一人。それぞれの眼光が交差するのは一瞬だった。
突き刺すのではなく鞭のように触手をしならせて叩き付ける攻撃を難無く避けられ、肉薄されるも触手で自身を押し上げて距離を取るペイル。不安定な姿勢でも冷静に照準を合わせて発砲するが、銃弾はスカジが武器を引き摺ってから振り上げた事により発生した石礫に防がれた。一連の激しい攻防が皮切りになったのか、触手の猛攻から解放されていたロドスの面々が勢いを盛り返し始め、メフィストとファウストも慌てて迎撃に出る。
着地して舌打ちしたペイルは、なんとしてでも二人に近づかれたくない為、触手を大量に展開して数で押し潰そうとするが、相手はアビサルハンター。その使命故に大型の生物を駆逐する事に特化した深海の狩人だ。自身の身の丈程の長さがある大剣を軽々と振り回すスカジと、ギュインギュインと音を立てて回転する丸鋸を振り翳し、触手から飛び散る肉片や体液を浴びてもその笑みを崩さないどころか更に深めていくスペクター相手に有限である触手達だけで勝つ事は非常に難しい。覚悟を決め、触手が溢れ出るトランクを盾にしながらペイルは突撃した。スカジよりも前に出ていたスペクターが反応して丸鋸を押し付けてくるが、その先端をトランクの中に引き込む事に成功したペイルによって肝臓の辺りに鋭い一突きを喰らってしまう。アーツで体力と精神の両方を大きく削り取った上に、ダガーを刃の根元まで突き立ててから捻る様にして引き抜く。
噴き出る血液を見て急所への攻撃が成功した事を確信し、ほくそ笑むペイル。これでもうコイツは終わりだ、と。そうして心にできた余裕は次の瞬間にはペイルごと殴り飛ばされる事になる。
突如として回転する視界と腹部への謎の衝撃に混乱し、受け身も取れずに地面に叩き付けられたペイルが次に見た光景は、触手を捌き切り飛び上がったスカジが全力で大剣を振り被った瞬間だった。
突然の恐怖体験に思わず身が竦んだペイルは、回避は無理だと判断してあの状況でも手離さなかったトランクを盾に防御を試みた。同時に少しでも威力を軽減しようと飲み込んだままだったスペクターの丸鋸を触手で持ち上げて防御に転用する。そんな涙ぐましい努力をした仰向け状態のペイルに向かって、スカジは思い切り大剣を振り下ろす。
「おぶッ!?」
剣身を防いでもその桁外れの威力までは当然防ぎ切れず、地面と板挟みにされる形で全身を衝撃が駆け巡った。悲鳴を上げる両腕に、肺から吐き出された息。両の眼球が飛び出した錯覚すら覚える。それでも即座に身体が動いたのは幸運だとしか言いようが無いだろう。まるで役に立たなかった丸鋸ごと触手を放出してスカジを強引に押しのけ、その隙に立ち上がる。
(畜生、ダメージが……クソ、クソ、ふざけんなクソが!ウルサスでもここまで力は強くねぇんだよ!全身が痛い、くらくらしてきた、内臓もやられた……!)
今にも大の字になりたい欲求を抑えながら、ペイルは眼前に立つスカジ、ではなく離れた位置に佇むスペクターを睨み付け、率直な疑問を口内の血液ごと吐き出した。
「な、んでェ……生ぎでんだよ?ゴホッゴヒュ、お、おか、おかじいだろ……?」
確かに急所を刺した筈のスペクターはしっかりとその足で立っていた。普通なら死んでるか、よくて痙攣しながら倒れ伏してるかの攻撃を喰らってだ。刃の部分が完全に壊れた丸鋸を見ていた赤い目が、ペイルの姿を捉える。
「おかしいも何も、あの程度で死ぬ筈がありませんもの?勝手に貴方が勘違いしただけですわ。こうして痛みと引き換えに忌まわしい貴方を殴り飛ばせたのも、天使からの試練であり、祝福なのでしょうか……ウフフ、アハハハハハハ。」
鼓膜を揺さ振る狂気的な笑い声に苦虫を噛み潰したような顔をするペイルは、周囲を見回して更にその表情を深める。
気付けばロドスはあっという間に陣形を組み直して体制を立て直しており、メフィストとファウストは逃げの姿勢に入っていた。敗戦した事は火を見るよりも明らかだ。便利屋としてのプライドを深く傷付けられたペイルは屈辱だと嘆く。それでもって、逃走の準備だけは済ませていた。と言っても、呼吸を整えて記憶の中の文章を読み上げるだけだが。
「──恐ろしき雲よ出でよ。」
おどろおどろしい気配と共に、煙幕と表現しても差し支えない程の濃霧がペイルを包み込む。ペイルが何をするのか気付いたスカジとスペクターは即座に濃霧の中に突っ込もうとするが、ペイルの姿が完全に見えなくなった途端に濃霧は爆発的に広がり、辺り一体を覆い尽くした。
(よし、一旦スカーモールに行って治療を……)
傷だらけな、しかしそれでも原型を保っているトランクに入り込もうとするペイルのコートの襟を、誰かが勢いよく掴んだ。
「この程度で逃げられるとでも?」
「あ゛ぁ!?」
濃霧の中でもはっきりと存在を主張する双眼と目が合い、ペイルは思わず声を上げる。アーツなどではない、全く別の技術を用いて生み出したこの特殊な霧は、術者を除いた中にいる者を惑わせる。故に、この霧の中で目的に辿り着く事など不可能な筈なのだ。視界は遮られ、湿っぽいカビた臭いしかしない、不安を煽るぐらいに静寂で、何処から何処へと流れて行くかも分からない、この霧の中で。
だと言うのに、この女は。
(ああいいさ、やってやるよ!そんなに逃したくないって言うんなら、後を追うのが当たり前だよねぇ!じゃあ追わせてやるよ!)
「甘いんだよ゛ぉ!!」
(無理矢理ねぇ!!)
襟を掴む腕をがっちりと掴み、ペイルは賭けに出た。スカジが大剣で首を斬り飛ばそうとするや否や、瞬時にトランクから触手が飛び出し、ペイルとスカジを包み込んでから引き込んだ。
取り敢えずスカジを賭けのテーブルに強引に着かせる事には成功した。しかし、その肝心の賭けの内容が問題だ。
このままスカーモールに飛んだところで勝手に余所者を連れ込んで、剰えその場で殺し合い。仮に生き残ったとしても何かしらの処罰を受ける事は想像に難くない。触手の大元に飛んだとしても戦いに巻き込まれて自分は死ぬだろう。この化け物を確実に倒せる実力があって、尚且つ自分の失態を擦りつけても何とか許してもらえる人物。思い浮かぶ人間は一人しかいない。
普段は一瞬にしか感じられない転移の時間も随分と長く感じた。スカジはここでペイルを始末したら戻れなくなると本能的に感じたのか、大人しかったが。ペイルもここでスカジを振り落とす力も体力もないのでじっとしていた。
そして転移が終わり、目の前で開いたトランクの蓋から外に顔を出したペイルは叫ぶ。
「ロ゛ーラン!悪いけど……え゛?」
人外としか思えない実力者が跳梁跋扈するフィクサー、その頂点に立つ特色達。スカーモールから『黒』を与えられた男。面識があり、友人とまでは呼べないかもしれないが邪険に扱われる事もない存在。
ローランに助けを求めた。しかし、その言葉が最後まで紡がれる事はなかった。目の前の出来事があまりにも衝撃的だったのだ。
遅れて出てきたスカジがペイルを雑に蹴り飛ばし、胎児の様に丸くなる事しかできなくなった男を視界から外して正面を見据える。
そこには両手から血を流して項垂れている大切な友だちと、
「ローランに何をしたのかは説明しなくていいわ。早くこっちに渡して頂戴。」
「……はぁ?いきなり登場して、妄言吐かれても困るんだけど。」
その友だちを愛おしそうに抱きしめていた銀狼がいた。
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スカジ「可能性のローラン三銃士を連れて来たわよ」
W・ラッピー「可能性のローラン三銃士?」
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ローラン「本当の自分を知られるのが怖いんだ」
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ローラン「自分のメンタルが一番ヤバいのはナイショだぞ」
スカジ「ラッピーの粘着を振り切れなかったローラン、絶賛Furioso中」
ローラン「俺には苦痛しかありませんでした」
誰かやる気スイッチ押してクレメンス……