黒い仮面のレユニオン構成員=黒い沈黙説(学会追放) 作:イカ墨リゾット
見渡す限り街並みは破壊に溢れていて、少し前まで人が生活していたとは、とてもじゃ無いが思えない。
割れたショーウィンドウ。煙をあげる炎。時折響き渡る人生最後の絶叫。どれを取っても地獄としか言いようがない。
それでも、そこに生物は存在する。白装束に仮面を着けて、今まさに他の生物を殺す為に彷徨いているが。
恐怖に顔を引き攣らせた死体。散らばる色んな形の人体の部位。赤く染まったテディベア。その近くには小さな肉塊が転がっている。
レユニオン・ムーブメントに襲撃を受けたチェルノボーグは、人々の傲慢さと憎悪が混ざって完成した芸術品と言っても過言では無い。これを見れば、まともな感性を持ち合わせた人なら、それに込められたメッセージを読み取る事が出来るだろう。
そんなチェルノボーグの中にも、レユニオン以外でまだ生き足掻いている者はいる。もっとも、その者達は日に日に数を減らしていっているが。理由としては、たった一つのビスケットを求め、例えそれを手に入れたとしても、損害の方が多い殺し合いをしているとか。
少女が別の少女に馬乗りになり、顔面を殴打し続けている。殴られている少女は抵抗しない。もはや原型を留めていない脳は、体に指示を出せないのだから。そして殴っていた少女も、次第に動きが止まり始め、自らの手で殺害した妹の名を呟き始める。テラでは平凡でありがちな悲劇だ。
しかし、チェルノボーグの中を走り抜ける一団があった。他の者達に比べれば足取りは素早く、自分達が目的を達成する為に走っている事を忘れていない。
記憶喪失になってしまったドクターを救出したロドス・アイランドのオペレーター達は、途中で発見したウルサスの少女達を保護しながら進んでいた。この地獄から脱出する為に。
メフィストと名乗る少年と、謎の狙撃手による襲撃に反撃し、ドクターは此処は戦場であると実感する。
レユニオンの襲撃により、既に崩壊寸前だったチェルノボーグを天災が襲う。彼らは建物の瓦礫に身を預け、追い打ちの様な天災をやり過ごす。
道中でタルラと呼ばれる、レユニオン・ムーブメントの指導者に会い、少なくない犠牲を払ってどうにかこれを乗り越えて、今現在、恐らくレユニオンの幹部の1人と思われるサルカズの女性に攻撃を受けていた。
爆発物を扱うそのサルカズは、卓越した技術による爆破と、自身の指揮によって動かすレユニオンの兵士でロドスの一団を確実に追い詰めていった。途中で射撃オペレーターのアドナキエルが反撃を試みるも、爆風に巻き込まれ重傷を負ってしまう。
もう少しでこの悪夢の様な移動都市から脱出できると言うのに、あと僅かだと言うのに、そこまでの道はとてつも無く長いと感じられた。
そして、遂にロドスの一団は追い込まれてしまう。目の前の敵を突破せざるを得ない状況に陥ったのだ。
サルカズの女性は自身の事をWと名乗った。どうやら傭兵らしい。更に、先程救出したばかりのドクターの身柄を要求してくる始末。源石爆弾のピンに指を通し、不敵に微笑むW。身構える兵士達。
ドクターと呼ばれている彼も覚悟を決めたようだ。目が覚めてからの少ない経験を頼りにし、戦術を組み立てていたその時、戦場には似合わない、何処か気が抜けた様な声がした。
「なぁW。これって俺も手伝った方が良いのか?」
思わず声のした方向を向いてしまう。ドクターはおろか、オペレーター達やWまでが顔の向きを変えた。
内装が剥き出しになっているビルの二階、崩れて無くなっている床の縁に一人の男が足をぶら下げて座っていた。
あまり見る事の無い黒髪黒眼、黒い革靴に黒いスーツを着ていて、手には黒い手袋をはめている。右手には黒い鞘に収まった長剣を持っており、左の二の腕に、まるでDNAの様なシンボルが入った腕章を着けている事から、彼がレユニオンに所属しているのだと分かる。
突如現れた黒尽くめの男。Wの様に兵士とは明らかに違った服装をしていたり、Wを呼び捨てで呼んでいるところからWと同じ地位である可能性が高い。
つまり、それは彼もレユニオンの幹部と言う事だ。まぁ、実際には幹部に相応しいか試験中なのだが。
レユニオンは実力主義である。だから、あまり信頼されない傭兵であるWも幹部なのだ。となると、彼もWに匹敵する、もしくはそれを上回る実力を持っている事になる。
それならばここでより警戒を強めるのが普通だが、優秀なオペレーターであるドーベルマンやニアールでさえ、それをするのに遅れてしまった。勿論理由はある。
感じられないのだ。強者であれば持っている筈のモノを。人に聞けば、聞いた人の数だけ答えが返ってくるだろう。視線だとか、立ち振る舞いだとか、オーラだとか。
それらが一切と言う訳では無いが、少なくともWやタルラ、メフィストから感じていたモノは感じられない。
敵の目の前で座り込んでいたり、わざわざ声を掛けたりと無防備にも程があるが、不思議と隙は無かった。でも、ただそれだけ。脅威には値しないと脳は評価を下してしまう。
「別に見てるだけでも良いけど、少しは肩慣らしとして戦ってみたら?」
「……それもそうだな。でも、あの騎士とか強そうだな?あー、声出さない方が良かったかも。」
別に隠している訳でも無いが、当然の様にニアールを騎士だと見破った男は、ビルから飛び降りて着地し、Wの側まで歩み寄った。
ロドスの一団は男と向かい合う。彼はリラックスしている様子で、目付きが良いのか悪いのか、何とも言えない様な視線を向けていた。そして暫く考えている様な様子を見せた後、横に居るWに話しかけた。
「まぁ、やれるだけやってみるよ。あ、俺を爆発に巻き込むなよ。手足が吹き飛ぶとか御免だからな。」
「それはアンタの腕の鈍り様によるわね。ボサッとしてるとあの世行きよ?」
「うへぇ……。」
彼は顔を若干顰めると、姿勢を正して此方を見据えた。どうやら左利きらしく、柄に左手を掛けている。戦う気になったらしい。
正直なところ、この男が一体どれほどの実力を持ち合わせているのか。それはこの場に居る者だとWにしか分からなかった。
ローランはなりすます事が上手かった。一般人や様々な職業の人になりすませば、それだけターゲットに近付きやすく、気付かれにくい。素人や弱者になりすませば、敵や同業者とお互いを認識した状態で戦いになった時、自身の実力を悟られにくい。ローランがフィクサーとして活動していた時、極めて重要視していた技術だ。実際、この技術は彼の命を何度か救っている。
故に、彼は今もなりすましている。コピー元は先程見かけた、レユニオンの少しだけ腕が立つ兵士だ。そして、ロドスのオペレーター達は見事に騙された。
剣を抜き、走り出す。あまりにも無謀な突撃に見えるそれは、流石にニアールなどの一部の優秀なオペレーター達は警戒した。だが、それだけである。
狙撃オペレーターがクロスボウを構え、走ってくる男に照準を合わせた時、男の姿は何処にも無かった。
驚愕に目を見開くロドスのオペレーター達。それはレユニオンの兵士達も同じ様だ。重装オペレーター達がドクターや医療オペレーターなどの非戦闘員を守る様に囲み、周囲を警戒する。Wだけは嬉しそうに口元を歪めていた。
先鋒オペレーターであるフェンは槍を構え、突如として現れ、また突如として消えた男を探していた。しかし、何処を見渡しても見つからない。ふと、頬に液体が掛かった。
最初は雨が降ってきたのだと思った。しかし、雨にしては妙に温かく、肌触りも変だ。やけに鉄臭い。そして、何かが動いている気配がしたので、そちらに視線を向ける。
地面に倒れ込む二人の先鋒オペレーター。両方とも、首筋を押さえて蹲っている。
目の前には赤い噴水。その向こうに見え隠れする、長剣を振り抜いた体勢の男。
背中に氷柱を突っ込まれた様な感覚に襲われたフェンは、直ぐに防御姿勢を取った。瞬間、とてつもない力で叩き付けられる。
そして前蹴りを繰り出した男、ローランはまだ何が起きているのかよく分かっていないと言った様子の、ロドスのオペレーター数人に対して素早く剣を振り回して無力化する。
ようやく奇襲に気付いた前衛オペレーターの攻撃を軽く避け、ローランは最も危険と判断したニアールに急接近し、切り掛かる。
斜め左下からの切り上げを盾で防ぎ、ニアールは男の頭部目掛けてメイスを振り下ろすが、男、ローランは最低限の動きでこれを躱し、今度は上から長剣を振り下ろす。
ニアールはこれをメイスで防ぎ、シールドバッシュを仕掛けるが、逆にその衝撃を利用されて大きく距離を取られてしまう。
ローランはWの元まで飛び下がり、一息吐いた。次の瞬間、斬られた事による苦痛の声と、死体となったオペレーターに対する悲鳴が、一時停止を解除したビデオの様に途中から聞こえ始める。
「何人か持っていけたけど、まだまだ残ってるし、何より強いヤツは本当に強いな……。」
「じゃあここからは私がやるから、アンタは見てていいわよ。」
「いやせめてさ、普通最後までやらせるところだろそれは!」
ドクターは理解した。あの男はさっきまで皮を被っていたんだ。
あの男が、この中で一番強い。そして、壊れてる。
ストーリー見返してて思ったんですけど、Wって他人を指す時『貴方』じゃなくて『あなた』もしくは『アンタ』ですね。なんてミスを……。
ローラン君
リハビリがてらにロドスのオペレーター数人を殺害したヤベーやつ。他の武器を使わないのは、Wとパトリオット以外に、自身が武器を入れ替えれる事を知られない様にする為。もう一個のアーツの登場はまだですか……?