仲間を殺し殺され、そう繰り返していたが既に両者は限界だった。そんなある日、ある人物が言った。
「代表者同士を戦わせて、この戦争を終結させそう」と。
…………っていう前降りは置いてといて、簡単に言うと代表者である勇者と魔王が如何にしてこの場から逃げるか考える作品です。
この作品は『ボツったけど、気に入ったから投稿しよう!』と作者の思い付きで投稿されたものです。
それで「良いよ」って方は、ゆっくりしていってね。
「とうとう、この時が来たな……」
コロッセオのような形をした闘技場に一人の男が立っていた。
闘技場の観客席には大勢の者が座っており、その男と今から来る者の試合を今か今かと楽しみにしていた。
その中心にいる男は観客には興味が無いのか、何処か遠くを見るようにしてある人物が来るのを待っていた。
待っている間に男について軽く説明しよう。
この男に名前は無い。いや、忘れてしまったと言うのが合っているだろう、長い間別の名前で呼ばれ続けていつの間にか自身の名も忘れてしまったのだ。
しかし一つだけ言えることがある、男は人間ではないのだ。
二メートルは越える身長に一睨みしただけで全てを終わらすような鋭い眼力、そして頭から飛び出すように生えている角はとても凛々しく、男の名前を表すようなモノであった。
「逃げるなら今の内だぞ」
「オレは逃げも隠れもしねぇよ」
「そうか」
いつの間にそこに居たのだろうか。
闘技場の入り口は開いており、そこからコツコツと靴音を鳴らしながらゆっくりと歩いてきた。
観客の熱狂が耳を塞ぎたくなる程闘技場に響くが、不思議とその足音は観客、そして男の耳に聞こえていた。
「さぁ覚悟してもらうぞ魔王」
その人物は男の名を呼び、腰に差していた剣を鞘から取り出して逆手に持つ。
「笑えない冗談だな……覚悟するのは貴様だぞ勇者」
魔王はその人物の名前を呼び、体の力を抜くようにしてその場でリラックスをする。
勇者はそんな魔王の意図が読めない行動に恐怖を覚えながらも、剣を強く握って打ち消そうとする。
「「…………」」
今まさに途轍もない戦いが始まる……ことは無かった!
(やややややヤバイ、ヤバイよ! 笑えないよ、これ何一つ笑えない冗談だよ! なんで俺が勇者と戦わないといけないの? いやだよ死ぬわ! まだ死にたくないので見逃してくださいお願いします!!)
魔王は慌てていた。今までのシリアスを書き消すような焦りと緊張で服の下は汗がびっしょりであった。
これまで魔王は周りから「最強」や「無敵」などその名に等しい称号を貰ってきた。
だが、それは間違いである! この魔王、実はRPGの最初に出てくるモンスター並に弱い。
その見た目と言動から勝手に周りの評判が上がり、いつの間にか魔王の座に着いていたただの雑魚なのであるッ!!
「かかってこねぇのかよ魔王様よぉ」
そんなことを知らない勇者は剣を地面に突き刺し、魔王を挑発するようにして人差し指を何回も曲げる。
魔王は勇者の挑発を鼻で笑い、一歩近づいた。
たかが一歩であるが、勇者にとってその一歩はとても怖かった。
(かかってこないのなら見逃してくださいお願いしますうううう!!)
そう、こっちもだからである。
(ねぇ待っておかしくない? なんでオレが魔王と対峙してるんだよ、嫌だよ怖いよ逃げたいよ! 魔王様見逃して、オレはアンタと戦う気が無いから!)
勇者は内心命乞いをしていた。彼にとって今までのシリアスなんか期にする余裕はないのだ。
本来、彼とは別の勇者が居た。しかしその勇者が食い逃げを働いて逃亡。逃走中の勇者は石に躓き、追いかけていた兵士はその隙に捕まえることが出来た。
そしてたまたまその勇者の前に彼が立っていた。兵士は彼が捕まえてくれたのだと勘違いし、彼を新しい勇者にすることを決意。
彼は否定したが、時既に遅し。あれよあれよとしていく内に魔王の目の前まで来てしまったのである。
「…………」
今までのシリアスを返せと言いたくなるほどの焦り、しかし二人には引けない理由があった。
((ここで帰ったら……殺される!!))
彼らには逃げ場が無かった。
太古の昔から魔物と人間は戦争を続けていた。切っ掛けはなんだったのか、誰にも分からないが彼らにとって『
だからこの状況に対して観客は誰も疑問は抱かないし、両者の代表が今までの戦いに終止符を打とうとしている場面を邪魔などしたら、この戦いは永遠に終わらないのだ。
唯一疑問を抱くのは勇者と魔王ではあるが、彼らには自分の意思だけで終わらすことが出来ない理由があった。
人間も魔物も既に疲れていた。仲間が殺され、仇を討てばまた別の仲間が殺される。いたちごっこの状況の中、唯一この戦争を終わらすことの出来る状況が出来たのだ。そんな状況を邪魔出来るだろうか。否、出来ない。
「勇者よ、もう一度言おう。手を引くなら今の内だ」
(お願いします手を引いてください! 俺嫌だから、ここで死ぬなんてごめんだからな!)
ここで「あ、すいませんが戦う気はないんです」なんて言ったら仲間に殺されるのは目に見えている。
しかしそれは“自分から手を引いたら”の話である。
相手が「手を引く」この一言さえ言えば戦争は終わり、自身は殺されずにすむ。
「てめぇこそ手を引いた方が良いんじゃねぇのか?」
(つーか手を引いてください! オレはこう見えても雑魚だから、剣を持っていかにも「攻撃しますよ」ってポーズしてるけど、只のポーズだから。重くて剣なんて振れないから!)
だがそれは相手も同じことである。
もしもここで両者とも「戦争を止めよう」なんて言えば代表者の言葉に従い、戦争は終結するだろう。
そう、両者が言えばのことである。内心では二人とも「降参したい」なんて考えているが、同じことを考えているなんて微塵も思っていない。
彼らの脳内にあるのは「いかにしてここから逃げ出すか」それだけである!
「やはり手を引かないな。なら俺の必殺技を出せば……降参するか?」
魔王は紫色の空気のようなモヤモヤとした物を手の平に溜める。
『魔力』と呼ばれる物が形を作るようにゆっくりと回転するように、手のひらサイズの球体へと姿を変えていった。
「なんだそれ」
「はぁ、はぁ……貴様には分からぬか。この魔力の密度が」
勇者はただの魔力の塊に見えるが、魔王が息を切らしているのを見ると、自身には分からない「何か」では無いかと恐怖する。
(嘘ですごめんなさい。子供でも出来るような当たると転んだ痛い位の魔力の塊です)
実際はただのハッタリではあるが。
魔王はそれ一つ作っただけで息が切れているだけなのである。
そんなことに騙されるのはただの馬鹿か雑魚か、用心深い奴だけである。
(あ、死んだわこれ)
はい、この
(え、待ってこの中であの凄さに気付いてないのってオレだけ? いや無い、無い無い無い。さすがにこのオレが雑魚だと言っても……ねぇ)
「その程度かよ」
「なんだと」
(ば、バレたぁぁぁぁぁ!! やっぱりか、やっぱりバレるよな。そりゃあ勇者だから、人間の代表者勇者様にはこんな子供騙しバレてしまいますよね!)
「俺の『
(え、待って何その強そうな名前。名前から考えて炎系の魔法だよね。じゃあオレこれからあれに焼かれるの? 嫌だよ、あんなの喰らったら灰すら残らないじゃんか。つーかあんなの喰らいたくねーよ! てかちょっとその名前良いな、オレにそのネーミング別けてくれない?)
「オレの『
(ふふふ、『
そんなことはない。
本当はただ剣を光らせて斬るだけの何の変哲も無いただの攻撃である。攻撃力? 状態異常? 光ってるだけなんだ、そんなもの無いさ。
「試してみるか?」
(ごめんなさい冗談です。俺と勇者の攻撃が交じりあった瞬間に負けます助けてください)
(嫌だよ試したくないオレ死んじゃう!!)
観客は今まさに戦いが始まろうとしていることに気付き、まるで火山のような熱さで歓声を上げている。
この二人にとっては氷河期のような寒さでお通夜の雰囲気であるが。
(何か、何か無いのか!? 戦わなくて、ここから逃げる方法は……!)
「……いや、止めておこう。俺や貴様は耐えられても、この建物も観客もただじゃすまないからな」
魔王は自身で言ったことを取り消した。
観客は魔王が自分達を気遣ってくれたことに感動し、涙を流しながら勇者の言葉を聞き逃さないように耳をすます。
(俺が弱すぎて観客が闘技場に乗り込んでくるだろ? そして勇者が暴れて全員ボコボコにする。ほら、ただじゃすまないよ……)
最も、彼は保険に走っているだけではあるが。
しかしその案は勇者にとってこの状況を解決するのに使える話であった。
「確かにな。ならお前との決着はまたつけることにしよう」
(観客を盾にしてここから逃げる! 卑怯? 一時しのぎ? 知らねぇよ、オレはここから逃げて隠居生活して平和に暮らすんだ!)
「面白い案だな、その意見に同意しよ 「魔王様! わしらはここから離れるので、存分に暴れてください!」 」
「これは使える」と思った魔王はそのままこの戦いを終わらすように話しかけようとしたが、観客の一人が彼らに聞こえるように、大きな声で闘技場から避難すると言った。
周りをよく見ると観客の大半は席に居なく、本当にこの場から離れていることに気がついた。
((て、てめえええええ!!))
しかしそんなのは二人にとってただのお節介である。
ようやく逃げるチャンスが舞い降りたと思えば、決着を着けないといけなくなってしまった二人。
観客が完全に居なくなり、彼らしか居なくなった闘技場。そこで不思議と二人が思ったことは同じであった。
((誰か、この状態から助けてください…………))
彼らの願いは聞き届けられたのか否か、辺りには異様に耳に残る風が吹くだけであった。
【参考資料】
パクリ……もとい、この作品には参考にしたものがあります。
・銀魂(いくつになっても歯医者は嫌 より)
・かぐや様は告らせたい(主人公組の駆け引き)
【ボツにした理由】
終わりがしっくりこない。