ヒスイ編も書きたくなってしまう罠。
こいつは悪い女だ。
無邪気に喜ぶ少女の姿を見て、純粋にそう思った。
隣を見れば、うへぇと化物を見る目で彼女を見つめているジムトレーナーの姿がある。
俺も同じ顔をしているだろう。それほどまでに、先ほどの惨劇はひどかった。
茫然とするジムリーダー。
倒れ伏すポケモン。
ふふんと偉そうに胸を張る女。
無言で佇むポケモン。
つい先ほどタチワキジムに挑戦した少女――メイの初めてのジム戦は、反撃の糸口すら掴ませない、才能の暴力による圧倒的な蹂躙という形で終了した。
「――タチワキジム?」
「はい! ポケウッドから一番近い町はそこですから、早速挑戦しに行きましょう! 私もポケウッドに来てからはよく訪ねていた町です」
なんやかんやあって――すごくなんやかんやあって、目の前の少女との二人旅をすることになった。
彼女の名前はメイ。どう考えてもBW2主人公だ。
他の例に漏れず圧倒的なバトルの才を有していると思うが、なんでも夢はポケウッドに名を轟かせる大女優だという。
リーグに所属し、喉から手が出るほどに才能に飢え、一戦一戦に命を懸けているやつらが聞けば卒倒しそうな状況である。
とはいえ、他人の人生に口を出すものじゃない。俺は俺の目的のために、彼女の武者修行とやらに付いて行くことにした。
そして当然というかなんというか、特に何の議論もなく、一番近いジムのある町であるタチワキシティに最初の目的地が決まる。
タチワキのジムリーダーと言えば思いつくのはホミカだ。
アイリスがチャンピオンになって日が浅いということは、恐らく現在も彼女がジムリーダーを務めているのだろう。
彼女の得意タイプはどくで、バンドを組んでいることでも有名である。
「D・O・G・A・R・S ドガース!」のBGMなんかははっきりと頭に残っている。
音楽業界には大して詳しくもないが、ジムリーダーとしての立場も追い風となったのか彼女の名はガラルにまで届いていた。
ネズなんかは方向性も似ているということで、色々と参考にしているらしい。意外と偉大な存在なのかもしれない。
「実はですね、ジムリーダーのホミカさんのパパさんもポケウッドに憧れてる仲間でして、結構仲良しだったりするんですよ。ホミカさんは俳優活動にイマイチ賛成してないみたいで、そんなに仲良くはないんですけど……」
メイの話を聞き、そんな事情もあったなと思い出す。
ホミカの父親は船乗りなのだが、俳優に憧れており今でも夢に挑戦し続けている。
その姿勢は非常に立派なものだと思うのだが、自身の責務・立場を顧みない振る舞いに、娘のホミカは嫌気がさしているようだ。
まあ、家族の話に首を突っ込むこともないだろう。気にすることはない。
「じゃあ、行くか。道案内は任せていいんだろ?」
「はい! タチワキのことならバッチリです!」
「あー、なんか……ここって、マジでイッシュなんだな」
「?」
見慣れぬ町並み、人種、風景。
ガラルのそれに慣れてしまっていた俺には、目の前に広がる光景がひどく新鮮なものに見えていた。
港町であり、たくさんの工場が隣接するタチワキシティには、ガラルの大都会であるナックルシティやシュートシティに匹敵する活気が満ちている。
一方で「人種のるつぼ」と評されるように、ガラルと違って様々な人種の人々がそこかしこを行き通う。
「やっぱりアローラとイッシュって違うものなんですか? 私、イッシュから出たことがなくって」
「全然ちげーな。俺は今すげえ『イッシュに来た』ってことを実感してるぜ」
アローラは観光地だからまた話は別だが、イッシュという土地は他の地方からしたら文化も町並みも何もかも違う。
ユナイテッドステイツという形をこの世界でも維持しているのならば、イッシュという一地方の中でも更に様々な文化が混在しているのだろう。
異文化交流は旅の醍醐味だ。
今更ながら自分が旅をしているということを実感し、心の奥底からワクワクとした感情が湧きあがってくる。
「じゃあ、少し観光でもしていきましょうか? タチワキと言えばホミカさんのライブ、みたいなところがあるので結局行き先は同じかもですけど」
「おお、そりゃ嬉しいけど大丈夫なのかよ」
「何がですか?」
「何って、評判になるくらい人気なんだろ? チケットとか、前もって買っとかなきゃいけないんじゃねえの」
そうやって俺が純粋な疑問を口に出すと、メイはこれまた無駄にデカい胸を張ってムカつくドヤ顔を浮かべる。
「ふふん、安心してください。ホミカさんのパパさんと仲良しである私は、なんと顔パスで入場できるのです!」
それはすごい。
素直にそう思った。やはりコネクションというのは大事である。
「じゃあ、そこ行くか」
「はい! ホミカさんのライブはすごいですよ! いっつも満員で、めちゃめちゃテンション上がるんです!」
それ、曲名すらも知らない俺がいたら浮いたりしないだろうか。
ネズがゲリラライブを始めたときなんかは少し距離を取って関係者面で腕組みしていたものの、今回はそれも出来そうにない。
まあ、適当に周りに合わせとけばなんとかなると思うが。
「あれ、久しぶりメイちゃん。今日はどうしたの?」
「はい! 今日ってライブの日ですよね。お友達を連れて見に来たんです!」
元気そうにライブハウス兼ポケモンジムの受付に話しかけるメイ。
顔見知りというのは本当のようで、受付の女にも名前を覚えられているようだが、ライブを見に来たと伝えればどうしてか苦い顔を返される。
「あー……ライブね、今日はないよ。何でもジムの仕事ほっぽり過ぎてリーグから怒られたんだって」
「ええっ!」
ごめんね、と少し申し訳なさそうにに対応する受付の女。
その言葉を受けてメイは見るからに落ち込んでいた。
顔パスで入場できるなどと散々自慢した挙句のこれだから、少し気まずい感情を覚えているのだろう。あるいは、俺の期待を裏切ってしまったなどという罪悪感もあるのかもしれない。
「……じゃあ、残念ですけどジム戦だけ挑戦して帰ります」
ライブを見れなかったのは残念だが、そもそも本来の目的はジムバトルである。
落ち込んではいてもそのことをメイは忘れていないようで、渋々といった感じでジム挑戦の申し込みをする。
しかし受付の女はその申し出に対してもまた苦い顔をしていた。
「今はやめといた方が良いよ。ホミカさん、音楽活動に制限かけられたことにかなりイラついてんの。音楽っていうのはもっと自由なんだー、って。根っこでは真面目だから命令には逆らわないんだけどね。
でもリーグへの反発心もあるのかな、初心者相手にだってまるで負けてやる気配ナシ。手加減した手持ちとはいえ結構本気で挑戦者ボコボコにしてるし、しばらくはバッジ渡す気ないんじゃない? そんなことしても意味ないと思うんだけど、まだ若いから」
なんだそりゃ、と一瞬呆れた感情を抱く。まるでガキだ。いや実際ガキなんだろうが。
しかしガラルとの文化の違いを考えれば、ホミカの言動にも多少は理解を示せる。
ガラルにおけるジムチャレンジというものは一種の興業と化しており、チャレンジの期間中のジムリーダーは挑戦者を迎え撃つアスリートとしてジム営業に専念するのが普通だ。
ガラルにおいてはモデルを兼任しているルリナの方が少数派なのだ。マクロコスモス社員との兼業である俺も、基本的にはジムリーダーとしての活動を優先させている。だからこそネズはシンガーソングライターとしての活動に専念するためにジムリーダーを引退したのだろうし。
しかし他地方においてはジムリーダーは副業を持っていることが多く、ジムを空けることなんて日常茶飯事である。
かつてのカントー・トキワではジムリーダー不在の状況が常態化していたり、シンオウのデンジなんかはそもそもジム戦をする気がなかったりと、他地方ではジムリーダーがかなり勝手気ままに振る舞っている。
ホミカはミュージシャンとしての活動をジム営業より優先したことに何ら問題意識など抱いていないだろう。だからこそイッシュリーグの措置に苛立っているのだ。
しかし今回の対応に限らず、カントーやジョウトのリーグに比べればイッシュのリーグは随分と真面目なように見える。
ゲーム本編においてだってイッシュのジムリーダーたちは比較的ジムを空けない傾向があったし、プラズマ団への対処も積極的に行っていた。
ホミカに対する措置も、イッシュリーグならではのものだろう。
と、まあ色々と考えたわけだが、正直な所ホミカの行動は単なるガキの癇癪である。
一応数年間ジムリーダーをやった立場から言えば、リーグの対応に不満があってもそれを挑戦者にぶつけるべきではない。特にイッシュでは、挑戦の順番が明確に定められているガラルと違って初心者トレーナーを教え導く役割もジムリーダーが担っているのだから。
「ま、だからさ。挑戦したいって言うんなら来週とかにしときなよ。その頃には流石に観念して折れてるだろうから」
受付の女に諭され、メイも挑戦する気が段々と薄れてきたようである。
元々彼女は強くなることが目的で旅に出たのであって、ジムバッジを集めることが目的じゃない。あくまでそれは手段なのだ。
ライブを見れなかったことも相まって、メイはすっかり気勢を削がれてしまったようである。
今日はやめておきましょう、なんて気持ちが表情から伝わってくる。
「ごめんね、珍しくメイちゃんがバトルに興味持ってくれたのに。連れの少年も悪かったね」
「そうですね、今日はもう帰ろ――」
「なに、次の挑戦者はアンタ?」
額を見せるように纏められた白髪。不機嫌そうに吊り上がった瞳。
噂をすればなんとやら、だ。
毒タイプエキスパート兼若き天才ミュージシャン、タチワキジムリーダー・ホミカが俺たちの前に現れた。
「ど、どうもホミカさん。お久しぶりですね!」
「……女優狂いのアンタがジムに来るなんて、一体どういう風の吹き回し? それとも、ライブをやってないって知らずに来たとかいうオチなわけ?」
うっ、と図星を突かれて唸るメイ。
にしても、言葉の刺々しさから見る限り機嫌が悪いというのは真実なようである。それとも純粋にメイとホミカの仲が悪いのか。
「い、いやいや! 私は女優としてのスキルアップのためにジムに挑戦に来たんですよ! ……今日は帰るつもりだったんですけど」
「ふーん。じゃ、相手したげる。ジムトレーナーとはやんなくていーよ。ジムバッジは持ってないよね?」
「は、はい」
そう言うと、ホミカはジムの奥にまた戻る。どうやら手持ちの入れ替えをしてくるようだ。恐らくバッジ0個持ち用の手持ちを連れてくるのだろう。
戻る前にチラリと俺の方に一瞥をくれていたが、もしかして挑戦者カウントされてたりするだろうか。やめて欲しい。
「……ホントにやるの? 今日なんて7つ持ちのベテランを、見てるこっちが可哀想なくらいボッコボコにしてたんだよ。メイちゃんだって手加減してもらえないって」
「う、うーん。まあ、負けは負けで経験ですし……それに! 私には尊敬してる人から貰ったポケモンがいますから!」
そう言ってメイが繰り出したのはダイケンキ。
リーグレベルとまでは言わないがしっかりと鍛え上げられており、優れたトレーナーが「おや」であったことが見てとれる。
……いや、意味わからん。なんでバッジ1個目の挑戦で既に御三家最終進化を持ってるんだよ。
大体人から貰ったポケモンでそのレベルなら言うこと聞かないだろ。
「へえ、いいポケモンじゃん」
その声に振り向けば、いつの間にやら新たなボールを手に戻ってきていたホミカの姿。
腰にはモンスターボールが2つ並んでおり、少し離れて一つだけスーパーボールが存在していた。
「行くよ、こっちがバトルコート」
「は、はい!」
スタスタと歩くホミカに、慌てて付いて行くメイ。
受付の女も後ろを歩いて行く。腰のボールを見るに、どうやら彼女はジムトレーナーでもあるらしい。バトルの観戦に行くのだろう。
バトルの観戦は好きじゃないが、トレーナーとしてホミカの実力が気になっていた俺も彼らの後を付いて行く。
「……ねえ、くさいとか言って騒がないでよ。バトルの邪魔になるから」
ふと振り返り、今更な忠告をするホミカ。
……もしかしてこれ、俺に言っているのだろうか。
「はあ!? お前俺のことガキだとでも思ってんのか!?」
「これだからガキは……。ねえ、子守は任せたよ」
コイツ、自分だってガキの癖に……!
さっきの一瞥の意味は「騒ぐなよガキ」とでも言いたかったのだろう。冗談じゃない。イッシュの実力を見てやろうと思っていたが、もういい。
……まあ、メイの力がどれほどかなんて全く知らんが。多分強いだろう。
リーグトレーナーとして長年最前線に身を置いていると、「才能」というものについて段々と理解が及んでくる。
例えばガラルでは、カブよりキバナの方がバトルの才能を持っていると主張しても反論は少ない。
例えばアローラでは、チャンピオンより自身の方がバトルの才能を持っていると主張する奴はいないだろう。
そして、今目の前でバッジを求めて戦っている初心者トレーナーを見て、「彼女は才能を持っていない」と断言する奴の目は節穴だ。
「これでいいんですよね? バトルとか久々なんですけど……」
ホミカの1・2匹目を一瞬の内に突破し、悠然と佇むダイケンキ。
ジムトレーナーは「ありえない」とでも言わんばかりに口を開き、ホミカは想定外の事態に冷や汗を垂らす。
一方、当のメイは「わたし、なんかやっちゃいましたか?」といった表情で辺りをキョロキョロと見渡している。
なんだお前、チート主人公か? チート主人公だったわ。
「――っ! 行って、ダストダス!」
フシデ・ドガースの2匹を無傷で突破されたホミカは、悔しげな表情を浮かべながら腰のスーパーボールを放り投げる。
「なっ……! あのダストダス、7つ持ち用の子じゃんか! いくらあのダイケンキが強いからって、そんなの……」
「『アクアジェット』」
バッジを1つも有していない未熟なトレーナーの前に、最終進化系まで鍛え上げられた強力なポケモンが立ち塞がる。
本来ならば余りに絶望的な状況。
しかし
水流と共に素早く突進したダイケンキはダストダスに全身で衝撃を与え、確かなダメージを与える。
しかしダストダスは今までのポケモンと違い、バッジを7つ有したトレーナーに対して繰り出されるはずであったポケモン。不意を突かれたとはいえ、衝撃を地面に逃がしてダイケンキの一撃を受け止める。
「好都合ッ、そのまま『のしかかり』!」
「『まもる』」
鈍重な体を活かしたダストダスの攻撃を、ガッシリと全身で受け止めるダイケンキ。
マズい、とホミカが冷や汗を垂らした時には既に、ダイケンキの構えはダストダスの急所を狙っていた。
「ダストダスッ、離れ――」
「『きりさく』」
一閃。
至近距離からのそれは不可避の一撃となってダストダスに命中する。
身を捩って急所だけは避けたものの、その攻撃は小さくないダメージとなってダストダスの身に傷を残す。
そして更に、才能あるトレーナーの攻めの手は止まらない。
「『アクアジェット』!」
「もう一回受け止めて!」
再度繰り返される光景。
しかしながら、一方的にダストダスにダメージが蓄積されていく。
「落ち着いて『どくガス』――」
「『ダイビング』」
当然、そのような展開を許すホミカではない。躱し辛く、それでいて確実にダメージを与えられる「どくガス」を散布してダイケンキの動きを阻害しようと企む。
しかしメイの指示は更に上を行く。「どくガス」を放とうとした一瞬のスキを突き、トプンという水音と共にダイケンキは身を隠す。
「ダイビング」によってどくガスの散布された空間から逃れたのだ。
そんな技まで、とホミカは目を見開いて驚きを現す。
ところで水中に潜るわざである「ダイビング」が陸上においても用いることが出来るのは一体どうしてなのだろうか。
気になって調べたことがあるが、どうも小難しい理屈が並べられてよくわからなかった。携帯獣学なんて学問は専門家たちに任せるに限る。
尤も、一応陸上で用いる方が水中での使用より制限はかかるとのことだ。理屈は知らんが。
「『どくガス』を続けて!」
それに対しホミカはバトルコートを注視しながら「どくガス」の指示をする。
今の内にフィールドをダストダスの支配下にしてしまおうという算段か。メイや俺は渡されていたガスマスクを装着し、悪くなっていく視界に目を細める。先に述べた通り、陸上での「ダイビング」には制限がかかる。直にこのどくガスに満ちた空間へ姿を現さなくてはならなくなるだろう。
更に言えば、どくガスの濃度が時間と共に高まっていくこの状況下では長期戦になるほどダイケンキに不利である。ダイビングの時間制限を除いても、どくガスが散布しきる前に姿を現してすぐに決着をつけなければならないが――
「そこっ! ダストダス、『ヘドロばくだん』!」
焦って身を現してしまえば、優れたトレーナーの観察眼により姿を捉えられ、強烈な一撃の直撃を喰らってしまう。
ダストダスの渾身の技が放たれ、轟音と共に「ヘドロばくだん」がダイケンキを襲った。
「決まったッ!」
隣の受付兼ジムトレーナーが思わずといった感じで立ち上がって声を挙げる。
なんやかんやと言っていたが、結局のところ応援しているのはホミカなのだろう。誰だって自分のところのリーダーが負けるのは見たくないものだ。
しかし一方で、ホミカの顔は一瞬のうちに歪む。
「ヘドロばくだん」の直撃を喰らったダイケンキの姿が、まるで幻かのように霧散したのだ。
「『アクアジェット』」
爆発の衝撃に遅れて地中から飛び出してきたダイケンキ。
「みがわり」に気を取られていたダストダスは咄嗟の攻撃に対応できず、直撃を喰らってしまう。
「っ! ダストダス、抑え込んで!」
ホミカは歯ぎしりと共に苦い表情を浮かべる。
メイの作戦に上手くハメられてしまったことを悔いているのだろう。
先の「みがわり」は見事だった。ダイビングの最中、トントンと靴音を鳴らしていたのが合図だったと思われる。正直な所、これでバトルを始めたばかりというのはとてもじゃないが信じられない。スクールは一体どうしてこんな才能の塊を放っておいたのか。
最早ホミカは悠長にはしていられない。
ダストダスには少なくないダメージが蓄積している。「どくガス」に侵されたダイケンキを、ここで逃がさずに仕留めなければ。
ダストダスの強みはその流動性のある巨体だ。
先と違い、攻撃ではなく抑え込むことに意識をやれば、その重量をもって毒で弱ったダイケンキを封じ込め、じわじわと嬲ることも可能である。
そう、ダストダスの100kgを超える重量を吹き飛ばすほどの力がダイケンキに無ければ――
「『メガホーン』」
ズン、と轟音と共に地面が揺れる。
投げ飛ばされたダストダスが床に落ちた衝撃であった。
「メガホーン」
それは莫大な威力を持つむしタイプのわざであり、その優れた威力の分命中率が低く、また溜めも必要になる、少々使い勝手の悪いわざである。
そしてそれは裏を返せば、体が密着し盤面が膠着した先の状況下において、まさに最適解とでも言うべきわざであった。
ダストダスは立ち上がらない。
一方ダイケンキは一度も直撃を喰らわず、ほぼ無傷の姿。
誰の目から見ても、勝敗は明らかであった。
「……あ、れ? 私もしかして、勝っちゃいました!? やった、やったー! 見ててくれましたか、カイさん! 私勝ちましたよ!」
こいつは、悪い女だ。
無邪気に喜ぶ少女の姿を見て、純粋にそう思った。
何から何まで奴の掌の上。
茫然としているホミカは今頃、どこからが計算だったのか、なんて絶望しながら考えているだろう。
「最初から」というどうしようもない答えから目を逸らして。
長年リーグトレーナーとしてバトルをやっていると、段々と「才能」というものについて理解が及んでくる。
そしてようやく、常人では影も踏めない「バトルの神に愛された存在」がいるということを実感できるようになるのだ。
多分、これからしばらくホミカはこの不条理に頭を悩ませるだろう。
ガラルではダンデが既にその不条理を体現していたため、ユウリのジムチャレンジで心折られたジムリーダーはいなかった。
イッシュではどうだろうか。
これからしばらく続くことになるであろうバッジ集めの旅に、今更ながら不安が湧いてきた。
・メイ
最強系主人公。
ダイケンキは博士を目指す女性から受け取ったらしい。
バトルにおいては作戦の立案・修正、敵を誘導する能力が非常に高く、今までで計算通りに行かなかったバトルはない。
バトルの知識はないため、詰めバトルは苦手。
本番になったら本能が勝手に正解を選択するタイプ。
・ホミカ
かわいい。
初心者が相手なのに大人げなくバッジ7個持ちのトレーナー相手に出すポケモンを繰り出したら一度も攻撃を当てられずに負けた。
ちなみにダストダスを倒せずともいい感じのところまで行ってたら普通にバッジを渡す気だった。
人のポケモンでブイブイ言わせてるだけの奴には今回みたいな感じで同格のポケモンを繰り出し、ボコボコにする(された)。
・カイ
空気。観客に徹していた。
カイの過去編(メジャー1年目)とかって需要ありますかね。
某ssに触発されて、リーグ戦をもっと書いてみたくなりました。他地方での遠征・交流戦の話とか面白そう。