【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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アランロド・ミセリコ・マクウィリアムズ⑥

 

 顕現した絶対領域を目前に、俺は死ぬほどげんなりしていた。

 

 だってそうだろ。

 難攻不落なんて生易しいものじゃなく、万物を通さない最強のフィルターが唐突に現れてなおかつそれを攻略しなくちゃいけないとくれば嫌な気分にもなる。

 

 どうして世界は俺にだけ試練を与え続けるのだろうか。

 たまには気持ち良く勝たせてくれてもいいんじゃないかな。

 だって俺頑張ったし、結構強くなったと思うんだけど。

 

 以上現実逃避終わり。

 

紫電剣閃(ヴァイオレット・スパーダ)────!」

 

 幾重にも重なる斬撃を、ただ一点を打ち破る為に集中する。

 繰り出す斬撃の数は瞬きすら許さない精度で、それに加えて斬る事を極限まで意識して放たなければならない。

 

 そうでもしなければ一瞬の拮抗すら許されないというのが、かの絶対領域だった。

 

 雷撃に等しい斬撃を何十何百と重ねて放ったものの、アランロドの構えた大盾と接触し激しくぶつかり合った後に霧散する。

 

 まあ、そんな気はしてた。

 万物を防ぐ魔法の盾とはよく言ったもんだ。

 遮断対象に選んでないだけで世界の何もかもを遮断できる魔法、門外不出の技術で大助かりだぜ。

 

「──どうですか先輩。これが私の切り札で、私に唯一遺された家族の証です」

「そんな重たい宣言されてもな……」

「そういうの好きですよね?」

「別に好きじゃない。ただ、理解はしている」

 

 歴史の積み重ねがどれだけ貴重なモノか分からない訳ではない。

 

 実際俺の剣だって色んな要素が混ざり合って完成している。

 師匠の剣、アルスの剣、あの大戦で戦い抜いた強敵たちの姿も何もかもをイイトコどりしたのが俺流だ。

 

 アランロドは一瞬だけ苦しそうに顔を歪めたが、すぐさま笑顔に戻る。

 

「なにもかもを遮断する最強の盾────先輩に攻略出来ますか?」

「それが祝福という形ならば問題ない。手間と労力がかかって非常に面倒だが、勝つためには打ち破るしかないからな」

 

 仮にアランロドが遮断する対象すら自由に選べる真の使い手だったのならぶっちゃけ勝ち目は無いに等しいが、今回はそうではない。

 

「……本当に? 虚勢とかじゃなくて?」

「俺がそんなこと言うと思うか」

「はい!」

 

 ぶっ飛ばすぞ。

 虚勢じゃなくて嘘って言うんだよ。

 俺の嘘は優しい嘘だからな、世界を優しく包み込むために時として事実と異なる事を口にしているのは否定しない。

 

「忘れたのか。俺にはアルスの記憶がある」

「あっ……」

 

 アルスは途中から盾を装備していた。

 王国の事件を解決し、未だ戦争中であった国境付近にてアステルと再戦する際身に着けた。

 それには聖女アルストロメリアの祝福が施されており、その助力もありアステルと対等の戦いを繰り広げたらしい。

 

 逆にそこまでして対等のアステルは一体なんなんだよ。

 

「ゆえに、その弱点は理解しているつもりだ」

 

 決められた範囲決められた効果、曲げる事の出来ない不変の法則。

 

 そこを読み取って出し抜いた側が勝つ事が出来る。

 相手にそれを強制させるという事を考慮すれば強力な祝福だ。俺は師匠の祝福の方が好きだけど。

 

 問題があるとすれば俺にそこまで余裕がないという点。

 魔力に恵まれたが才能に恵まれた訳じゃ無いので魔力の総量はそう期待できたもんじゃない。ステルラの心臓が今も尚俺の中で鼓動を重ねている事実にはなんともいえない慈しみを感じるが、それはそれ。

 

 どうせならお前の才能も全部引き継げればよかったのに、中途半端なやつだ。

 

 そう言った不安を全て表面に出すことなく己の内で完結させて、改めて剣を握り直す。

 

「終ぞ聖女を相手にすることは無かったが──俺が新たな因縁を刻むのも、悪くはない」

 

 いつまでも誰かの後を追うなんて御免だね。

 

 俺は俺だ。

 アルスの記憶があろうとなかろうとロア・メグナカルトという人間であることは誰にも否定させん。

 

 一対一では勝てなかったがステルラとのタッグで勝利したから実質俺の勝ちだし愛の力の勝利って事で、そろそろ後進に道を譲ってもらおう。

 

「英雄アルスの道は俺が終わらせた。ならば次は、英雄ロアが歩む道を刻んでやるのも悪くない」

「……………………」

 

 ぽかんと口を開けたままアランロドは動かない。

 

 観客席も静かだし、俺またなにかやっちゃいました? 笑

 

 ちょっと気分が乗ったから酔ってみればこの有様だ。

 これがアルスの言葉だったなら周囲の人間がその言葉を胸に刻んだりするのにどうして俺はこうなるのか。やっぱり英雄の才能なんてないな、俺。

 

 そんな風に自嘲する俺を尻目に、アランロドは一言小さく呟く。

 

「…………いいんですか?」

「何がだ」

「い、いえ、その……私が初めで、いいんですかそれ」

 

 あ? 

 

 一番初め……ああ、そういう事か。

 

「アルスの呪縛から解き放たれて、俺の意思で一番最初に戦うと決めたのはお前だ。諦めろ、もうお前は俺の人生に刻まれている」

 

 気色の悪い宣言かもしれんが、俺は俺の人生を売り物にできると思ってる。

 

 くっくっく、英雄の半生を勝手に書物に記して印税生活してやる。

 アルスの分と俺の分を合わせればそれなりに売れるだろ。たまに英雄さまなんて崇めてくる子供がいるがそれは止めろと言いつつ呼ぶこと自体は否定してないので、これからの世代に俺は英雄として刻まれる筈だ。

 

 そしてそれを俺に収益が来る形で公開する、と。

 

 どこをどう隠せばいいかは俺が知ってるからそこも問題ない。ああ、なんて抜け目のない計画なんだ。あまりにも冴え渡る高度な頭脳が人生の答えを導き出してしまった。

 

「…………先輩」

「なんだ」

「いえ、本当に最悪の人誑しだなと思って」

「誰にだってするわけじゃない。そこは勘違いするなよ」

「そういうところですから!」

 

 頬を膨らませて微妙に怒りを滲ませながら、しかし喜色を孕んだ笑みを浮かべている。

 

「これってもう公認ですよね? えへへ、先輩ってば素直じゃないんだから~」

「ムカついたからたった今お前を助ける気は消えた。失せろ」

「ごめんなさい嘘ですすみません! 言いたかっただけです!」

 

 溜息を一つ吐き出して、アランロドの両手に持った輝く盾を睨みつける。

 

 聖女の庇護。

 ……というより、こいつは王家の血族だろうな。

 なんとなくそんな気がする。騎士団長の系譜だと言っていたが、それだけなら国名を冠する『ミセリコ』は刻まれないだろう。

 

 聖女以外の王族が結ばれた果て──まあ、それくらいが妥当か。

 

 正真正銘本物のお姫様を見るのは初めてだが、本人はそんな思考も露知らずあわあわと謝罪を繰り返している。

 

「アランロド」

「えっ、あ、あのっさっきのは冗談ですよね……?」

「さあな。そんなことよりお姫様(・・・)、そろそろいいか」

 

 あまり衆目で語る内容ではない。

 あ~あ、またロア・メグナカルトやらかし列伝に一つエピソードが加わってしまった。最悪だよもう。スズリも見に来てるのに会場の雰囲気凍り付いてんだけど。

 

 俺の言葉に勘付いたのか、アランロドは先程までのお転婆娘から雰囲気を一点。

 

 細められた瞳からは何かを推し量るような気配を感じる。

 

 なるほど、それがお前の本質か。

 あ~~、大体理解してきたぞ。

 

 俺の仮説が正解だったとしたら、あー……うわ、めっちゃ面倒くさいな。やっぱり無かったことにしていいか? 

 

「……何か思い出しました?」

「いいや、ごく単純な推察だ。察するに当たっていたらしい」

 

 ふ~~……

 

 師匠の言ってたことはこれか。

 つまるところグラン家のやろうとしてることは即ちそういうことですか。なるほどなるほど悪趣味だな~! 

 

 溜息を吐いてから観客席に目を通すと、相変わらずの笑みを浮かべたテオドールさんがテリオスさんと共にこちらに視線を向けている。

 

 隣のテリオスさんが苦笑いしてるあたりなんか察したな。

 

「まあいい。色々理解したし、どうやら最初からそういう役割を押し付けられていたのはわかった」

「えっ……もしかして……」

「大人のやり方は汚くて困るぜ」

 

 つまりテオドールさんのお節介だな。

 アランロドの立場が苦境に立たされているのは事実であり、それでいてその血は公に明かされていないもの。それでも遺さない訳にはいかず、かといってこのご時世であくどい手段を取るのは憚られる。

 

 政略結婚とか貴族の世界ならありふれてるのかもしれんが、マクウィリアムズ家はそうじゃない。

 

 ゆえに囲い込むことにした。

 そしてアランロドを崖際に追い詰めて、もう独力じゃどうにもできないラインまで追い込んだ上でその傍で掬い上げるための俺を用意したと。

 

 諦めてグラン家に囲われる事を選ぶのも良し、全部制覇して乗り越えるくらい強くなるのもそれはそれで良し、俺を頼らせることで発生する損得を丸々手に入れるのも良し。具体的に言うなら俺の政界入りとかな、死ぬほどやりたくないからやらないけど。

 

 例えば今この状況でアランロドがミセリコ王国の系譜だとバレたら俺の立場ヤバいし。

 

 流石に難色を示されるだろう。

 そんなもの知ったこと無いと払いのけるからどうでもいいけど。

 こちとら英雄だぞ、なに世界を救った英雄に意見してやがる……!! これが権力だ! わかったかグラン! 

 

「なんか先輩の顔が百面相してる」

「喜怒哀楽を駆け抜けていた。お前も面倒な立場にいるな、今すぐ全部かなぐり捨ててテオドールさんの庇護下に下るのは駄目なのか」

「それ絶対全部気が付いたからですよね。しょうがないじゃないですか、私なんて気が付いたらもうここですよ。絶壁が目の前にあるし後ろには崖があるんです」

 

 死んだ目で話すアランロドを見て悪い事をしたような気がした。

 

 互いに目を見合わせて溜息を吐く。

 ああ、そうか……お前も苦労してるんだな。出来るならそれを俺に寄せないで欲しかった。

 

「一蓮托生って奴ですね、先輩っ!」

「ふざけるな」

「いいえ、否定しません。先輩が拒否しても絶対に否定なんてしてあげない」

 

 アランロドは真剣な表情で俺の事を見る。

 輝き続ける祝福は今も尚胎動の如き鼓動を繰り返している。

 

「だってもう、貴方の旅路に私は刻まれてるんでしょう?」

「…………ぐ、ぎ……」

「女の子は傷つきやすいんだから、そんな顔したら駄目です!」

 

 誰の所為だと思ってる、俺の所為だよくそったれ。

 

 無言でテオドールさんに視線を向ければ皮肉気な表情のまま口をゆっくり動かした。

 

『それでこそお前だ』、だとさ。

 余計なお世話だと言っておく。英雄だと担ぎ上げるのは構わんがこういう形で利用されるのは少々不服なので今度ソフィアさんに嘘を教えることにした。

 

「それにほら、こういう時の先輩って本気で嫌がってる訳じゃないですよね」

「本気で嫌だが……」

「えっ……す、捨てませんよね? 今更私の事」

「手放せない状況に追い込まれてるから本気で嫌がってんだよ、察しろ」

 

 何が悲しくて王族の血を引く少女を手籠めにしなくちゃならんのだ。

 そういうのに興奮する性質を持っていたなら良かったが、ああ、まあ、高貴なる者を自分のモノにするってのは古来から伝わる最悪の性癖だからな。まあ理解だけは示してやるが、そのアフターケアを想像するとそれどころじゃないと冷静になってしまう。

 

 ああいうのは創作だからいいんだよ。

 自分の身に振りかかった時に後悔するのなんてわかりきっている。

 

 光芒一閃を握り直して霞構え。

 

 閃光の如き紫電を漏らし始めた剣を見て、アランロドはやる気なのを理解したんだろう。

 

 先程までのふざけた雰囲気はすっかり無くなり、そこにはただ目の前の敵を見据えた戦士が一人佇んでいる。

 

 まったく。

 王族がどうしてこんな肉体派になるのか。

 強くないと人を導けない世の中はとっくの昔に終わったのに、どうしてかこいつらは強くなることを願い続けている。

 

 他人の影響か、それとも自分で選んだ道か──そこに差はないが、勘弁してほしいぜ。俺は楽して勝ちたいんだ。

 

「本気で嫌だが────今更だな」

 

 アランロドには聞こえない程度の声量で呟く。

 

 嫌なことを受け入れる人生だった。

 本当に、心の底から望まぬ未来を避けるために嫌いな努力に身を浸してきた。その果てにたどり着いた今は後悔もあるが、そう悪いものじゃない。

 

 過去は戻らない。

 ならば未来に投資するのは当然の事だと、思わないか? 

 

「今更その程度躊躇う訳がないだろうが」

 

 観客席には目を向けられない。

 どうせ呆れた顔してるんだろう、見なくても分かる。

 アランロドは動揺して疑惑を抱いていたが他の連中はそうじゃない。テオドールさんのように「ああ、きっとお前ならそうすると思っていた」と言わんばかりの理解者面で俺を見ているに違いないからな。

 

 ただ怠惰に過ごしたいだけの女なら手を差し伸べる事もない。

 

 アランロドはそうじゃなかった。

 努力して努力して道を探し続けて──もう、どこにも道が無いと諦めてしまった。

 

 天涯孤独の身でそうなった人間の手を取れない程、器が狭いと思われるのは遺憾だな。

 

「俺は負けるのが大嫌いなんだ。だからお前も負けてくれると助かる」

「そうはいきませんね。私にだって叶えたい未来はありますから」

 

 大胆不敵に笑ってからアランロドは両盾を構える。

 

 俺の手に握った光芒一閃(アルス・マグナ)と同じ祝福だ。

 かつてグラン帝国から全てを守り抜いたその盾が今目の前に顕現しているという都合の悪い現実からは目を逸らしつつ、勝利するための道筋を探す。

 

 これで盾が片方だったらまだやり易かったんだがな……

 

「……ま、なんとかなるだろ」

 

 紫電を帯びた脚を地面に叩きつける。

 

 一歩踏み込んだその衝撃で足場が罅割れ崩れ落ちるが気にしない。

 

 音も景色も置き去りに雷速へと至り、しかし俺の視界は開けたまま。

 ああ、とうとうこの領域へと足を踏み入れたんだと感動してしまう。戦いの最中であり、ある意味で彼女の運命を決定づける重い世界である筈なのに、こんなにも心地いい。

 

 紫の軌跡を描きながら、あの戦いの後から磨き続けた熟練の一閃をブチ込むために集中する。

 

 狙うべきは隙間。

 盾と盾で守られたアランロド自身を射抜くためのほんのわずかな隙間を穿つ。

 針に糸を通すようなか細い狙いだが、それだけ狙いがわかっていれば十分だ。なにせこれまでの戦いは──これ以上に無理無茶無謀を要求されていたからな! 

 

「──紫電(ヴァイオレット)……!」

 

 剣に宿る紫電が更に輝きを増す。

 

 今に至るまでに俺が刻み続けた軌跡。

 それら全ての終着点、いや、到達点と呼べる斬撃。

 この一閃ならば誰が相手でも必ず手傷を負わせることが出来るだろうと自信を持って放てる必殺の一。

 

 逆に言えば、正攻法でやり続ける限りお前に有効打は与えられない。

 

 少なくとも俺はそう判断した。

 

 だから誇っていいぞ。

 こんなんでも『英雄』なんて呼ばれてる男が本気を出したんだって、お前の価値はそんなもんじゃないって誇ってみせろ。

 

雷轟(フォークロア)────!」

 

 それは、かつての英雄の領域をも凌駕する一閃。

 

 俺が、たった一つの星を手にするためだけに磨き上げた至高の一撃。

 

 暴風を過ごし薄氷と育み剣鬼と高め智謀を打ち破り新鋭をも越え、紫電の導きの元に辿り着いた英雄すらも乗り越えて。

 

 この戦いから(・・・・・・)、俺の話は始まるのだ。

 

 俺の、俺だけの、アルスの記憶も何も関係が無い────ただ星を追い続けるだけの戦いが。

 

「──神域創造(デウス・アルストロメリア)ッ!!」

 

 雷速に対応されたらどうにもならんがそれは杞憂だった。

 

 とにかく正面から来ると思ったのだろう。

 両盾で隙間を防ぐように展開して見せたそれは紛れもない正解だ。どうにも正面衝突する癖が出来てしまっているが、そうでもしなければ完全勝利とは呼べなくなってしまうからな。よく俺の事を理解している。

 

 ──そして、その程度乗り越えられなければならないという事も。

 

 完全に隙間を埋めきるより先に身を屈め、身体が変な方向に曲がり激痛を訴えるのも無視して結界の中に躍り出た。

 

 頬に血が飛ぶ。

 顔の一部分と耳が削れたっぽい。

 痛みがまだやってきてないから大丈夫だ。多分それを認識するより早く決着するだろう。

 

 スローモーションのようにゆっくりと動くアランロドの胴体に向かって、光芒一閃を振りかぶった。

 

 下から上へ斬る。

 動作で言えばそれだけなのに、幾度となく重ねたその斬撃の完成度は比肩するすらいない。

 現時点で世界最高の一閃だ。アイリス・アクラシアとかいう才能の塊に追い付かれるのは分かりきっていても今最高の一撃を繰り出した事実だけは否定させん。

 

「────ッッ!!」

 

 斬り裂いたアランロドから血飛沫が吹き上がる。

 顔の大半が血に染まる。濃厚な血液の香りと声にもならぬ絶叫、そして酷く慄いた表情で俺を見詰める瞳。

 

 眼に血が入り込んだのか視界が悪い。

 それでも目を瞑るなんて行動は一切しない。その程度我慢できなくちゃ負けるような戦いばかりしてきたのだから。

 

「──まだっ……!」

 

 残心のような形をとる俺に対しアランロドは挟撃を仕掛けてくる。

 

 いい手だ。

 普通ならここまで懐に潜り込んだ相手に対して、その盾と魔法ならば有効に働くだろう。

 

 生憎と、今の俺は普通の領域をやっと抜け出したわけだが。

 

 刹那の加速で背後へと回り込む。

 きっとアランロドは目で追えていない。

 雷速は普通目で追えるもんじゃない。身体強化したところで雷の速度には至れないし追いつけないんだ。俺の場合は勘でなんとかしてた。

 

 完全に俺を見失っていたアランロドはビクリと身体を震わせ背後へと振り向こうとするが──それはさせない。

 

 無防備な背に一閃。

 袈裟斬りに刻まれた傷跡から血が滲み溢れ出るし制服も裂いてしまったのでちょっと怪しい事になっているが、何とかなるだろう。

 

「また戦おう、アランロド」

 

 俺にしてはらしくない言葉だ。

 まったく、こんな優しい言葉を投げかけるのはお前だけだぞ。

 救ってやるなんて言っちまったからな。その責任を取る事を選んでるだけ。

 

 だから――――お前がその目的を達成できるように、お前が強くなれるように何処まででも相手をしてやる。

 

 卒業するときにきっと誰よりも強くなれるように。

 

 盾を地面に突き刺して堪えようとしながら、それでも膝から崩れ落ちていくのを見送って――――決着だ。

 

 力を抜いたアランロドに制服の上着を肩から羽織らせて少しずつ回復魔法で休ませながら、沸き立つ観客席へと目を向ける。

 

 ステルラは俺の事を真っ直ぐ捉えていた。

 いつかきっと、お前に手を届かせてやる。俺と融合可能になったからそれを疑ってはいないだろうけど、今改めて確信してくれると嬉しいぜ。

 

 

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