【本編完結】英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

18 / 122
第二話

 入学してから一ヶ月と少し。

 現在の生活にも徐々に慣れてきて余裕が生まれる頃合いだ。無論俺は学生生活など久しく行っていないから慣れもクソも無いが、周りの人間は少しずつ習慣付いてきている。

 

 アルは順位戦を開始したらしい。

 既に一年生の中では中堅、二年生下層に挑戦してるそうだ。肉体のオーバーヒールを利用した完全物理型で狂気すら感じる戦い方だった。出来ることなら戦いたく無い。

 

 ルーチェはたまに負けてるが、それでも二日に一回のペースで順位戦を行っている。敗北しても引き摺らない強さになったのはやはり素晴らしい。俺は負けたらクソ引き摺るだろうからマジで無敗でやれる相手だけ倒してぇ。

 

 でも無敗でやれる相手とかたかが知れてるんだよな。侮辱してるとかそういう意味ではなく純粋な意味合いで、俺より順位低い相手と戦う理由は無い訳だ。

 ランキングだけで言えば推薦枠だから一年生の中では上。二年生とか上級生を倒してるバケモン共と比べれば下になる。

 

 最上位を目指すなら最上級生になるまで待って、そこからステルラを負かせばいい。

 

「フ、俺の頭脳は相変わらず明晰すぎるな……」

「突然どうしたんですか」

「未来は明るいと噛み締めているトコロです」

 

 変な人ですね、なんて言いながら本に再度目を向けた。

 現在時刻は放課後でいつも通り、俺が課題に取り組んでいる最中だ。何故か教室に襲来したルナさんが着いて来たいと言うので了承したが…………

 

「ロアくんは魔法の才能が無いですね」

「うるさいですね……」

 

 あーはいはい、無能無能。

 悪かったですゥ~~俺に才能が無くてよォ~~~。

 

「決してやり方が悪い訳ではありませんし、無駄な努力をしている訳でも無い。ですが究極的に魔力という概念に対しての理解がどうしようも無いんですね」

「俺を虐めて楽しいですか? 俺は鋼の心を持っているが許容量には限りがあるんですわ」

 

 褒めるのか貶すのかハッキリして欲しい。

 俺は九対一で貶められていると感じている。大変遺憾です。

 

「いえ、逆です。それだけ難しいと自分でも理解しているのに諦めないその姿勢が素晴らしいと思います」

「努力何てなんの価値もありません。何故なら、誰もが努力しているから」

 

 実らなきゃ努力何て意味を成さない。

 

 魔獣に殺されないように努力した。

 努力はしたが、実力と武器が無くて勝てなかった。

 

 最終的に生きて勝たなきゃなんにも残らない。

 

「少なくとも俺はそう思ってる。誰か他人の努力を否定するつもりはさらさら無いが……」

 

 努力は嘘を吐かない。

 ならば、嘘を吐いた努力は無駄になるのだろうか。

 発揮できなかった努力は無駄だったと諦めなければならないのだろうか。過ごした時間は、人生は無駄になるのだろうか。

 

 俺はそう思いたくない。

 自分が選択した道は誤りでは無いと考えていたいんだ。

 

「……優しいんですね」

「捻くれてるだけですよ」

 

 

 

 

 

 # 第二話

 

 

「で、どうですか。俺を見た感じ」

 

 薄暗くなってきたので家までルナさんを送る帰路にて問い掛けた。

 俺に近づいてきた理由は『英雄』として興味があったのであり、俺個人に興味があった訳じゃないだろう。勝手な予想だけどな。

 

 一度顎に手を置いて考える仕草をしてから、ルナさんは喋り出した。

 

「英雄と呼ばれるのも納得です」

「誰かに言わされてませんか?」

「そんな事ありませんよ。私が考えた結果です」

 

 失礼な、なんて言いながら変わらない無表情で呟く。

 

「私なりに英雄のことは噛み砕いていました。師は大雑把に見えて繊細な部分があるので信用しています」

「それは確かに。ウチとは大違いだ」

 

 エミーリアさんは親友を除いて最も英雄を理解していたと言っても良い。

 なのにあんな風に記憶に鮮烈に残ってるのはヤバい連中なのおかしくないか。身近な仲間にもっと注目しろよ。……いや、逆か。身近な奴らは大丈夫だから注目してなかったんだろうな。

 

 その点俺は違う。

 

 その他大多数の人間のことは考えてないし、身の回りの大切な知り合いだけ守れればそれでいい。ていうかステルラのために頑張ってるんだよ。そこら辺分かってんのかなアイツ、いやわかんないままで良いわ。なんか癪だし。

 

「愛情表現が過激すぎる。子供の頃からなんにもかわらねぇ」

「でも楽しんでるんじゃないですか?」

「そんなバカな。俺はいつだってやめて欲しいと切に願っている」

 

 ちょっと揶揄ったら電撃ビリビリは洒落にならない。

 俺だから大丈夫だがいつか他の人間に飛んでいくんじゃないかと危惧している。主に帯電した先で。

 

「お陰で雷に対して耐性が出来ました。まったく」

「気付いてないんですか」

「何がですか」

 

 自分の口角をむに、とあげて無表情のままルナさんが言う。

 

「笑ってますよ」

「…………バカな」

 

 そんな筈はない。

 苦い思い出を語るのにどうして微笑む必要がある。

 思わず口角を触るが、筋肉が動いている感覚はない。

 

「嘘です」

「……ハメたな」

「優しい嘘もあるんですよ」

「それは言われた側の言葉であって言った側の免罪符ではない」

 

 イイ性格してやがる。

 

「なんだか私も楽しくなってきました」

「代わりに俺は急転直下だ。機嫌取ってくれ」

「甘い物は如何ですか。いいお店知ってるんですよ」

 

 ゴチになりま~~~す。

 っぱこういう恵が俺を癒してるんだよ。相変わらず働いてないので金が無いからお店とかは行ったことないんだよな。ルーチェに集るにしたって限度があるし、そもそも俺はソレ目当てで友人になった訳では無い。

 

 あくまで話の流れで奢られるのがベストだ。

 

「俺はお金無いから任せます」

「………なるほど、こういう部分が」

 

 なんか一人で納得しているが知った事ではない。

 俺が貶められた事実なんぞどうでもよく、既に頭の中は甘い物に支配されている。

 

「いいでしょう。人気者を独り占めする対価です」

「そんな大袈裟に考えなくてもいいんスけど……」

「エンハンブレさんやエールライトさんに悪いですからね」

 

 あの二人だって常に俺と絡んでたい訳じゃないだろ。

 良き友人だし片方は人生を左右した幼馴染みだが、それでも他人は他人。一人で過ごしたいと思う時はあるだろうし用事がある時もある。

 

 他人は他人、この考えが一番大事だと思っている。

 

「遠慮する必要はないです。俺は誰でもいいので」

「その発言は相当アレなんですけど……」

「自分を曝け出すのは気持ちがいいですね」

「世の中には隠しておいた方がいい本音もあるんですよ」

 

 俺の隠しておきたいことはどんどん明るみに出ていってるのでその理論は通用しない。猫被りは既に体をなさず、普段はヒモ系やる時はやる昼行灯キャラしか俺の行末は無くなってしまった。

 なお昼行灯がうまく定着しなければただのヒモ。

 

「ルナさんは俺を受け入れてくれますよね」

「甘やかす人は十分いるでしょう?」

「まだ足りないです。護身を完成させる日は訪れないと確信している」

「欲張りですね。あんまり泣かせちゃだめですよ」

 

 誰をだよ。

 常に泣かされてるのは俺だよ。

 毎日いたぶられて悲しい思いしてるのは俺の方だよ。ちょっとの飴くらい許してください、お願いします。

 

「そういえば、順位戦やらない理由ってあるんですか」

「ええ、ありますよ。くだらない理由ですが」

 

 ふ~ん。

 話したい感じでは無さそうだな。触れないでおくか。俺は気遣える男、他人の嫌がることは出来るだけやらないようにしてるのさ。

 

「俺も出来ることなら戦いたく無い。痛くて苦しいし」

「バルトロメウス君とエンハンブレさん。どちらも十二使徒関係者ですね」

「ルーチェはともかくヴォルフガングは金輪際戦わないと誓いました。アイツ強すぎるんです」

 

 次代の十二使徒候補とか格が違うんだよ、マジで。

 一発目でヴォルフガングに勝てたのは本当に良かった。運では無く実力だと高らかに謳いたい所だがそこまで思い上がりはない。初見特有の驚愕、好奇心からの慢心。

 

 正面からやり合えば負ける可能性の方が高い。

 負ける気はないけどな。

 

「このまま最上級生になるまで維持すれば学年トップ10は確実。つまり四年後、自動的に俺は一位になれるかもしれないって計算です」

「狡いですね…………」

「なんとでも言ってください。俺は一度勝てばいいんです」

 

 同学年にバグみたいな連中が大量にいるのだけはやめて欲しい。

 俺が負けさえしなければ不動の順位を保持できるのでこの作戦は実際有効である。俺の周りだけ戦っててくれ、俺は戦いたく無い。

 

「じゃあ私が挑んじゃいましょうか」

「お断りします。紅月(スカーレット)なんて名付けられてる人に勝てると思うほど驕っちゃいない」

 

 アル曰く、唯一の公式戦では圧勝。

 爆炎で焼き殺すんじゃ無いかと思うほどの熱量でワンパンしたらしい。相手は無事に生還したが、以後火を見るとトラウマが刺激されるようになってしまったそうだ。

 

 それもあるのだろうか。

 無闇矢鱈と実力を発揮しては良くならないと、天災クラスである自身の力を改めて認識してくれたのかもしれない。

 

「バルトロメウス君には勝てたのなら、私にだって勝てるかもしれませんよ?」

「やらないやらない。俺が苦しむのが確定している」

 

 灰色の未来は願っていないのだ。

 まったく、強い連中は強い奴ら同士でやり合ってくれ。俺は師匠の魔力が無いと何もできない一般人だぞ。

 

「……ふふ。でも、ロア君と戦いたいのは本音です」

 

 変わらない無表情で、だが僅かに喜色が滲んだ声色でルナさんが言う。

 

「受け止めてくれますか?」

「…………今すぐは遠慮します」

「誰にだってそう言うんですか」

「親しい人間にだけです」

 

 クソが。

 嫌に決まってるじゃないか。

 記憶の中にあるエミーリアさんの戦い方すら相手にしたくないと思うのに、百年以上経過して進化した連中とか戦いたくないに決まってる。

 

 でもさァ~~~~、縋られたらどうしようもないよな。

 

「俺は決して自分から進んで戦いません。唯一戦う相手はステルラ・エールライトだけですから」

「なんだか嫉妬してしまいそうです。どうですか、私もロアくんに執着してますよ」

「そういうのありがた迷惑って言うんすよ。俺の両手はもう埋まってます」

 

 もう随分歩いて来た。

 自宅に着く頃には夜も深まり風呂入って寝るくらいしか出来そうにない。

 雑談の切れ目にルナさんが足を止めて、俺もそれに倣い止まる。

 

「ありがとうございました。ここなので」

 

 目を向けてみればデッッッッカイ屋敷。

 めちゃくちゃ広いじゃん。俺の部屋何個分だよ、同級生でここまでいい場所に住んでる人居ないと思うんだが。

 

「お師匠と一緒に住んでいるので」

「その手があったか……!!」

 

 どうして俺は思いつかなかった。

 ステルラや師匠が突撃してくると最初からわかっていれば俺も同じ選択肢を取れたはずだ。師匠も立場を配慮すればこのくらいの屋敷に住むことは可能だし、俺もそこにあやかって暮らす事が出来た筈。

 

「クソッ……ハメたな! エイリアス……!」

「人の家の前で何騒いでるんだ……」

「お師匠。ただいま戻りました」

 

 あきれ顔で中から出て来たのは魔祖十二使徒第三席。

 此間俺の家に来た時とは違いオフ感漂う服装と髪型だ。赤い髪を緩やかに後頭部で纏めた簡易的な姿も似合っているのが流石としか言いようがない。

 

「おっ。デートか?」

「違います。どちらかと言えば護衛です」

「もうちょっと色気のある回答してくれてもいいじゃないですか」

 

 無表情で膨れるのは違和感しかない。

 でも不思議とわかるのだからすごいな。表情の起伏が薄いのに感情を表に出すのが上手ってどういう事なのだろうか。

 

「俺はデートで奢られると決めている。どれだけ罵られようとそこだけは譲るつもりはない」

「うわ…………」

「改めて聞くと結構引きますね……」

 

 何とでも言うがいい。

 その篩を乗り越えた奴のみが俺とデート出来る。あれ、めっちゃ自己評価高いクソ野郎みたいになってるじゃないか。こんな大それたこと言っても見捨てない奴らが周囲にいる所為で俺の屑度合いが日に日に増している気がする。

 

「男女平等。俺は等しくすべてにたかると胸に誓っているんです」

「エイリアス……甘やかしすぎだろ……」

「師匠は俺の事大好きなので王権を築くのは容易かった。ステルラも俺に負い目があるのか知らないけど勝手に背負いこもうとするし、ルーチェはイイヤツなので俺に甘い。護身が割と完成してるのでは……?」

「最悪です」

 

 ルナさんの俺を見る目が若干厳しくなった気がする。

 

「待ってください。確かに俺はヒモ気質で誰にでも釣られていく夜の虫みたいな性質はありますが、それは親しい人間にのみという条件があって」

「言い訳になってないからな。まったく……」

 

 溜息交じりに笑うエミーリアさん。

 流石はあの大戦での人格者枠、魔祖を見て来た人たちからすれば俺とか可愛いモンだろ。

 どんぐりの背比べとか言うなよ。俺の判定では確実にセーフだから。

 

「まだご飯食べてないだろ。食べてけよ」

「マジすか」

 

 これだよ。

 このナチュラルな甘やかし方、これこそ俺が求める全てだ。エミーリアさんを見習ってルナさんも学んでほしい所存であります。

 

「お師匠の料理は絶品です。私が保証します」

「そんなにハードルは上げないで欲しいんだが……まあそれなりだよ。普通に食べれる程度には練習したからな」

 

 若干遠い目でそう呟く。

 急に闇出すのやめてくれないか。

 かつての英雄の中でエミーリアさんの料理が美味いという記憶はそう色濃く残ってないので、大戦終わった後に練習したパターンだろ。

 

 因果が全て収束してきてる気がするのは俺だけか。

 

「ではありがたく」

「おう、大したもんじゃないけどな?」

 

 ……まあ、俺はかつての英雄じゃないが。

 少しくらいは肩代わりするのもやぶさかではない。たとえ本人がそれを知らないとしても、誰一人としてその事実が伝わらなかったとしても。

 

 少しは報われたっていいんじゃないか。

 

「余すことなく俺の胃の中に収めて見せましょう。それが招かれた者の定めです」

「ほほう。では勝負しましょう。負けた方は一回だけなんでも言う事聞くルールで」

 

 勝負、その単語が会話に出て来た瞬間にゴングは鳴っている。

 俺の勝負脳が即座に弾きだした計算の結果リスクよりリターンがデカい事を結論付けたのでこの勝負には乗っかる事にした。ルナさんに一度命令できる権利とかあまりにも贅沢すぎる、負けた場合クソ痛い事になるが負ける事は考えてないから問題ないな。

 

「後悔させてあげますよ。俺に勝負を挑んだことを」

「ふふ、こう見えて結構食べるんですよ?」

「あ~あ…………」

 

 男子学生の胃袋を舐めるなよ。

 俺は師匠の置いて行く食材を余すことなく食べている程の健啖家だ。

 

 何お願いしようかな。

 一回のお願いを複数回に増やすのがやっぱり鉄板だろ。

 そんでもって俺に沢山奉仕してもらうぜ。これが勝利の方程式ってヤツだな。

 

 

 

 

 

 この後、アホみたいな量のご飯が出てきて俺は敗北を喫する事となる。

 無表情感情豊かキャラが健啖家とか属性盛りすぎにも程があると思うんだ。エミーリアさんのご飯は大変美味しかったが、それどころではない敗北の屈辱を味わう事となってしまった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。