英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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第三話

 俺は自分の発言には一貫性を持っている。

 言い繕う瞬間は掌返すことはあるが、自分の生命の危機に瀕した時以外は常にスタンダードを貫いているハズだ。

 

「どうですか、似合ってますか?」

「大変お似合いです」

 

 変わらぬ無表情で軽やかにボディランゲージを表現する犯人を見ながら、俺はどうしてこうなったのだろうかと思いを寄せた。

 

「むむっ。もう少し興味を持ってください」

「異性の着替えに対して興味津々なのもどうかと」

「男の子はそれくらいで良いんですよ。ホラホラ、ひらひらですよ」

 

 ハッ。

 今更スカート丈に釣られるような男じゃないぜ。

 ルーチェ戦でバッチリ焼き付けたからな。弱冠十五歳にして黒の派手パンツだったから刺激十分すぎる。

 

 そもそもルナさんは起伏の激しい身体つきではない。

 ステルラはやや平均的と言えるスタイルで、ルーチェは年齢にしてはそこそこ。最上位にスタイルお化けがいるからそっち方面では俺は無敵の耐久力を誇るのだ。

 

「やはりエンハンブレさんやステルラさんには勝てませんか……」

 

 こいつエスパーか? 

 思わず汗が流れ落ちたような気がしたが、それを悟られるのは非常に失礼なのでなんとか誤魔化す事にする。

 

「ルナさんは魅力的ですよ」

「嬉しい事言ってくれますね。でもまだ足りません」

「……足が綺麗です」

「もっともっと」

「髪が綺麗だ」

 

 むふーと満足げにする。

 

 一種の拷問か。

 別に褒めるのは構わないんだが、公衆の面前で行われる行動だと言うのが問題だ。首都はそれなりに広い、だが俺たち学生の生活圏内は近いのだ。

 

 つまりどう言うことか────

 

「…………ロア?」

 

 はい、ロアです。

 錆びた機械のような動きで首を動かして後ろを見る。茶色の髪に幼さが少しだけ残る美少女が私服で佇んでいる。瞳から僅かに失われたハイライトが星の終わりを示すようで、俺の生命の終わりすらも示唆している。

 

「おや、エールライトさんですか。初めまして、ルーナ・ルッサと申します」

「あ、どうも初めまして。ステルラ・エールライトです…………?」

 

 早くも先手を取られているが首を傾げたまま固まっている。

 その調子だルナさん、アンタが先手を取り続ける限り俺に終わりは訪れない。今この瞬間だけはアンタを支持することにするぜ。

 

「ロアくんをお借りしてます。デートって奴ですね」

 

 変わらぬ無表情のまま俺の腕に抱きついてくる。

 役得だ〜うれし〜なんて言う訳ねぇだろボケ! 面倒に面倒を重ねた面倒のミルフィーユになってんだよ。重なりすぎておかしくなりつつあんだよこの状況はよォ! 

 

「デ、デート…………」

「ロアくんがどうしてもって言うので」

 

 合ってるけど違う!! 

 

「ステルラ、ホラ吹きの言うことは信じるな。俺は勝負に負けて屈辱に塗れた一日執事とか言うヤバい条件と一日デートを天秤に掛けられてやむなく選択したんだ。お前ならその意味がわかるだろう」

「燕尾服も似合うと思うんです。そうは思いませんか?」

 

 思わないです。

 

「燕尾服のロア……」

 

 ダメみたいだな。

 お前ホワホワしてんじゃないよ。もっとしっかり自分の芯を保てよ。頑張ってくれ頼むから。

 

「何やってんのよアンタら」

「ルーチェ! よく来てくれた」

 

 やはりお前は俺の救いだ。

 

 苦しい逆境の最中唯一と言っていい俺の味方。

 春の気候も相まって少し暖かい服装だ。ニットセーター……って言うんだったか。ボディラインも合わせて似合っている。

 

「初めまして。ルーナ・ルッサと申します」

「……初めまして。ルーチェ・エンハンブレよ」

 

 他二名に比べて少しだけ身長が高いので見下すような形になっている。

 目付きが悪いんだよ。デフォルトで睨んでるのかってくらい鋭い時があるからそこだけは直した方がいい。でも最近絡むようになってから程よく柔らかい目尻に変化していっているから良い傾向ではないだろうか。

 

「ロアくんをお借りしていました。返す予定はございません」

「別に好きにすればいいんじゃないの。私らのモノじゃないし」

 

 少しは俺を慰めようってつもりはないのか。

 恩を仇で返すとはこの事か。

 

 あ~あ、そういう事言うなら俺は流されちゃうもんね。ルナさんは俺を甘やかしてくれるオーラたっぷりあるし、エミーリアさんすら俺を甘やかしてくれる。

 俺の本質を見誤ったか? 

 

 悲しいよ、ルーチェ。

 

「ふふっ。(今日一日は)私のモノですね」

「そうですね。(今日一日は)貴女のモノです」

 

 腕を絡めて来たルナさんを振りほどく事も無く受け入れる。

 籠絡する手立てには乗らないが、そういうことなら喜んで協力しよう。

 

 予想通り眉間に皺を寄せたルーチェは睨みを利かせた。

 

 俺に。

 

「おやおや、どうしたんだルーチェ。俺は約束で仕方なく従っているだけで望んで服従している訳じゃない。今も屈辱に塗れて腸が煮えくり返っている所だ」

「それにしては楽しそうね」

「そう見えてしまうか。やれやれ、まだまだ俺の理解度が浅いな」

 

 額に青筋が浮かび上がるのが見えた。

 やりすぎた。調子に乗ってごめんなさい。ア゛~~~~!! 今すぐ平謝りして逃げ出してぇ。でも勝負の結果である約束を投げ出すわけにもいかない。

 

 煽らなければよかっただと? 

 

 その通りだ。

 

「まあ落ち着けルーチェ。お前は俺の事をよくわかってるだろう」

「スケベ野郎」

 

 誰がスケベ野郎だ! 

 言うに事欠いてスケベ野郎だと…………? 

 

「フン。単に俺の周りの人間が俺の事を好きなだけだろ」

「思い上がり甚だしいわね」

「そんな……じゃあ、お前は俺の事が嫌いなのか……」

「……………………そうは言ってないでしょ」

 

 本当チョロいな。

 

 腕を絡めて来たルナさんも若干呆れ顔になっているような気がする。

 

「……あざといですね」

「カワイイ奴なんです」

「うっさいわね!」

 

 

 

 

 

 

 

 # 第三話

 

 

 女三人寄れば姦しい、なんて言葉がある。

 一括りで表現してしまうのは失礼かもしれないから好ましくないが、今ばかりは頭に浮かんでしまう。

 

「へぇ、ロアくんってステルラちゃんの為に頑張ってたんですね」

「俺は一度もそんな事いった事無いんだが、どうしてそういう風評が広まっているのか甚だ疑問ですね」

 

 何時までも服屋で騒ぐわけにもいかず、ルナさんが気に入った服を何点か購入して後にした。

 流石に下着とかそういう部分で揶揄う気は無かったのが助かる。そこまでやられてたら対応に困っていたところだ。具体的にはエミーリアさんに泣きつく。

 

「これ本気で照れ隠しなんですか? わかりやすいですよね」

「え、えへへ……そういうトコロがいいんですけど」

 

 コラそこ、なに話してんだ。

 聞こえてんだぞ。身体能力も人間の枠から外れない俺だが、自然の中で危険から遠ざかる為に鍛えられた五感は引けを取らないと自負している。

 

 なにが『そういうトコロ』だ。

 

 クソが、ムカムカするぜ。

 

「フ…………モテる男は辛いぜ」

「スケベ野郎」

 

 お前さ。

 俺はあの時確かに言ったハズだ。

 後になって制裁とか無しだって。同意もしただろう。約束を破るのか……! 

 

「ロアくんはスケベなんですね」

「非常に遺憾だ。今すぐ撤回させてやる」

「力尽くでそんな……」

「このボケ」

 

 頭桃色のアホ先輩は放っておいて、冷ややかな目線を差し向けてくるルーチェに対して反論する。

 

「俺は男だ。成人が近い男性は性に興味を持つのが当たり前であり必然である。特に思春期と呼ばれる段階に突入している今、身の回りに整った顔立ちの女性が沢山いるのだから発情してもおかしくは無いだろう」

「なんだか釈然としないわね……」

「お前は綺麗だ。だから仕方ない」

 

 ここまで言っとけば問題ないだろう。

 予想通り顔を隠すようにマグカップを手に取ったルーチェ。既に手のひらの上なのさ。

 

「むむむっ。私に対してはあんなに適当だったのに……」

「愛情の差です。好感度と言い換えてもいい」

 

 まったく。

 俺は無条件で他人に施しを与えるような聖人君子ではないのだ。手の届く範囲しか差し伸べないし、そもそもずっと手が届かない場所に走り続けてるのだからそんな余裕は一切持ち合わせて無い。

 

 なのに周りも見捨てないとか我ながら良いやつすぎないか? 

 

「ルーチェはいいヤツだから俺だって相応の態度を取る。何処ぞの紫電気ババアみたいに暴力を振るうこともあるがそれも全て照れ隠しだ。照れ隠しに暴力は見方によっては犯罪かと思われてしまう可能性もあるが、その全てを俺は受け入れてやろう。あ〜あ、懐が広すぎて驚いてしまうな」

「台無しだよ!」

 

 突然憤りを露わにする幼馴染み。

 落ち着きが足りないな、自分で言うのもなんだが山で過ごしてみたらどうだ。怒りは無駄にエネルギーを浪費するだけの無駄な感情だし、人生を曇らせる要因になると言っても過言では無い。

 

「確かにロアくんは勝負に負けたら潔く受け入れる度量はありますね」

「俺に喧嘩売ってますか。買ってやろうじゃねぇか」

 

 キレた。

 一度負けたことはまあ認めてやろう。

 だがそれを永遠に引き摺られ擦られることはゆるせない。その行動をしていいのは俺だけなんだ。

 

「やれやれ。落ち着いてくださいロアくん」

「俺は至極落ち着いている。心の中で憤りを感じているだけで頭は冷静だ」

「煮え切ってますね。熱という分野なら負けませんよ」

「魔法が炎なだけだろうが」

 

 フンッと胸を張るアホ先輩。

 こんなのに乗せられていたのか……俺は。冷静になると自分が恥ずかしくなる。

 

 魔獣が一匹魔獣が二匹、魔獣が三匹魔獣が四匹……よし、落ち着いた。

 

「二人で出掛けてたのか」

「うん、そうだよ!」

 

 楽しそうに笑うじゃんか。

 ルーチェは……ちょっと顔を背けてるな。照れてる感じか? お前。

 

 ホントかわいい奴だな。

 

「偶然同じ店で出くわすとは」

「折角のデートがご破算です。ロアくん、埋め合わせしてくださいね?」

「嫌です」

 

 注文した菓子を平げお茶を流し込む。

 風情もクソもないように聞こえるかもしれないが作法は完璧だ。どこに出されてもそういう面では問題ないと自負している。

 

「別にルナさんと出掛けるのが嫌な訳ではなく、純粋にやりたいことがあるからお断りします」

「私でよければお付き合いしますよ」

「遠慮しておきます」

 

 俺は家でゆっくりしてたいんだよ。

 出来る事なら魔法の勉強とかしないで歴史書とかを読み耽っていたい所を勉強に費やしているんだ。学校以外で努力とかしたくないし寝ていたいのにやっているあたり俺がどれだけ苦しんでいるか予測できるだろう。

 

 簡潔に述べれば家でゴロゴロしたいのだ。

 

「振られてしまいました。一途ですねぇ」

「誠実な人間が好まれるらしいので、俺も誠実に生きているだけです」

 

 何一つ嘘は言ってないからセーフだな。

 

「少し不真面目なくらいが好みです」

「それは残念だ。俺とは真逆の性質です」

 

 フンッ。

 女性陣がゆっくりとお茶を楽しむのに対し高速で食事を終えた俺。これも全て数年間の山籠りの果てに磨かれたクソ技能なのだが責任を取るべき妖怪は見て見ぬ振りをしてくる。

 

 それどころかどんどんおかわりを渡してくる始末だ。

 

 思い出したら気持ち悪くなってきたな。

 もう限界ってくらい食ってんのに更に渡してくるんだもん。めっちゃ楽しそうに見てるから断るわけにもいかないし無理やり押し込んで飲み込んだよ。もう味はわからなかった。

 

「どしたの?」

「なんでもない。少しトラウマが刺激されただけだ」

「それは大丈夫じゃないと思うんだけど……」

 

 甘やかされるのは好きだが甘やかすのは好きじゃない。

 俺は自分勝手だからな。本質を見誤る人が多いが俺は根本的に屑寄りの人間である。捻くれてると言ってもいい。

 

「ロアくんロアくん」

「なんでしょうか」

 

 スッ…………と、目の前にフォークに乗った果物がやってきた。

 

「あ~ん」

「…………」

「あ~ん」

「…………むぐ」

 

 チッ、仕方ない。

 ご飯に罪はないからな。それにこの行為も受け取り方によっては甘やかしているのと同意義であるので俺としても文句はない。別に腹一杯でも無いし。

 

 甘いクリームが僅かに口の中で広がり、果物の酸味と美味く混ざり合っている。美味しい。

 

「美味しいですか」

「美味しい」

 

 まったく。

 まあ一日何処かに連れまわされるよりかはマシか。

 服屋でまあ、見た目は美少女な先輩の着せ替えを見れたのだ。人によっては褒美にもなるだろう。

 

 俺にとっては別に褒美でも何でもないが。

 

「ぐぬぬ…………」

 

 ステルラが唸っている。

 その手に握ったフォークにはケーキが突き刺さっている。なあ、その矛先を誰に向ける気なんだ。品位と作法が失われつつあるんだが。

 

 その隣のルーチェを見れば、絶対零度の視線が突き刺さっている。

 勿論魔法が漏れてるとかそういう訳ではない。あくまで比喩である。

 

「モテモテですね、ロアくん」

 

 お前の所為だよ。

 いつも変わらない無表情しやがって、責任取れ! 

 俺が受け入れなければいいとか野暮な事言ったやつは座ってろ。受けれる時に受けておくのが慈悲を授かる人間としての基本なんだよ。

 

「む、むむっ」

 

 むにぃ~~っと頬が伸びる。

 それでも変わらぬ表情筋。なんか裏がありそうで嫌だから触れてないが、理由はあるのだろうか。単にそういう性格なだけか。

 

「淑女の肌に無断で触れるとは……」

「自分から腕を絡めてくる女が何を言っている」

「いやですね、ロアくんにしかしませんよ」

 

 謎の好感度やめろ。

 なんの理由も無い好意は恐怖でしかない。

 政界もクソも関係してないから個人の好みなのだろうが、それでも突然現れた美少女に『あなたが好きです』と言われて頷けるのはリスク管理が出来てない人間だけだ。

 

 無論俺はリスク管理を徹底しているので美人局にも引っ掛からない訳だ。

 

「俺は合格ですか」

「私個人としては一つも文句はありません」

 

 どうやら許された様だ。

 

「自分の身が置かれている状況を正確に理解した上で全部巧みに利用しているのは小賢しいのか、それとも図太いのか……」

「褒められてる気がしないんだが」

「勿論褒めてます。器が大きいと言い換えていいでしょう」

 

 ならいい。

 言葉選びが最悪なんだよ。

 

「少し女泣かせな部分が目立ちますが、それも含めて魅力的です。倒錯的な恋愛をしている気分になれます」

 

 これ褒めてないよな。俺がヒモ人間だってバレてる上で冷静に外部から分析されてるだけだろ。単純に言い換えれば『ダメ男に弱い女』泣かせってことだろ。

 

 何一つ言い返せない。

 

「なにより────好みの顔です」

「主観的な評価ですね」

「なにおう。異性の顔の良さが十割を占めると言っても過言ではないのです、私が一目惚れした可能性は信じられませんか?」

 

 それが目的じゃない事くらい見抜いてる。

 

 確かに俺は田舎出身山育ちの野蛮男性である。

 だが頭の中には二人分の人生が詰まっているのだ。対人関係に関しては寧ろ豊富、腹の裏側で考えてることだってお見通しだ。相手の思惑を把握し理解したうえで全て踏み越えた英雄とは違い、相手のストレートを避けて自分の領域に引き摺り込まなければならないのが俺である。

 

「信じるか信じないか、という二択で言わせて貰うならば信じます。思惑が有ろうと無かろうと俺に恵みを与えている事には変わりはない」

「ブレないですね……」

「そこがイイんだろ」

 

 おいステルラ。

 なに「うわぁ……」って顔してんだ。俺は元々こういう性質だぞ、お前わかってんだろ。

 

「言い換えればパトロンだ。略してパト活」

「アンタ今色々ダメな方向に進んでるわよ」

 

 ここで呆れ果てた三人に仮に見捨てられるとしよう。

 俺は途方に暮れる。ステルラに見捨てられたらもう泣きたくなるんだが、あくまで仮定。見捨てられることは無いと信じている(・・・・・)

 

 一人寂しくご飯を食べている俺に救いの手を差し伸べるのは師匠だ。

 あの人だけは俺を見捨てない。ステルラが怒って一時的に仲違いしたとしても、ルーチェがマジギレして疎遠になっても、ルナさんの本当の思惑が露わになっても。

 

 誰がどれだけ俺から離れようが師匠は離れないのさ。

 

「魔祖の性格だってカスだし問題ないだろ」

「それを言われると言い返せません」

「そ、そんなになんだ……」

 

 ステルラはまだ顔合わせをしてないらしい。

 噂程度にしか聞いてないのだろうか。まあ記憶の中で目の当たりにしてる俺やかつての魔祖の話を聞いている人間はカス呼ばわりでも生温いと思う。

 

「さあどうだ。俺とデートをするとはこういう事だ」

 

 ルナさんが離れる事は暫く無さそうだが、とりあえず言っておく。

 興味本位で近づいてきてある程度俺の事は理解しただろう。その上でまだ絡む気があるのなら俺も態度を変える。具体的には甘える姿勢を上方修正するつもりだ。

 

「財布も持たずにデートに誘う男は違うわね」

「金持ってる奴が出せばいいじゃないか。俺は無い」

 

 あの時は急いでたからしょうがないんですゥ~~~! 

 

「甲斐性が無くても生き甲斐を与える事は出来ると確信しているからな」

「………………はぁ」

「ま、まあまあルーチェちゃん」

 

 二人はともかく本来の相手であるルナさんへと視線をズラす。

 

「こうやって頼られるのは初めてなので新鮮な気持ちです。もっと任せてくれてもいいんですよ」

「マジかよ」

 

 一目惚れは嘘じゃないかもしれない。

 だが少し待て。今聞き逃せない単語が出てきたような気がする。

 

『頼られるのは初めて』、か。

 他に弟子が居る訳でもない第三席の一番弟子で、住む家すら同じで。

 

 ルナさんの家庭環境はどうなってるんだ。

 

 ン、ンンンン~~~~……

 急激に怪しい方向になってきたぞ。

 こんだけイイ性格してて色々引っ張ってくれる人が頼られた事がない、か。深読みで済めばいいんだが。

 

「はい。私に家族は居ないので」

 

 突如ブチ込まれた激重家庭状況に場が凍り付いた。

 温度差の激しさが急転すぎて風邪引きそうなんだが。そういう地雷原抱えてるの、そろそろやめて頂けませんか。俺も他人を気遣うのは疲れるのだ。

 

「あ、深く考えなくて大丈夫です。子供の頃の話ですし、今はお師匠が家族ですから」

 

 そう言いながらお茶を飲む。

 

 無表情が変わらない所為で測れない。

 他人を全て理解する事なんて不可能だが、それにしたって怖い話題だよ。センシティブな話題に顔を突っ込んで大丈夫かどうかの判断は何時だって怖い。

 

「む……すみません。お恥ずかしい話ですがこれまで友人が出来た事無いのでどこまでがセーフかわかりませんでした」

「そこのエールライトとかいうヤツも同じタイプなので大丈夫です」

「ロア!?」

 

 コミュ障自覚がある分マシだな。

 こういう事を言うあたり本当に大丈夫だと思ってそうだ。

 深く触れないように注意すれば問題ないだろう。ルーチェの時みたいにステルラが地雷原を走り抜ける前でよかったぜ。

 

「俺も人生の七割を山で育っている。人によっては虐待に取られても不思議ではない」

 

 師匠が魔祖十二使徒という社会的地位と説得力があるから何も言われてないだけである。

 

「似た者同士ですね。私達お似合いじゃないですか?」

「そう言うにはまだまだ関係が浅いですね。もっと理解度を深めてもらわないと」

 

 グイグイ来るな。

 ウ~~ム、エミーリアさんに聞いてもいいんだが……

 

 折角話す中になったんだし直接聞く方がいいか。

 

「一つだけ俺から聞いてもいいですか」

「? なんでしょうか」

 

 家族の話題ほど暗い話じゃなければいいな~~。

 それを切に願う。いや、本当に冗談じゃなく。

 

「戦わない理由を教えてください」

「構いませんよ」

 

 よし、フラットな声だ。

 ルーチェクラスの地雷を抱えてる人なんて稀だから俺が身構え過ぎたな。被害妄想というか、無駄に考えすぎていた気もする。

 

「魔法で相手を焼くと家族が燃えた瞬間を思い出してしまうんです」

 

 ……………………俺が悪かった。

 想像の十倍は重たい話を喫茶店で聞きだそうとした俺が悪い。

 

 そんな俺の懺悔など知らず、ルナさんは話を続けた。

 

「……いえ。正確には、私を守って亡くなった両親の遺体を燃やす感触」

 

 

「今から十年前。お師匠様に出会った頃のお話です」

 

 

 

 

 

 

 

 


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