英雄転生後世成り上がり   作:恒例行事

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第四話

 観客席に向かう前に一個寄り道がしたい。

 師匠に告げて、着いてきてもらっても構わないので用事を足しに行くことにした。共通の知り合いだし、俺より付き合いが長いまであるだろう。

 

「応援か?」

「そんなところです。ていうか察してるだろ」

「テリオスくんに宣戦布告するのかと思って冷や冷やしていたよ」

 

 するわけないだろ。

 面倒ごとは出来るだけ避けたい性質だからな、俺は安全な道を出来るだけ選ばせてもらうぜ。

 

「俺は誰彼構わず相手にするわけじゃあない。それは師匠だって理解してるでしょう」

「けれど、放っておくこともしない。君はそういうヤツだ」

 

 放置することに得ないし……

 心の傷を癒すのは時間だが、それ以外で具体的な手段を取ることで精神が回復できるなら協力するに越したことはないだろうが。人と人、同じ生物であっても言葉にしなくちゃ伝わらないことなんざ腐るほどある。

 

「知らん知らん。あの人たちは俺たちより大人だ」

「……そうだな。大人だ、ロアよりもね」

 

 なんか含みのある言い方だな……

 

 それは置いておいて、目的の部屋の前に到着した。

 特に名札とかが貼ってあるわけではないが────まあここだろ。ノックして反応を待つと、すぐ後に入ってよしとの了承が返ってくる。

 

「失礼します、調子はどうですか?」

「ロアくんじゃないですか。後エイリアスさん」

「お邪魔だったかな?」

「いいえ。私は人目を憚らないので」

「胸を張るなよ」

 

 むふーといつも通りの無表情で胸を張るルナさん。

 緊張はあまりしてないようで何よりだ。戦うコンディションを維持できているというのは素晴らしい。

 

「エミーリアさんはいないのか」

「お師匠は魔祖様と一緒にいるそうです。ロアくんの試合が始まる前にどこかへ行ってしまいました」

 

 …………へ、へぇ。

 そうなんだー。魔祖と一緒に俺の試合見てたんだ〜。

 なんか余計なこと言いまくった気がするんだよな、俺。大丈夫か? 変に捉えられないことを祈る。

 

「ロアくんがわざわざ試合前に応援しにきたのは私だけ……つまり私のことを選んだってことですよね?」

「バカが」

「照れ隠しが強烈ですね」

「このアホを黙らせろ」

 

 ぐにぐに頬を引っ張るが変わらぬ無表情。

 もう一種の愛嬌ですらある。

 

「い〜いじゃないか。いつも私たちのことを掻き乱しているんだし、たまには引っ張り回される側にまわっても」

「俺はいつも巻き込まれてるんだが……」

 

 主体となっているのは貴女方であって俺はあくまでそれを収めようとする解決役だ。ステルラのコミュ障、ルーチェの拗らせ、ルナさんの爆弾、アイリスさんの異常性癖、アルベルトは等しく地雷を踏みしめる地雷処理班(爆発させているだけ)。

 

 俺よりよっぽど周りの連中の方がヤバいんだぞ。

 

「ルーチェさんは他のご友人といらっしゃるときはお嬢様みたいになりますよ」

「嘘をつくな」

「嘘じゃありません。ルーナみたもん!」

「その若さで幻覚を……」

 

 ムッキー! と相変わらず無表情で憤りを見せる。

 頬だけ膨らましているが目の曇り方と起伏の無い表情筋が本当に微動だにしないのだ。いやまあ、内面は感情豊かだと理解してるから俺はいいんだがな。

 

「ルーチェが(ワタクシ)とか言い出したら悪いけど笑っちまうな」

「あっ…………」

「何よりも暴力と努力というお嬢様からはかけ離れた要素で構成されているし、俺に対してそんな態度を見せたことはない。名家の出身だという事は理解しているし、それ故の所作を身に付けている事は否定しないが…………むっ」

 

 俺の肩に置かれる手。

 嫌な予感がヒシヒシとするぜ。具体的には、とてつもなくテンプレートな展開が俺を待ち受けている予感だ。

 

「────そう。それはとても、哀しい話ですわ(・・・)……」

「深窓の令嬢と表現するのが適切では無いというだけで俺はルーチェ・エンハンブレという少女は可憐で慎ましい淑女だと認識している。だから徐々に強くなっている握る力を少しずつ弱めてくれると非常に有難いんだが」

「遺言はそれだけかしら?」

「…………優しく頼」

 

 久しく味わっていなかった床の感触だ。

 地味に冷えているこの感覚に加えてゴツゴツとした硬い感触が堪らない(我慢できない的な意味で)。

 

「ルーナさん。頑張ってくださいね」

「ありがとうございます。是非とも勝利をもぎ取ってきますよ」

 

 やれやれ。

 どうやら俺の事は無視する方向性らしい。

 床を伝う足音から察するに、いつものメンバーに+して一人って所か。アイリスさんかな? 追加メンバーは。

 

 左目が見えないのだが、これ潰れてる? 

 

「ロアは学習しないな」

「学習はしている。懲りてないだけだ」

「悪化してるね……」

 

 師匠が顔にちょびっと触れて回復魔法を使ってくれる。

 もうこの治療の気持ち悪さにもなれちまったな。もう仲良しだし親友みたいな感じにすらなっているが、向こう(苦痛)がどれだけ俺の事を好きになっても俺が好きになる事はないぞ。

 

「大丈夫?」

「誠に遺憾ながら」

 

 ステルラが覗き込んで来たから身を起こして立ち上がる。

 

「ルーチェ。お前は感覚が麻痺しているのかもしれないが、普通に考えて眼球が潰れるのは大怪我だ」

「痛みが好きな人もいるじゃない」

「アルベルトしか喜ばん」

「僕が異常者みたいな言い方やめてくれない? まあ痛いのは歓迎だけど」

 

 お前そう言うトコだぞ。

 コイツもこの後試合があるっていうのに余裕綽々と言った様子だ。

 

「やっぱり愛が籠ってる一撃はイイよ。ロアもそう思うだろ?」

「俺を巻き込もうとするな。愛ってのは態度と言葉で繋がるものであって暴力で分かり合えるものじゃないだろうが」

「えぇ~。ルーチェとはあんなにイチャイチャしてたの」

 

 アルの姿がブレた。

 少し耳が赤くなったルーチェによる渾身の一撃はアルベルトの腹部に直撃し、痛みに強い筈の男ですら沈ませてしまった。仮にも出場選手だから師匠が回復魔法をかけているが恍惚とした表情を浮かべているので放置してもいいんじゃないだろうか。

 

「ルーチェが俺の事を好きなのと愛を伝える手段は関係ないだろ」

「すっ…………別に、誰もアンタの事を好きだなんて言ってないでしょ」

 

 ニヤニヤしながら言ったらめっちゃ睨まれた。

 モテる男はつらいぜ。俺は来るもの拒まず、全員で養ってくれるならドンと来いという器量を持ち合わせている。

 

「じゃあお前は俺の事が嫌いなのか……悲しいな……」

「~~~っ! ああもう、だからそうじゃないって言ってるでしょうが!」

 

 お前このパターン何回目だよ。

 いい加減学習しろよ、俺は面白いし色々感情満たせるからそれでいいけど。

 

「俺は等しく皆の事を好いている。全員が俺の出資者足り得るからな」

「とんでもない発言してますねこの男」

「育てた人間の顔が見てみたいね」

 

 師匠が顔を逸らした。

 

「さ、さあ! そんな事よりそろそろ試合じゃないかな?」

「話題の逸らし方よ」

 

 かなり強引に変えて来たが、確かにそろそろ始まる位の時間ではある。

 

「テリオスさん、か……」

 

 俺も因縁を付けられているが、ルナさんもルナさんで因縁があるだろう。

 下馬評では『唯一土を付けられるかもしれない存在』、そして魔祖の息子と呼ばれる彼と第三席を継ぐ女性。どちらも英雄という存在に何かを感じている。

 

「絶対ド迫力怪獣バトルだろ」

「否定はしません。小手調べはともかくとして、私と彼が本気になるのは必然ですからね」

 

 ルナさんの戦いに対するモチベの高さはなんなんだろうな。

 

 俺の手を取ってにぎにぎしてくる。

 炎魔法を扱うルナさんだが、人肌と変わらない温かさをしている。

 この人のトラウマの根源は自身の無力さとそれによって引き起こされた凄惨な事件。死に対する考えが他人より一歩後ろで先にいる。

 

 この中で死んだ経験(記憶だけだが)を持つのは俺だけだ。

 

「戦わなきゃ駄目な時代は終わりました。俺達が戦っている理由は個人の我儘に過ぎません」

「……ありがとうございます。ですが、大丈夫です」

 

 変わらぬ無表情ではあるが、やはりルナさんは強い人だ。

 ルーチェやステルラとは一つ年上というだけなのだが、恐らく紅月(スカーレット)と呼ばれている事に起因している。ステルラやヴォルフガングも継いでるんだがな、それとは少し責任感が違うんだ。

 

 エミーリアさんはずっと表舞台に立ち続けている。

 英雄と共に最前線を駆け抜けて戦争を終結させた、ある意味で英雄の次に人気があると言っても過言ではない。他の十二使徒は個人を優先したり姿を晦ましたりしているが、魔祖とエミーリアさんだけはず~~~っと国の為に生きている。

 

 その跡を継ぐという意味。

 

 …………だからか? 

 魔祖がテリオスさんの事を英雄と呼ばないのは。

 俺は向こうの事情を一切知らないが故に憶測になるが。

 

「勝ちますよ。私」

 

 チリ、と。

 僅かに火の粉が舞った。

 

「勝ったらハグしてください」

「別にそれくらいなら構わないが……」

「ロアくんからしてくることに意味があるんですよ。『勝ったんだね、流石僕の見込んだ婚約者(フィアンセ)だ……』って言いながら」

「絶対やだ」

 

 えぇ~~、じゃないんだよな。

 それやられて喜ぶ奴いねぇだろ。ていうか英雄すらそこまで気取ったことはして……して……な……い筈だ。

 

「それでは行って参ります」

「いってらっしゃい。……応援してますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと会場までの道を歩く。

 

 戦う事が好きじゃない。

 いいや、正確には違う。

 

 自らの培ってきた炎属性の魔法────それに伴う被害が怖い。

 完全に制御できる程度には磨き上げてきた。両親を失い精神的に崩壊した時も、全ての気を紛らわすために、罪の清算をするために必死に師匠に教わって生きて来た。

 

 それでも、始めて試合を行ったときに聞こえた声。

 燃える炎の中で生きたまま焼かれるクラスメイトの姿。忘れてはいけない、忘れるわけにはいかない。治療が間に合ったけれど、心に傷を負ったまま魔法自体にトラウマを抱き学園を去ってしまった。

 

「…………ふむ」

 

 小さく指先に火を灯す。

 魔法という種別ではあるが、コレは一般的な魔法とは少し違う。

 

 魔祖十二使徒第三席・紅蓮(スカーレット)のみが扱う特殊な魔法。

 自身の肉体が炎へと変化するのを前提とした(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、正真正銘オンリーワンの魔法。師であり育ての親であるエミーリアが本当に教えるのを渋った魔法だ。

 

 勿論一般的な魔法も習得している。

 座する者(ヴァーテクス)へと至る前にひたすら積み上げた研鑽よりも、至ってから習得したこの炎魔法の方が圧倒的だ。

 

 指先の炎を消して、自身の手を眺める。

 

 先程まで触れていた想い人の熱が宿っている。

 どことなくドライな空気感を出そうとしているけれど、内に籠める熱量が尋常ではない人。客観的に自分を見れている様で見れていない人。

 

「わかってますか? ロアくん」

 

 勝ちますよ、という宣言。

 これはテリオスさんだけではなく、貴方も含めて勝って見せるという宣戦布告。

 かつての英雄に勝ちを譲り仲間になって後悔を積み重ねたのが先人ならば、私は勝ちを譲らず仲間になる。

 

 師の後悔は根深いものだ。

 

 最期の瞬間に立ち会えず、好きな奴がいると聞いていたのに――そんな風に嘆いていた。

 口調は柔らかいモノではあったが、表情は無意識に出ていた。いくら人との関係性に疎い私であってもそれはわかるくらいだった。

 

「……時代が変わったからこそ。私は貴方を置いて行きません」

 

 師の因縁も、私の心も。

 

 全部纏めて焔で染める。

 

 

 

 

 

 


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