既に魔王が勇者に打倒された平和な世界。
でも、そういう世界で職を失う人たちがいますよね。そう、冒険者たち。彼らは培った魔法や能力を駆使し、犯罪に手を染め始めます。
そんな彼らを捕まえる探偵社が設立され(ちなみにここで働くのも職を失った冒険者たちです)。
そんな世界で今回の主人公、ホームズは入社の為面接を受けることになり――?

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ファンタジーな世界観の推理モノは僕に書けるのか。Lv.1

 ──勇者が魔王を討ち、早3年。

 魔王が操っていた魔物たちは皆戦意を失い、一部幹部が率いていた残党も見事討ち取られた。

 遂に、私たち人類に平和が訪れた──! 

 

 

 ……はずだったのですが。

 誰が言ったか、「一番怖いのは人間」の言葉。

 魔王が討ち取られて魔物の活動が落ち着くにつれ、活動を活発にし始めたのが犯罪者たち。

 主な犯人は皮肉にも、魔物討伐の職を失った冒険者たちでした。

 培った魔法や能力を活かし、空き巣や強盗に手を染める冒険者が続出。

 そんな彼らを捕まえることは通常の警察組織にはもはや不可能だと判断した王様は、捜査と捕縛を目的とした探偵社を設立したのでした。

 

 

 と、いう訳で私、ベテラン助手の『ワート』は入社希望者との面接に向けこの探偵社で準備をしているのです。

 今回はどんな人だろうなぁー? 

 

 

 ──それからしばらくして。

 

「──あっ、ホームズさんですね! こんにちは」

「あ、どうも……。ワートさん、っすか?」

「ワートさんっす。お見知り置きを」

「どもっす」

 

 やって来たのは茶髪にぬののふくを装備した若者。

 ぺこぺことお互いに頭を下げ合う。

 うーん、あまり頭が良いようには見えないですが……。

 きょとん、とした間の抜けた顔で「ええっと、なんでこんなトコに? 面接までまだ時間あるっすよね?」と聞いてくるホームズさん。

 

「あっ、はい。早く会いたくなって街の入り口の方に移動してきちゃいました」

「はあー。ワートさん大胆っすねえ」

「はい?」

 

 うーん、何か勘違いしてるんでしょうか。

 この時点で評価は大分低いのですが。

 

「で、俺は何をしたら?」

「とりあえず、面接のために私たちの探偵社に移動しましょ!」

「お腹空いたからご飯食べていいっすか?」

「え、あ、はい……」

 今すぐ不合格にして帰りたい……。 

 

「自己紹介とか、んぐんぐ、したふぉうが、はむあむ、ひいっふか?」

「履歴書はしっかり完璧に暗記していますから、必ずしも必要ではないですよ。まあ、一応聞いておきます。あと、食べ終えてから話してくださいね」

 

 彼は「ふぁい」とハンバーグを頬張りながら返事をすると、数回噛み、飲み込んで……詰まらせた肉塊を水で無理やり流し込んでから、話し始めた。

 

「がふっ、ごほっ……。あの、気になったんすけど、()()()()()()()()ってどういう事っすか? そんなに記憶力に自信が?」

「単純な記憶力というよりは能力……特殊技能というところです! 映像記憶って聞いたことありませんか?」

「なるほど、アレですか。すごいっすね」

 映像記憶──目に映ったものをそのまま記憶する能力。

「いろいろな証拠や状況を記憶できるこの能力は、助手としては最適な能力なんです!」

 

 彼は私の言葉に「ふーん」と聞いているのかいないのかよく分からない返答をすると、一度頷き話し始める。

 

「なるほど。じゃあ改めて。名前はシャーロックで、姓はホームズっす。魔法使いやってましたけど、魔力が少なくて戦闘ではあんま役に立たなかったっすね。頭使うのにはまあまあ自信あったりします。

「元魔法使いだったんですね。……えっと、一応は知力が必要な職業ですが……本当に?」

 

 疑いの目を向けられたのが気に食わなかったのか彼は少し言いよどんでから続けた。

 

「……誕生日は一月七日の、19歳っす。以上」

「では、私も。ワート・ヘイミッシュです。元賢者で回復役を主に。今は捜査班の助手をやっています。誕生日は八月七日、歳は二十一歳です」

 

彼の自己紹介に合わせて私も自己紹介を済ませ、続いて我々の探偵社について説明を。

 説明を聞きながらもハンバーグを頬張る姿にはある種清々しさを感じました。

 

「我々、特殊探偵社『アイアコス』は、犯罪を行っている元冒険者の捜査と捕縛。それから警察への引き渡しを行っています。我々の探偵社に参加しているのも、元冒険者たち。捕縛を行う腕っぷし担当は充実しているのですが、頭を使う捜査担当は人員が薄い状況です。かと言ってそこそこ頭がいい程度では務まらない仕事でもあります。社に着いたら簡単なテストをしますね」

「テスト、っすか?」

「まあ、簡単なクイズのようなものです。あまり気負わずに」

「りょーかいです。あ、アイスクリームくださ~い」

 

 不合格にして帰りたい……帰りたいけど……うちの社長はどうせ推理力しか見てないから、そこを確かめない事には……。

 ハンバーグとアイスを食べ終えた。しかも金が足りず私に二割ほど払わせて。ホームズさんの人間性は最低レベルですね。たぶん社長には関係ないのだろうけど。

 食事を終えたホームズさ……もう呼び捨てで良いか、ホームズは「んじゃ、早く探偵社に行きましょ!」と言い放ち、立ち上がった。

 誰の為に時間を取ったのか忘れてるのでしょうか????? 

 

 

 

 ようやく探偵社に着いた……。

 彼は途中で猫を追いかけ始めたりゴロツキに絡まれ始めたり散々だった……トラブルメーカーだこの人は……本気で入社して欲しくない。

「この角を曲がれば……ひあっ!?」

 曲がった先で飛び出してきた誰かにぶつかり、私は尻もちをつく。

 遅れてホームズが「大丈夫っすか!?」と言いつつ角を曲がり、声を掛け私に駆け寄……ろうとして、足を止めた。

 

「ええっ……と。これはどういう状況で……?」

 

「「いやぁ、曲がった先に人がいて」」

 

 声が被って聞こえる。 

「「あの、大丈夫でしたか? お怪我などは……」」

 

 立ちあがり、顔を上げた先には。

 

「「──私?」」

 

 

 

 就職を希望している探偵社の先輩らしき方が増えました。

 何を言ってるか分からないと思うけど、自分でも何を言ってるか分からないっす。

 

「どうしたらいいんすか……?」

「「だから! こっちは偽物なの!!! 魔法で化けてるのよ!」」

「同時に喋らないでください……うるさいんで……」

「「こいつが合わせてきてるのよ!!! ううううう!!!」」

「マジで一人ずつ喋ってください。次ヤッたらどっちも警察……てかアイアイコス? に連れてくっすよ」

「「ご、ごめんなさい……」」

 

 うーん……めんどくさいなぁ……。

 さて。

 三人で探偵社の応接室へ移動し、二人に増えたワートさんを並んで座らせ、俺は対面へ。

 

「こういう場合、後から来た方が偽物だと相場はキマッてるっす」

「じゃあこっちが偽物ねっ!」

 ワートさんは隣に座るワートさんを指さして(訳の分からない文章だけど事実だから仕方ないっす)得意げに宣言するも、もう一人のワートさんは「どう証明するの?」と冷静に返す。

「どう……? どうって言ったって……」

 言い出しっぺの方のワートさんはかなり悩んでみた結果。

「うーん……? あ、じゃあ彼のプロフィールを答えるとか?」

 と、言い出した。

「その程度、わざわざ姿を変えて出てくるぐらいですから把握してるんじゃないすか?」

「いいじゃない。試しに一回やってみない? 一回だけだから、ね?」

「彼は仮にも入社希望者よ? お互い履歴書見て覚えてるから判別にはならないと思うけど。まあそこまで言うならやってみる?」

 

 言い出しっぺのワートさんがぐいぐいと攻めるので、もう一人のワートさんも乗っかる結果に。

 さて、これで分かるといいけどな。

 

「んじゃ、冒険者の時の職業、歳、誕生日の順で答えてもらいますか」

「「りょーかい」」

「じゃ、どうぞ」

 二人は同時に息を吸い込み、そして答え始める。

 

「「前の職業は魔法使い」」

 

「正解っす」

 

「「歳は十九歳で」」

 

「はい、正解」

 

「「誕生日は──」」

 

「一月七日」「一月六日」

 

「「!?」」

 

「ふふん! ついにボロが出たわね偽物! 彼の誕生日は一月六日よ! そうよね! ホームズさん?」

「……」

 

 六日と答えた方──右側に座るワートさんはしたり顔で俺に詰め寄り、七日と答えた左に座るワートさんは俯き、肩を震わせている。

 

「はい、俺の誕生日は確かに一月六日っすよ」

「じゃあ──!」

「なので、()()()()()()()()()が、先に出会った(ほう)っす」

「は?」

 右側のワートさんが間の抜けた声を上げると同時、左側のワートさんはバッ、と顔を上げた。

「あははは!! 残念だったわね! 彼のプロフィールをレストランで聞いたとき、彼は七日と答えたの! これは先に彼と出会っていたという絶対的な証明だわ!」

「ですね、左のワートさんが先に出会った方で間違いないっす」

「じゃあ、私が本物って事でいいわね! ふふ、やったわ!」

 

 ──これで彼は不合格に!!!! 

 

「それはちょっと違うっす」

「んえ……?」

 

 そう、俺はあくまでも『先に会った方のワートさん』としか言ってない。

 最初に「相場はキマってる」とは言ったがあくまで一般論であり、別に俺の意見はその限りじゃなかった。

 

「本物か偽物かって話なら()()()()()()()()()()()()っすよ」

「……はっ、はぁ? なんでそうなるのよ!?」

「じゃあ、気になっているところを二つ、挙げさせてもらうっすね。まず『映像記憶能力』」

「それが何だって言うの……?」

「今間違えちゃったじゃないですか。完璧に覚えてたんでしょ? 俺の履歴書」

「ち、違うわ! 今回は敢えて、あなたと一緒にいたことを証明するために七日って答えたの!」

 

語気を強め、慌てて言い募る()()()()()()()()

 

「じゃあ、俺がレストランで誕生日を伝えた時に指摘しなかったのは何でっすか? 自分の証明に使えると思ったからでしょ、俺ら二人しか知らないミスっすからね」

「な……言いがかりも甚だしいわよ! そもそもあなたが間違えたんでしょ! 履歴書に書いた誕生日が間違ってるって事じゃないの!?」

「いいや、俺はわざと間違った日付を伝えたんっす。だってワートさん、自分の能力の説明の時なんて言ったっすか?」

「映像記憶……探偵助手としては最適な能力だ、って言ったけど」

 

そう、映像記憶。履歴書は完璧に覚えている、彼女はそう言った。

 それなら明らかに不自然な発言がある。

 

「元魔法使いだったんですね。……えっと、一応は知力が必要な職業ですが……本当に?」

 

 元の職業は、履歴書に勿論記載している。

 であれば、あの場で初めて俺の職業を知ったような発言は不自然だ。

 違和感を感じた俺はわざと間違った誕生日を伝え、そして彼女はそれを何事も無くスルーした。

 

「違和感は、確信に変わったっす。何かがおかしいと。偽物はあなたっすね。映像記憶は嘘か、若しくは本物のワートさんの能力ってところでしょうね」

 

なにか反論あるっすか? と、彼女に問うも、反論はなく。

 

「……正解よ」

 

 と心底悔しそうにいい、少しずつ髪色だけが変わった。

 あれ、顔や体格は変わらないんだ。

 

「もしかして双子っすか?」

「そ、私は姉のソーンよ。一応、今回のテストは合格……はぁ……」

 心底嫌そうにため息を吐くワート……改めソーンさん。

「んあああ!!! 絶対間違えると思ったのに!! ……あぁ……また変な人が入ってきちゃった……」

 

 頭を抱えるソーンさんの肩を抱き、つぶやくワートさん

 

「類は友を呼ぶって知ってる? ねーさん」

「呼んでるとしたら社長の所為よ、ワート……」

 

 がくりと肩を落としワートさんに返すと、また大きくため息をついてから「合格ですって社長に伝えてくるわ……そこに座ってて」と、目も合わせず言ってきた。

 よっぽど嫌われたみたいだけど、何かしちゃったんすかね? 

「はいっす! これからよろしゅーです!」

 

 

「よろしくしたくないぃぃ……うあああ……」

 悲痛な声が遠くなっていくのを尻目に、応接室に置かれたお菓子に手を伸ばす。

 と、残っていた妹の方、本物のワートさんが口を開いた。

「ねね、ホームズ君」

「はあい、なんでしょう?」

「気になってるところ二つ、って言ってたよね? あと一個は何?」

「え、ああ。そりゃ、最初の発言です」

「最初? えっと、ねーさんが君を迎えに行った時の事かな」

「そうっす。『早く会いたくなって』って言われて」

 答えると、ワートさんはぷっ、と吹き出し、「あらあら、ねーさん大胆」とニヤける。

「でしょ~? わざわざ面接を受けるだけの人間に『早く会いたくなって』なんて普通言います? あんなの、何か()()って教えてるようなもんじゃないっすか」

 大胆過ぎる理由付けを聞いて、何かあるんだろうなと俺は確信してしまった。

 

 ──はあー。ワートさん大胆っすねえ

 

「ふむ、なるほどねえ。でも、ただ親切なだけ~とか考えなかったの?」

「それなら、『迎えにきました』とかでいいじゃないっすか。それにいくら何でも、自力で目的地にたどり着けないような奴が探偵にはどう間違ってもなれないっす。だからそもそも迎えは必要ない訳で」

「ふむふむ」

「で、あればソーンさんはわざわざ俺についていなきゃいけない理由があった。そこまで考えたら()()()()()()()()()()()()()()と」

 

そこまで伝えるとワートさんは目を丸くし、「キミは思ってたより頭が回るねえ」と失礼なことを。

 

「さすがに試験の内容は分かりませんでしたけど、まあ例えば『ワートさんとの会話の中のウソを当てる』とか『偽の事件を起こすから、それを解決する』だとか内容は色々想像できたので色々探ったり、仕込ませてもらったりして」

 

 ──流石にネコ探しとか、怖いお兄さんたちが何か起こす、とかじゃなかったみたいっすけど。

 

「んで、さっきみたいな感じに。ああいう試験ならもうちょっと台本練るべきっすよ」

「ふふ、じゃあ次は君に台本頼むよ」

 

 と、ワートさんは可愛らしくはにかんだ。

 見た目は殆ど一緒なのにお姉(ソーン)さんと、こうもキャラが変わるのか。

 

「お任せくださいっす」

「でも、誰も合格できないようなむずかし~のはダメだからね」

 

そこまで言うと、ソーンさんも部屋を後に。

 一人残された応接室を見回し、改めここで働ける事を実感する。

 

 

 さてさて、せっかくの新しい仕事。楽しまなきゃっすね。

 

 

「さ~て、今すぐにでも何か事件起きないっすかね!!」




初投稿。タイトル通りの作品でした。Lv.1という事で超ファンタジーな魔法を使ったトリック!!!とかではなく、ちょっとした誤認?入れ替わり?みたいな感じで。
言い回しや書き方、言葉選びや語彙力など色々問題はあると思うのでぜひぜひご指摘頂けると嬉しいです。(もちろん感想をいただけるともっと嬉しいです笑)

もしかしたらLv.2、3も書くかもしれませんが今はとりあえず短編として。
ちなみにキャラ名がテキトーなのはお許しいただけたらと思います……笑


=======以下ちょこっとネタバレ========




一応、偽ワートの方は独白と会話を書き分けたつもりではあります。口調に大きな差はないですが、ワート(本物)の方がちょこっと男性と(というか他人との)の距離感が近い感じで。冒頭の「……はずだったのですが」のあたりは本物のワート、「――あっ、ホームズさんですね!」からは偽ワート(ソーン)です。


コレ読み直す度不安になりますが、楽しんで頂けていたら嬉しいです。


こんなところまで読んで頂き、本当にありがとうございました。僕の作品に出会っていただけた幸運に心より感謝を!


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