ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結 作:十二の子
1「ヒカリ・ヒトツイシの異世界召喚に関する法則」
―*―
「ふざけるな、帰らせてもらう!」
…そう言えたら、どんなに素晴らしいことか…
私は、こっそりプレパラートをポケットから出し、窓から漏れる光に透かしてみた。
ことは、昼休みにさかのぼる…
―*―
「南雲君、そのゼリーどう?新商品だそうだけど、カロリーが若干足りない気がするのよね…」
私は、ゼリー飲料仲間(?)の南雲ハジメに、ひさびさに声をかけた。
「…マズい。一石さん、なんでこんなもの勧めるのさ…」
そこまで言う?カロリーは足りないけどビタミンもミネラルも充分なのに…
「味なんてどうでもいいって顔してるね…でもこれはちょっと…」
「しょせん味なんて脳内の電気信号なのに…」
それと白崎さん?さっきからにらむのやめてくれる?
「さて、私は読書に戻るわ。口直しできそうね。」
弁当を持ってこちらへ来る白崎香織と八重樫雫を見て、私はこれから起きるだろう面倒を回避するためにゼリーの空容器をゴミ箱へ投擲し、イヤホンをかけ、読みかけの本を開き。
ザワザワ
「…何?」
足元のこの光は...見た目は魔法陣だけど、いたずらにしても手が込んでいるし…出現してからそんなに経ってないのかしら…?
蛍光塗料か、プロジェクションマッピングかと疑い、床に手を付けて確かめようとした直後、私は浮遊感に包まれ、気を失った。
数瞬ののち。
私は愕然と、前を見据えた。
教室ではない。神殿のようなところで、新興宗教の教祖のような微笑みの人物の壁画を前に、突っ立っていたのだから。
―*―
イシュタルなる狂信者の言によれば、ココはイスラエルなみに紛争地帯のど真ん中らしい…人間族と魔人族(ナニモノ?)と亜人族(ナニモノ…?)がそれぞれに国を持ち、争い、私たちクラスメイト一同+畑山先生は唯一神エヒトとやらに人間を助けるためこの異世界(!)トータスに召喚されたとのこと。
…バカバカしい。いや、腹立たしい。
まだ、奴隷として売られた方が良かったかもしれない。はあ…
「ふざけないでください!結局はこの子達を戦争に巻き込ませるつもりでしょう!そんなの許しません!私は絶対に許しませんよ!!それにいきなり私たちを連れてくるなんて、貴方達のしていることは誘拐です!」
良くぞ言った、畑山先生。でもね。
「先生、それは難しいと思います。
もしここが真に異なる宇宙であるというのならば、法則が異なる世界へ干渉することは不可能です。必ず事象の地平面に阻まれることになります。」
「一石さん、それはどういうことですか?」
先生のみならず、クラス中から注目が集まる。
「魔法を使って私たちをこの世界から出す、それはできるかもしれません。しかし魔法にあたる法則は私たちの世界にはありませんから私たちの世界にこの世界の魔法の法則は干渉できないと思われます。であれば、残念ながら、宇宙の外の虚無の迷子です。」
正確には定義づけるモノがない「無」では消滅するだろうけど。通常、宇宙間にできるワームホール「アインシュタイン=ローゼンの橋」は事象の地平面、ブラックホールだ。
「えっと、つまりどういうことなんだ?」
「坂上君、賢くなりなさい。
簡単に言えば、私たちの世界に『私たちの世界に入る魔法』はないってことよ。『この世界から出る魔法』で出られても魔法のない世界に魔法を使って入ることはできない。ないものはないんだから。」
できるとすれば、それは魔法を超えた何か…そして既存の物理法則でも説明できない何か…例えばSF的には、概念的あるいは形而上学的な操作。
「この世界の法則を超えた存在、例えば私たちを召喚したエヒトとやらにはできるのでしょう。違いますか?」
イシュタル氏は、コクン、畏れを込めた目を私に向けた。…さて。
「であれば、即座に、私をもとの世界に戻すように祈っていただけますか?」
「それは不可能かと…この召喚はエヒト様のお告げによりエヒト様が自ら行われたことで、覆すことは…」
「…そう、ですか。」
神様なんて、やっぱり、なんの役にも立たない。
私は、悲嘆にくれ騒ぐクラスメイトを眺め、はあとため息をつき。
「ふざけるな、帰らせてもらう!」
…私も一緒にそう言えたら、どんなに素晴らしいことか…
私は、こっそりプレパラートをポケットから出し、窓から漏れる光に透かしてみた。
「一石ちゃん…」
「いいの、白崎さん、気を使うことはないわ。」
この脳みその主なら、こんな状況でも、それどころか奴隷として扱われたとしてさえ、探求心を失わないはずだ。
エヒト、魔法、宇宙を超える存在、ホモ・サピエンスとは違うらしい人類種…調べつくされつつあるあの世界と比べて、この世界は楽しめるかもしれない。
…でも重力定数は9.8m/sだといいな…
「うん、なら大丈夫だ!俺は戦う。人々を救い、皆が無事に帰れるように!俺が世界もクラスメイト達も全員救ってみせる!!」
…はい?
「待て、待ちなさい天之河君。」
「ん?一石も不安なのか?大丈夫、俺が守って」
「違うの。」
私は、プレパラートを握りしめた。そしてこの「勇者」様に近づき、耳打ちするー周りに聞こえないように。
「…言っても聞かなさそうだから、予言するわよ。
貴方は必ず後悔する。
これは国と国の戦争で、死者が出ることは避けられない。
敵が、貴方と貴方が守りたい人を殺すことを無条件の目的としたとき、貴方は必ず恐るべき結果をもたらす決断をすることになり、そして必ず後悔する。」
「そんなことは!」
「史上最強の天才ですらそうだった、いわんや勇者をや。」
「…そんなことはない!」
あ、そう…
オリ主ヒロインが、下手したら天之河よりヘイト買いそう…それにしても、ちょくちょく大事な場面で考え事をして聞き逃すヒロイン設定(原作と変わらないだろう場面を飛ばすのに都合がよさそう…だからではありませんよ?)、生きていくうえでどうなんだ…
オリ主の最後の言葉は、アインシュタインの原爆投下に関する諸々の発言に基づいています。
「一石」はドイツ語で…?(伏線ではないつもりです)
2023/08/08改稿