ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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 ※まさかミレディがミレディを名乗るのはまずいだろうとのことで、「ミレ」と名乗らせます。ユエと一緒で苗字なし。他の皆さんどうしてらっしゃいましたっけ?


14 「ウル市防衛に必要な戦力総数は?ただしキル・レシオを1:10000とする。」

―*―

 

 翌朝。

 

 フューレンギルド支部長イルワの依頼を果たすため、ハジメ、香織、ユエ、シア、一石、ミレディは、早朝から宿を出て、町の北門のあたりで、重力魔法を連続使用して予定を前倒しに達成した後、テクニカルにポンポン砲とロケット砲を据え付けようとしていた。

 

 そこへ、畑山愛子教諭と生徒たち数人が走ってきた。

 

 「…何しに来たんだ?」

 

 「人捜しですよね? 人数が多い方が良いですから私たちも手伝います。」

 

 「…ハジメくん、どうする?砲座を取れば詰め込めない?」

 

 「…まだしも1台増やしたほうがいいだろ。同行を許可するつもりはなかったんだがな…

 

 …だれが運転する?」

 

 武装なしのテクニカル(=ただの装甲トラック)がポンと出てきたことに、クラスメートたちは唖然としている。

 

 「魔力直接操作ができないと話にならないし…私はハジメくんから離れたくないし…」

 

 「あ、じゃあミレちゃんがやろっか?」

 

 「…任せた。できるのか?」

 

 「おやおや少年、魔法の天才、ミレちゃんを舐めちゃダメだよー♪」

 

 こいつ、どっちがアクセルでどっちがブレーキかわかるのか?という問いだったのだが。

 

 ともかくも2台の装甲トラックは、途中で時々魔物をポンポン砲で掃討してはクラスメートたちを瞠目させつつ、大陸北山脈を踏破していった。

 

 「ハジメくん、見つかる?」

 

 「香織、まだ軌道に放り込んだばっかだからそううまくは…

 

 おっと、そうでもない。『ちきゅう』がお手柄だ。」

 

 なおも、テクニカルが走り、荒っぽい運転ながらもミレディのトラックが続く。

 

 キキ―ッ

 

 テクニカルが停車したのは、なんらかのビームか何かで削られたと思しき、小川の回りの荒れ地だった。

 

 イルワが依頼した「冒険者とともに旅立った貴族子弟ウィル・クデタの発見、『回収』」。その、冒険者たちの遺品も、いくつも発見される。

 

 油断すれば、そしてハジメたちと離れれば、自分もこうなる…あらためて、この世界は死と隣り合わせであることを確認し、一石は気を引き締め。

 

 そして、川の下流へ下っていき、滝つぼの奥の洞窟に、ウィルを発見したその時。

 

 ハジメの顔色が、変わった。

 

 「敵だ。上から来る!」

 

 「わかったわ。ウィル氏はこちらで保護するから。」

 

 「うん、頼んだよヒカリちゃん。」

 

―*―

 

 「対空戦闘用意っ!」

 

 テクニカルの荷台の上に据えられたポンポン砲に、シアがとりつくー身体能力特化のために近接戦闘はともかく遠距離戦闘には向かない彼女にとっても、キロ単位の射程を持つ高射機関砲は福音である。

 

 ボン、ボン、ボン、ボン!

 

 砲声とともに、未だ影でしかない空からの襲来者に炸裂弾が吸い込まれていくーが、いっこう、こたえた様子がない。

 

 そんな姿を、滝の裏から、一石はウィルに覗かせていた。

 

 影は急速に降下し、シアが砲座から飛び降りてドリュッケンを手にする。

 

 ハジメが盾を、香織が磁束爆縮ジェネレーター付きレールガンを構える。

 

 徐々にあらわになるその姿、龍。

 

 「ひっ…」

 

 龍の口から、猛火のブレスが吐き出される。盾が半ばまで溶ける。

 

 レールガンが、自らを犠牲にして炸裂弾を発射するーが、空に撃つモノではない重砲的な砲なので、発射された時から当たりそうにないことは目に見えていた。

 

 「香織、大丈夫か?」

 

 「うん、まだまだ。」

 

 あらためて銃を持ち直すハジメと香織を追うように、ブレスが発射され、しかしユエとミレディの重力球に全量が吸収されていく。

 

 上から重力魔法で重さを付けてドリュッケンを振り下ろすシア。

 

 「…わかる?ウィルさん。多くの人が、これだけの力を振り絞っている。

 

 あなたは、自分の実力を見誤り、仲間を死なせてしまったかもしれない。ましてそれを喜ぶのが最低だというのは、一考の余地はある。

 

 だけど、だけどそれでも、自分が生き延びたことを非難するのは、ここにいる全ての人と、あなたを生き残らせるために死んだ冒険者たちへの、冒涜よ。

 

 あなたの生き残った意味がなかったら、なんのために冒険者たちは死に、なんのために彼らは今戦っているの?

 

 だから、生き続けて、その真の意味を示しなさい。

 

 どうして生き残ったのか。

 

 死んだ人の命の価値と、生きている人の努力の値打ちを十字架に、生き続けなさい。

 

 しょせん、命なんて足し算も引き算もできないんだから。」

 

 「い、生き続ける…」

 

 「そう。

 

 精一杯輝けば、きっと…」

 

 ドスン!

 

 「う、ううー、酷い目にあったのじゃ…

 

 早くコレ、抜いてたもれ…」

 

 「ああもう、何やってるのよ…」

 

 聞こえてきた声、そして、黒龍が変化して現れた美女。

 

 興味がないではなかったが、面倒の予感に、一石はまたも頭を抱えた。

 

―*―

 

 ウルの町。

 

 湖畔に栄えるこの町は、突如として存亡の危機に陥った。

 

 (おそらく)一人の男に率いられた、数万の魔物の大軍の襲来。

 

 今はまだハジメの義眼でしかとらえることができないが、いくら冒険者をかき集めてみても、視界に入った瞬間に敗北が決定している。

 

 「…ハジメくん、どうする?このままだと町は…」

 

 「香織…

 

 …でも、俺たちは香織のためにも、急がなくちゃならない。香織も、わかってるよな?」

 

 「うん…雫ちゃんたちがオルクスの真の大迷宮に到達したら、きっと死んじゃう。

 

 だけど、私は…

 

 ハジメくん、ハジメくんが、私より辛い思いをしてあの大迷宮を生き抜いたのは、ホネの山を見てきたから知ってる。優しさを捨てないといけなかったことも。

 

 だから、私が、ハジメくんの優しさを補う。それじゃ、ダメ?」

 

 「断れるかよ。」

 

 ごねるウィルの手足を砕いてでもフューレンへ向かうつもりでいたハジメたちは、Uターンし、そのままウル市街を囲む壁を錬成で造ることにした。

 

 一方で、もう1台の装甲トラックにいたミレディ、そしてテクニカルから降りてカール60センチ自走臼砲を取り出していた一石は、早くもウル北側の平地に、防御陣地の構築を始めていた。

 

 「…あの、一石さん、南雲君は?」

 

 「いろいろあるのよ。彼は…

 

 …この町を助けることを、嫌がるから。」

 

 「…それでも、来ると信じるのですか?」

 

 「先生、私たちは、小ならず変わってしまったし、もう元には戻れない。南雲君を見れば、わかるわよね?」

 

 「見た目の話ではなく、ですね…。あんなに穏やかだった南雲君が、ここまですさんでしまうとは、思ってもみませんでした。

 

 でも…大事な時に、そばにいられなかった先生の言葉はきっと軽くてっ!

 

 私は、本当は、南雲君に先生づらすることなんてできないんですっ!」

 

 「それでも、先生だから、優しさを忘れてほしくない。

 

 …私も、ただ、口を出しているだけ。本当は、仲間づらしていいのか、今も悩んでる。

 

 だけど、そうするのが最善と思うなら、立場は気にしてなんかいられなかった。

 

 先生、きっと南雲君が自分で切り捨てたと思ってるものは、彼の隣にまだ残ってる。」

 

 「白崎さん、ですね…共依存のような気がして不安なのですが…」

 

 「人間関係とは足りないものを補完しあうことだと、私はあの2人に学んだ。だから私は、彼について行くの。」

 

 (それに、トータスの存在をも真理探究への近道ととらえる私に、ただ地球に帰ることを目指す純粋な人たちを難ずることは…)

 

 「一石さんは?あなたは…」

 

 「私に優しさを期待しないで。私が動いているのは、知っていることに伴う義務、責任からよ。

 

 E=mc^2を知ったアインシュタインが、核兵器で戦争を終わらせ、今度は核戦争を防がなければならなかったように。

 

 ここで、ウル市の危機を知ってなお何もしないのがあり得ないから私は動く。だけどそれは、優しさなんかじゃない、ただするしかないから。」

 

 「それもまた、立派な優しさですよ。」

 

 「昨日、エヒトのこと、聞いたわよね?

 

 …知ってしまったあなたは、知らなかったままではいられない。どうするの?」

 

 「それでも、私は教師です。」

 

 「みんなを、地球に…

 

 そう。それで、私たちに戦うことを、期待?」

 

 「…それは…」

 

 「もとより、少々の矛盾なんてなんの問題にもなりえないし…

 

 …南雲君も、動き始めたわ。」

 

―*―

 

 ウル市は、昨夜まではなかった防壁に囲まれ、急造の要塞都市となっていた。

 

 迫りくるのは、自身の土煙に紛れて全貌すら不明ながらも、大地を覆いつくすような魔物の大軍。

 

 「南雲君、終わったわ。」

 

 「こっちもだ。」

 

 「…覚悟は、いい?」

 

 「ああ、ためらう理由なんてない。」

 

 「あ、そう…」

 

 一石の声には、失望が隠れていたー少しは、ためらってほしかったのだ。

 

 「発射用意。」

 

 カール60センチ自走臼砲の砲身が、ゆっくりと上がる。

 

 同時に、ノイントボディのミレディが、双翼広げ飛び立った。慌てて、ティオ・クラルスー龍人族であった、洗脳が溶けた黒龍が龍の姿で舞い上がる。

 

 空を飛ぶ魔物のうち1体に、黒いローブの男が乗っかっている。そこへ、ブレスで周りの魔物を撃墜しながら、黒龍が迫り。

 

 ミレディの飛ばした重力球によって、魔物は引かれてはるか遠くへ落ちていった。

 

 「…加害半径を脱したわ。」

 

 「てっ」

 

 引き金が引かれ、60センチ砲弾が空高く撃ちだされ、それからゆっくりと惑星の重力に導かれ降下に転じていきー

 

 「『蒼天』」

 

 ユエが、砲弾を加熱した。

 

 砲弾に詰め込まれた液体燃料が沸騰、砲弾を破裂させて気化、急速に膨張しつつ空気と混じりあい。

 

 ゴッ、ズー キューーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

 

 蒸気雲が、内部にはらむ酸素によって発火ーその爆発は、低密度の数十メートルの爆弾が爆発するに等しく、衝撃波が数キロにわたって駆け抜ける。

 

 爆轟波は、直下にいた魔物を下向きに吹き飛ばした。

 

 否、爆風で張り叩いた。

 

 否、地面と十数気圧で、プレスした。

 

 半径60メートルにわたり、魔物は文字通り粉々になって焼滅し。

 

 半径170メートルにわたり、魔物は文字通りひき肉になって大地にしみこみ。

 

 半径290メートルにわたり、魔物たちは外傷はないのに体内に深刻な損傷を負って行動できなくなった。

 

 爆発が広げた熱気の塊は、急速に上空へ上昇していく。その見た目はまさしく、キノコ雲。

 

 「行くぞ!」

 

 ハジメ、香織、ユエ、シアが、おのおの武器を手に、壊滅手前の魔物軍へ突っ込んでいった。

 

 「…一石さん!」

 

 放心状態にあったクラスメートと騎士団、それに、地面そのものが吹き飛んだとしか思えない大爆発を形容するすべを持たずにかたまる、防壁の上に招かれていた市民たち。

 

 最初に再起動した畑山教諭は、即座に、一石を怒鳴った。それも、つかみかからんばかりの形相で。

 

 「あれでは、あれではまるでっ!

 

 これが、あなたの言う、責任ですかっ!」

 

 社会科教員として、座視するわけにはいかない。だって、けた違いの威力、そしてキノコ雲。これではまるでー

 

 ー原子爆弾ではないか。

 

 「…大丈夫。核兵器ではないわ。燃料気化爆弾よ。」

 

 「ですが…」

 

 「なんの言い訳にもならないことも、なんの言い訳もしてはならないことも、わかってる。

 

 だけど、ほら。」

 

 ロケット弾が乱れ飛び、機関銃がうなる。

 

 重力のじゅうたんが魔物を押しつぶし、稲光とともに煙が上がっていく。

 

 「遅かれ早かれ全滅する魔物に、慈悲を問うても仕方がないし。それに、幸い、誰にも伝わることはない。

 

 デビッド騎士団長、まかり間違っても、あの攻撃をしたいとは思わないわよね?」

 

 「な、なぜだ?あれさえあれば魔人族も一撃で」

 

 「扱いを誤ったら消滅するのは王都。敵の手にアレが渡れば消滅するのは人族と魔人族の首都全部。造り方が渡れば消滅するのはあまねく3族すべて、後には荒野しか残らない。

 

 それでも、憎い神敵を滅ぼしたい?」

 

 「当然、神のお告げなのだから」

 

 「えい」

 

 防壁の上から、下へ、デビッド騎士団長を押し落とす。

 

 「な、何をする!?」

 

 「目の前にいる神敵、魔物を、滅ぼして見せなさい。」

 

 「な…ぐぬぬ。」

 

 突っ込んでいくデビッド。剣を振るい、魔法を詠唱しー

 

 ーしかし、無我夢中で戦っても、なおも3桁で残る魔物を前に、剣を落とした。

 

 「ビー―――ム。」

 

 中性粒子ビームで魔物の行動力を奪い、退路を作ってやると、一目散にデビッドは逃げ、情けなくも防壁の上に這い上がる。

 

 「…私たちが味わってきたのは、こういうこと。

 

 死の恐怖の前で、信仰は役に立った?エヒト様とやらは、ハジメと香織が落ちた時に、あなたがさっき死にかけた時に、何かしてくれた?

 

 …万民を、ただあなたの個人的な信仰のために、同じ恐怖に陥れる覚悟はできた?」

 

 うなだれるデビッド。

 

 「…戦略兵器の投入なんてあからさまにやってはいけないことかもしれない。

 

 だけど先生、私は、私の目標のために、手段を選んでなどいられない。

 

 それでも先生は、生徒一人一人のための先生で、いられる?」

 

 「はい。

 

 あなたの覚悟、あなたたちの経験を、今だけで推し量ることなんてできませんけど…はい。

 

 いざという時は、私はまた、あなたを叱り、あなたを、必ず、止めます。」

 

 「それでこそ、私の担任よ。」

 

 アインシュタイン曰く、科学の進歩は病的犯罪者の手の中の斧である。だから一石は、自分にストッパーが必要であると、誰よりも理解していた。

 

 しばらくして、銃声も雷鳴も止み、一人の男が、テクニカルの荷台に縛られて引きずられてきた。

 

 「し、清水君!?」

 

 「え、なんで、清水君が…くっ!まさか、そんな…」

 




 ロシアが2007年に、核兵器並みの威力の気化爆弾を実用化したと発表しています(まあ戦術核ですが)。
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