ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結 作:十二の子
ところで、察した方も多いと思いますが…サブタイトルがネタ切れ気味だw
―*―
かくて、一行は、ウィル・クデタを引き連れ、フューレンに帰還した。
気が付けば、ハジメ、香織、ユエ、シア、ティオ、そして一石とミレディ。7人とも言うし、事情を知る口さがない人間は(いればだが)「5+1+1」「A+a1~4+B+Z」とかのたまうのかもしれない。
とにかく、その、「5」のほうー休養日とされたその日は、ハジメがシアと出かけていった。そして香織はユエと企んでインドアな一石を引っ張り出した(なおミレディはティオの監視役にされた。体のいい厄介払いとも言う)。
「ほら、光ちゃん、着て着て♪」
「…私、そんなに制服似合わない?」
「そうとは言ってない。ただ、私も似合うと思う。」
白衣っぽいコートを着せられ、フリフリしたドレスっぽいモノを着せられ、かと思えば羽根(?)のついた帽子。
正しく2人の着せ替え人形である。
「ま、待って、ワンピースは、ワンピースだけはダメなのーっ!」
「なんで?」
「な、なんか落ち着かないの!」
「そう思うのは慣れてないから。いいから早く着るべき。」
味方がいない…目を虚ろにして、一石は試着室へ引きずり込まれる。
「私より胸があるなんて生意気。」
「うう、落ち着かない…」
「似合ってる似合ってる♪」
「そ、そう…?」
「もっと自信もって…あれ?」
「どうしたの?」
「…下から、なんか感じた気が…」
「下って…ここに地下階なんてないわよ?」
「ん…気のせい、でもなさそう。動いてる。」
「動いてるって…魔物?」
「気配だけだから違うと思う。」
「地下…気配ね…?掘ってるわけじゃなければ、トンネルでもあるのか、し、ら…」
はっと顔を上げ、一石は財布を取り出した。
「な、なんか気づいたの?」
口に人差し指を当て、「しー」。
「私が払うから、早く。
下水道よ。マンホールがあるからには地下下水道がある。たぶんそこに、誰かいるのよ。」
「わ、わかった。助けに行くんだよね?」
「香織、怪しい人かもしれない。」
「あ、そっか。」
「どっちにしても急ぐに越したことはない。私は着替えるから早く行って。」
「う、うん、でも、それも買っといてね。あとで私が払うから!」
「え!?」
―*―
…な、南雲君が…
…幼女になつかれてる!?
「ロ、ロリコン?」
「ちげえぞ。」「そんなわけない」「ん…ん?」「なんとな!?」「ひ、引くんですけど…」
…不規則発言だったわ…
「下水道の中に、その子が?」
「ああ、海人族で、ミュウって言うらしい。オークションから逃げてきたんだと。」
「どうするの、ハジメくん?」
香織が、南雲君に背中を預けながら、南雲君の膝の上の幼女にお団子をあげている…なによこれ。
「…確か、海人族って保護されてたわよね。」
「ああ、というか、人間の子供もいたらしいぞ。」
…思いっきり違法じゃない!
「誘拐して売りさばく、裏オークション…ってところ?」
シアが、身体を震わせている。
「つぶしちゃう?」
「ミレディ、それはあまりお勧めできないわ。下手をやって官憲と衝突したら目も当てられない。」
「ここは保安署に届けよう。あとは役人が何とかするだろ。」
「ハジメくん…そうだね。」
南雲君は、ミュウを抱え上げて立ち上がった。
…眼帯奪われてるし。
「やっ!お兄ちゃんとお姉ちゃんたちがいいの! 二人といるの!」
「無理言わないで、ね?…いたっ」
なだめようとした香織も、やられてるし…ちっちゃい子ってまさかこの2人のウィークポイント?
ともかくも。
「すみません、人身売買から逃げ出してきた海人族の幼女を発見したので、保護と捜査をお願いします。」
「な、なんですと?わかりました。ただちに手続きを取ります。」
これで、一息付けた。
「ハジメくん、ミュウちゃんかわいかったね!」
「ああ」
ああって…
「あんな子、欲しいなあ…」
「私も。」
「私もですう…」
こら、そこの3人、熱い目で南雲君のことを見つめないの…
ドォン!
「…うそでしょ…」
「ハジメくん!」
「ちくしょう、やりやがった!」
ちょっ、置いてかれる…!
―*―
窓が吹き飛び、煤まみれの保安署で。
香織は、一枚の紙を拾い上げ、私たちに見せた。
〈海人族の子供を死なせたくなければ、女どもを連れて〉
グシャ
「ハジメくん、いいよね?」
「ああ、許しておけるか。つぶす。」
南雲君が、香織が、ユエが、シアが、ティオが、立ち上がる。
「ま、待って。」
…まだ、決意するには、早い。
「あ?」
「今度こそ、人を、殺すつもり?」
相手は官憲を吹き飛ばしてなんとも思わず、違法人身売買をやる裏組織。全面抗争になる…!
「ああ。奴らは、俺たちが一度助けたものを傷つけ、あまつさえ香織を、ユエを、シアを、お前を、差し出せときた。
叩き潰す。」
「…その結果、香織、その白い手を血に染めるの?」
「止めないで。
私は、光ちゃんが人殺しだって言っても、我慢できないの。」
「ん。ヒカリ、きれいごとだけでは生きていけない。」
「痛い目見なきゃわからない人たちもいる。覚悟はできてます。」
「そうじゃの。しつけてもどうにもならん奴はおる。妾も行くぞ。」
「自由な意思のためだからね。ミレディちゃんもこういうのは久しぶりかなあ。」
…そう。
はっ、もう、等しく、血に濡れる覚悟はできている、と?
「わかったわ。
怨嗟を凱歌に、血と反吐と肉片と灰の上に。
果たしてやろうじゃない。」
―*―
「イルワ支部長、借りるわ。
至急、事後承諾でいいから、私宛に、フューレンの人身売買に関与する組織討伐の依頼を出して。」
「…いきなり支部長室に押し入ってそれかい?」
「組織が消滅してから許可したのと、消滅する前に許可するのと、どっちがギルドの体面が保つと思う?」
ふーん、このビルとこのビルはダウト、っと。
「あ、ティオ、次は地図のCー13区画へ。それからユエ、Dー8かSー45の地下に虜囚がいる。」
「あーこらこら、ギルドの資料を…あーもう、いいや。許可、出せばいいんだろう!?」
殴り書きで依頼が飛んできた。
「あ、今、殲滅許可が出たわ。
南雲君?本拠がわかった?はいはい、Hー11ね。
シア、Hー11へ。南雲君が肉塊にする前にボスだけひっとらえて?こっちで始末するから。」
えーっと、ツチハンミョウの乾かしたやつはーっと…
「ミレディ、Q-3に奴隷の宿舎っぽいのがあるから、廃墟にできる?
あ、ユエ?了解。イルワ支部長、ギルド職員をD-8へ…ってわかんないか。地図のここへ送って。保護した子供たちが数十人。」
「あ、あごで使うね…」
「そうそう、それから、次、J-23へ。地上は消し飛ばしてもらって構わないわ。」
「消し飛ばす…おいおい…」
「あ、地図と資料はもらったから私もそろそろ。
南雲君?ああ、そのあたりは無意味に用地が確保されてるから地下が怪しいと思ってた。
うんうん、私も行くわ。香織は?ああいる。そう。」
さて、と。
「あ、支部長、もうすぐしたらシアが首領を連れてくるから、この虫呑ませてそこらへんの街角に縛っといて。」
たぶん1週間くらい死ねないけど。
―*―
フューレンを裏で牛耳る犯罪組織「フリートホーフ」。
そのアジトは数百を誇り、構成員は末端も含めれば数千人に及ぶ。
そういったやつら相手に人外一歩手前の連中が荒らしまわったおかげで、フューレンのあちこちから無数に煙が昇り、市街戦のさなかのごとき様相を呈していた。
ミレディが双翼で飛び回りながらビラを散布し、市民に屋内に入るように布告する。その下で、フリートホーフと、巻き添えを食った他の犯罪組織は、建物ごと消し飛ばされていく。
そんな中で、まだしも平穏な地下では、大ホールの中で、違法オークションが行われていた。
ずらっと並ぶ、仮面の男たち。そして、オークションの司会者の元へ、海人族の幼女ーミュウを入れた水槽が床を引きずられてくる。
ミュウを泳がせようと、水槽を蹴る司会者ーの頭が砕けた。
ハジメが、ミュウを抱え上げて飛び上がる。そして、舞台側のドアをすべて閉じ、向かってくる男たちも撃ち殺した。
ジャンプで一飛び、天井の破孔から上階へ。
その時になって、客たちは逃げ出そうと、客席の出口に殺到しー
ー開かない。
「どんな気持ち?閉じ込める側から閉じ込められる側になるのって、どんな気持ち?ねえ?」
「金は、金はやるから!」
「出して!」
「いくらほしい!?そうだ、一生遊んで暮らせるだけやろう!だから」
「じ、ご、う、じ、と、く。ププーッ!」
ミレディの嘲笑。
そして、誰かが、天井の破孔から出る方法がないかと振り返り、上を見上げた。
ーそこには、パラボラアンテナに見えなくもない、黒光りする円形が覗いていた。
カチ、カチッ、カチッ!
「あ、熱い!?」
「痛い!痛い!」
「助けてくれっ!」
仮面を捨て、服を脱ぎ捨て、誰かが魔法を使い、それでも悲鳴は止まらず。
血に染まり、煙が上がり、吐瀉物の臭いに満ち。
一切の声、音がしなくなってしばらくして、アンテナは引っ込められた。
同時に、市内各所から、爆発音が響き。
花火が、フューレン全市を彩った。
かくて、フリートホーフ、及び付随・対立する犯罪組織は、比喩でも統計的表現でもなく、文字通り消滅させられた。
誰もその正体がいわゆる「アクティブ・ディナイアル・システム」に近い「電磁波で電子レンジのごとく人体を加熱する指向性エネルギー攻撃」であるとは言い当てられなかったが、トータス中の裏社会を絶句させ、激震させ、沈黙させ、瓦解させるには「そこに残っているのは人型の焼肉だけだった」という伝聞だけで充分だった。
〈人身売買を今後行ったのならば、フューレンギルド支部長イルワお抱えのパーティーは、無限大のコストを支払わせるだろう〉という噂は、ただただ人身売買を王国やフューレンから一掃するのみならず、亜人奴隷売買について「天罰」の噂で売りにくくなっていたところに続き買い手も減った帝国軍の財政を直撃。「しゃらくさいこと言ってんな」と軽んじられるばかりの帝国軍文官は頭を抱え、中立商業都市にして震源地のフューレン侵攻をも会議の俎上に載せるありさまとなる。
ハジメ一行は、また、畏怖のまなざしを増やし、ミュウを親元に連れていく依頼を請け負って、フューレンを後にすることとなった。
※ツチハンミョウの乾かした奴:猛毒カンタリジンを2~3人分の致死量で含む甲虫です(コレの標本3匹持ってるんですけど…)。消化器系などに作用するほか、尿道など排出系に激烈な炎症を起こし、男がこれで死ぬ時はそれはそれはみっともないとか(そんなものを媚薬として流通させた人間とは…リア充恐るべし、ですね)。
致死性マイクロ波兵器もそうですが、単純な殺戮ではなく、アピール(言い方を変えれば見せしめ)に重点を置いています。ジュネーブ条約…?
そう言えば、亜人族関係の殺戮を回避したせいで、ハジメにとってはこれで最初の殺人か…