ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結 作:十二の子
―*―
全員の安全も確保した、騎士たちも生きていた、懸念事項はまだ一つ残っている…
…なのに、コイツときたら。
「ふぅ…香織、ありがとう。
だけど、南雲や一石に言われて人殺しをする必要なんてない。俺が許すから、脅されているならすぐに離れろ。俺が守る。」
「ちょ、ちょっと光輝、なに言って…」
「光輝くん」
「香織、さあ…こっちへ来るんだ。」
「なに言ってるの?」
「…は?」
呆気にとられてる…いやいや。本気でそう思ってる?
「私、誰にも脅されてなんかないよ?」
「え、いやでも、なんで、だったら南雲に」
「それはね…
…私が、ハジメくんのことが大好きだから、だよ。」
あ、ユエとシアが、あからさまにほっぺた膨らませた。
「ど、どういうことだ?待ってくれ!意味がわからない。香織が南雲を好き?えっ?どういう事なんだ?なんで、いきなりそんな話になる?」
「天乃河、洗脳だぜきっと。コイツ、自分が弱いからって」
「そうか、檜山、ありがとう、そう言われれば全部納得がいく。
おい南雲、すぐに、香織に、それに他の女性たちにかけた洗脳も解いてもらうぞ!」
「天乃河、言わせておけば」
「南雲君、ステイよ。」
「光輝、南雲君が、一石さんが何かしたと、本気で思っているの?そんなわけないでしょ。光輝は気がついてなかったみたいだけど、香織はずっと前から南雲君のことを想っていたのよ。それこそ日本にいるときからね。どうして香織があんなに頻繁に南雲君に話しかけていたと思うの?」
「雫、何を言っているんだ?…あれは香織が優しいから南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ? 協調性もやる気もない、陰キャでオタクな南雲を香織が好きになるわけないじゃないか。それに一石は、魔人族のスパイ…」
あーそれは完全に否定できない…
「光輝くん、じゃなかった、天乃河くん。
もう、やめて。
私はずっと、ハジメくんのことが好きでした。だから…
…これ以上言ったら、許せないかも。」
香織が、銃口を天乃河へ向けた。
「ま、待て香織。
香織はそんな、簡単に人を傷つけたりしない、優しい女の子だったじゃないか…
南雲、一石、お前らこんなに香織を変えるなんて!」
「ううん、私が変わったのは…確かにハジメくんのためで光ちゃんのためだけど、でも、私のため。
私は、もうハジメくんを失いたくないし、守りたい。だから、そのためにしなくちゃいけないことは、何でもする。これは奈落の底で、天乃河くんが助けに来ようとすらしなかった頃にできちゃった価値観で、変えられない、かな?だって、そうしないと奈落では生きられないし、ハジメくんをこの世界で守れないから。
だから、もし、天乃河くんが邪魔をするなら、元幼馴染でも、もう、容赦できない。」
「香織…くそっ」
誰のセリフよ…
…さて、そろそろ、言いたいことを。
「はっ、勇者君、言いたいのはそれだけ?
それとも、私をあしざまにののしるのはいいけど、誰があなたの大事な元幼馴染を突き落としたのか、知らないの?」
「突き落とした?いやいや、あれは事故で」
…事故?
「誰かに聞こうって思わなかったの?それに…
…畑山先生から、手紙が来てたでしょ?握りつぶしたの?」
「まさか、だって、香織を守ろうとしてくれてたんだぞ!犯人なわけないだろ!」
「もう、いい。
あなたがそう思うのなら、あなたは、勇者であるべきでも、勇者でも、ない。」
知ることにはそれに基づき行動する責任が伴う。
無知に伴う責任がないことは、責任は知により生じることの裏返しでもある。
ならば、無知なる愚者が責任あるべき地位につくことはならない。
無知が人類の敵であるように、無知にして責任あるべき者は、もはや敵以下でしかない。
「南雲君も見ていたはずだけど、私は、その人物の動きを前々から注視していたから、はっきりわかった。
檜山大輔、もう、王都には戻れないと思いなさい。
そして天乃河…
類推するに、香織を南雲君がストーキングしていて、檜山が守っていた…とでも、あべこべに考えてる?
八重樫さん、あなたは、どちらが正しいと思う?」
「南雲君よ。香織は、ずっと南雲君を追っかけてた。光輝は間違ってるわ。ごめんなさい。」
「雫、お前まで南雲と一石に…許さん!」
「ちょ、ちょっと光輝、非戦系の一石さんに剣を抜くなんて!」
「天乃河」「天乃河くん」
南雲君、香織、引いて。
「…私の性格的に、誰かを洗脳できるのなら全員、あるいは天乃河君を真っ先に洗脳してさっさと収めるけどね。誠に残念ながらできないのよね…」
マゴクを抜き、銃床を振る。
「なっ!?」
機構を作動させ、鎖鎌で巻き取った聖剣を奪い取る。
「なんてことするんだ!おい、一石!」
「なんてことって…
…勇者には、勇者たる資格を。
せめて、知ることを拒む分、強くなることはできたのよね?まあ、目的が後付けにされる強さが最悪であることは核爆弾の例を持ち出すまでもないけど。
だからまあ、65層からやり直してきなさい!」
私は、近くに見えていたグランツ鉱石の露出面に、聖剣をぶつけた。
転移陣が現れる。…メルド団長がなんかうなってるけど、無視。
「選択肢は2つ。勇者たりえないことを認めるか、それとも一人、危険因子でしかない蛮勇を振るうか!
せいぜい私たちのうっぷんを思う存分晴らしなさいっ!」
天乃河は、あわてて転移していった。坂上君が続いて飛び込んでいくー本当の蛮勇はあっちか…
「八重樫さん、谷口さん、中村さん、いいの?」
「…光輝も、さすがに今ならなんとか勝てると思うわ。龍太郎は…はあ。」
「聖剣だってあるしね…正直鈴も、光輝くんの言ってることは無理筋だと思う。
カオリン、おめでとう。」
「…一石さん、無茶苦茶やるよね…何か言ってもしかたないし…」
OK、と。それから不満そうなのがもう一人。
「あ、メルド団長、意見は求めてないから。私たちが3人ではるか下を生き抜いたのに、たかだか65層でステータスが圧倒的な2人が死んだら、責任は明確よね?
それと、王都に戻るまでもなく、檜山を拘束するように。さもないとさらなる面倒を招くわよ?自分で解決するか、後から私たちが解決したのを承認するか、好きな方を選びなさい。」
悪い人じゃないけど、勇者パーティーの3人が行方不明になったのをあやふやな責任で済ませた人は、反省すべき。
私は、両手を打ち合わせ、解決を宣言した。
―*―
「パパぁー!!お姉ちゃんたち―!!おかえりなのー!!」
谷口鈴が、「パパ!?」と叫んで八重樫雫と顔を見合わせる。
「ただいまミュウ。ティオはどうしたんだ?」
「うん。ティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。ティオお姉ちゃんは…」
「妾はここじゃよ。」
「あれ、お前こんな人混みで離れたら不味いだろ。」
「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ。」
「でも、ティオ、ちっちゃい子はすぐどっか行っちゃうんだから、ちゃんと手をつないであげなくちゃダメだよ?」
「それなら香織はずっとハジメと手をつないでる。ちっちゃい子。」
「んー…?ユエ、私の若さがうらやましくなったのかなー?」
「み、醜い争いですう…」
「ミレちゃんはノーコメントかな…」
「あなたの年齢のカウントは確かに考えるべきよね…」
ミレディ・ライセンと一石光は、あまり同類と思われたくないと、すりより抱き着きあっているハジメたちからなるべく離れながら、中村恵理のほうへ近づいていった。
「ミレディ、ウルに来る前、オルクス大迷宮に行ってきたのよね?自分の迷宮を無人で動けるようにするためでもあるでしょうけど。」
「うん、オーちゃんの迷宮、数千年ぶりだからね…まさかもう一回来るとは思わなかったけど。」
「じゃあ生成魔法は確保した?」
「あー…この身体、神代魔法全部に適性があるのかも。それが?」
「音波遮断のアーティファクト。」
「はいはい。」
そして一石は、音波遮断を自分と中村恵理の間にかけさせる。
「…な、なに?」
「中村さん、そういうのいいから。
…さっき、一連の騒ぎの間、ずっと私の動きを見てたわよね?」
「それは、だって、危ないことになりそうだったから…」
「うそ。だってあなたずっと、私を殺すつもりだった。」
それに対応するためにこそ、一石はゴクを使わないで温存していたのだから。
「大丈夫、それに関して、とやかく言うことはできないし。」
「な、なんのはな」
「もう、猫をかぶるなって話。」
すっと、中村恵理は、目を細める。
「まあ、具体的に何があったか知らないけど、天乃河が好きなの?」
「…そうだよ!悪い!?」
「いいえ?そりゃあ笑うけど。
大丈夫、これで天乃河の株は墜ちて、あなたのしたいようになるから。というかそうでないと、誰かが矯正しないと天乃河、致命的にやらかして南雲君か香織に始末されてしまうかも。」
中村恵理の目は、明確な殺意を帯びていた。
一方の一石光の目は、一切の意思をのぞかせない。
ある種のバケモノどうし。
「そうはならないよ。ボクがそうはさせないからね。」
「降霊術で?」
「まさか。使えないよ。」
「あ、そう…まあいかようにもやり方はあるか。南雲君ですら一人で生き抜いたものね。」
人間、やろうとすれば何だってできるー身をもって証明してきた一石は、中村が今は何もできないにしろ危険因子だと判断した。しかし自身がそれなりに無茶苦茶をやっている以上、先回りして危険因子を排除しておくわけにもいかない。
「で?結局、ボクの敵なの?味方なの?」
「二元論なんてロクなモノじゃないわ。」
「答えになってないよ。」
「あなたが勝手にあの見放された勇者と2人でロマンスをやるつもりなら知ったこっちゃないし、その過程で真理への糸筋を増やしてくれるのなら願ってもないってこと。でも、目的の達成にあたって無情過ぎると、同類としては介入せざるを得ないし。」
善意で何をしでかすかわからない天乃河、多少の悪意を持っているとはいえ首輪をつけてくれる相手がいるのならばそれに越したことはないー一石はそう考えた。ただ、中村それ自体が何をしでかすか危ういような気がして、釘を刺さざるを得なかった。
「それで…
…それで、もし、思うところあるのなら、あるいは、願うところがあるのなら。」
ポンと、一石は、トランシーバーのようなものを渡した。
「できうる限りの落としどころは捜すわ。だから、連絡して。
それじゃあ。」
ハジメがテクニカルを取り出したのを見て、そろそろ次の町へ出発かと乗り込む一石。
(私個人としても、すでに血にまみれる覚悟はできているとはいえ、返り血は少ないほうが良い。それに、今は使えないとはいえ「降霊術」、霊魂というトータスに横たわる謎存在について解明する手がかりもくれる。失いたくはない。
いいほうへ、動いてほしいけど…こればっかりは彼女の意思、ね。)
ハジメと談笑しながら助手席に乗り込む檜山の目からは、ハイライトは消失している。
そして、そんな檜山を見つめる視線。
(アイツ、ボクの気持ちなんか、愛も苦しみも知りはしないくせに、上から目線で!
もうタネは蒔いた。思い知れ!)
ハジメ謹製の通信機は、ひっそり、地面にたたきつけられた。
中村恵理ってだいぶ酷い機会主義者ですよね(※個人的に「機会主義者」を特別に、ただその時その時気を見るに敏と言う意味だけではなく、後々のために自ら機会を生み出せる人たちと言う意味でも使わせていただいてます。あまりにもこの言葉を最初に見かけた作品の印象が強烈だったからです)。
しかし、「チャンスという神様には前髪しかない」と聞いて、ただ急いで神様の前髪をつかむのではなく、捕虫網に接着剤を塗って待ち構えるような性格と言う意味では、オリ主も似たようなモノですが。