ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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20 「宗教主義の非コスト性」

―*―

 

 「はあ…」

 

 酔った。

 

 危うく海底二万マイルするところだった。

 

 「ホント、なんでこんなに魔物が集まってきたのよ…」

 

 「なんでだろうな…」

 

 …あなたたちの魔力に引かれてきたんじゃないの?再現実験はごめん被るけど。

 

 「お疲れ様。」

 

 「ああ…」

 

 「でもまだ大変そうね。」

 

 南雲君の後ろに香織が見える。…艇内に戻るか。

 

 「南雲君、耳栓と睡眠薬ちょうだい。」

 

 今日も10時間寝かせてもらうわ、「私は」。

 

―*―

 

 「起きて!光ちゃん起きて!」

 

 「…時間は?ダメ、1時間7分足りない。」

 

 「そんな場合じゃないよ!」

 

 香織、元気ね…徹夜テンション?

 

 …なんで囲まれてるの?

 

 「ちょっとした行き違いだ。」

 

 「なるほどね。起きなくて迷惑かけてごめんなさい。」

 

 王国のバッヂをつけた兵士…潜水艇の錨泊場所が領海侵犯してた、と。…で、たぶん南雲君、撃った。だから揉めてる…と。

 

 「しかもなんか落ちてきてるし。」

 

 ミレディ、騒ぎになるから絶対に飛ばないで。

 

 「おいまさか…」

 

 「──パパぁー!!」

 

 南雲君が、しかめ面でジャンプしたのを見て、私は香織と顔を見合わせ。

 

 「ティオのバカーッ」「ティオの変態ーっ!」

 

 …香織、私情混ぜないで。著しく同感だけど。

 

―*―

 

 「あれっ?何してるのかな?」

 

 「ああミレディ、ちょっと、大火山で回収したペンダントを調べてるのよ。」

 

 「ん?で、なんで赤い光なのかな?もしかして、ミレディちゃんがあげた『月の光に導かれて』ってヒント、忘れちゃった?」

 

 「忘れてないわ。それと、香織が治したとはいえ隣の部屋にはさっきまで足をやられてた重傷者だった人がいるんだから」

 

 「ププー、ムキになって強がってごまかしちゃって。素直に忘れたって言えば…あれれ?え、なんで?なんで光がたまって」

 

 「プルキニエ効果。人間、暗いところでは赤い光より青い光に反応するから、月の光って蓄光すると褐色優勢なのよ。」

 

 …赤系波長の蛍光?むしろ光エネルギーの直接変換?

 

 「とにかく、このビームの行く先は南雲君が確認しているから、メルジーネ海底遺跡迷宮の場所はおおよそわかったわね。どう?」

 

 「…恐れ入ったよ。」

 

―*ー

 

 潜水艇は、人間と海人族の港町エリセンを離れ、メルジーネ海底遺跡へ向かった。

 

 月の光を浴びたペンダントからのビームが指す海面の下を捜索しても、いっかな扉のようなものは見当たらず、一石は「迷宮は動いている」「樹海迷宮と同じくまだ資格がない」などいろいろ考えたものの、ミレディに笑い飛ばされ逆ギレ、「もう海底ごと吹き飛ばしてやって!」と叫んでミレディに羽交い絞めにされた(なお、一石には、「その時の爆発で地震波測定する」というアイデアもあった)。

 

 しかし、そんな一石をあざ笑うように、月の光を再び浴びたペンダントからのビームは海底を指して岩盤をこじ開け、潜水艇を海底遺跡へ導いた。

 

 襲い来る魔物は香織とユエの魔法で退治され、流れの先、なぜか空気がある空間へゴトンと落着した。

 

 「香織、電流攻撃!」

 

 四方八方の岩盤に攻撃を試みる魔物たちがいるのを見て、一石が叫ぶ。

 

 オルクス大迷宮で培ったコンビネーションで、香織が高圧電流を四囲に放ち、網の目のように壁面を這いずり回る電流がフジツボやらヒトデやらの魔物を焼き焦がしていった。

 

 ハジメが先頭、ティオが最後尾で、一同は並んで海底遺跡の奥へ。

 

 「ゼリー?」

 

 「私がやります! うりゃあ!!」

 

 「ひょい…ってああ!」

 

 壁をふさぐゼリーのようなナニカをドリュッケンで破壊しようとシアが前に出て、一石が引き止めようと襟首をつかむもステータスが2ケタ違うので引きずられ。

 

 「ププッ、引っかかってやんの。」

 

 2人して、ゼリーを浴びた。

 

 「ひゃわ! 何ですか、これ!」

 

 「ちょっ、熱い!」

 

 「シア、ヒカリ、動くでない!」

 

 ティオが、絶妙な火加減で付着したゼリーを焼き落とす。

 

 「アルカリ?やってくれるじゃない…」

 

 「あの、ハジメさんお薬「天恵」あう…」

 

 一石のおかげで服は金属糸製になっていたのだが、にもかかわらず、反応して白くなってしまっている。

 

 ゼリーの奥から現れる触手は、ユエが張る障壁すら溶かしていく。

 

 (魔法的な力場にも作用している?そもそも、アルカリならタンパク、酸なら金属に反応するはずなのに、両方腐食すること自体が…)

 

 「…ハジメくん、本体は?」

 

 「…すでに、全部だ。」

 

 「え?」

 

 「…南雲君、じゃあアレは、舌?」

 

 壁の中から抜け出すように現れた巨大なクリオネを指さし、一石が震える。

 

 「あ、あれ…?あんなの、この迷宮に入れたっけ…」

 

 全員の意見が一致したーおい、解放者。造ったモノの管理くらいしてくれよ、と。

 

 「ミレディ、ちなみに、バックドアは?」

 

 「うーん、あの向こうだけど…魔法もダメにしちゃうならさすがのミレディちゃんもお手上げかも…」

 

 誰かが舌打ち。

 

 一石が杖の宝物庫に魔晶石を触れさせ、その後に杖を真上へ掲げた。

 

 ハジメと香織とユエとティオが必至に魔法を振るうが、どうも効いているようには思われず、触手は障壁を破り四方八方から現れるーが、杖の先端にだけは近づこうとしない。

 

 だんだんと、触手が崩れていくー露出した放射線源により被爆したクリオネ(?)は、確実に弱っていた。

 

 「下だ!一度体勢を整えるぞ! 全員俺のそばへ!」

 

 ハジメが指し示す、地面に開いた穴。水が入ってきている。

 

 一石が、線源を回収しつつ、手榴弾を放り込み。

 

 どこからか流入する水が、一同をどこかへ洗い流していった。

 

―*―

 

 「…ここは?」

 

 木造船の、中?まるで昨日できたかのように…ここの神代魔法は「再生」なのね。 

 

 「迷宮の、管理室みたいなところかな。」

 

 「ミレディ…他のみんなは?」

 

 「それはズルになるからねえ…この迷宮は実体のある幻覚のようなモノを出すけど、魔法でしか払えないから、キミにはちょっとどうにもならないし、神代魔法をどうせ手に入れられないならまあ…って。

 

 感謝するんだゾ☆」

 

 「はいはい感謝した。」

 

 魔力伝播子ー魔力場仮説が正しいのならば、魔力場としてだけ存在し、人間の視覚野に作用するとともに力学作用を伴う物理実体、と。

 

 「それで、どんな幻覚を?」

 

 「…見たい?」

 

 ミレディは、真剣な面持ちで、白亜の壁をスクリーンに魔法で迷宮の中を見せてくれた。

 

 「全ては神の御為にぃ!」

 

 「エヒト様ぁ!万歳ぃ!」

 

 「異教徒めぇ!我が神の為に死ねぇ!」

 

 「我が魂は…エヒト様と共に有りいい!!」

 

 ー本当に、神というモノは。

 

 「…本当に、虫唾が走るわね。」

 

 誰もが狂信者で、誰もが十字軍。

 

 でも、これはタダの集団ヒステリーではなく。

 

 背後に、銀髪の女が映ったーノイントそっくりな。

 

 「はっ。

 

 暗躍し、扇動し、悦楽する。

 

 …くだらない。」

 

 人類種の存在意義が好奇心の追及だとするならば、このトータスで知の巨人の肩上に立つ者は。

 

 さらにその先の知へ至ろうとする私に対し、そして知を、真理を追い続けてきたすべての人々に、なんという冒涜。

 

 「あらためて、このプレパラートに誓うわ。

 

 私はエヒトを、必ず、超えて見せる。」

 

 「うーん…倒してくれるなら、いっか。

 

 ありゃりゃ、みんな早いねえ…ミレディちゃんビックリ。」

 

 …でも、大量虐殺、か。

 

 私は、それでも、死をもたらす必要性に追われるのだろうか?

 

 180万を救うために14万を焼く覚悟が求められるとして、では、私はアインシュタインがそうであったように、後悔しながらも胸を張れるのだろうか?

 

 世界が解放されるまでに流される血は、解放により正当化されるのだろうか?

 

 「…どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」

 

 …メイル・メルジーネ、その幸福は、血で贖うべきですか?

 

 私はどうであっても、真理を追うけれど。

 

―*―

 

 ミレディが、「ヤな予感がする」と言った通り。

 

 迷宮から放り出された潜水艇を、巨大クリオネが襲った。

 

 触手は魚雷によりしのぎ、一同は潜水艇本体を囮に香織とユエの空間魔法により空中へ。黒龍体のティオに飛び乗るーが、背後から、高さ数百メートル幅数キロはあろう高さの津波が迫ってきていた。クリオネモドキに操られているのだ。

 

 (…魔法も、質量体も溶かしている、攻撃が効かない上に再生する魔物。海水を操っている。魔法は無効化できても水自体の質量だけでもキケンだし…

 

 本体を攻撃できれば…

 

 燃料気化爆弾ほどの火力であれば、吹き飛ばせる。けれど、燃料気化爆弾は燃焼、水でダメに…

 

 …そう、必要なのは戦略級の威力、一撃で焼き尽くす力。

 

 …するしか、ないのか?

 

 …それしか、ないのか?

 

 幸い、陸地は見えない。ここだけの秘密にできる。

 

 これしか、ない、か…)

 

 「南雲君、十字架は私が背負う。

 

 アレを。」

 

 (背負いきれないけど!)

 

 「ああ…」

 

 ガション。

 

 それは、一方のみ開かれた太い筒であり、そうとしか思われなかった。

 

 香織が目を真ん丸にして一石をにらむも、一石の目が本気なのを確認し、筒に手を添える。

 

 筒の底に刻まれた生成魔法用の魔法陣にハジメが手をかざし。

 

 筒の上に取り付けられたレーザーポインターが、津波の中心を照らす。

 

 「照準…」

 

 障壁魔法が、筒を延長するようにして、津波の中へ。そして内部のクリオネモドキが障壁を打ち消していく。

 

 「対ショック、対閃光防御!」

 

 全員、目をつぶる。

 

 「ユエ、あの光の先に、重力魔法を一点で。一瞬だけでいい。」

 

 「ん!」

 

 暗黒の重力球。クリオネモドキの粘液で消えるが、重力の作用は数瞬残りー

 

 「爆縮!」

 

 カッ!

 

 生成魔法で造られていた金属水素が、爆発的に昇華、筒の開口部から障壁筒内部へ吹き出し、重力球の名残へ殺到する。

 

 再び強く圧縮された水素は、核融合に至り。

 

 数億度の極点が、一瞬にして火球へと膨れ上がる。

 

 史上初の純粋水爆の炎は、津波ごとクリオネモドキを蒸発させた。

 

 キノコ雲の下、黒龍は行く。

 

 (改良を重ねるべきではないけれど…

 

 …エヒトにこの「フュージョンカノン」でしか対抗できないのならば、私はきっと。)

 

―*―

 

 南雲君と香織が子煩悩なおかげで、私も助かる。

 

 放射性物質を徹頭徹尾含まず出さず魔法を使い燃料を送り込みローソン条件を達成する「フュージョンカノン」は、従来の核兵器とは一線を画す安全性があるが、魔力の消耗は酷いらしいしスタイリッシュとは言えない。やはり、「仮にエヒトが物理実体であった場合の決戦兵器」としては厳しい。

 

 …空間魔法を低燃費に使えるようになれば、砲である必要性すらないんだけど…

 

 そもそも空間魔法はどういう仕組み?ワームホールとは全く違って、脈絡なく空間を連続させているように思われる。

 

 わからないことが多すぎる。これで次に向かう迷宮で魂魄魔法が魂魄の実在を証明するのなら、「物理定数と法則が地球と同一であるにもかかわらず」「物理学標準理論がこの世界において当てはまらないという想定をしなければならなくなる」。

 

 「はあ…これ以上の考えは休むに似たり、か…?」

 

 …ん?

 

 「ヒカリお姉ちゃん」

 

 いつの間にか膝の上にいた。軽い。

 

 「なあに、ミュウ?」

 

 「…ミュウ、悪い子?」

 

 「なんで?」

 

 「だって、ミュウのせいでパパもお姉ちゃんたちも、出て行きたそうなのに…」

 

 出て行けない、か。

 

 「ちゃんと他人のことを優しく思いやれるのなら、ミュウはいい子よ。」

 

 「でも…」

 

 「それに、誰しも、別れは辛いのよ。私だって。

 

 だけど、別れてもまた会える、絆は永遠だ、そう信じてるから。」

 

 まあ私がオルクス大迷宮で信じたのは絆じゃなくて香織の南雲君への愛情だけど。

 

 「…じゃあ、いってらっしゃいしても、また、会えるの?」

 

 …なんの確証もないものを、はいとは言えない。だけど、この純真な瞳に、残酷なことは言えない。

 

 「…誰かに、『そんなのできっこないよ』って、笑われたこと、ある?」

 

 だから私は、私らしくなく、ごまかしてみることにした。

 

 「私の世界の人たちの話なんだけどね。

 

 ある人は、『翼のない人間が空を飛ぶなんてできない』と笑い。

 

 ある人は、『家畜や人に引かれず車を動かせるわけない』と笑い。

 

 ある人は『月に人間が行けるわけない』と笑い。

 

 ある人は、『異世界に人間が無傷で行けるわけない』と笑った。」

 

 でも、理屈なんて現実の前には無力。

 

 「全部、できちゃった。

 

 みんなね、やろうと思えばどんな不可能も超えられるのよ。

 

 特に、ミュウちゃんのパパはそう。

 

 最弱の無能、戦えないし生き残れない…なんて言われて、でも、史上最強の人たちがたどり着くことすらできなかった迷宮から生きて帰った。

 

 南雲君は、どんなに不可能と思われる困難も、乗り越えてきたの。

 

 だから。

 

 ミュウちゃんも、南雲君の娘なら、きっと、誰が笑っても、不可能なんてどこにもない。

 

 南雲君が、ずっと、ミュウちゃんのパパなら、きっと、なんだってできるわ。

 

 ミュウちゃんも、南雲君も。」

 

 「うん!」

 

 どうせ、どんなにそれが希望的観測かなんて、この子はわかっちゃいない。だけど、意思だけはちゃんと受け取ってくれたと思うーだって、私も、父から、よくわかってなかったけれど、強い意志だけはプレパラートとともに受け取ったのだから。

 

 だからきっと、この子も、また。

 

―*―

 

 いつか必ず迎えに来よう、再会しよう。だって父娘なのだからーと、ミュウと決意しあって、ハジメが仲間たちと共にエリセンを旅立ったころ。

 

 王都では、暗闘が行われていた。

 

 王宮をとりまく異様な雰囲気。闇術師である清水幸利には、自らが使うのに近い魔法が作用していることは明らかであった。

 

 ウル市から帰還してきた畑山先生たちのまわりの騎士や侍従も、どこかおかしい。上の空だ。

 

 (人間を洗脳するなんて、最適な天職持ちの俺でもあきらめたのに…)

 

 「清水、なに考えてるの?」

 

 「いや、なんかいろいろとヘンだな、と。

 

 …ん?」

 

 ウル市襲撃事件のキーパーソンが清水であることは居合わせた関係者以外には伏せられたが、いちおう監視役として園部優花が見張っていたーが、この場合、それこそが僥倖となった。

 

 「あれ、メルドさんとリリアーナ姫じゃない?」

 

 「だな…誰と話して…っ!?」

 

 濁った眼の男子生徒ー檜山大輔。

 

 (なんで、南雲を殺そうとした罪で収監されてた檜山が?)

 

 その時、檜山が、どこからか取り出した長い針を、リリアーナの首筋に突き付けた。清水自身も畑山教諭へ使ったものである。

 

 「待って園部さん」

 

 「なんで?このままだと」

 

 「メルドさんが反応しないなんてありえない。誰かがこっそり術を…」

 

 「でも、誰?」

 

 後ろにも前にもいない。一本道であるからには隠れる場所などー

 

 清水と園部は、上を見上げ、そして、目が合った。

 

 「ちっ!」

 

 「誰っ!」

 

 短剣が飛び。

 

 廊下の天井裏(?)にいたらしい不審人物が板を戻して姿を消し。

 

 続いて檜山にも短剣を投げられるが、その背後から現れた女性騎士が弾き落とす。

 

 「何?おい、お前、なぜ檜山をかばう?」

 

 騎士を問いただそうとするメルドだが、動きが鈍い。

 

 「園部さん、あの騎士を、刺して。」

 

 「え?」

 

 「いいから、早く!」

 

 短剣が再び、今度は5本同時に飛び、うち1本が女性騎士の胸に刺さり。

 

 「うっ…し、清水、刺しちゃった…」

 

 「園部さん、よく見て…やっぱり!」

 

 騎士は、痛そうなそぶりすら見せず、短剣を胸から引き抜き捨てた。

 

 呆然とするメルドとリリアーナ。一方で女性騎士は檜山を担ぎ逃げ出す。

 

 女性騎士の背に、銀髪が、翻っている。

 

 「…あ、あれ、何?」

 

 「一石さんに聞いたんだ…たぶん、アレが本当の、『神の使徒』だ…」

 

―*―

 

 なぜ、南雲ハジメらを殺そうとした檜山大輔が秘密裏に釈放されていたか。

 

 その答えは、オアシスを再生するためアンカジ公国を再訪したハジメたちのほうが早く得ることになる。

 

 香織が、オアシスを浄化し、喜びに包まれる人々の前に、彼らはー聖教教会司教団と神殿騎士は現れた。

 

 ハジメたちを包囲する騎士団。進み出た司教が、公爵の手を引く。

 

 「ゼンゲン公……こちらへ。彼等は危険だ。」

 

 「フォルビン司教、これは一体何事か。彼等が危険? 二度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ? 彼等への無礼はアンカジの領主として見逃せませんな。」

 

 「ふん、英雄? 言葉を慎みたまえ。彼等は、既に異端者認定を受けている。不用意な言葉は、貴公自身の首を絞めることになりますぞ。」

 

 ー檜山の標的となったハジメが異端者なれば、問う罪はない。

 

 「異端者認定……だと? 馬鹿な、私は何も聞いていない。」

 

 そして、この決定にもっともキレているのは、一石光であった。

 

 「ちょっと待ちなさい。

 

 いつからあなた方教会は、私を異端者認定できるようになったわけ?」

 

 「なに?小娘、畏れ多くもエヒト様の決定に文句を」

 

 「違うわ。

 

 異端者って言うのは、その宗教において教えから外れた人たちのこと。破門ってことよね?」

 

 キリスト教などにおいては、他の宗教に対して異端認定をしたことがあるーが一石はそれを知らないし、そもそもある宗教にとって他の宗教が異端なのは言うまでもないことであり、さらにこの世界の人間族は一神教。他の宗教や主義への異端認定はなく、異端認定とは「教えから外れた信徒を糺すモノ」である。

 

 「それが?」

 

 「司教、私はそもそも、いつ、聖教教会の信徒になったの?」

 

 そして、彼女はステータスプレートの隠蔽機能を無効化した。

 

 「この『無神論者』の天職を持つ私を、どうやってエヒト様とやらの信徒にしたの?

 

 どうやって、できもしない異端認定をしたの?」

 

 詰め寄る一石に、司教は一歩下がり、神殿騎士は一歩前へ出た。

 

 「私と私の天職は、一歩ごとに、神を否定する!

 

 嘘つきばかりの教会関係者!

 

 誰も見たこともないし何かしてもらったわけでもない神様!

 

 それで、何もしない、いてもいなくても変わらない、いるかすらわからない神様に、それでもなぜ、何を求める!?」

 

 (ならば私は、もう何も、神には求めない。)

 

 神様に救われたことなどついぞなく、親を失い、異世界に放り込まれた一石の叫び。

 

 公国民に、戸惑いが広がるーそうだ、神様は、我々が苦しんでいる時、何をしてくれた?

 

 「今こそ、私以外にも問い直そう!

 

 神は我らの救い主か!?」

 

 「…否。」

 

 「神は病を失くし、借金を払い、税金を下げ、飢饉に食糧を配り、干ばつに水を降らせ、洪水に雨をやませ、戦争に子供たちの代わりに赴いたか!?」

 

 「「「否。」」」

 

 だから、一石は調子に乗ったー人は、賛同する者がいると声を大にする。

 

 「神は苦しむ我らにほめたたえられるべきを成したか!?」

 

 「「「否!」」」

 

 「神は我らの神たる資格を持つか!?」

 

 「「「「「否!!!」」」」」

 

 「神は、宗教は、存在するべきか!時間とカネを心を払った分、対価を払ったか!それともただの泥棒、詐欺師、簒奪者か!」

 

 「「「「「そうだ!」」」」」

 

 「「「「「詐欺師を許すな!!!」」」」」

 

 「「「「「泥棒の手先!!!」」」」」

 

 そして、魔力暴走病とそれによる体力減退に付随する病とさらに誰もがまともに動けなかったことによるあらゆる産業のマヒー今日のご飯が店に売っていなかったことへの怒りに燃える民衆は、たやすく点火された。

 

 「アンカジから出て行け!」

 

 「病気も治せないなら献納金返しなさいよ!」

 

 「そうだ!お前らも女神香織様と静因石に助けてもらったくせに!」

 

 「恩人の粗さがしてる暇あるなら砂嵐でも止ませて見せろやぁ!」

 

 そして、燃え上がった炎は簡単には消えない。それどころか、時には石を飛ばさせ人を傷つける。

 

 一石がはっと我に返ったとき、神殿騎士は石を投げられ防戦一方だったー革命を起こしてしまっていたのである。

 

 「…あ、やり過ぎた。」

 

 だらだらとこぼれる汗。

 

 「と、とりあえず、アレなんとかしてくるな?」

 

 呆気に取られていたハジメが、デモ隊の中で胴上げされている香織とユエとティオを救いに飛び込み、はじき出されるー超人的なステータスも、群衆のエネルギーにはかなわなかったらしい。

 

 「こ、こんなことってあるんだねえ…」

 

 ミレディちゃんの苦労は何だったんだろう…と、ミレディのため息。

 

 「シア…とりあえず、収拾付けるわよ。

 

 教会関係者を叩き出して。」

 

 「えっ、いいんですかあ?」

 

 「坂道で転がりださせてしまった石は、誰にも止められない。

 

 南雲君、いいわよね!?」

 

 「ああ!すでにお前の言った通りに配備した!それに俺もいろいろいい加減うんざりしてたところだ!」

 

 「…シア、ミレディ、OK出たわ!」

 

 「正直イライラ来てたですぅ!」

 

 「ひっさしぶりでスカッとするねえ!」

 

 かくて、アンカジから聖教教会勢力は追放された。

 

 ハジメらは、責任として、王都に戻り神山地下の迷宮を攻略しつつ聖教教会を破却することとなり、急ぎアンカジを旅立つ。

 

 ー衝突は、目前。




 実際問題、「今」何かしてくれるのでなければ、創世神なんて「過去の人」ですからね…

 合理主義者と蔑まれそうですが、何かしてくれるわけでもないのにお供えを求めるのはナンセンスであり、まして御利益を騙るのならばそれは詐欺だと考える次第です。まあ日本の宗教は道徳と哲学的叡智を提供するので存在意義があるのですが、それができない聖教教会はただの原理主義テロ組織に過ぎません(語弊を恐れず言及すれば、アレってかつてのタリバンですよね)。
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