ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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21 「一国のコスト」

―*―

 

 2台のテクニカルは、ポンポン砲とカチューシャロケット、1メートルレンジファインダー測距儀をフル装備で、アンカジから砂漠をかけぬけ王都へ向かった。

 

 なにしろ、聖教教会に正面から挑もうというのだーそも、なぜ敵の親玉の本拠地たる神山に解放者の大迷宮があるのか、そんなにミレディは教会をあざ笑いたいかと呆れたが、問いただしてみれば神山迷宮の作り主は元教会関係者らしかった。

 

 そして、もうすぐ王都というところで。

 

 「対地レーダーに感アリ。」

 

 「方向は…っと、俺のほうでも見つけた。」

 

 ハジメ、香織、ユエ、シア、ティオのハーレム車に比べ、一石とミレディしかいない分、2台目は観測車両化しており、従って状況の捕捉も早かった。

 

 「商隊が襲われてる?それに、これは…」

 

 「光ちゃん、リリィと」

 

 「メルド団長に園部、清水までいる。なんだいったい…」

 

 「とりあえず、助けに行こう!」

 

 「ああ…団長が苦戦するってことは、デバフがかかったままってことだからな…行くぞ!」

 

 「気を付けて!先行するわ!」

 

 遠方からの火力投射は、誤射の危険があるーハジメと香織がテクニカルを止め、2台目のみ先を急ぐ。

 

 しばらくして、いくつかの爆発音。

 

 「もしもし、聞こえるか一石さん!」

 

 「清水君、どうしたの?」

 

 荷台で風を感じながら、無線(魔力式)から聞こえる声に、耳を傾ける。

 

 「畑山先生が、さらわれた。」

 

 「はい?」

 

 「王宮の様子がおかしくて、みんな上の空で、いろいろ探ってたら、檜山が釈放されてたのを見たんだ。その後ろに、一石さんの言ってた、銀髪女も。

 

 それでいろいろ調べようと思ったんだけど、朝になったら先生の姿が消えてて。」

 

 「これはヤバい、と?」

 

 「…雰囲気が変だから愛ちゃん警護隊に厳重に見晴らせてたのに…それで、唯一無事だった姫様と団長を逃がそうってことで、とりあえずついてきたんだ。一石さんに助けを求めたかったし。」

 

 「…そう。

 

 引き続き詳細な説明を。それから、南雲君に伝えて、『666を王都へ』。

 

 もう実質的には王都は陥落しているかもしれない。時間がないわ!」

 

 畑山先生や護衛組のクラスメートが王都に戻っているのに先生の意見を押しのけ異端認定が出ること自体、おかしい。またリリアーナ姫とメルド以外ダメだと清水が言うからには、王宮は魔法によって陥落しているのだと、一石は読んだ。

 

 「ミレディ、飛ばして!」

 

―*―

 

 夜明け。

 

 何者かの手引きにより、王都を包む大結界が崩壊した。

 

 愕然とする守備兵は上層部の指示を仰ぐが、肝心の上層部は魔法らしき精神攻撃を受けて腐っている上、騎士団長は不在ときている。とうてい、有事に対応できる状況ではなかった。

 

 現場がおろおろしている間に、なし崩し的に、王都へ魔物の群れが陸空からなだれ込みー

 

 ー直後、王都上空1000メートルで、いくつもの爆発が連続して発生した。

 

 空を飛ぶ魔物の群れが、真上から圧力を受け、ふらついたり墜落したりしている。

 

 「燃料気化爆弾攻撃、完了!

 

 ミレディ、やっちゃって!」

 

 「うん!」

 

 (かまうことはない。ここは、戦場。

 

 誰が何と言おうとも、私は、私の、香織たちの、そして人々のためにこれをする!)

 

 郊外にひっそり設置されていた、空間魔法の転移陣。魔物が現れては王都へ向かっていくそこへ、空中に浮かぶミレディの「宝物庫」から、気密タンクが放り込まれるー塩素ガスにより、魔物は次々と倒れていくことになった。

 

 かくて、魔人族の王都襲撃は、出だしから大きくつまづいた。

 

 それでも、勢いが削げたのは、わずか十数分ーそれは、今回の攻撃が魔人族の本気であることを示していた。

 

―*―

 

 いよいよ、魔物は市街地にも表れ始め、さすがにカール60センチ自走臼砲をぶっ放すわけにもいかなくなった。戦局は市街戦へ移行する。

 

 王都へ到着したハジメたちは、分散することになった。

 

 リリアーナ姫の案内により王宮を制圧し、清水が見た「正体不明の影」を押さえる、香織と一石、園部、清水。

 

 市街戦はユエとシアが支える。そしてメルド団長は浮足立つ兵を現場でまとめ、2人の手が回り切らないところを防戦する。

 

 最終的に、ハジメとティオが、神山迷宮まで飛び、神山を制圧、畑山先生を奪還し、ミレディの案内を受けつつ迷宮の神代魔法(魂魄魔法)を押さえ、王国内の異変を収拾する。

 

 手はず通り、彼らは散って行った。

 

―*―

 

 ユエには、波動砲を撃つことはできない。ブラックホールの蒸発速度は大きさに反比例するので、分解魔法に使われるフェムトメートルサイズ規模でなければ実用的なホーキング輻射エネルギーは放出されないが、ヒトの感覚ではそんな大きさは理解し得ないからである。

 

 だけれども、一石はそれに代わる攻撃手段を提示していた。

 

 重力とは空間のゆがみであると、特殊相対性理論は語っている。ならば、空間の切れ目を生成させる空間魔法と組み合わせ、ゆがみを強制的に断ち切った場合どうなるかー

 

 ー「一定の条件で空間のゆがみそのものが干渉しあい、ビーム様に直線放射される」という計算上の答えは、まさに、王都の空を飛ぶ灰龍を襲った。

 

 寸断された魔物は、瞬時に切断面の化学物質再結合により発火する。王都上空は火の玉に彩られていった。

 

 足元では、ドリュッケンが猛威を振るい、特別にメルド個人に貸し出されたテクニカル2台がポンポン砲で魔物をひき肉へ変える。

 

 そしてまた、飛行禁止区域と化した王都上空に空間転移で現れた白龍とフリード・バグアーも、浅慮を反省せざるを得なくなったー「直線/扇形の空間のゆがみ」などというモノが空気分子すら破壊する中に、空間断面など発生させた結果、白龍は羽を素粒子に分解され、再結合のエネルギーによる爆発でフリードも左腕を失い撤退することになった。

 

―*―

 

 一方で、神山から畑山愛子を救出したハジメは、いきなり、「神の使徒」の強襲を受けー

 

 ー一拍、ハジメが愛子を抱き尖塔のてっぺんの牢を脱出した直後に、白色の閃光が、尖塔ごと戦天使を吹き飛ばした。

 

 「ミレディ、後でぶっ飛ばす。」

 

 ハジメが内心、右ストレートの決意を固めるその先へ。

 

 「マイクロブラックホール充填120%、ミレディ・ライセンちゃん、参上!

 

 横っ面張られた間抜けな操り人形はどこかな♪」

 

―*―

 

 未だ、魔物肉を食べた者と食べていない者には、大きなステータスの差がある。当然、敏捷にも。

 

 最初にたどり着いた香織が見たのは、ほとんどのクラスメートが騎士や兵士たちに背中から刺され、組み伏せられた光景。

 

 そして、数分後に一石、園部、清水がたどり着いた時、事態は破局へ至っていた。

 

 「そうだ、香織?

 

 雫を助ける方法を教えてあげよっか。

 

 ボクも、雫ちゃんくらいは見逃してあげなくもないかな、キミがそこの檜山のモノになるのなら。」

 

 「香織、ダメっ!」

 

 「ニア、もう少し深く。えぐっちゃって。」

 

 「ぐっ」

 

 地獄絵図に、天井から見ていた3人は絶句。

 

 「なんで、なんでそんなこと言うの!?」

 

 「ちょっとした意趣返し。

 

 だって、光輝くんはボクのモノなのに香織も雫も、離れてくれないからね。それに、アイツも…愛なんかわかりやしないくせに、わかったような顔で偉そうに口だけ出して!

 

 だから、香織には嫌いな男のモノになってもらうし、雫にはその選択の引き金を引かせるし、そして一石には大事な人を失う痛みを教えてあげようと思ってさ。

 

 感謝してよ?ボクが何の価値もないゴミクズのためにわざわざ頭をひねったこと。

 

 ね、聞いてるんでしょ?一石。」

 

―*―

 

 こんな時、一石さんは、どうするのでしょう。

 

 先生である私が殺人と言う禁忌を冒すなんて…でも、私は、先生である以上に、生徒のための先生なのです。

 

 きっと、一石さんだって、倫理的に許されなくても、大事な人のためなら、十字架を背負うことを惜しまないでしょう。

 

 「ティオさん、ブレスを。」

 

 私は、だから、ミレディさんを助けて、南雲君を助けて、そして、人々を助ける。

 

 イシュタルさん、教会の皆さん…ありがとうございました。

 

―*―

 

 私は、ためらわず、天井裏から飛び降りた。

 

 「聞いてたわ。

 

 それで?言いたいことは、それだけ?」

 

 「それだけさ。

 

 キミのとりえは頭だけど、ボクの魔法は頭脳まで残せないからね。香織を傀儡にしたら、死んでもらうよ。」

 

 「そう。」

 

 それはそれで、肩の荷が降りそうね。

 

 「そんなに、天乃河君が欲しいの?」

 

 「当たり前じゃないか。

 

 ボクのヒーロー、救世主、王子様!

 

 …どうせ、キミにはわからないんだろうけどね。」

 

 失礼な。後回しにしてるだけよ。

 

 それに、この兵士たち…こっそり放射線を照射してるのに、変化が見られない?

 

 「そのために、あなたは、この兵士たちに、何をしたの?」

 

 …死斑!?まさか、そういうことなの?

 

 「…もしかして。

 

 人間は死亡すれば代謝が止まり、腐り始め、崩壊する。だけど、生命活動を止めた状態でも、電気的信号を脳の代わりに全身に発信し恒常性が保てるなら」

 

 生物学者はデタラメを言うなと言うかもしれないけど、私は門外漢。

 

 「ゾンビは、脳の代わりに外部出力してくれるデバイスがあれば、創りうる。」

 

 降霊術、魂魄魔法…科学的に説明するならば、それはおそらく、電気信号を模倣し、掌握すること。中村がしたのはおそらく。

 

 「あなたは、ここにいる兵士や騎士を殺して簡単なプログラムを植え付け、ゾンビにしたのね。」

 

 「うーん、そういうこと、なのかもね。

 

 で、だから?

 

 そんなこと、どうでもいいじゃん。どうせ、ゴミ共なんだしさ。

 

 道徳?だって、この世界には、もう、ボクのことをとやかく言ううるさいやつらはいない。光輝くんは、ボクのモノ。」

 

 「ははっ、冗談うまいじゃない。

 

 私には、天乃河君こそ、存在の正当性を欠くように思えるけど?

 

 こんなのも、相対性理論?」

 

 「時間稼いで、何がしたいのさ。

 

 いいや、檜山、刺しちゃって。それで1分後には、ソレは檜山のモノだ!」

 

 「い、いいのか…?それじゃ、やるぜ!」

 

 私は、天井の清水君にハンドサインを送った。これで、闇術で十数秒の強烈なデバフをかけて動けなくし、「ためらっているように見せる」ことができるはずだ。

 

 クラスメートほぼ全員を人質に取られ、頼みの綱の香織も動けず、兵士と騎士がすべて敵ー最弱の私には、ふさわしい。

 

 「…世の中には、行われるべき実験と、行われるべきであっても行うべきではない実験がある。

 

 すべてを奪えば自分だけを見てくれるか…なんてのは、マンハッタン計画と同じたぐいの、最悪の実験。」

 

 理論的にはリスクが無くなっていないから、したくなかったけど…それに、ヤな予感がするけど、私は、だから、実験により、実証する。

 

 「指定域内の魔力と魔法を存在させなくする『全否定』とはどんな技能か?

 

 悩んだけど、魔力が、標準理論上の自然の4力に続く第5力だとすれば、この世界を私たちの世界と違うモノたらしめているのは、その第5力の正体である力場と伝播子であり、私は、標準理論に書かれないその存在を拒絶している…

 

 …私がトータスであることを否定する限り、そこは地球世界なのよ。」

 

 香織が、クラスメート皆が、ギョッとして見てきた。

 

 「もちろん、理論上は同じ法則でエミュレートされているってだけだけど。

 

 魔法力場理論を証明する最後のデータが、そろいそうだったし。

 

 『魔法力場全否定』!」

 

―*―

 

 一石が切り札を切ったころ。

 

 爆発する神山山頂の上空で、戦天使2体が互いに飛びあっていた。

 

 無数の分解魔法が乱れ飛ぶ。

 

 魔力が無限に使える相手を敵に回したミレディは不利に思われたが、質量の大きいマイクロブラックホールを直接飛ばすのと、その蒸発エネルギーの飛散方向に指向性を持たせるのとどちらが楽か、言うまでもない。

 

 もちろん、ミレディには経験もあった。「神の使徒」との戦闘は、初めてではない。

 

 かくて、「神の使徒」は、射貫かれて地へ叩きつけられた。

 

 「…それで、コレに魂魄魔法を授けろ?正気とは思えないんだけど…」

 

 残骸をお姫様抱っこで持ち上げ、ミレディは呟き、翼を広げた。

 

―*―

 

 瞬間、兵士や騎士たちが、糸が切れたように倒れ伏した。

 

 背中を刺されていたクラスメートたちがぐえっと倒れ伏すのにも構わず、香織、雫、園部優花、清水幸利が動き出し、中村恵理を捕まえたその時。

 

 「お前が、お前が余計なことをしなければぁぁぁっ!」

 

 絶叫しながら、檜山大輔は、懐から取り出した針ー畑山教諭を清水が殺しかけたモノと同じ針を投擲した。

 

 グサッ。

 

 「ひぃやぁぁまあぁぁーーーーーっ!」

 

 香織が、怒りの叫びと共に空間魔法を起動する。

 

 「二度はない、二度はないんだよっ!

 

 私のハジメくんを、友達を…

 

 二度は、ないんだよっ!」

 

 「し、しらさ」

 

 空間のゲートが王宮の床に開き、檜山は、王都郊外上空数百メートルから放り出され、魔物の群れのただなかへと落下していった。

 

―*―

 

 私は、針を抜き捨てた。

 

 …もう、両腕がしびれ始めてるわね。心停止までどれくらいかかるかしら…

 

 「香織、今から超特急で、ミレディを引っ張ってきなさい。」

 

 私の脳細胞が耐えられるうちに。

 

 私は、一枚のメモをーノイントの姿を見てからずっと温めてきた秘策を、取り出した。

 

―*―

 

 「何をしているの、私。」

 

 「そうだぞ、ヒカリ・ヒトツイシ。」

 

 「何って…

 

 …ふふ、コレが臨死体験だなんて、信じないわよ。」

 

 「嘘言いなさい。

 

 最初は、中村恵理を丸め込むつもりだったんでしょう、私?」

 

 「先入観は科学の探究において時に毒となる。とはいえ君は無茶苦茶だな。」

 

 「簡単なことよ。」

 

 「私ですら、そうは思っていないくせに。

 

 あなたは、暴く真実が禁忌である可能性をわかっていて、その方法に手を染めた。」

 

 「決してまともな方法じゃないのはわかっているわ。

 

 でも、ニュートンは光の性質を知るために目に針を刺した。

 

 だから私も、私をお供え物にしようと思ったのよ。」

 

 「…うまく行ったらどうするの?

 

 いえ、私は、うまく行くと思っている。」

 

 「僕の理論だからね、相対性理論は。

 

 観測者の速さによって時間の流れが異なる。つまり僕は、観測者によって世界の見え方が異なる可能性を示唆したわけだ。」

 

 「そしてあなたは、同じように、観測者によって魔法が異なる可能性、つまり、魔法は魔法力場理論に支配される法則的産物でありながらも観測者の自我に起因する可能性を考えたわけ。

 

 創造論を否定する私が人間原理に行きつこうとしているのは、ある種のジョーク、見もの、笑いものよね。」

 

 「何がおかしいの、私?」

 

 「だってそうでしょう?

 

 神様を否定した私が、神様になろうとするご都合主義。あっはっはっは!しかもそのために、人間の脳の活動が、魂が最も弱くなる、死に際をわざわざ作り出すなんて!」

 

 「もういい、黙りなさい、私。」

 

 「ふふ…くふふ、真理はどこにあるのかしら。ね?」

 

 「僕が、僕たちが託す科学史の終着点。目だけは、そむけないでほしい。」

 

―*―

 

 「ちょっと、ミレディ、急いで!」

 

 「…誰かを救う方法だとしても気が進まないんだけど。

 

 こんな、『自由を知りすらしない意思を一つ増やす』なんて。」

 

 ミレディ・ライセンはそう言いながら、回収した戦天使の頭に左手を、心停止した一石光の頭に右手を乗せた。

 

 香織が、再生魔法をかける。

 

 ー解放者が神代魔法を授けるやり方は、人間の脳をコンピューターに例えれば、むりやり魂魄魔法(=コンピューターウイルス)っぽいもので新たな「神代魔法」というファイルをインストールしているに等しい。

 

 ところが、一石光のOSには、肝心の、魔法に対応するためのプログラム、魔力を定義する関数がまったくない。だから彼女のOSとプログラムが作用すると魔法は消えてしまうし、神代魔法ファイルも実行できないでいる。

 

 では、新たな、まっさらのOSを脳みそにインストールすれば、どうなる?

 

 そして、なんとも哀れなことに、人格のなく、魔法を動かし身体能力を発揮させるためだけの、しかも上から命令を受けることを前提としたOSが、そこにはあって。

 

 中村ですら、そのあんまりなやり方に、顔を歪ませた。

 

 ーそして、死体が転がり息を呑む生徒たちが囲む中ー

 

 ー天井を破り、極光が、降り注いだ。

 

―*―

 

 …再起動。

 

 「…はっ。

 

 そう言うことそう言うことそう言うこと。」

 

 極光を浴びて崩れ行こうとしていた一石光の身体は、崩れ落ちながら立ち上がり、そして再生した。

 

 「スティーブン・ホーキング博士には感謝しておかなくてはならないですね…

 

 …そういうわけだから、帰りなさい、魔人族…『波動砲』。」

 

 まるで、「神の使徒」が憑依したかのような口調ーそれもそのはず、今の一石は、「一石光」というOSの下で、「神の使徒」というOSをエミュレートしている。だからそうー

 

 ー数体の灰龍が、哀れ、蒸発した。

 

 「いつまでも、私が魔法を使えないとは思えないことです。

 

 物理法則への信頼と言う枷のない使徒の魂を通してならば、私を阻むものはありません。

 

 即座に踵を返して降参することです。」

 

 舞い降りてきた白龍、そしてフリードは、勝利を確信した笑みを浮かべて、一石を眺める。

 

 「…貴様こそそこまでだ。大切な同胞たちと王都の民たちを、これ以上失いたくなければ大人しくすることだ。」

 

 「相互確証破壊ですね。あなたが私たちを傷つけたならば、あなたもまたあなたたちを傷つけられるでしょう。

 

 ですから私は、おとなしく、流れる血の量を最低限とします。

 

 『サンシャイン6・6・6』システム、発動。」

 

 「どういうつもりだ?同胞の命が惜しくないのか?お前が抵抗すればするほど、全員が傷ついていくのだぞ? それとも、それが理解できないほど愚かなのか?外壁の外には十万の魔物、そしてゲートの向こう側には更に百万の魔物が控えている。お前がいくら強くとも、全てを守りながら戦い続けることが…」

 

 「私は愚かではありません。そして、もはや無力でもないのです。

 

 …くっ。」

 

 苦しそうに、一石は呻き、膝をついた。

 

 「戦う前から膝をつくなど」

 

 「照射。」

 

 直後、王都中の魔物が、絶叫を上げた。

 

―*―

 

 「サンシャイン6・6・6」システム。

 

 それは、偵察衛星、発電衛星、通信衛星6基ずつを使い構築された、惑星トータスすべてを射程内とする戦略兵器である。

 

 人工衛星「ちきゅう」1~6までがハジメの義眼に情報を伝えハジメに照準させ。

 

 人工衛星「たいよう」1~6までは常に昼半球で太陽光発電し。

 

 人工衛星「つき」1~6までが通信管制による制御と、蓄電されたエネルギーを魔力のカタチで地球へ発射することを実行する。

 

 重力魔法や空間魔法があったおかげで、これだけの衛星を投入し操作できるようになっていた。そしてハジメは、いつでもこれらを使えるように王都中の魔物を照準しつつ、神山迷宮に入っていったのである。

 

 後は、コントロール権限のある誰かが、引き金を引くだけだったのだ。

 

―*―

 

 最強の魔物である白龍すらも衛星攻撃の効果の例外ではなく、音を立てて王宮の床へ落下する。

 

 「ど、どういうことだ!?」

 

 「照射量さいだ…い」

 

 そして、一石光もまた、崩れ落ちた。

 

 「ちょ、光ちゃん!?」

 

 「ん…揺さぶらないでよ。何?確か神の使徒をエミュレートしてそれから…ああ。」

 

 「だ、大丈夫なの?」

 

 「大丈夫。とはいえ二重人格は予想外ね…きっと、まっさらとはいえ新たな『魂』を脳内にぶち込むのは無理があったんでしょう。」

 

 ーあるいは、一石光の知識と神の使徒の力を持つソレは、一石光が知るべきでないことを隠そうとしたのかもしれない。

 

 「いずれにせよ、あまり長いことやると弊害がどんな形で出るか。乗っ取られるならいいけど…真理も隠されちゃったしね。

 

 それで、どうする?

 

 この感じはサンシャイン6・6・6を照射したと思うけど、なすすべなく焼き果てる前に落としどころを」

 

 「『界穿』」

 

 「あっ」

 

 フリードは、中村恵理の首根っこをつかみつつ、空間魔法で姿を消した。

 

 後に残されたのは、多大な傷を負った生徒たち、ミレディ、そして香織の膝にもたれる一石、さらに白龍と騎士や兵士の死体だったー




 私は今回において、いわゆる「オリ主無双」をやりたいわけではありません。とはいえなんの加護もなくここから先の展開に放り込めないという考えもあったのです(最大の要因を言ってしまえば、原作から強化されている香織が檜山にやすやすやられそうにはないし、一方で2体目のノイントはよりあっけなくやられるだろうし…と考えた結果、余ったノイントを一石はほっておかないで有効活用するだろうという結論です。当初は原作香織と同じ目にあってもらおうかとも思いましたがミレディとかぶるので止めました。

 現状、「普通の、魔法力場を否定する一石光」の主人格の下、押し込まれた使徒人格(?)があります。使徒人格は操り人形に過ぎず、直接主人格が動くのではなく使徒人格を通して動く場合は主人格の先入観や技能は作用していない状態となっています。これは「魔法は人そのものではなく自我、観測主体に起因する」という論理に基づいてです。

 今後、よっぽどでない限り、使徒人格は出しません。なぜなら別に必要ないからですー半分嘘です。いずれ明かしますが他に理由はあります。
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